「言絡繰り・3」 諸葛亮、劉備に騙されて担ぎ出されるも 5 諸葛亮×劉備 |
「……って、ちょ」 言い終わるや否や、劉備の視界が回る。気付けば牀台の上で諸葛亮の体の下に組み敷かれているではないか。 「承知しました」 すっかり据わっている目で劉備を見下ろして、諸葛亮は劉備の衣を脱がしにかかる。 「はあっ? なにを言っておるのだ、孔明! 気は確かか」 って、確かじゃなかった! 相手は泥酔状態の普段の理性あふれる冷静な軍師ではないことを、今さら思い知る。 「ちょっと、ちょっと待て、いいから待て!」 さっきのは冗談だ、冗談だから待てというのだ。すでに帯を解き始め、前ごろもの合わせを開かれ始めているのを必死で取り返しながら、劉備は制止をかける。 「やはり殿は嘘ばかりつくのですね。私のこともお嫌いなのですね」 また泣くー! こっちが泣きそうだ。 「この方法はやめよう、な? 間違っているだろう。そもそも男同士で乳くりあっても楽しくないだろう」 「ですが、この間のときもその前も、殿は気持ち良さそうでした」 だあーー、どうして酔っているのにお前の頭は妙なところで明晰なのだ! 聞きたくない、とばかりに頭をぶんぶんと振るが、はっし、と諸葛亮の両手に挟まれて見据えられる。散々に泣いているせいなのか、酔いのせいなのか、潤んだ双眸でじっと見つめられるとおかしな気分になってくる。 「殿……」 低い声で呼ばれる。 「殿……私は早く皆に認められたいのです。殿にまで嫌われてしまったら、私の存在理由がなくなってしまう」 切ない声だ。 胸底がちくり、と痛む。 劉備が諸葛亮を迎えてこの方、諸葛亮は一日たりとも心の底から安らいだことがなかったのだ。長年住み慣れた家を離れ、弟や妻とも別れ、決して歓迎の雰囲気ではなかった劉備たちの中に放り込まれ。しかし劉備だけは熱心に諸葛亮を慕い、優遇し。それがさらに男を追い詰めていた。 劉備が請うだけの価値あるところを示さなくては。早く皆に認めてもらわなくては。精一杯に、やはり分不相応に背伸びをしていたのだろう。 「孔明、大丈夫だ。お前は良くやっている。誰が認めなくとも私が認めてやる。だから、大丈夫だ」 自分はどうして単純な言葉しかかけてやれないのだろう。目の前の男のように豊かに語彙を操り、容易く相手の不安を取り除けるような言葉を紡ぎたい。いつも自分は足りないのだ。足りない分は、違う方法で埋めるしかない。 「殿……殿……」 ぽたり、と劉備の頬に水滴が降りかかる。まだ諸葛亮は泣いている。しかし今流れている涙は酒のせいではないような気がして、劉備は仕様がない奴め、と笑って諸葛亮の頬を拭う。 諸葛亮の顔が下りてくる。口付けてくるのか、と思いつつも避ける気にはなぜかなれず、目蓋を落とす。 足りない言葉の代わりに、お前の不安を受け止めてやろう。 「……」 しかしいつになっても唇に感触が訪れない。不審に思って目蓋を持ち上げてみれば、何かに逡巡している様子の諸葛亮がいる。 そういえば、いつも諸葛亮は口を寄せることだけはためらっていた。不思議に思いつつもしたいことはしたいのだろう、と思って、面倒くさい、と劉備は自ら唇を寄せた。 「……っん」 濡れた吐息が合わさった唇の隙間から漏れた。啄ばむように唇を吸い、濡れた唇に誘われるように舌を挿し入れた。諸葛亮の睫毛が震えながら瞬かれ、閉じたまま動かなくなる。それを見届けて、劉備も目蓋を再び落とした。 不思議と男と――諸葛亮とこうすることは嫌ではなかった。もちろん、心構えなしに押し倒されれば慌てるし咄嗟に抵抗はしてしまう。何せ受け入れる側は色々と大変なのだ。それでも、ある瞬間から諦めてしまう。 それは今のように諸葛亮の弱さを見つけてしまったときでもあるし、普段の諸葛亮からは想像もつかない姿を目にしてしまったときでもある。 口内で絡み合った舌は蕩けるような甘さを伴って、劉備の舌を痺れさせる。酒の残り香が交わる唾液を伝って劉備すら酔わせるようだ。 夢中で口付けを交わすうちに息苦しくなり、唇を離す。離れた唇を惜しむように、諸葛亮が小さな嘆息をこぼした。諸葛亮の濡れた唇を親指で拭ってやり、訊いた。 「私とこうするのは嫌か?」 少しだけ意地悪く、気持ち良さそうでした、と言われてしまったお返しとばかりにからかってみる。劉備を見つめていた視線が外れて、小さく諸葛亮の唇が音を紡ぐ。 この男が操る言葉はどのようなものだろう、と劉備は聞き耳を立てる。 「嫌では、ありません」 どくん、と心臓が言葉に弾かれたように脈動する。 「では、私のことはどう思っている?」 私はお前に惚れている、と言った。もちろんそれはお前の人物に対してだが、ならばお前はどうだ。お前の口から聞かせてくれ、孔明。 「お前こそ、私に仕えてどう思った。仕えてくれる、と言ったときは私の何かに惹かれたのだろう? それからどうだった。こんなお前を騙すような主に失望したか」 「いいえ、あのときも。そして今も、貴方に仕えて良かったと、心から思っております。慕っております」 にこり、と先ほどまであれほど泣いていたくせに、突然の雨から晴れに移り変わった空模様のように、綺麗な笑顔で劉備に笑いかけた諸葛亮に、劉備の全身は熱くなる。 「嘘ではないのか」 初めて抱かれてしまったときに、諸葛亮は劉備を動揺させるためか、似たようなことを囁いたことがあった。それを思い出して思わず聞き返したが、 「嘘のほうが殿はよろしいのですか?」 不思議そうにされてしまう。普段の諸葛亮なら厭味にとれる言葉だが、今は違う。 「……お前は本当に性質の悪い酔っ払いだ」 信じる、信じるよ。酔っ払いの言うことだ。どこまで真実かなど誰にも、本人にも分からないだろう。それでも、嬉しかったことは事実だ。 「性質の悪い酔っ払いに絡まれて、殿は迷惑ですか」 「誰もそんなことは言ってないだろう。どうするんだ、私の気持ちを確かめるのだろう?」 相変わらずの絡み酒に埒が明かないと、劉備は諸葛亮の脚に挟まれた膝を持ち上げて、膝頭で局部を刺激してみせる。 「っ……殿」 若い身体は正直で、劉備の刺激で僅かながら硬さを持つ。ため息混じりに呼ばれた声音の艶に、劉備もぞくり、と官能を揺さぶられる。 帯が抜かれて前ごろもを完全に開かれて、胸の尖りに諸葛亮の舌が這う。声が漏れそうになり、唇を引き結んだ。気持ちが良いなら声を出してもいいか、とも思うのだが、遥か年下でしかも酔っ払い相手ともなれば、劉備とて意地も矜持もある。 舌先で尖りが転がされれば一文字の口元に力が入る。もう片方の尖りには指が滑り、いじられた。甘い疼きが両方から湧き、劉備を悦の波打ち際へと引き寄せる。ちぅっと派手に音を立てて吸われれば、堪え切れなかった喘ぎが鼻から抜けた。 諸葛亮の空いた手は下穿きの上から局部を掴み、揉み始める。もっとも弱い箇所を直接責められれば、閉ざしていたはずの唇は薄っすらと開き、喘ぎにも似た吐息が口から溢れた。 「ぁ……ん……ぅん」 手を伸ばし、胸元に顔をうずめている諸葛亮の長く柔らかな髪へと指を絡げる。指の間を抜ける絹のような手触りにまた、劉備は官能を刺激された。所在無く彷徨っていたもう片腕で両目を覆い、諸葛亮の与える悦楽に身を委ねる。 指先は器用に布地の上から劉備の局部を愛撫し、快感を引き出していく。胸をまさぐっていた指は劉備の耳へ伸び、人より大きい耳朶を撫で、摘み、くすぐる。親指で耳殻を撫でられれば弱いせいもあり、思わぬほど艶を帯びた声が唇からこぼれた。 「ここ、お好きですか?」 尋ねられて素直に答えられるはずもないが、諸葛亮の体は伸び上がって、指ですっかり敏感になった耳へと舌を伸ばしてきた。劉備の両脚は諸葛亮の体に広げられるように、大きく左右に開かれる。 「く、ぅ……そこは、いい」 快感もあるが、むしろくすぐったさが際立つ耳への愛撫は劉備にとって過剰な刺激だ。だが諸葛亮は劉備の訴えに耳を貸さずに、指と舌とで耳への愛戯(あいぎ)を行う。嫌だ、と身をよじろうとするが諸葛亮の体が邪魔でもがくばかりだ。そんな僅かな抵抗すらも局部を滑る指先に封じられる。 やめろ、とばかりに頭(かぶり)を振っても諸葛亮にとっては些細な抵抗なのか、舌は追いかけてきて耳孔をくすぐる。妙な声が上がりそうになり身を竦めるが、ぞわぞわとした寒気にも似た快感に攫われる。硬くなってきた下肢の先端に爪の先が宛がわれた。布越しの緩慢な愛撫だが、劉備の身体はびくり、と跳ねた。 先端が執拗に掻かれ布がこすれる刺激に眉間は狭くなる。ぐっと唇を噛み締めて耐えようとしたが、 「痛いですか?」 という諸葛亮の言葉に力を抜かす。いや、と首を横へ振る。痛くない。むしろこすれる感触が堪らなくて、 「では気持ちが良いのですね」 諸葛亮の問いに頷いてしまった。羞恥に駆られて頬が熱くなり、悔しくなって両脚で諸葛亮の胴を締め上げる。 「――殿!」 悲鳴を上げる諸葛亮に溜飲を下すものの、両目を覆っていた腕を外してちらり、と窺えば本気で痛かったらしく涙目になっている諸葛亮がいて、やりすぎたか、と反省する。ぱっと両脚から力を抜くと、諸葛亮に睨まれる。仕返しとばかりに諸葛亮はきつく首筋を吸ってきた。 「あ、馬鹿っ」 そんな見えるところに痕を付けるな! 飽きれ返る甘や糜の顔が容易に浮かぶ。いい加減、治りませんね、玄徳様の遊び癖は、と結束も固く厭味を言われるに決まっている。 得意げになっている諸葛亮の童のような顔を見上げて、ため息をつく。本当に性質の悪いことだ。 とっとと済ませろ、と劉備は諸葛亮の胴を挟んだ脚を腰に絡ませて引き寄せる。諸葛亮の雄身がまだ硬さを充分に含んでいない感触を腹に覚えて、阿呆、と呟く。 「私ばかり気持ち良くさせて、お前はまだじゃないか」 体術の要領で諸葛亮と体勢をくるり、と簡単に入れ替えてみせると、劉備は諸葛亮に跨り手早く下穿きから雄身を取り出した。 視界に入る諸葛亮のまだ欲が含まれていない雄身に一瞬だけ躊躇するが、握り込んだ。ぼおっと劉備のなすがままになっていた諸葛亮が、あ、と驚いて声を上げた。 「大人しくしてろ」 言い聞かせて諸葛亮の雄身を扱く。自分のものを昂ぶらせる要領で、諸葛亮も同じところが好いだろうかと見当をつけて手を動かせば、眉間に深い皺を刻んで感じているらしい声を漏らした。やはり若いだけあって、劉備が僅かに手を出しただけですぐに硬く張り詰めていく。 息を詰めて、時折思い出したように吐き出す諸葛亮の呼吸は熱っぽく、劉備を煽る。ぐちり、と早くも湿った音を立てる雄身に促されるように諸葛亮は低い声で喘いだ。 おかしな気分になってきた、と乾いた唇を舌で湿らせつつ、劉備は中途半端に昂ぶっていた己の下肢にも手を伸ばす。下穿きから抜き取り、諸葛亮の雄身と重ねてともに掌に収めた。 「っ……ん」 互いの熱が混じり合い、ぞくり、と劉備の背筋を痺れさせた。眼下に互いの雄身が身を寄せ合っている卑猥な光景が広がっていて、ごくり、と劉備は咽を上下させる。 諸葛亮の手が下肢を包む劉備の手に被さってきた。促されて劉備は手を動かす。雄身の硬さと熱さ、自分の手であるにも関わらず、諸葛亮の指が先導しているせいか、思わぬほどの悦が生まれる。 「ぅあ……ん、んん……孔明っ」 苦悶に近い顔で見上げている諸葛亮を呼ぶと、さらに指の動きは早くなる。ぐちぐちと掌の中で音を立てているのは、どちらのものとも分からなくなった先走りだ。滑りの良くなった二つの欲の証は、今にも弾けそうにすすり泣いている。 「あ、はっ……もうっ」 極みが競り上がってくる。荒い息の下から限界を伝えるが、途端に諸葛亮の指が劉備の根元を締め上げてきた。 「あぁ、んん……孔明?」 悶えて意図を問いかけるが、諸葛亮の指が臀部の隙間に這わされてびくり、と身体を跳ねさせた。達する直前で止められた肢体はひどく敏感になっているようで、僅かな諸葛亮の動きにも翻弄される。秘奥を撫でる指の動きにひくひくと下腹がうねり、吐き出せなかった欲が劉備の腰骨を疼かせた。 「孔明っ」 非難するように声を荒げるが、諸葛亮は指を劉備の中へともぐり込ませながら、欲情を滲ませた声音で言う。 「ここで、果てたいのです。殿なら受け止めていただけますよね」 もぐり込んだ指に、ん、と小さく呻いて、諸葛亮の言葉を反芻して羞恥を覚える。良いとも悪いとも言わないうちに、諸葛亮はお互いの欲を掬って滑りの良くなった指で中を拓いていく。 「く、ぅ……は、ん」 身内を割られる感覚に辟易しつつも、痛みから逃れる方法を確実に学び始めている身体は素直に力を抜いた。 ああ、まったく、と劉備は呟く。結局こいつの好きにされるのか、と己の流されやすさにため息が漏れそうになった。もっとも、今回は劉備から誘ったようなものだから、諦めるのも早い。好きにしろ、とばかりに目を瞑った。 諸葛亮の指は劉備の悦を探り当てると、すぐさま集中的に責め立ててきた。 「ひっぁ……あ、ぅん……あぁ」 身体を支えていた肘が折れ、劉備は諸葛亮の肩口に額を押し付ける。もう片手で反対側の肩を掴んで、強烈な悦に耐えようとする。勝手に溢れる嬌声を少しでも閉じ込めようと口元にある諸葛亮の衣を噛む。 「ふ、ぅう……うっ……」 秘奥からの甘い悦楽は下肢へと激しく伝わり、諸葛亮の指で堰き止められているはずだが、じわりじわりと雫は溢れて諸葛亮の腹を汚していた。 指が増やされて拡げられる感覚が強まる。がくがくと身体は震えて、さらに強く諸葛亮へしがみ付く。指で突かれ、腰は強請(ねだ)るように揺れていた。 もう吐き出したい、と溺れそうな悦の波の中で願う。 「孔明っ、もういいから」 指を離して、イカせてほしい、と言外に込める。秘奥から指が引き抜かれた。 「一緒に、果てても?」 頷きかけて、二度あったあの痛みを思い出して強張った。 「私がやる。お前は横になっていろ」 どうせ挿(い)れられるのなら、自分でやったほうが調整の利く分、痛みもマシというものだ。何か言われるか、とも思ったが、諸葛亮は大人しい。酒が普段の彼の言動を封じているのかもしれない。羞恥を刺激されないうちに、と劉備は覚悟を決めて、すっかり立ち上がった諸葛亮の雄身に手を添えた。 深く呼吸をして気持ちと身体の準備を整えると、ゆっくりと腰を落としていく。我に返ると羞恥で身悶えそうになるので、なるべく何も考えずに諸葛亮を受け入れることだけに集中する。目を瞑り、秘奥を拓こうとする硬い切っ先に呼吸を合わせる。 「んっ……んん」 今までと違い、じわりじわりと飲み込んでいくことで、痛みはそれほどではなかった。張り出した部分を含んでしまえば、あとは自重(じじゅう)に任せて諸葛亮を受け入れるだけだ。 「……っはぁ」 強張りを解いて、そっと目を開ければ、諸葛亮と視線がまともに合う。 ずっと見ていたのか。 そう思えば、抑え込んでいた羞恥が頭をもたげ、劉備の視線を逸らしてしまう。その視界の隅に、何か動くものを捉えて、訝しんだ。 「――!!」 忘れてたー! 青褪めて、驚いた拍子に諸葛亮の雄身を思い切り締め上げたらしい。呻く声と堪え切れず、といった様子で諸葛亮は腰を突き上げてきた。 「ぁん……ちょっと、待て……ぁ、こ、めい」 必死で止めようとするが、どうやら今の劉備の動きで理性を手放したらしい。元々酔っ払いの理性など高が知れている。硬い雄身で中を掻き混ぜられて、劉備も理性を飛ばしそうになる。 だがそうはいかない事情が劉備の視界に留まっている。 あはは、と妙に引きつった笑いで劉備と視線を合わせているのは、簡雍だった。 (あー、気にすんな、気にすんな。どうぞお構いなく) (気にするわー! お前いつから起きてた!) 長年の腐れ縁だけが可能にする無言の目と目の会話を始める。 (いつからって、大丈夫だ。ついさっきだ、ついさっき) (い・つ・か・ら・だ・!) (『孔明っ、もういいから』の辺りからかな〜、なんつって) (お前ーー!) (だってよ、俺が気持ち良く寝ているからってその横で始めるほうが悪いだろうが) 確かに一理ある、ってそうじゃない。 (そこは人として友人として寝たふりをしておけ!) (いや、だから俺としては気を遣って、ちょっと隣の部屋へ行こうとしたんだって。だのにお前が気付くから) (分かったから早く行け!) (はいはい。俺だって男同士が乳くりあっているところなんぞ見ても楽しくも何ともありませんよー) 「じゃあ、見るなっ……あぅ、ん」 思わず声を出したものの揺さぶられて、劉備は喘ぎを弾ませる。こんなところを簡雍に見られていたのかと思うと憤死ものである。悦楽と羞恥で視界が涙に濡れていく。 体勢の関係から諸葛亮には簡雍の姿は見えなかったが、見つからないように簡雍はソロソロと寝所から出て行こうとする。しかし出口のところで何を思ったのかちらり、と振り返り、睨みつけている劉備にニヤリ、と笑って見せた。 (なかなか色っぽいぞ、玄徳) 口をパクパクさせて身振り手振りで伝えてくると、さぁっと風のように消えていった。 「あの、野郎……絶対に、殴る……っく、ん」 口汚く罵った劉備の言葉は幸い、諸葛亮には聞こえなかったらしく、劉備の下肢を戒めていた指を解いて扱き始めた。 「孔明っ……あ、もう……駄目だっ」 怒りと快感が混じり合い、劉備に嬌声を上げさせる。煽られるように諸葛亮も劉備を呼んで、追い上げる動きを早める。 向かい合わせで座る形にさせられて、こすられる角度が変わり、劉備の声が甘く濡れる。胸を吸われて咽をさらして身悶えた。 「殿……っ、殿……っ」 呼ばれる声が心地良くて、二人の腹に挟まれた下肢が気持ち良くて、劉備は悦楽の大海へと堕ちていく。それは決して背徳感ではなくて、諸葛亮の中へと沈むような満ち足りた感覚で、劉備は背中に回っている諸葛亮の腕に身を任せる。 「殿が、とても色っぽく見えます」 喘ぎに混じって聞きそびれるほどの小さな声で、諸葛亮が言う。先ほどの簡雍の言葉と同じであるのに、劉備はぞくり、と肌が粟立つ。 孔明、と唇を寄せる。今度は諸葛亮も素直に応じた。唇が重なり、諸葛亮の手が劉備の下肢を包む。 劉備の中で、諸葛亮の手の中でそれぞれが欲を吐き出すまで、二人は悦楽を分け与えるように肌を重ねていた。 |
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