「独り戯(ひとりぎ)」
関羽編2(曹操編続き)
 関羽×劉備


 剣の柄に付いていた珠を曹操へ渡し、次の約束を取り付けた劉備は、上機嫌で自分の幕舎へと戻った。
 最後に口付けて渡したときの曹操の顔を思い出すと、劉備の口元は妖しく笑みを作るのだ。
「戻ったぞ」
 幕舎の布を捲り中に入ると、張飛の姿はなく、関羽だけが入り口に顔を向けて座っていた。
「翼徳はどうした?」
 きょとん、として劉備が尋ねれば、関羽の不機嫌そうな眼差しとぶつかり合った。
 その眼差しに込められた意味を知りつつも、劉備は答えを促した。
「翼徳は出立に必要な物資をもらいに行っております。今しばらくは戻らぬでしょう」
 ふーん、と劉備が頷けば、関羽は大きな溜め息を一つ付いた。
「兄者。お早く戻るように忠告したはずですが?」
 不満を露わにした口調で、関羽は言った。
「そうだったか?」
 しかし、それも気にしないで劉備は惚けた。
「また、悪い癖が出なさったか?」
「分かるか?」
 無邪気に聞き返せば、またしても関羽は大きな溜め息を付く。
「兄者」
 ぐいっと、腕を引かれて、劉備は関羽の大きな胸へ倒れ込む。元より抵抗する気のない劉備は、あっさりと身を任した。
「お止めくだされ、と申し上げているでしょう」
「なぜだ?」
 間近になった関羽の顔を見上げながら、劉備はやはり邪気なく問い返す。
「それを拙者に言わすのですか」
 怒ったように睨まれて、劉備はふっと笑った。関羽の自慢の鬚を指先で弄びながら、言う。
「妬いているのか」
「当たり前です」
「そうか」
 くすくす、と劉備は笑う。それを関羽が苦々しい表情で見下ろしている。そんな関羽の顔を見て、また劉備は笑う。
「可愛いな、雲長は」
 腕を伸ばして頬を撫でると、表情がさらに険しくなる。だが、口元が微かに緩んでいるから、照れているのだとすぐに分かる。
「拙者にそんなことをおっしゃるのは、兄者ぐらいです」
 口調も無理して怒っているのが、劉備には良く察せた。その少しだけ緩んだ唇へ劉備は唇を寄せた。
「仕方がない。可愛いものは可愛いのだから」
 触れ合いながら、そう伝えると、不意に関羽のほうから唇を寄せてきて、深く吸われた。
「んっ……」
 素直にそれを受け止めて、劉備は誘うように唇を薄く開く。その誘いに関羽も素直に応える。
 厚い舌が忍んで来て、劉備の舌と絡み合う。互いの舌を味わいながら、より貪欲に互いを求めていった。
 唇の隙間からこぼれる水音が、幕舎内に広がる。舌を甘く噛まれ、劉備は背筋を震わした。指先で弄んでいた関羽の鬚を軽く引っ張る。
「雲長ぉ……」
 その先を促すように、唇が離れた隙に劉備は義弟の名前を呼んだ。
「いつもより、早いですな。曹操のせいですか?」
 だが、普段ならそのいざないに応えてくれる関羽は、むっつりとして聞いた。
「そうかもな。曹操殿は上手かったから、まだ熱が冷めていない」
 自分の肌を探る曹操の手を思い出して、劉備は陶然となる。それをまた関羽がむすっとしたまま呟く。
「どうして貴方はそうなのですか。悪い癖だ」
「つい、な。人となりを知るには抱かれるのが一番分かりやすい。それに、後で私の力になってくれるだろう?」
「他に幾らでも手段があるでしょうに」
「手段など、選んでられないだろう。私たちは明日をも知れぬ身だ。頼れるもの、使えるもの。何でも利用しなくては生き残れん」
 それはそうですが、と関羽がなおも続けようとするのを、口付けで黙らす。
「いいから続きを、雲長。……熱を冷まさねば明日の出立に支障が出る。準備はお前たちが滞りなくやってくれるのだろう?」
「屁理屈ですな」
 それでも、関羽は劉備の体を寝台へ運び、服を脱がした。それから大きな掌で隈なく劉備を愛撫してくる。
「雲長、もう下へ来てくれ」
 しかし、すでに昂ぶっている劉備の体は強い官能を求めて疼いていた。直ぐにも確かな刺激を求め、訴える。
「本当に、淫らな人だ」
 幾ばくかの厭味が籠もったそれへ、劉備は胸で渦巻く鬚を強く引いた。
「お前がそうさせたのだろう、雲長?」
 責任は果たしてくれ、と鬚を引いたせいで近くになった関羽の耳へ、囁いた。
 難しい顔をしながら、関羽は劉備の立ち上がっている中心を握り込んだ。
「あ、ぅんっ……」
 喜悦の滲んだ声をこぼし、劉備はそれへ身を委ねる。
 すでに劉備の善いところを知り尽くしている関羽の指技しぎは的確で、劉備はすぐに頂へと押しやられる。
「あ、ぁんんっ……雲長っ」
 高く啼いて悦を露わにする劉備へ、関羽はその指技を止めてしまう。
「雲長ぅ」
 非難するように劉備は強請ねだるが、関羽はその唇へ指を押し当てた。
「少しお声が高いです。皆、忙しく働いています。聞こえるのは不味いでしょう」
 二人の仲が義勇軍の中で暗黙で認められているとは言え、はばかりもせずに声を聞かすのは気が引ける。
 そう関羽は諭すが、劉備はすでに官能を追い駆けることに夢中だった。止まった指技を再開させようと、腰を揺らす。
 そんな劉備へ、関羽は小さな嘆息を漏らし、唇に当てた指を咥えさせた。劉備は大人しくそれに従った。
 それを確認してから、関羽は劉備の中心を強く扱いて欲を吐き出させた。
「うっん、ふぅ、ぅんんっ」
 くぐもった嬌声を上げて、劉備は達す。関羽の指へ軽く噛み付いてしまうが、関羽の表情は動かなかった。
 吐精感で軽く虚脱しながらも、劉備は歯形の付いてしまった関羽の指を舌でなぞった。
「痛かったか?」
 聞く劉備へ、関羽はようやく仏頂面を少しだけ崩した。
「構いませぬ。兄者の残すものは何であろうと受け止めますから」
「可愛いことを言うなあ、雲長は」
 くすくすと笑う劉備へ、今度こそ関羽は赤くなり、照れたようだ。誤魔化すように濡れた指を劉備の後孔へ這わした。
「中に残っているのなら、清めておかないといけませぬな」
 やや意地悪く言う関羽へ、劉備は、そうだな、と平然と返した。当て付けが当て付けにならなかった関羽は、少し乱暴に劉備の内を探った。
「ん、んんっ」
 やや苦しくなって劉備は喘ぐが、関羽の指が曹操との名残を掻き出していく感触に肌が粟立つ。
「物欲しそうな顔をなさらないでくだされ。これは清めですぞ」
「当てこするな、雲長」
 息を乱しつつも、劉備は宥めるように関羽の下肢へ手を伸ばす。
「お前も、清めねば明日に響くのではないか?」
 掌を当てれば、劉備の痴態に煽られていたのだろう。だいぶ質量を増していた。劉備は問うように眼差しを関羽へ当てた。
「雲長ので、もう一度中を清めてくれないか」
 その言葉に、関羽が内に潜めた指を増やして、具合を確かめる。
「もうよいのですか」
「んんっ……、まあ、な……。受け入れたばかりだしな。ふぁっ」
「またそのようなことを。拙者を怒らせたいのですか」
「どう、かな。だが、雲長は優しい、からな……くぅん」
 私を傷つけはしないだろう? と笑い掛ける。すると関羽は何とも複雑そうな面容になった。
 悔しそうな、怒ったような、困ったような。
「兄者には敵いませぬ」
 ついに関羽から降参宣言が漏れた。
「雲長、早くくれ」
 それへ楽しく笑ってから、劉備は続きを催促した。関羽の指が引き抜かれ、代わりに猛ったものが押し付けられる。
 受け止めるために力を抜く劉備へ、関羽はゆっくりと楔を埋め込んでいく。
「あ、ぁ、ぅあっ」
 上ずった声で関羽の質量を受け止め、劉備は背筋を痺れさせる感覚にうっとりする。
 奥底まで関羽の猛りを受け入れると、劉備は両脚をがっしりした関羽の腰へ絡げた。
 内の具合を見るように関羽の腰がうねるのが、劉備の腰骨を疼かせる。甘い吐息をこぼして、喰らい付くように内を締めた。
「くぅ、兄者っ」
 低く唸りながら関羽は楔をぐいっと戻してから、勢い良く穿ちなおした。
「ぁんっ……あっあぁっ」
 高音たかねを溢れさす劉備へ、関羽が再び口に指を含ませた。それを劉備は夢中で咥えながら、背を反らす。
「う、んちょ……っふぅん……」
 両脚に力を込めて、深く関羽を導き込めば、呼応するように、関羽の動きが激しくなる。
 一番に感じる場所に、関羽の熱い切っ先がぶつかる。その度に、劉備の体は妖しく身悶えた。両腕も関羽の背へ回し、全身でしがみ付く。
 その劉備を軽々と抱え込み、関羽は寝台へ座り込む。二人は繋がったまま向き合って座る形になった。
「う、ぅんっ……はっ」
 より深く関羽を感じ、劉備は目尻に涙すら浮かんだ。
 指が口内から抜かれ、代わりに唇が劉備の喘ぎを吸い取ってきた。下から突き上げられて、劉備は目眩が起きる。
「ん、んっ。ふっ、う」
 唇の隙間から悦楽を溢れさせ、劉備は関羽に揺さ振られるままに快楽を追い求めた。
 中心は互いの肌の間でこすれ合い、淫猥な音を立てている。びくん、と劉備は大きく震えて、二度目の精を吐き出した。
 それと同時に無意識と意識を交えながら、関羽の猛りも締め上げる。
「兄、者……」
 遅れて関羽も劉備の中へ吐き出した。内に広がる関羽の感触へ、劉備は満足げな笑みを浮かべた。



          ※



 湯をもらってきた関羽が、劉備の体を拭き清めながら、体の具合を窺ってきた。
「問題ない。ゆっくり寝れば支障は出ない。熱も冷ましてもらったしな」
 ふふ、と劉備は笑って関羽を見やる。関羽はしかし視線を合わせないで黙々と体を拭いている。
「まだ、機嫌が直らないのか?」
 その態度で関羽の機嫌の悪さを量った劉備は、顔を覗き込んだ。だが、ふいっと視線を逸らされて、肩を竦めた。
「雲長?」
 名前を呼んでも返事がない。
 やはり劉備が曹操に抱かれたことが気に入らないらしい。劉備と抱き合っていた間は良かったようだが、終わった途端に思い出して不機嫌になったのだろう。
「悪かった」
 劉備は素直に謝った。大体、いつもはこれで許してくれる。
「謝るぐらいなら改めていただきたい」
 しかし、今日は根っこが深いらしい。関羽はじろり、と睨んできた。
 それがまた妙に可愛く見えて、劉備は危うくまた、可愛いな、と言いそうになったが、たぶん今はそれは状況を悪化させるような気がして、控えた。
「だがな、雲長。こうして抱き合っていて一番善いのは、お前だぞ?」
 なので、取って置きの言葉を告げることにする。それから笑顔と。
 案の定、関羽はぎゅっと眉間を狭くしたが、嬉しく思っている心情を隠そうとして無理して作っている面であることは、劉備に取っては明白だ。
「それに、私が心を許して抱かれているのも、雲長だけだぞ?」
 さらに、とどめの言葉を突きつけた。そうすれば関羽は、兄者には敵わない、とかぶつぶつ言い出して、照れたように笑うのだ。
 それへ劉備は笑い返しながら、思った。
 それと、他の人間と抱き合った後の雲長は激しいから、好きなんだ。妬いている顔を見るのも、な。
 甲斐甲斐しく体を清めてくれている関羽を見つめながら、劉備はくすくす、と笑うのだった。



 了





 あとがき

 いや、本当にすいません。劉備さんがめさめさ誘い受けで黒くて。こんな劉備さんは好きですか?
 私は好きです! (堂々) でも、曹操様が当て馬になってしまった……。てへ。

 無性にね、書いてみたくなったのです。それに、曹操編の関羽の台詞。裏には実はこんな意味があったのよぉ、と叫びたかったのですよ。嫉妬する関羽……素敵です。



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