「めかくし鬼 4」 劉備×曹操 |
劉備は自分が同じベクトル(想い)で相手を欲したのなら、相手からも同じだけのベクトル(想い)で返して欲しいのだ。同じ量で返してくれない相手には興味を示さない。それを本能に近いところで嗅ぎ分けている。 恐らく、曹操に同じ量(想い)を感じ取って言い出したのに、予想が外れて苛立っているのだ。 「わしがお主に求めているものは、たぶんお主と少し違う。第一、相手に同じだけのものを求めるなど、子供のすることだ。人は千差万別、想いの量も違えば才覚も違うし目指しているものも違う。簡単な話だ」 「では、貴方はどうして人が違うものだ、と分かっているのに、自分の容姿に劣等感を抱いているのですか」 己の胸裏を暴かれて劉備は動揺するかと思いきや、存外冷静で、それどころか曹操のもっとも痛いところをついてきた。 「お主に分かるか。どのように才能を見せようとも、最後には体格を貶されて終いだ。才能に容姿も品性も関係あるか! どうしてこんな単純なことが誰も分からぬのだ。容姿が優れていれば人格者だ、などと世の価値観が間違っている!」 この時代、曹操の言い分が奇異であり、容姿をもっとも優先とする考えが当然とされていた。劉備とて、自分の人より大きい耳や長い腕など自慢の種であり、曹操のように体格や容貌で蔑まれたことはなかった。 曹操は子供のころから外貌の不利をなんとか払拭しようと武芸、勉学、誌や文などあらゆることを探求して、どの分野でも抜きん出た才能を発揮した。もちろん見返したいという思いだけで成せることではなく、曹操の単純なる、各方面への類まれなる好奇心もあったからだ。 「私は、貴方の小さい身体も小作りの顔も好きです。貴方の中には体躯に収まりきらない大きな想いが包括されている。だから貴方を小さいなどと本気で言う人間は、貴方を何も分かっていない。そんな輩の言葉ですら貴方は傷付いてしまうのですか? 気にする必要などないではありませんか」 「お主こそ、小さい小さい、と何度もわしに言うではないか。あれは何だ!」 「ですから、小さいのですよ。貴方のその想いを収めておくには貴方の身体はとても小さい。不釣合いなほどに小さい」 すうっと劉備の手が曹操の頭を撫で、頬を撫で、肩や胸、腰や脚を撫で下ろしていく。もう、冷ややかな雰囲気は失せていた。 「ねえ、曹操殿。貴方を抱いてもいいですか」 息を呑む。にこにこと、阿呆みたいな顔で笑っている劉備を見上げて「本気か」と聞き返した。 「本気ですよ。だって、先ほどの足の裏を触られて必死で耐えている曹操殿、すごく可愛かった」 「可愛いと言うな!」 「私ね、人から私らしくない、と言われるの大嫌いなんです」 唐突に話題が変わる。 「結構、心が広いんですよ? 腹立つことを我慢したりしませんけども、腹に据えかねることなど、あまりありません。だから時々、あいつ阿呆みたいに笑っているが、おかしいのか、と良く言われますけども。そんな私でも、唯一、これを言われると駄目ですね」 劉備らしくない。 兄者らしくない。 お主らしくない。 「私らしくないってなんですか? お前は私の何を知っているって言うんだ。私が私であることを決めるのは、唯一私自身であるはずだ。それを他人に決められることに、とても腹が立つ」 だから、曹操が劉備に「らしくない」と言ったときに雰囲気が変わったのだ。 「私にとっての禁句がこれなら、曹操殿にとっては体躯のことなのでしょうか。小さい、と言われることで自分を否定される気になるというのなら、確かにどうしようもない」 でもね、と言いながら劉備は自然に曹操の唇を軽く吸った。あまりにも自然すぎて曹操は抵抗を忘れていた。 「小さいのに、それを物ともせずに生き抜いている貴方を綺麗だと思うし、貴方が嫌っているらしい身体を抱きたい、と思うほど好きだし、見た目もひっくるめて貴方だと思っていますよ」 今度は深く唇が合わさった。頬を掌に包まれて持ち上げられて、唇はなお深く重なった。薄っすらと唇を開き、思わず舌を迎え入れる体勢を作ってしまうが、劉備は唇を離した。 「抵抗なさらないのですね。それは了承、ということでよろしいですか」 間近で覗き込まれて、視線を逸らせない。 「劉備よ。お主、人の良さそうな顔をして、相当遊んでおるだろう」 「あ、分かります?」 詫びれた様子もなく答える劉備に、曹操は軽く睨み付ける。 「手慣れすぎだぞ」 突然口吻を寄せられて嫌悪感を抱かせないなどと、簡単にできることではない。 「だから、本気で嫌だって思う相手は、分かるつもりです。曹操殿は本気で私を拒んでいないでしょう?」 憎たらしい、とはこのことか。 「そんなにわしは分かりやすいか」 「いいえ。どちらかといえば、私にはさっぱり理解できない難しいことを小さな頭の中で考えていて、怒ってみたり笑ってみたりと忙しくて、付いていくのが大変です。でも、もう一歩だけ貴方に踏み込めば、結構そうでもないって気付いたんです」 とっつき難い表面に惑わされないで、曹操の瞳の奥を覗けば思わぬほどの素直さや人間臭さが広がっていた。 劉備は言った。 「だから、見ていて飽きないんです」 調子の良い男の、たぶん今のが本音だろう。曹操の目とて節穴ではない。ならば曹操も正直に答えるべきだ。 「わしの見た目も含めてわし自身だ、などと言ったのはお主が初めてだ。それは……嬉しいと思う」 「おや、私が初めてとは少し意外ですね。てっきり従兄弟殿たちや貴方を慕う人たちの中には居たと思うのですが」 「誰も、言わなんだ」 「それはきっと曹操殿がいけない。貴方が外見のことを話題にされるのを毛嫌いしていることを強く主張しすぎてきたのですよ。だから誰もそこに触れなくなった」 あっさりと曹操の内面に踏み込んで、貴方が悪いと指摘する。まったく憎たらしい。 「私に抱かれれば、少しは変わりますよ」 「調子の良いことを言うな」 「そういう男ですから」 劉備の手が帯にかかる。咄嗟に、その手を押さえた。嫌だ、と拒絶する。人前で、同じ男の前で裸になることは自分の体格の惨めさを比較してしまうことになり、嫌いだった。 劉備はすぐに曹操の拒絶の意味を悟ったらしい。じゃあこうしましょう、と抜き取った帯で曹操の目を覆った。 「何を……」 咄嗟に取り払おうとするが、劉備に阻まれる。 「相手が見えなければ、比較することもありませんから」 「だが、お主には見られる」 「言ったでしょう。私は貴方の見た目も含めて好きなんだと。だから貴方の全てを見たいのです」 「本当に調子の良いことばかり言う」 「取り柄です」 思わず吹き出す。いつの間にかもぐり込まれた胸裏に、巣食った惨めな思いは解きほぐされていく おかしな奴だ、とまた思う。 「そうか、それはわしも見抜けなかった才覚だな」 クスクスと笑う曹操に、また口付けが降った。柔らかい唇を受け止めて、曹操は劉備の首に腕を絡げる。再び唇を薄く開くと、今度こそ舌が挿し込まれた。 絡み合う舌は甘美であった。音を立てて触れ合う舌に感じ入りながら、脱がされていく感覚から意識を逸らす。耐え難い羞恥から目を背けたいのに、視覚が閉ざされているせいか、肌を滑る衣をより意識してしまった。 「……っん、劉備……っ」 口付けから逃れ、訴える。 「これは、逆効果ではないのか?」 「そうですか?」 とぼけた口調になる劉備に、もしかしてめかくしはただの趣向だったのではないか、と疑う。劉備、と言おうとした口をまた塞がれた。 視覚以外の五感を研ぎ澄まされた曹操の身体は、普段から敏感であるのに、なお鋭くなったようで、簡単に劉備が与える悦に組してしまう。手に指が絡げられて、敷き布へ押し付けられた。 唇が離れていき、劉備が僅かに身を起こしたのが伝わる。 「小さくて可愛らしいですよ」 また小さいと言う、とかっとなって言い返そうとするが、胸に生暖かいものが触れてきて、声を上げた。舌だとすぐ分かったが、舌先で転がされて悶えた。 どうやら小さくて可愛い、といったのは胸の飾りだったらしく、どちらにせよ腹立たしいことには変わりはない。くすぐったい舌から逃れようと身をよじるが、押さえ付けられた手のせいで上手くいかなかった。 女にするように何度も突起を吸われて転がされるうち、くすぐったさが少しずつ変化していく。 「ん、ぅん……ぁ」 薄い胸を反らすように、劉備の舌へ突起を押し付けていた。気持ち良くなっていることが伝わったのか、指に絡んでいた手が外れて、舌で愛撫されていない突起にも伸ばされた。 きつく摘み上げられて、指の間で揉まれれば、覆われためかくしの下で眉根が寄る。じんじんと痺れるような甘さが劉備の指先から与えられた。 両の飾りだけ神経が剥き出しになったかのように、劉備の舌と指先に翻弄される。知らずに吐く息は濡れてきて、感じていることの分かる声を時折漏らしていた。劉備は執拗に胸を責めたあと、ようやく離れた。 まだ痺れたような感覚が残っている胸にぼんやりとしていた曹操だが、不意に下穿きを取られて慌てる。見えないせいか、相手の行動が何もかも唐突に感じる。 「劉備っ、駄目だ、返せ!」 見えないながらも見当を付けて手を振り回すが、やはり容易く避けられているらしく、当たる気配はない。これで曹操は一糸まとわぬ姿を劉備に晒していることになる。隠したいところだらけの曹操は、掛け布で全身を覆おうとして掴むが、再び両手を押さえ付けられた。 「隠さなくともいいんです。貴方のどこを取っても人より劣るところなどありはしない」 耳に口付けられ、首を竦める。首に、肩に、戻って唇に、そして胸や臍など無造作に唇は降ってくる。そのたびに曹操はびくり、と身体を跳ねさせ、触覚は次に劉備がどこへ来るのかひたすら鋭く磨がれ、さらに曹操の感度を高めていた。 捕らえられていた手が持ち上げられ、指先が口腔に含まれた。舌でなぶられて、ぞくり、と悦を覚える。その手が劉備の手で導かれ、自分の下肢へと伸ばされた。 「何を……っ」 「もう、こんなに熱を持っている。曹操殿の身体は感じやすいですね」 反射的に引こうとした手ごと、劉備は曹操の下肢を掌に包んだ。ぴくん、と指先に自分の下肢が反応した様が伝わる。 羞恥が湧き起こる。顔が熱くなり、嫌だ、と首を横へ振ったが、劉備は構わずに曹操の指ごと下肢を扱き始めた。まるで浅ましい、己の醜さを露呈させるかのような、快感に従順な下肢に、曹操は眦に涙が浮かぶ。幸いにもすぐにめかくしの布へ吸われたが、震える身体だけは抑えられなかった。 「ぁ……あ、んっ……劉備っ」 やめろ、と言うが、男の手は止まらず、先端から溢れ始めた雫を絡ませながら熱心に下肢を刺激してくる。指の濡れる感覚が際立ち、競り上がる解放感に咽が鳴った。 つま先で牀台を蹴り、必死で吐精感を堪えたが、長くは持たなかった。 「く、ぅん……っっ」 びくり、と背を反らして、自分の指と劉備の指を汚しながら、欲を吐き出した。生暖かいどろり、とした感触を受け止めた指に屈辱すら覚える。 荒く息を吐きながら、ぐったりと牀台へ身を預ける。恥辱と怒りで持病の頭痛が起きそうだった。しかし劉備はそれだけでは満足しなかったらしく、欲に汚れた曹操の指を舐めてきた。 「やめろっ」 怒鳴って指を取り返したが、再び奪われて咥えられる。這い回る舌に、悦と屈辱を同時に覚えて奥歯を噛み締める。 「お主はわしをただ抱きたかっただけなのか」 体の良い理由を見つけて、その実は曹操を陵辱したかっただけなのではないのか。理解しかけた男の存在がまた遠くなっていく。 「どうして?」 指から口を離して、劉備は尋ねてきた。 「めかくしまでさせて、わしの羞恥を煽るようなことばかりして、こんな抱き方でわしが納得すると思うのか」 「めかくしは貴方に必要です。そして私にも必要だ」 「……?」 「貴方は見えすぎる。自分のことも、他人のことも。でも、めかくしをした貴方が頼るのは、私だけ。私のこの声や指だけが頼り。それが嬉しいのです。出来れば、ずっとそのままで居て欲しい」 「無茶を言う」 「そうでしょうか?」 低く笑う劉備は、見えないせいか何を考えているのかさっぱり分からない。そもそも勢いだけで生きているような男だ。次の瞬間には何をしだすか、きっと本人にすら分からないだろう。 「とにかく今は、大人しく抱かれてくださいよ。さっきから曹操殿、私を煽ってばかりいる」 腿に劉備の硬くなった雄身を押し付けられた。 「勝手な男だ」 「ああ、それも良く言われます」 人の心にずかずかと入り、そのくせぷいっと出て行ったかと思えば、また戻って掻き回していく。まったく厄介な男を招いたものだ。 劉備が衣を脱ぐ音を聞きながら、文句をつける。 「お主のおかげで虎痴を傷付けてしまった」 今度は本気で劉備のせいにはしなかった。それが伝わったのか、劉備もくすり、と笑った気配がして言った。 「大丈夫ですよ。許チョ殿は貴方が大好きですから」 「知っている」 「……曹操殿は、本当に私を煽るのがお好きなようだ」 曹操の許チョへの純粋な好意だとしても、抱こうとしている男の前で違う男を褒めれば、確かにそうかもしれない。 「お主が言ったのであろう」 「それでもです」 言うなり、大きく足を広げられ、秘奥へと指が這わされた。息を詰めたところを口付けられて、宥めるように舌を吸われて全身から力が抜ける。つぷり、と指がもぐり込んだ。まるで劉備が得意としている、するり、といつの間にか胸裏に忍び込まれるかのように、あっさりと侵入された。 唇の下でくぐもった抗議を上げるが、指は構わずに奥へと這っていく。異物感と痛みでびくびくと身体が跳ねた。唇が離れ、掠れた呼気が漏れた。腕を振り回して、抜け、と暴れるが、両手首を拘束されて頭上に縫いとめられた。 「大人しく。すぐ 許チョ殿といえども聞かれたくないでしょう? この男ときたら、実は相当に意地が悪いのではないか、とようやく曹操は身に沁み始めた。 奥歯を一度強く噛み締めてから力を抜いた。こうなればさっさと終わりにしてもらうしかない。曹操にとっては屈辱的な時間であるのだ。めかくしの下できつく目を瞑った。 「駄目ですよ、曹操殿にも充分愉しんでもらいますから」 だのに曹操の覚悟を見透かしたように、劉備は指で内膜を掻き乱し、悦を暴き出す。 「ひっ……あっ、ん」 指で突かれて内側から襲ってきた法悦に曹操は声を上げる。ぐりぐりと容赦なく指は悦をこすり上げ、曹操の覚悟を削り取っていく。 「凄く感じてる。乳首も 逐一と報告する劉備の言葉に、観察されている身体を意識してふるふると首を左右に振った。それでも内側を指で撫でられれば仰け反って悶えてしまう。下肢の先端から溢れる雫にすら反応して、身体は熱くなる一方だ。 「やめっ……いやだ……ぁ、あ」 勝手に涙が浮かんで、布に滲み込んでいく。 増えた指に奥を突き込まれ、我を忘れて啼く。曹操殿、声、と言われて唇を噛み締めて堪えようとするが、すぐに劉備の指に翻弄される。嗚咽のように喘ぎ、奥がじくじくと膿んでいるかのように、それにしては甘すぎる疼きで支配される。 「りゅ、びっ……」 「大丈夫ですよ、今、満たしてあげます」 指が引き抜かれ、喪失感に嘆息をこぼす間もなく、劉備の雄身らしき熱く硬いものが秘奥へ押し当てられ、埋められた。 「――っあ、あ」 圧倒的な質量に身体が勝手にずり上がろうとするが、両手首を拘束されたままの状態ではそれもままならず、劉備の雄身が体内を割るのに任せるしかなかった。 全てが埋め込まれ、曹操は異物感に歯が鳴りそうになって強く顎を締めた。 「曹操殿、分かりますか。貴方の中で私が脈打っている。貴方の身体に欲情してこうなっているんです」 ゆさっと軽く揺すられて、悲鳴に似た声が上がるが、劉備の言葉になぜかぞくっと官能を覚えた。 「貴方の身体はみすぼらしくも何ともない。人を魅了するのに充分だ」 また揺すられる。きゅうっと劉備を締め付けたらしく、どくり、と中でさらに雄身が育ったのが分かった。ずぐっと今度ははっきりと曹操自身も欲情を覚えた。 「劉備……」 「はい」 「抱き締めろ」 言われるままに劉備の腕が曹操を抱いた。長い腕が曹操を包み、暖かい肌と肌が触れ合う。高鳴っている心臓の音が重なり合い、人と交わっていることを実感した。 「わしが欲しいのか」 「ええ」 耳元での短い返事だったが、曹操の長年しこっていた塊が少しだけ柔らかくなった気がした。 手を伸ばして、劉備の頬を手探りで見つけ出し包んで、唇を寄せた。 「わしもだ」 耳元で囁いた。途端、さらに劉備の雄身は育ち、正直な奴め、とからかえば、嘘は言わない、と言ったでしょう、と返してきた。 硬い雄身は曹操の中をゆるゆると掻き回し始めた。徐々に滑らかになるにつれ、その動きは大きくなる。 「っぁう……ぁ、あ……ぅん」 違和感や痛みは薄れ、ただ内を乱される感覚に煽られていく。視覚以外の全ての感覚が劉備の全てを受け止めていた。時折降ってくる唇の味や、漂う匂い、荒い息遣いと皮膚を滑る手が曹操を昂ぶらせる。 一つ一つが曹操を求めていることが分かる。 余計なものが見えないだけでこれほどに相手の想いが伝わるものなのか、と劣情に支配されながらもぼんやり思う。 奥を突き上げられて、嬌声が上がる。劉備、と呼んで背に腕を回す。同じように回された腕に、貴方が欲しい、と無言の想いが乗っていた。 お互いの腹にこすられて濡れそぼっていた下肢がひくひくと震えている。内膜の悦楽を撫でられて、劉備の背に爪を立てた。 曹操の中に劉備の欲が注がれて、お互いの腹を濡らして曹操が果てたのは、しばらく後だった。 |
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