「白羽扇の下 3」
 諸葛亮×劉備


 深い夜色の衣が地面にふわり、と舞い降りたころ。
 諸葛亮は寝所で、持ち込んだ資料を眺めていた。
 劉備と約束をした手前、寝所に居なくてはおかしいだろう、と思い待機はしているのだが、正直、本当に劉備が来るかどうか半信半疑だった。
 いや、諸葛亮の予測では八割の確率で劉備は来ない、と考えている。
 あれはあの場の勢いで、後で冷静になった劉備が来られるはずがない。第一、このような夜更けに益州の主が供も連れずに部屋を出ようとしたなら、警護の兵が引き止めるに違いない。さらに城内は見回りの兵があちこちに立っている。
 それらを掻い潜って諸葛亮の寝所までやってくることなど至難の業だ。
 ただし、二割の確率で来るのですよね。
 劉備が一度約束したことを簡単に覆す男でないことは、諸葛亮は心得ている。
 その二割が現実のものとなったら、さてどうしたものかと、資料を読む頭の片隅で考えていた。
 実際問題として、諸葛亮は男を抱く性癖は持ち合わせていない。しかも、劉備に対してそういう欲求を抱いたこともない。
 劉備玄徳という人間に惚れてはいるが、決して恋慕ではない。
 だからと言って、そういう決心で来た劉備に実は休みたくないから、虚言をしました、と正直に言える機など当に過ぎてしまった。
 思案を練るときの癖で、左手で白羽扇を扇ごうとして走った痛みに息を詰める。
 だが、そのおかげで妙案が浮かんだ。
 ああ、この手がありましたね。
 ようやく、諸葛亮は笑みを浮かべて目の前の資料に没頭出来るようになった。
 読み終わった資料が卓上の隅に高く重なる頃、寝所の窓の外から小さな声がした。
「諸葛亮、諸葛亮」
 諸葛亮は、自分の名を呼ぶ声に顔を上げた。
「殿?」
 窓に近寄り、暑さのために僅かに開けていた窓を大きく開くと、劉備がなぜか楽しそうな笑顔を浮かべて立っていた。
「入れてくれるか?」
 諸葛亮が頷くと、劉備は手馴れた様子で窓から部屋に入ってきた。
「なるほど、こうやっていつも抜け出していたわけですか」
 ちくり、と棘を含ませると、劉備は首を竦めた。
「まあ、固いことを言うな。城の中だし、構わぬだろう?中々楽しいぞ、いかに兵に見つからずに散歩をするか、というのは」
 諸葛亮は溜め息をつくしかなかった。
「しかし、そなたはまだ仕事をしておったのか?」
 劉備は卓上の書簡を見て、呆れ果てたようだ。
「ええ、『氣』が張っていますから」
 含んだ口調で言うと、劉備は少し狼狽しながら、あらぬ方向へ視線を向けた。
「その、確認のために訊きたいのだが、本当に私で構わないのか? もっとそなたが好みの者でも探したほうが良いのではないか?」
 ここへ来て、やはり迷いが生まれたのだろう。劉備が窺うように諸葛亮を見つめた。
「いえ、私が殿だからこそ、と思い打ち明けたのです。他の者など良いのです」
 ある意味では事実なので、諸葛亮は偽りのない心で告げる。
「そうか、ならば私に迷いはない。……人払いはしてあるか?」
 劉備は納得したようで、諸葛亮は確認に、ええ、と答えるが、声が裏返りそうになるのに気付く。
 なぜか緊張しているのだ。
 そんな自分に戸惑いを覚えるうちに、劉備は部屋の明かりを消してしまう。誘われるままに寝台に歩み寄るが、劉備が着衣を脱ごうとしているのを見て、我に返った。
「殿、その申し訳ありません。私は大事なことを忘れていたのです」
 寝巻きなのだろうが、いつもより簡素な衣に身を包んでいる劉備は、寝衣しんいに手をかけたまま、首を傾げた。
「私は、この通り怪我をしています。殿を抱くには無理があります。ですから、せっかくここまでいらしていただいたのですが、今日のところはお帰りになられて、また後日に」
 最後の策を披露する臥龍に、仁徳の人は顔を曇らした。
「そうであったな。……ならば、そなたはただ横になっていればよい。私が全てを行う」
 再び、諸葛亮は自分の耳を疑うこととなった。
「殿、それはどういった意味ですか?」
「私も恥ずかしいのだ。いちいち聞き返さなくともよいではないか」
 薄闇の中でも、劉備が顔を赤くしたのが分かった。
 予想外の展開に、臥龍と謳われた男も思考が止まってしまう。
 導かれ、寝台に横たわった諸葛亮の体を跨ぐように、劉備が寝台に乗る。
 ようやく止まっていた思考が動き始め、諸葛亮は急いで半身を起こそうとする。
「私はな、嬉しいのだ」
 だが、劉備の言葉に動きを止める。
「こうしてそなたの役に立てることが、嬉しいのだ。私はいつもそなたに頼りきっており、褒賞を与える、と言っても辞退してしまうし。せいぜい位を与えることぐらいしか出来なかった。それすらも、そなたにとっては大して価値のあるものでもなかろう。なので、常々そなたには何かをしてやりたい、と考えていた」
 突然の劉備の告白に、諸葛亮は戸惑う。
「そのような。臣下が主君のために働くのは当たり前のことです。頼られることはまた誇りでもあります。それをそのように捉えられても」
「分かっている。しかし、私が自分を許せないのだ。わがまま、と言ってもらっても構わない。だから、そなたがこの話をしてくれたときは迷ったが、好機だと思った。そなたに報いる好機だとな」
 話しながら劉備は、自分の衣を膝元に落とした。
 瞬間、諸葛亮は己の心臓が思わぬ反応を示したことに焦った。
 薄闇に浮かんだ劉備の裸体は、闇を平伏させるかのように輝いていた。転戦を繰り返し、放浪を続けた劉備は肌のあちこちに傷跡を残している。しかし、それでもなお、心根が折れることがなかったように、肢体は真っ直ぐにしなやかで、健康的な輝きを保っていた。
 知らずのうちに健やかな肢体を凝視していたらしい。
「あまりしげしげと見るでない。女体でもないのだから、楽しいものでもなかろう」
 劉備は照れたように目元を綻ばせた。
「いえ、そんなことはありません。美しいと思います」
 気付けば、そのようなことを口走っていた。
「諸葛亮は世辞もうまいのだな。そなたの衣も脱がしてしまうぞ?」
 劉備の裸体に目を奪われていた諸葛亮は、小さく頷いた。
「やはり、痩せているではないか。無理をしている証だ」
 帯を解かれ、劉備の前に肌をさらけ出すと、劉備は眉間に皺を寄せた。
「それは元々ですので、心配されませんように」
 昔から、どう食べてもどう生活をしていても、体に肉が付きにくい体質らしい。痩せている、と言われる一歩手前が、諸葛亮にとっては一番具合がいいのだ。
「どこまでも理屈ばかりを言いおって」
 苦笑いを浮かべる劉備の口元が、不意に諸葛亮の口元に下りてきた。
「……っ」
 唐突な口付けは、柔らかく暖かだった。
 すぐに離れたそれに、諸葛亮は名残惜しさを感じた。
「殿……」
 囁くように呼ぶと、劉備はもう一度口付けをくれた。
 今度は、深い口付けとなった。上唇を啄ばむように甘噛みされてから、舌が潜り込んできた。
 口内に身を沈めてきたそれを、諸葛亮は夢中で貪った。
 甘い。
 心地良さに、開いていた目を閉じた。
 体の中心が熱くなる。熱くたぎった波は、冴えた諸葛亮の思考をさらっていく。
 自由な右腕を劉備の背に回した。そのまま手を滑らし背中を撫でると、劉備の体が小さく跳ねた。
 唇が離れ、閉じていた目を開くと、劉備の双眸が微かに潤んでいるのが見て取れた。
 口付けだけで感じてしまうらしい主の素直さに、どこまでも貴方らしい、と諸葛亮は思う。
「諸葛亮」
 己の名を呼ぶ声は艶を含み、諸葛亮の奥に眠っていた衝動を激しく突き上げた。
「殿、もう一つ、私のわがままを聞いてもらってもよろしいですか?」
「ああ、いいぞ」
あざなで、呼んでもらいたいのです。孔明、と」
 貴方が義兄弟たちをそう呼ぶように。
 口にして、諸葛亮は自分で驚いていた。
 自分がそんなことを感じていたなどと。まるで嫉妬のように、関羽や張飛を羨ましがっていたなどと。
 諸葛亮は、自分の心がどこに向かっているのか、掴めなくなった。まるで嵐に舞う一枚の木の葉ように、自分の心が翻弄され、追えない。
「そのようなこと」
 微笑んだ劉備は、耳元に唇を寄せた。
「孔明」
 耳朶のそばで響いた劉備の柔らかな声音に、体の奥が激しく脈打った。先ほど突き上げてきた衝動が、抑えられなくなる。
「幾らでも呼ぼう」
 この衝動の正体を、諸葛亮は知った。
 情欲。
 私は、殿に情炎を燃やしているのですか? この方にこのような感情を抱いていた、と?
 諸葛亮は内心、激しく動揺し、さらわれかけていた思考が導き出した答えに、戦いた。
 咄嗟に思ったことは、あってはならないことだった。
 臣下が主君に抱く想いにしては、行き過ぎたものだ。
 それは、諸葛亮の観念にはあってはならないものだった。
 ひどく混乱している表情をしたのだろうか。
 劉備が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうした、孔明? 傷でも痛むのか」
 呼ばれた字の、何と快いことか。
 もう、疑いようがなかった。
 自分は、この方を好いていたのか。人間として、一人の男として、そしてそれ以上に。
「いえ、大丈夫です」
「そうか? やはり私ではそなたの『氣』を解いてやることはできぬのだろうか」
 心底から諸葛亮を気遣う劉備に、己の戸惑いやためらいが朝露の如く霧散していくのが分かる。
「そのようなことはございません。どうやら、私は殿が欲しくて仕方がないようです。……申し訳ありません」
「孔明、謝るでない。それなら良いのだ」
 優しく微笑む劉備に、諸葛亮は手元に白羽扇がないことが落ち着かなかった。
 緩んでいく頬を隠したい。自分はこの人の前では本心を隠しにくい。
 御しきれない身内を知られたくなく、誤魔化すように劉備の肌に手を這わせた。僅かに色づく胸の飾りへ指先を伸ばし、潰した。
「……っん」
 小さな吐息が劉備の唇からこぼれた。
 今ほど、諸葛亮は自分の左腕の怪我を恨んだことはない。両手が自由に使えれば、劉備をもっと悦ばすことができるはずなのに。
「孔明、良いのだ。そなたは何もしなくとも、私がする。怪我に障る」
「ですが、私がこうしたいのです。ですから、お許しを」
「しかし……ぁ」
 また、劉備の口から息がこぼれた。諸葛亮の指が胸の飾りを摘まんだからだ。
 だが、劉備も諸葛亮の肌に手を伸ばしてきた。互いに、互いの肌を感じ合い、次第に息が上がっていく。どちらからともなく唇を重ねあわせた。
「んんっ、ふぅ……ぅん」
 先に根を上げたのは劉備で、濡れた吐息を鼻からこぼし、体を震わした。
「孔明……」
 息を継ぐ僅かの隙に呼ばれる字に、諸葛亮は堪らないほど煽られる。
 膝を持ち上げ、劉備の中心を刺激する。すでに、そこは緩く形を変え始めていた。
「……っ、孔明っ」
 叫ぼうとした劉備の口を、深く口付けることで封じてしまう。後頭部に腕を巻き付けて逃がさないようにする。
「ん、んっ……んんっ」
 膝頭を押し付け、ゆっくりとかき混ぜるように回すと、劉備の体が小刻みに震える。唇の端から、甘い息が落ちていく。
 まだ、劉備は下穿きをつけたままだったが、硬くなり始めた中心は薄い布を押し上げていた。
「敏感ですね、殿」
 唇を離し、硬さを報告すると、劉備が恥じたように顔を背けてしまうが、諸葛亮はますます舌を滑らかにする。
「どうしてです。私が相手だからですか? それともそういうお体なのですか?」
「孔明っ」
 さすがに眉がきりりっと吊り上げるが、それも膝で強く押せば潤みを伴って閉じられてしまう。眉間に寄せられた皺が深くなるが、それがまた艶を含み、諸葛亮の劣情を誘う。
 罪な方だ。私を夢中にさせてしまう。
 もう、諸葛亮の頭には滞る執務のことは残っていない。ただ、目の前の愛らしい主をもっと悦ばしたい。それだけだ。
「殿にもっと触れたいのです。下穿きを取っていただいてよろしいですか?」
 羞恥に顔を赤く染めながらも、劉備は諸葛亮の言葉に従順だ。
 解かれた下穿きの下からは、劉備の自身が現れた。掌に包むと、身じろぎをするようにそれは形を変えた。
 少し力を込めて上下に擦れば、劉備は背を反らしながら濡れた声を溢れさせた。喘ぎに促されるように、諸葛亮は劉備の中心を刺激する。
「ぁ、んっ。孔明、手を離せ……それでは、わ、たしが……うぁ……先にっ」
 息を乱しながら首を横に振る劉備に、だが諸葛亮は手を休めない。主の喘ぎをもっと聞きたかった。
 どんなに美しい声を持つ歌姫も、この声には勝てない。
「こう、めいっ……あ、ああっ」
 鋭く声を上げ、劉備は諸葛亮の手で果てる。
 白い欲が諸葛亮の指を伝い、腹に落ちる。
「……離せ、と言ったはずだ」
 息を整えながら、劉備は恨めしそうに諸葛亮を睨む。
「そうですか? 私は殿の素敵なお声しか聞こえませんでしたが」
 ふふっと笑うと、劉備は吐精の余韻で赤くなった目元を更に赤くして、怒ったように強く睨んでくる。
「そなたがその気なら、私にも考えがある」
 言い終わるや否や、劉備の顔が諸葛亮の下へ移動した。あっと思う間もなく下穿きが取り除かれた。
「殿、それはおやりにならなくても……っ」
 劉備が何をする気なのか分かった諸葛亮は制止するが、劉備はためらわなかった。
 下半身に暖かなものが被さってきて、諸葛亮は息を詰めた。
「と、の……お止めください!」
 諸葛亮の自身を口に含んだ劉備に、慌てふためく。しかし、止めようにも不自由な左腕が邪魔をして叶わない。
「……っ……ふ、ん」
 劉備の舌が諸葛亮の敏感な部分を舐め、思わず息をこぼす。
 慌てて口元を押さえるが、劉備の勝ち誇ったような目が諸葛亮を見やる。
 諸葛亮にとって、劉備が自分のものを咥えている、というだけでも達してしまいそうな高揚感だった。
 どこが感じるのかは、同性だ。容易く敏感な部分を責められ、諸葛亮は陥落した。
 身内を突き抜ける熱い猛りに、息を乱す。
「もう結構ですから……お止めに……く、ぅ」
 劉備の口元から卑猥な水音がするのが、また諸葛亮を追い詰める。
「もう、貴方の中へ……」
 咄嗟に腕を伸ばして、劉備の耳へ触れる。それに感じたのか、劉備は口から諸葛亮を離した。
「……孔明」
 舐めている間に、劉備も煽られていたらしく、声は興奮に掠れていた。口元に残った諸葛亮の欲の証を舐め取る舌が、ひどく淫靡だ。
「私は動けませんので、殿は私の申し上げる通りに動いていただけますか?」
 少し意地が悪いかとも思ったが、事実でもあったので、劉備も逆らえないようだ。
「では、初めにご自分の指を唾液で濡らし、奥へ入れてください」
 指示通りに劉備が自分の指を唾液で濡らし、双丘の奥へ挿し入れる様は、どうしようもないほど煽られる。
 手順など踏まずに、強引にでも中へ入れさせてほしい。
 そんな激しい誘惑に駆られる。
「くぅ、……んんっ」
 苦しいのだろう。声に苦痛が混じる。諸葛亮は力を失っている劉備の中心に手を添えて、痛みを散らす。
「指を奥まで入れましたら、かき混ぜてください。指にぶつかる箇所があるはずです。見つけましたら指で押してみてください」
 諸葛亮に促されるように、劉備は指を中で動かしたようだ。諸葛亮の腹の上で、劉備の体が大きく震えた。
「見つけましたか? そこです。そこを強く押したり引っ掻いたりしてみてください。心地良いはずです」
 ぎこちなかった劉備の動きが、秘奥から登る悦楽に夢中になったようだ。薄く開いた唇から甘い声が滴り落ち始める。
「あぁ、ぃんっ……はぁ……孔明っ」
 きつく結ばれた瞼の端から、雫がこぼれて睫毛を濡らす。それが闇夜の中で光を持ち、煌めく。淫らに悶える劉備の肢体に、諸葛亮は自身がこれ以上ないほどに熱くなる。
「指をもう一本増やしてみてください。丹念にほぐしませんと、殿が傷付いてしまうので」
 一つ一つを指示する諸葛亮も熱に浮かされたように掠れそうになる。
「いぁ……ぅん、ぁあっ」
 従順に応じる劉備は、片手を諸葛亮の脇につき、顔を肩口に埋めてきた。劉備の頭や肩を右手で撫でながら、耳元に囁いた。
「貴方がほしいです。よろしいですか?」
 小さく、肩口にある頭が上下した。
「では、指を抜いて奥を広げながら、ゆっくりと腰を落としてください」
 身を起こして、劉備は自分の中に埋められていた指を抜いた。細い息を吐き出し、劉備はその感覚に身を震わせた。そして、諸葛亮の猛りに手を添え、自分の奥を広げながら、静かに身を沈めてきた。
「……つっ、くっ」
 ほぐされているとはいえ、質量が違うそれは、そう簡単に入っていかない。
「深呼吸をしてください。吸ってから大きく吐いて」
 諸葛亮は慎重に時機を計る。劉備が何度か呼吸をして、体の力が抜けた瞬間を見つける。そこを逃さず、腰を突き上げた。
「……ぃあっ」
 劉備が悲鳴混じりの声を上げるが、その時には張り出した部分は劉備の中だった。
「入りましたよ、殿。後はそっと腰を下ろしてくだされば」
 痛みに顔を歪めながらも、劉備は腰を落としてくる。痛みを堪えるかのように結ばれた唇が、吐息をこぼす。
 諸葛亮は、劉備の中に入っていく己の感覚に、神経を集中させる。中は熱く、そのくせどこまでも諸葛亮を飲み込もうとするほど深い。
 まるで貴方の心内(こころうち)のようですね。
 快感を煽られながら、諸葛亮は微笑む。
「孔明、良いか?」
 辛そうにしながらも、そう尋ねる劉備が愛しい。
「ええ、とても。殿の中は私を離したくないようで、しっかりと絡み付いていますよ」
 揶揄(やゆ)するように言うと、劉備は廉恥に身を震わしながらも睨んでくる。だが、その目がふと和らいだ。
「そうかも、知れぬ。私はそなたを離したくない。例えどんなことがあろうとも。私はそなた無しでは生きられぬのだから」
 自分は魚、だから、水がないと生きることは出来ない。
 そう言いたいのだろうが、諸葛亮はそれが睦言のように聞こえる。
「殿、このような状況でそのようなことをおっしゃると、誘っているようにしか思えませんよ」
 諸葛亮は収まった猛りを突き上げた。
「そ、のような……あ、あぁ」
 赤面する劉備は、諸葛亮の動きに嬌声を上げて仰け反った。肌が魚のように闇の水を泳ぎ、たゆたう。
「動く、な、孔明っ。傷に障るであろう……いぁっ」
 気遣う劉備に構わず、諸葛亮は猛りを劉備にぶつける。
「もう、止まりませんので、お許しを」
 劉備もそれ以上咎めることをしなかった。いや、出来なくなった。その体は諸葛亮の楔を受け止めることで精一杯となったからだ。
「もっ……ああぁ……こ、めい……ぃ、んっ」
 魚が水の中で溺れることはないだろうが、この愛しい魚は確かに諸葛亮の上で溺れていった。
 夜の闇が二人を包み、水底へと落としていった。



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