「帰ってきた　荀彧文若の苦労日誌　４」
劉備×曹操

「ぎゃっぷもえ？」
　劉備が口にした単語を、曹操はオウム返しにした。
「あの、水とか注ぐ入れ物の」
「それはコップです」
「捕虜を縛るときに使う」
「ロープです」
「新鮮な食べ物をそのままに」
「サランラップ」
「誰かの部屋を訪れたとき、戸を叩く」
「ノックですか？　だいぶ外れてきましたよ」
「あははあ、乱世は打算で渡るものさ」
「似てないですけど、それ賈ク殿？　言ってみたかっただけでしょう。一文字も合ってないですけど」
「的確なつっこみに礼を言う」
「こちらこそ、つっこみ甲斐のあるボケをありがとうございます」
『……』
「ギャップ萌えだったな」
「そうです、ギャップ萌え」
　人の良さそうな笑みが劉備の満面に浮かんでおり、それがやたらに怪しさを曹操に与えたのは、やはり本質を見抜く目がそう見せるのであろうか。
　――ギャップ萌え。
　　　いわゆる萌えを表現する多数の言葉の一つである。
　　　例えば怜君と呼ばれる有能な男が、激しいモーヲタであるとか。
　　　緻密な策略家が、酒飲みで女好きであるとか。
　　　打算で乱世を渡る男が、飄々とした性格をしていたりとか。
　周りを見渡すだけでも結構多い、萌えの基本形でもある。
「私がけっこういい加減で大雑把な性格をしているって知っても、雲長や翼徳が離れていかないのは、これが大きいと私は思っています」
「どういうことだ」
「普段は仁徳溢れ、漢室復興を掲げて邁進する長兄でも、義弟たちの前では力を抜いた、人間味溢れるところを見せる。ほら、どうです？　ちょっとイイ感じじゃありません？　督郵を殴ったときも、普段は穏やかな私が義憤に駆られたから、なお喝采を浴びたわけですし」
「……分かるような分からぬような」
「ですから、曹操殿もそれを目指してみてはいかがですか？」
「ギャップ萌え、をか？」
　と、言うかだ。
「結構シリアスな雰囲気で話してきたのに、ここへきてギャップとかありなんじゃろか」
「ギャグです、この話」
「そうか、なら仕方がない」
　鷹揚として頷く曹操に、そうですそうです、と適当に相槌を打つ劉備に、天然ボケと確信犯的ボケ倒し、というつっこみ不在の二徳の暴走を止める者はいない。
「具体的にはどうしたら良い」
「私から見れば、曹操殿なんかギャップ萌えの塊ですけど。それをもっと分かりやすく見せれば十分、みんなから愛される君主様になれると思いますよ」
「わしのどこに萌えがある」
「まず、そういうところ」
「どこだ」
「優秀なくせに本気でボケ体質で、自分の可愛さを自覚していない」
「そうか？」
「たとえば、雲長が髯袋を外し忘れて登城したとします、はい一言どうぞ」
「――可愛いな、関羽！　何ならわしが新しい髯袋を作ってやるぞ！」
「という反射的にボケてしまうところがあります。普通そこは『ちょ、雲長ｗｗ　それないわー』というつっこみが正しいです」
「な、なるほど！」
　なるほどじゃない。
「あとは口が裂けても言えませんが、小さいところとか」
「言っとるわ！」
　脱いだ沓で劉備の頭を引っぱたく。すぱん、とイイ音がしたものの、腕を掴まれる。
「咄嗟につっこみにも回れるところが、曹操殿の優秀なところですね」
「お主が余計なことを言うからだ」
「まあせっかくです。このままやりましょう」
「やるって何をだ」
「人気者になれる秘訣を教えたのですから、私の条件を呑んでもらいますってことです」
　そのついでに、もう少しギャップ萌えについて教えます、と言われて、曹操は腕を払うことをやめた。抵抗がやんだことを確認した劉備は、曹操をひょいっと抱き寄せて横抱きにする。
「何のつもりだ！」
　足が宙に浮いて慌てた曹操は、不本意ながらも劉備の胸元を掴んだ。
「こういうつもりです」
　ちゅっ、とおでこに唇が触れた。ぎゃー、と悲鳴を上げて額をこすったものだから、バランスを崩して二人揃って床に倒れ込んだ。
「ったた」
「もー、曹操殿なんで暴れるんですか」
「お主が馬鹿な真似をするからであろう！」
「だって、曹操殿のおでこ、なんかちゅーしたくなるおでこだったんです」
「でこフェチか！」
「小さいもの好きです」
「またお主は！」
「だって、四六時中、自分よりでかい男共に囲まれているんです。小さいものに憧れちゃうんですよ」
　言いながらも、覆い被さった形になっていた劉備の手は、曹操の体を撫でる。
「大丈夫でした？　痛いところありませんか、ほら、痛いの痛いの雲長のところまで飛んでいけー」
「ぎゃー、やめろ！　関羽に飛ばすぐらいならわしが痛いままでよいわー」
「もー、曹操殿ったら雲長が絡むと乙女すぎ！」
「うるさい！　第一、子ども扱いするな。何度も言うが、わしのほうがお主より年上だぞ」
「年上なのに、年上に見えないときがあるのも、またギャップ萌えです」
「む、そうなのか」
　心に留めておこうと劉備から意識を逸らした途端、頬に柔らかいものが押し付けられた。同時に首筋にさわさわっと軽いものが当たり、くすぐったさに悶えた。
「なんだ、なんだというのだ」
「曹操殿こそなんなのですか、人が気持ちの良いこと始めようとしているのに、雰囲気の無い」
「気持ちの良いことじゃと。さっきからまさか、と思うておったが、劉備」
「はい、そのまさかです」
「わしはマッサージが苦手なのだ、やめろ」
「ここでそういうボケは要りませんって」
「くすぐったがりなのだぞ、本当にやめろ！」
「あー、そうですか、それなら本当にくすぐりますよ」
　なぜかすっかり呆れ顔になった劉備は、長い両腕を脇腹に伸ばしてきた。
「ぎゃー、おい、だからやめ……ひゃはは、ひゃ、やめ……あは、駄目だ、そこ、やめろ……うひゃひゃひゃ……ちょ、こら、りゅ」
　脇腹といわず、腋の下や首回り、肩までくすぐられて、曹操は悲鳴を上げながら笑い転げる。笑い過ぎて涙が滲んできても、まだ劉備の手は止まらない。
「も……ほん、とに……はあ……やめ、ろといって……」
　息も絶え絶えになり、床の上でぐったりしていると、劉備の口元が歪んだのがちらり、と見えた。
「ようやく、色っぽい顔になりました」
「なんだというのだ」
「涙目で頬を上気させて、衣服を肌蹴させている曹操殿が、美味しそうだ、という話です」
「わしを食べたら甘すぎて糖尿病になるぞ」
「なんですかそれ」
「今朝も、文若に言われた」
「じゃあ味見してみます」
　唇を塞がれた。息を詰める。唇はすぐに離れたが、劉備の笑みは目が寄りそうになるほど近くにある。
「うん、確かに甘いですね」
「……劉備」
「条件、呑んでくれるのでしょう？」
「わしを女代わりにするつもりか」
　昔から、無かったわけではなかった。認めたくはないがこの小柄な形(なり)や顔立ちから、誘いをかけられたことも、酷ければ襲われたこともあった。それらをことごとく烈火のごとく怒り、拒絶した。
　お主も同じ穴のムジナか、と怒気も露わに睨んだが、首は横へ振られた。
「いいえ」
「ではなぜだ」
「言ったでしょう、貴方のことが好きだって」
　嘘ではなさそうだった。
　劉備は、外面はすこぶる良いが、自分で言っていたように、義弟たちの前では自然体でいたし、曹操の前でも掴みどころの無い態度は取るものの、嘘は一度もついていない。
「そういう意味で、わしのことを好きだと？」
「どうでしょう。それを確かめるためにも抱きたいってのが正しいと思います。だから、女の代わりでもないし、曹操殿でないと意味がないんです」
「恋愛感情抜きで男を抱けるというのか」
「曹操殿なら平気な気がして。実際、いま口付けても甘いだけでしたよ？　大体にして、男なんてそういうものじゃありませんか」
「そうかもしれぬが」
「味見の続き、してもいいですよね」
　条件を呑む、と宣言したのだ。初めから曹操に異論はなかったのだが、どこまで本気なのか分からない劉備相手に翻弄されてばかりだ。何とか自分を取り戻そうと、構わん、とせいぜい厳(いかめ)しく促した。
「どうも」
　軽く返した劉備は、今度は舌を差し込む深い口寄せを施してきた。舌を絡めとられて、じん、と口腔は痺れる。くちくち、と音を立てながら舌は上顎をなぞり、舌をこすり、吸う。頬を挟む劉備の両手に仰向かされて、唇はさらに深く重なり合った。
　施される口付けに、曹操の余裕は長く続かなかった。鼻からは湿った息がこぼれて、頬の上気はますます濃くなる。指が耳を撫で、首筋や後れ毛をなぞり始めれば、身体の芯に火が灯ったのが分かった。
　くすぐったがりであり、燃え上がりやすい体質だというのは重々承知していたが、男相手でも変わらないことが意外でもあり、相手が劉備だからだろうか。悔しくもあった。
　やり返してやろうか、と劉備の衣服に手をかければ、しっかりとした筋肉が手のひらに返り、不覚にもどきり、とした。改めて、男に抱かれているのだ、と意識したせいもある。
「脱がしてくれるのですか？」
　唇が離れて、劉備が言う。嬉しそうな口元が腹立たしく、誰が、と返した。
「じゃあ、私は曹操殿を脱がします」
　嫌だ、という暇もない。元々先ほど暴れたせいで帯はずれていたし胸元もだいぶ肌蹴てはいたが、劉備の手際の良さは目を見張るものがある。
「よく言われます」
　指摘すれば、しれっと答えた劉備は、悪戯坊主のような顔付きだ。気が変わらないうちにね、逃げ場を封じてしまうんですよ、とまるで悪役のような台詞まで吐く。
「本当にお主は、世間と劉玄徳という男の本質にギャップがありすぎじゃ」
「あ、萌えどころですか？」
「呆れておるのだ」
　肌に劉備の手が這う。胸筋をほぐすように揉み、先ほどはくすぐることでしか触れてこなかった脇腹を撫でれば、その手つきが真っ直ぐなせいか心地よい。散々にくすぐられて身体がほぐれていたせいだろうか。
「……ん、は」
　感じ入っている声が漏れた。
「イヤらしい声を出しますね」
「そういうことをしているからだろう」
　わざわざ指摘されたことで湧いてしまった照れを隠すために、不機嫌さを装う。
「もっと聞きたいなあ」
「努力しろ」
「そうします」
　胸を揉んでいた手が、そろり、と小さな頂きへと近付いた。微かに咽が上下した。胸で自分が感じられることを、曹操は知っていた。とにかく全身の感度が高いせいで、ただの胸の飾りのはずのそれも、曹操にとっては鋭敏な箇所だった。
　息を呑んだ。
　指が胸のまだ柔らかな頂きを転がした。じわり、と悦が広がった。続けて転がされれば、きゅっと立ち上がっていく頂きを感じた。声は漏れないが、指が撫でるたびに肩や腰が震えるのだけは止められない。
　劉備にも、胸で曹操が感じていることは分かるのだろう。唇や空いている手を使って胸以外も愛撫をしてくるが、明らかに固くしこった胸をいじって楽しんでいる。
「ぁ、ん」
　散々指で撫で回されて赤くなった突起を強く吸われて、甘噛まれた。胸を反らして声を上げる。
「本当に、曹操殿は甘いですね」
「知るか！」
「舌があまりの甘さに爛れそうですよ」
　つ、と舌が胸の合い間を通り、下腹へ伝う。熱を集め始めていた下肢に、衣の上から口付けられた。
「……っう、ん」
　昂ぶっている身体には十分な刺激だ。仰け反れば、ごりっと硬い床に後頭部がこすれる音がした。布の上から歯を立てられ、唇で挟まれて扱かれれば、腰が熱く溶けるようだ。
「ん、んっ……は、ぁ」
　沓先の中で指が丸まる。下肢から与えられる悦楽は、あっさりと曹操を飲み込んで夢中にさせた。元から与えられる感覚には素直なほうで、抱く抱かれるの違いはあれども房事は好きだった。
　手を伸ばして、自分の下肢を食んでいる男の背中を掴む。衣を引き、気持ちいい、と訴えれば、劉備はさらに愛撫を強くしてくれた。
　腰がびくびくと震える。恐らく、すでに下穿きは濡れているだろう。
「は、もう……劉備っ」
　いいですよ、と劉備は促し、手を伸ばして胸をまさぐった。それを合図に精を吐き出した。
「く、あ……あぁ」
　濡れた声を上げて達する。生温かい感触が下穿きの中に広がるが、気持ち悪い、と思う前に脱がされた。
　吐精したばかりで力の入らない身体を劉備に抱きかかえられた。運ばれて、長椅子に上半身だけ預け、腰を劉備へ差し出す格好になる。そのまま息を整えている間に、劉備は何か滑りの良くなる物、ありませんか、と尋ねてきた。
　何に使うかなど聞くまでもないだろう。戸棚に軟膏があったはずだ、とためらわずに答えたのは、我に返る時間が欲しくなかったせいだ。
　尻たぶを掴まれて、秘奥を広げられると、羞恥に襲われて身体が震えそうになる。長椅子の布地を掻くようにして、拳を握り耐えた。
　軟膏が入った瓶を開ける音がする。ぬるりとした感触の指が秘奥に宛がわれて、小さな悲鳴が上がりそうになった。何とか噛み殺したが身体は硬くなる。揉むように撫でる指の動きにますます力が入る。
「……ひゃ」
　劉備が耳殻を噛んだ。驚いて妙な声を上げてしまうが、力は緩んだらしい。ほぐすような動きを繰り返していた指が、つぷり、と中にもぐった。息が詰まる。眉間に力が籠もるのが自分でも分かった。
　噛んでいた歯が耳朶に滑る。舌が這い回り、耳孔に差し込まれれば、ぞくぞくっと悦が駆けた。
　指がさらに奥まで突き刺さった。驚いた拍子に秘奥を絞ったのだろう。劉備が笑いの滲んだ声を漏らす。
「私の指が美味しいですか？」
「美味いとか、そういう……ひ、動かす、な」
　指が中をぐるり、と掻き混ぜた。痛みは少ないのだが、とにかく他人の指がありえないところにある、という時点で鳥肌が立ちそうだ。
「本当に、曹操殿は抱かれたことないんですね」
「あ、たりまえ……だ。誰が女の、代わりに……」
「中には、代わりのつもりではなかった人も居たと思いますけど」
「わし、は男、だ」
「知ってますよ。こんなに立派なもの、付いてますもの」
　萎えた下肢を劉備の指が撫でていく。びくり、と腰が震えた。途端、中にある指が何かに触れたらしく、声が弾けた。
「あ、ここですか」
「な……あ、あっ」
　偶然に当たったらしい指の先が、今度は意志を持って当ててきた。目の前がぐしゃり、と歪んで景色として意味を失う。やけに高く甘ったるい声が耳に届いてきて、それが自分の声だと気付くのに、だいぶかかった。
「りゅ、びっ……ん、んん、ぁあ」
　額を長椅子に擦り付け、嫌だ、と左右に振る。頭の中が悦で一杯になる。悦を生み出す源だけでなく、掻き混ぜる指の動きにさえ悦を覚え始めた。深いところを乱され、指が浅いところをまさぐれば苦しいような切なさを感じる。
「指だけで結構感じるなんて、曹操殿の普段の端然さからは信じられませんけど、実にそそられます」
　指は執拗に曹操の中を探り続ける。指が増え、痛みなど当に無くなっている。萎えていた下肢が熱く、雫を垂らしたのが目の端に映った。
「これも、ギャップ萌え、というやつか？」
　息を乱しながら劉備を見やれば、何がです、とばかりにその首が傾げられた。
「人の良さそうな顔をしておいて、このようなねばっこい交わりをしてくる、お主のこれだ」
「そうですねえ、顔に似合わず凄いのね、と言われることは良くありますよ」
　劉備は余裕らしく、わざとだろう。曹操に向けることのない穏やかな笑みを浮かべてみせて、それでいて指は執拗に鋭敏な箇所をこね回す。
　わざとだと分かっていても、曹操の腰のあたりはぞくり、と疼く。『あの』劉皇叔が自分を抱き、興じているという奇妙な罪悪感と高揚感が身を包むがためだった。
「ああ、中が締まりましたよ？　今の良かったですか」
「いちいち、言う……な、ぅあ……っあ」
　中を掻き混ぜている二本の指が交互に悦を撫でていったので、曹操は背を反らして悶える。
「ひくひくして、もっと大きいのが欲しいって言ってます」
「言っておら、ん、く……ふ」
　そうですか、と笑いを含んだ声とともに、臀部に熱く硬い物がこすり付けられた。
「高貴な劉皇叔殿の一物をこうまでさせている曹操殿の淫らさ、分かりますか？」
「じ、自分で高貴、とか言ってれば、世話ないわ……」
　しかし、身体はこの先に待ち受けているさらなる快感を想像したらしく、自分でもはっきり分かるほど劉備の指を締め付けた。
「欲しいですよね？　目をウルウルさせて上目遣いに『欲しいのだ、劉備』とか言ってくれたらもう、最高に嬉しいんですけど」
「あほか！」
「ネコ萌え属性は生憎と持っていないので、語尾に『にゃ』とか付けなくてもいいですから」
「誰が付けるか！」
「ほら、曹操殿ってば」
「……」
　捻っていた首を戻して、俯く。曹操殿？　と先を促す劉備の声が憎らしい。息を小さく吸い込んで整えた。笑みを浮かべて見下ろしている劉備を、首を捻って睨む。
「わしが、劉玄徳を喰らってやるのだ」
　なるほど、と楽しそうに劉備の目が細められた。
「私が捕食される側ですか」
「味見は十分したであろうが。今度はわしがお主を味わってやる」
「それはまた、私をそそらせる言葉ですね。まったく曹操殿は人を煽るのが得意だ」
　知るか、という反論は、身を割った劉備の切っ先で悲鳴に変わった。いや、想像よりは痛みが少なかったので、苦痛のせいというよりは、熱さと質量に驚いただけだ。さらに切っ先は曹操を割り、一杯に押し広げる。
「……っほら、先が入りましたから、後は簡単です」
　頭の上から劉備の声が聞こえた。曹操は震える指先を咥え込むように噛むと、小さく頷いた。声が上がりそうだ。悲鳴ではなく、ただ感じ入ったひどくイヤらしい声だ。
　ずりずりと中を割っていく熱さに眩暈がする。下肢が張り詰めてまた先走りを床にこぼした。劉備の形を確かめるように、秘奥は知らずに締め付けて、さらに曹操を感じさせる。もちろんそれは劉備も同じようで、時々動きが止まるのは、恐らく競り上がってくる吐精を堪えているせいだろう。
「曹操殿、締め付けすぎですよ」
　上ずった声もその証拠だ。
　だが、曹操に返す余裕は残っていない。身体の奥を切っ先が押し広げている感覚に瞑った目の奥が明滅していた。切っ先が深奥(しんおう)を軽く抉った。
「あぁ――」
　噛んでいた指が外れて喘いだ。ゆっくりだが、それゆえにはっきりと感じ取れる劉備の形が、自分の中を拓いていくのが分かる。そして、それを悦ぶかのように収縮する中の様子さえも感じられた。
　凄い、吸い付き、と劉備がからかっているのか本気なのか理解に苦しむ言葉で曹操の羞恥と興奮を煽る。
　ねえ、曹操殿、と中を愉しむように腰を揺らめかせていた劉備が身を屈めて、耳の傍に唇を寄せた。
　なんだ、と悦楽で薄ぼんやりする頭で、劉備のぼそぼそと呟いた言葉に耳を傾けた。
「これだけは言いたくなかったんですけど、貴方の好きにすればいいんです。確かに人心は大事だ。だけど、いくらでも後から付いてくるんです。気にするのは弱いから。恨まれようが何を思われようが、力でねじ伏せてしまえばいいんです。黙らせればいい。そうして事を成したとき、どうだ、と胸を張れば、人は勝手についてきます」
「そう、だろうか？」
「悔しいですが貴方にはそれが出来る」
　そうか、とだけ返したが、口元が綻んでいる自覚はあった。
「さて、おしゃべりと、私からの出血大サービスは終わりましたよ。あとは、覚悟、よろしいですか？」
「ん、せいぜい、善くしろ」
「はは、曹操殿らしくなった」
　劉備の唇が髪の中に落ち、腰を掴まれた。
　それだけで、これから先に訪れる快感の大きさに期待し、ぞくり、と肌が粟立った。
　最奥をずん、と強く突かれた。声が弾ける。突いた激しさと打って変わり、引くときは中の悦をこそぐように抜かれ、弾けた声は震えて尾を引く。
　ほんと、イヤらしい声、と劉備の快感に歪んだ声が耳を打った。その言葉にさえ、すべてが鋭敏になった曹操には刺激となり、劉備を喰い締める。
「は、んっ……曹操、殿ってば」
　嬉しそうな劉備の声に煽られる。
「も、っとじゃ……りゅ、び……っ」
　喰い尽してやる、と言った言葉を本当にするように、曹操はひたすら劉備の与える快感をむさぼっていった。
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