「玉磨かざれば 光なし 4」 関羽×劉備 |
町は馬を走らせてすぐのところにあった。 一つしかない宿に腰を落ち着けることは出来たが、とても休むような気分にはならない。疲労は確実に思考を奪い、体を蝕んでいるはずなのだが、狭い部屋に押し込められた寝台の上に横たわっても、一向に眠くならなかった。 まだ外は明るい。隣の寝台に関羽の姿はなく、劉備は掛け布を頭から被り寝ようとするが、宿がともに商っている酒家の喧騒が届き、気が散った。 ああ、と叫んで起き上がる。 酒でも飲まないと寝ることすら出来ない。 部屋を出たところで、隅に蹲る関羽に気付いた。びくり、として硬直したが、舌打ちした。 「見張りのつもりか」 「まだ、諦めておられないようなので」 「……」 まったく、この男は良く自分のことを理解している。 劉備が分かりやすい性格だから、というだけではない。関羽は劉備が何に憤り、何に悲しみ、何を楽しみにしているか、良く把握しているのだ。付き合いとしては、まだそれほど長くない。長さだけ言うのなら、簡雍のほうがよほど長い。 その簡雍ですら、お前って時々何を考えてんのか、分からねえよ、と言う。そういうときでさえ、関羽は疑問を挟むでもなく、劉備のしたいようにさせてくれる。 『なんか、関羽の旦那って、玄徳のお袋みたいだよな』 簡雍がある時ぼそり、と言った言葉に、劉備は口にしていた飯を噴き、関羽はむせ、張飛はぽかーんと顎を落として口の中身をこぼしていた。 『なに言ってんだ、お前。頭は大丈夫か、憲和』 劉備はじとり、と古い友人を、憐れみを籠めて見つめたが、簡雍は肩を竦めただけだった。 『だってよ、息子のやることなすこと許して、突拍子もないことをしても、あの子はそういうところがあるから、とか言って納得しちゃう。そういうところ、旦那にはあるってこと』 『あー、そういうことなら、俺もなんか分かる』 『お前まで何を言うんだ、翼徳』 むせた関羽は、未だに顔を真っ赤にして咳き込んでいる。 『なんか、雲長の兄貴ってさ、兄者が無茶したり暴れたりすると、人一倍心配するくせに、そんな兄者見て嬉しそうだったり、我が侭言って何かを訴えたときだって、渋い顔をするわりに、どっか楽しそうだし。なんか、そういうのってかほご? だっけか。そういう母ちゃんみたいだよな』 過保護、だという。 そういう点では、簡雍や張飛の言葉は見事、関羽の劉備へ対する態度に当てはまる。 気が合う、と関羽と初めて出会ったときに感じた「勘」は外れていないし、今でも疑ってはいないが、ここまで、となると気味が悪いほどだ。 勝手な言い分だ、とは承知の上だ。 「外の空気を吸いに行くだけだ。ついでに酒の一杯でも引っ掛ける」 「ともに参りましょう」 「要らない」 「では、拙者も外の空気を吸いに行くだけです」 「……」 勝手にしろ、だ。関羽と言い争うだけの頭も働かない。 宿の外へ出る。ひやり、とした風が身を包み、疲労が蓄積された頭を僅かに冴えさせてくれる。そのままぼんやりしていると、遠くから馬蹄が響いてくるのが分かる。 もう張飛たちが追いついたのか、とも思ったが、規模が違う。町に立ち寄るつもりはないらしく、官軍の装束に身を包んだ一団は街道を駆け抜けていく。先頭はもちろん騎馬隊だが、その中ほどに目を引く赤い戦袍を身に纏った男を見つけ、は、とする。 「曹騎都尉!!」 気付けば大声で呼びかけていた。すぐに男は気付き、一団より抜け出てきた。幾人かが護衛として従ってきたが、男がその場に留まらせた。 馬から下りた男は、玄徳殿か、と笑みを浮かべた。 「このようなところでどうした。見たところその豪傑の二人だけのようだが、他の者たちはおらんな」 「別行動中です。それよりも、曹騎都尉にお聞きしたいことがあり、呼び止めました」 「ほお、なんであろう」 男は、改めて名は操だ、と言いながら、問い返してきた。私は備、と申します、と名乗ってから、続けた。 「我が師、盧子幹のことについてです。貴方は皇甫将軍の陣営より離れるとき、私に忠告してくださいました。『それならばなおこのようなところへおらん方が良いと思うがな』という意味、教えてくださいませんか」 曹操はああ、と顎を撫でて頷いた。まだ鬚を揃え始めたばかりなのか、整った顎は申し訳程度の鬚だけ飾られていた。 「もう遅かったようだがな。先ほど更迭される中郎将殿をお見かけした。私は張兄弟を追っているので、特に話はしなかったが大体事情は察せる。恐らく視察に来た宦官へ賄賂を渡すことを固辞したため、いわれのない罪を被せられて強制送還されてしまったのだろう」 「……なぜ、騎都尉殿は師の危機が分かったのです」 「戦は情報だよ、玄徳殿。情報を多く持つ者が勝つ。中郎将殿のことは、昔より清廉で儒学者の第一人者であることは知っていた。そして、皇甫将軍のところへ来る前に、中郎将殿のところへ宦官が一人、視察へ向かった、と情報が入った。これだけの情報があれば、この先、どういう展開になるか、予想は容易いであろう?」 こともなげに言うが、それらをこの男は、戦に向かう道すがらに手に入れているのだ。劉備たちなど、ただ言われるがままに行軍し、疲れ果てさせられているだけだ。 なんなのだ、この差は、と劉備に八つ当たり気味のさもしい感情が生まれる。 どうしてこのような男が目の前にいる。 「盧植殿ももう少し上手く立ち回れば良かったのであるが。まあそれもまた、氏が慕われる一因なのであろうな」 お前が知ったような口を利くな。先生の何を知っている。 「それにつけても、あのような大人物の更迭を許してしまう朝廷のほうが腐っている。そう思わないか、劉姓を持つ、劉玄徳殿」 「……何をおっしゃりたいのです」 「中山靖王(ちゅうざんせいおう)が末孫、と名乗っているそうじゃないか。幽州、青州あたりでは名が通っているぞ。だが、所詮は義勇の士。もしも君に上に行きたい、という野心があるのならば、もっと上手く泳がねばなるまいて」 この乱世という大海原を渡るには、劉姓だけでは心許ないぞ、と曹操は言う。上に、と繰り返した劉備へ頷いた。 「そうだ、上にだ。腐った朝廷を根ごと掘り起こし、新しい木を植え直すぐらいの、上に、だ」 「そのように不敬な事を、仮にも官軍に身を置く者が申して良いと思うておるのですか」 口を挟んだのは、後ろにいた関羽だった。 「そちらの豪傑は」 「関羽、関雲長と申す」 「ほお、関羽か。そうして立っているだけで様になる男は、中々おらんぞ。良い雄(ゆう)を配下にお持ちだ、玄徳殿は」 「雲長は配下ではありませぬ。弟です」 「なるほど。それで玄徳殿の弟御、私の言葉が不敬であると」 「今の朝廷を否定する言葉のどこが不敬でないのか、逆に問いたい」 「はは、まあまあ、そうかも知れないな。玄徳殿はどう思う」 「私は……よく分かりません。黄巾賊のような、元は民である者が同じ民である者を苦しめるような世は間違っている、とは思いますが、それが果たして朝廷が腐っているせいなのかまでは」 「分からぬか? では、君が慕っている先生が、賄賂などという腐った象徴を差し出さない、と拒んだことは実に正しいことだ。しかしそのせいであらぬ罪を着せられて、捕まることは、どこに責があると思う」 「……」 拳を握り締めた。 「私は上に行くつもりだ。君の先生のように、正しいことを正しい、と言える世を造るためには、上に行く必要がある。……そうだな。玄徳殿が私と同じ志を持つ、というのならば、配下に加えるがどうであろう」 「……」 首を横へ振った。 曹操の言うことは正当性があるのかもしれない。だが今の劉備にはそれを判断できるほど頭は冴えていない。盧植の何も知らないくせに、知ったように語った口が許せない。 「そうか、それは残念だ。気が変わったら教えてくれ。君はどこか面白い。君という男をもっと知りたくなるような、不思議な魅力がある」 「お引き止めして申し訳ありませんでした、曹騎都尉。私はここで仲間を待っておりますので、これで」 まだ話し足りなさそうな曹操の話を遮るように挨拶をして、劉備は背を向けた。名残惜しそうな視線を投げる曹操から劉備を守るように、関羽がす、と身を寄せた。 宿の部屋に戻り、乱暴に戸を閉めた。今度は関羽も部屋に入った。 手を、取られた。無意識のうちに握り締めていた左手の拳を、関羽の手がそっと開いていった。手のひらに食い込んだ爪が、皮膚を破りかけていた。 労わるように撫でる関羽の手が鬱陶しかった。乱暴に振り払い、寝台へ腰掛けた。 「雲長。そうなのか。私に力がないから、先生を助けられなかったのか。あの曹操のように、情報を仕入れ、もっと早くに動いていれば良かったのか」 「長兄……」 「そうなのだろう!」 案じるように、劉備の前に跪いて見上げてくる関羽の視線に苛立ちが募る。八つ当たりだ、と分かっていた。盧植を助けられなかった己の情けなさに加えて、曹操という男の存在が、拍車をかけていた。 「長兄は疲れておいでです。顔を水に映しましたか。酷い顔をなさっている」 「はぐらかすな!」 「だからそのように気が昂ぶっておられる。お休みください。翼徳たちが通りかかるまでまだ掛かるでしょう。今は休むべきとき」 関羽の手が沓にかかる。強引に寝かしつけようとするところは、簡雍ではないが母親か、と詰りたくなった。素足となったかかとで、気が尖ったままに肩口を蹴った。 「どう思っているって聞いているだろう!」 力一杯ではなかったにせよ、やはり体躯はびくともしない。 非力だ、と暗に言われているような気がした。頭の芯が痛い。腹の底が熱く、吐き出せない苛立ちが溜まって気持ちが悪いほどだ。 足を、股間へと落とした。 「……っ」 さすがに鍛えることの出来ないところだけあり、関羽が小さく呻いた。さらに力を籠めれば、太い眉が寄り、眉間に皺が刻まれた。 「長兄……」 「どうした?」 唇の端を吊り上げて笑う。それこそ、水に映したならばひどく醜悪な顔で笑んでいるだろうな、とまだ辛うじて平静を保っている頭の片隅で淡々と受け止めていた。 ぐ、とつま先を深く押し込んだ。びくり、と関羽の肩が震える。 「抵抗しないんだな」 「……」 伏せられていた目が微かに持ち上げられた。非難めいた色は浮かんでいなく、黒い瞳が静かに劉備を映していた。 「払ってもいいんだぞ? 怒鳴ってもいい。弟を足蹴にし、自分の不満の捌け口にする弱い長兄だ、と罵ればいい」 かかとで強くえぐれば、眉間の皺はよりいっそう深くなった。足の裏で、どくり、と熱い塊がうごめいたのが分かった。 「……いいえ。拙者は、長兄のなさることを止めませぬ」 「っ――。なら、ならどうしてあの時は止めた!」 下腹を思い切り蹴り上げた。腕力よりも遥かに強い、脚力から繰り出された打撃はさすがに効いたのか、咽の奥で関羽は呻いた。 「どうして、俺に先生を助けさせてくれなかった!」 いつの間にか、口調はすっかり昔のままに戻っていた。 立ち上がり、かかとを股間へ押し付けて、体重を掛ける。関羽の額に脂汗が滲んでいることに気付いた。それでも、弟は足の下から逃れようとする素振りは見せなかった。 もちろん、劉備に本気で踏み潰す気などなかった。だが、無抵抗のままの弟はさらなる苛立ちを生むだけで、頭の芯から痛みは取れない。 「……」 腰を寝台へ落とし、足を滑らせた。上下に、ゆっくりと動かす。つま先を丸めて、布地の上から形をなぞった。ぴくり、と関羽の肩が揺れる。 形を捉えると、足の指を広げて挟み込みように滑らせた。それを幾度か繰り返すと、外からでもはっきり分かるほどに、関羽の局部は膨らんできた。 「お前、なに反応してんだよ」 我ながら意地の悪い声が出た。嘲笑うような、蔑む口調だ。 「俺に足蹴にされて、気持ち良いのか、雲長は?」 「……これはただの反応です」 「反応、ねえ。どうだろうな、ほら」 親指と人差し指の間で、先端と思しき場所を思い切り挟み込む。ぐう、と痛みとは趣を違える唸りが、関羽の口からこぼれた。 「俺には、善がって聞こえるが?」 「違います」 「違わないだろう。そう思うなら、脱いで見せてみろ」 ほら、と足で肩を小突いて、下帯を解いて、一物を晒せ、と命じる。関羽の伏せられた目がますます落ちたが、僅かに見える横顔に苦悶は浮かんでいない。逡巡などあってないようなものだった。 関羽は下帯をほどき、形を変えている雄身を劉備の前に晒して見せた。 「十分、立たせてるじゃないか、変態」 土踏まずで、裏を覗かせている関羽のそれを撫で上げた。足の裏に熱を感じて、ぞくり、と劉備の背筋が痺れた。 ああ、なんだこれは、と思った。 未知の感覚に肌すら粟立った。 不快さではなく、甘美さからだ。愉悦、と言い換えてもいいだろう。 先ほどと同じように、親指と人差し指で挟んで、上下に扱く。指の隙間でびくびくと雄身が反応し、硬さを増した。 もう片方の足も添え、全体を持ち上げるように刺激すれば、熱はますます昂ぶった。 「面白いな」 くく、と咽の奥で笑う。 足の裏に当たる硬い感触もそうだが、発している熱も劉備を夢中にした。殴っても蹴っても大して効果が見られなかった男が、このような稚拙な刺激に乱されている。 足の先に、ぬるり、とした感覚がまとわりついた。先走りまで溢れてきたようで、滑りが良くなる。 関羽の肌の色よりも濃く変色した一物を、劉備の白い足先が行き来する様は、一種異様であり、凄惨な戦の死骸に無垢な赤子が懐いているかのような違和感さえある。 だがその光景こそがますます劉備の興奮を誘う。あの関羽が、劉備の足で一物を勃起させ、いいように玩(もてあそ)ばれている。 劉備の奔放な性格のせいか、軍と名が付くわりには自由が漂っている集団で、関羽の戒めは軍紀の代わりだった。 威風堂々、という言葉が似合う男だ。腕だけでなく、頭も良い。修羅場も多く潜(くぐ)ってきているせいか、度胸もある。目を惹く長髯と堂々たる体躯は、そこに居るだけで象徴だった。 だが劉備にとってはただ気の合う男だ。弱い者にはとことん優しいくせに、少しでも権力を匂わす相手には突っかかる、そういう侠に準じる姿勢が好きだった。 その男が、自分を長兄に、と勧めた。軍の長になれ、と提案した。嬉しかったし、誇らしかった。 その男が、今劉備の足の下で息を荒げている。 背筋を撫で上げた痺れは甘い。知らず、乾いた唇を舌で舐める。 「なあ、雲長、気持ち良いか」 「……っ」 関羽は荒い息を押し殺すように吐き出すだけで、返事はしない。代わりに劉備はどんどん饒舌になる。 「気持ち良いよなあ? こんなに先端からだらしなく涎垂らしてるもんな」 ほら、と指の腹で先走りを掬い、先端へと塗りつける。足の指で、相当ぎごちないはずだが、関羽にとっては耐え難い悦楽のようで、腰が跳ねた。 「あはは、ほらやっぱりだ。びくびくしてる」 足の指で先端を挟み、引き下ろすようにすれば谷間が大きく裂かれた。溢れた先走りを掻き混ぜるように、足の腹で撫で付けた。 「――っぅ」 確かに聞こえた喘ぎに、ぞくり、と劉備の腰は官能で熱くなった。 「いいよ、雲長。俺の足で気持ち良くなれよ。お前が足蹴にされて喘ぐ姿なんて、そそるじゃないか」 ぱくり、と割(さ)かれたままの先端へ、親指の爪を捻じ込む。 「ぐ……っ」 今度は苦痛の唸りだ。だが、雄身に萎えた様子はない。 「痛くても感じてるし、雲長、ほんと変態」 あはは、と笑う声は我ながら甲高く、狂気を孕んでいた。 「このまま出してよ。雲長が俺の足でいっちゃうところ、見せろって」 「……長兄」 出来ません、という響きを感じ取って、劉備は叫ぶ。 「俺のしたいこと、止めないんだろう!」 雲長の子種、出して、俺の足に掛けてよ、と半笑いで言う。長兄、ともう一度呼びながら、関羽はようやく劉備と視線を合わせた。 変わらず、劉備を案じる眼差しだけがそこにあり、そのようにご自分を貶(おとし)めなさるな、と叱る強さすらあった。 「うるさい!」 そんな目で俺を見るな。俺はお前のような男に案じてもらえる資格などない。このようなことを弟にして、憂さを晴らそうとしているだけの、最低な男じゃないか。 でたらめに雄身を足で擦り、ただ刺激だけで極みへ持ち上げ、男が止めようとする手は睨んで制した。関羽の落ちた手は握りこぶしを作った。 両の足先で強く上下にと動かすたびに、足の指に絡んだ先走りがくちり、と音を立てた。堪えてはいるが、関羽の息は荒く、劉備を見上げる双眸には法悦に浸る色が混じっていた。 「――っく、う」 低く唸り、関羽はついに欲を吐き出した。しばらく戦続きで女を抱くことも、ここ最近では自分で処理する暇すらなかっただろう。そのせいか関羽の欲はひどく濃く、劉備の足をたっぷりと濡らし、汚した。 「凄い、出したね。雲長、俺の足で乱れて、それで俺にこれ、ぶっかけたんだ」 「申し訳ありません、いま、拭きますゆえ」 達した余韻があるだろうに、関羽は手ぬぐいを探しに立ち上がろうとしたが、腕を伸ばして引き止めた。 「お前が舐めればいいだろう? 舐めて綺麗にしろよ」 「……御意に」 今度こそ、嫌がると思った。ついに怒り出して、劉備を叱ってくれると思った。お前と言う奴は、と昔と同じ口調に戻り、怒鳴りつけられると覚悟していた。 期待していた。 なのに男は粛々と、劉備の足を取り上げて、ためらいもせずに舌を伸ばしたものだから、やめろ、と跳ね除けた。 「いい、もういい。それは、そこら辺の布で拭け」 「分かりました」 安堵も落胆も浮かべず、淡々と劉備の言葉に従う関羽を眺め、己の小ささを突きつけられる思いだった。 腹の底が熱い。 見つけ出した手ぬぐいで劉備の足を清めていた関羽の手を取り上げた。長兄、と問う眼差しを向けたが答えず、取り上げた手を局部へ押し付けた。 劉備の中心は硬く兆していた。無言で、掴んだ手のひらへ己の欲をすり寄せると、心地良さに湿った吐息が意図せず上がった。 「……お前が、こうしたんだ」 責任、取れよ、と命じる。 「俺を、抱けよ、雲長」 綺麗に流れる髯を掴み、引っ張った。体を浮かせた関羽をそのまま引き倒すようにして、寝台へと倒れ込む。丈夫ではないだろう寝台は、男二人分の体重を受け、ぎしぎしと盛大に悲鳴を上げた。 返事はどうした、と薄く笑いながら促す。拒否などしないだろう、と今となっては確信すらして、それでも聞きたくて問いかけた。 短い返事は、是、だった。 |
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