「秋空、蜻蛉 4」 劉備×曹操 |
人払いは賈クがしていたのだろう。見張りとしてつけていた衛兵の姿は小屋の近くにはなかった。 人が訪れたことを示すように、牢の中には燭皿が一つ、ぽつんと置かれている。その向こうに、何やら楽しげにしている劉備がいたので、曹操はじろり、と睨んだ。 「先ほどは、わしの臣をずいぶんと苛めてくれたようだな」 「心外ですね。むしろ苛められたのはわたしです。命まで狙われかけましたから」 縛られながらも器用に肩を竦める劉備の前に、どかっと腰を下ろす。 「もう一度だけ、話をしに来た」 膝を詰めるのに邪魔な燭皿を脇に押しやって、曹操は劉備との距離を縮めた。 「お主の本当の目的はなんだ。どうして逃げられるはずの追討に、自ら現れた。わしの覇道をともに歩む気がないのだとしたら、なぜだ」 「曹操殿はどうしてだと思いますか」 変わらず、劉備は答えを提示する気はないらしい。張り付いたような笑みも変わらない。 幕舎で交わした問答が繰り返されそうになるが、夏侯惇が言った言葉が蘇る。 『お前のしたいようにしろ。俺はいつもそれに従ってきた。孟徳、お前がどんな道を選ぼうとも、俺はお前についていく。どれだけお前が嫌がろうともな』 「お主の道はお主だけの道だ。お主のしたいようにした結果が、これだった。そうだろう。そんなことをしても、お主には付いていこうとする者が大勢いる。ただ、それだけでは足りなかった」 軽く、劉備の目が見開かれた。 「わしもそうだ。わしもお主も、どれほど貪欲なのであろうな。これだけ愛する者に囲まれているのに、足りない、と思ってしまうわが心が恨めしいの」 賈クのこともそうだ。賈クが胸底に深い傷を負っていることを曹操は知っていた。幾度か触れてみようと試みたこともあるが、上手くいかなかった。それが、この男がたった一度の邂逅でやってのけた。 そんな劉備だからこそ、曹操は求めてしまうのだ。 「お主はやはりわしと同じ景色を目指しはせぬか。同じ景色を見ることはかなわないか」 「はい」 苦さは変わらず込み上げて、しかし今度はどこか心地良かった。 「お主はお主、わしはわし、か」 「覚えておられましたか」 張り付いたような笑みが、ふっと綻んだ。たぶん、それが劉備の本当の笑みだ。 「お主は長く戦から離れていた。それでも、描く景色を忘れなかったのか」 「はい」 答えた後、いいえ、と小さく首を横に振った。 「少し嘘です。平時というのは人を穏やかにさせる。つかの間、忘れたこともありました。だからでしょうか。わたしは無性にあなたに逢いたくなった」 男の瞳にある湖底でぎらり、と光った玉が見えた。光に飲まれそうになるのを、腹に力を込めて踏みとどまった。 「それが、わしの前に姿を現した、本当の理由か」 「そうです」 胸の内に残った苦味が流れていく。 「嬉しいな」 笑んだ。劉備の双眼に宿った玉がさらに煌めいた。 「わしも、同じだった。即座に切り捨てなかったのは、お主に逢いたかったからだ」 劉備の正直に晒された胸裏を聞いて、曹操も心にかかっていた霧が晴れるようだった。 「わしは逆に、戦続きだった。来る年も来る年も。そうしているとな、時折ふっと、わしは何のために戦をしているのか分からなくなる。そんなときに、いつもお主の姿を思い出していた。そうだ、お主が目指す天とわしの目指す天がどれほど違うのか、知らしめるためでもあった、とな」 劉備は黙って聞いている。 「お主が地を這う鼠だろうと、空を飛ぶちっぽけな虫だろうとも、わしは追いかけた。捕らえたくなって手を伸ばした。それだけだ」 掌の中にいるのがつかの間だと理解していても、捕らえられずにはいられなかった。もう一度、言葉を交わしたかった。 変わらないでいる男の意志を確認せずにはいられなかった。 「曹操殿」 呼ばれて、曹操は首を傾げる。 「抱かせてはくれませんか」 突然の言葉に、曹操は頬が熱くなるのが分かった。 「何を突然言い出すのだ、お主は!」 「逢いたかった相手が、自分もだ、と言ってくれたのですよ? 嬉しいじゃありませんか」 あくまで劉備は真顔だ。 「だからといって、わしとお主はそんな仲ではないだろうが!」 「でも、初めてではありません」 「そ、それはそうかも知れぬが」 まだ、劉備が許都に身を置いていたころ、曹操の誘う宴を度々断るので、今度断ったら、わしを抱け、と無茶な交換条件を出したことがあった。どうして逆のこと――劉備を抱く――と言わなかったかといえば、劉備ならば「じゃあどうぞ」と言いかねない、己の身に無頓着なところがあったからだ。 そうしたらどうだ。あっさりといつも通りに断って、曹操を約束ですから、と抱きにきた。 どうも後から考えると劉備の策略だったような気がしてならないのだが、結局思ったより悪くなかったものだから、幾度か肌を重ねる機会は続いたのだった。 「あれは、ただの惰性だろうが。改めて今になって抱くの抱かないの、という関係か!」 「ですが、あなたを抱きたくなりました」 言うなり、後ろ手に縛られていたはずの劉備の腕がにゅっと伸び、曹操を抱き寄せた。 「なっ、お主どうや……っんん」 驚きは劉備の口に塞がれた。 性急に唇を舌でこじ開けられて、強引に舌が絡み付いてきた。抵抗しようにも突然引き寄せられておかしな体勢になっているせいで、力が入りにくい。 「待て……っん、ふっ」 弄(なぶ)られる口腔内が蕩けそうなほど熱い。ぞくり、と背筋を駆けた感覚に、曹操は焦りを募らせる。 肩口の布を掴む指に力を込めて、何とか劉備から離れようとするが、長い劉備の腕は曹操の腰に巻き付いて離れない。後頭部に回された腕は僅かの隙間も許さないほど、二人を密着させた。 夜襲を警戒して寝衣には着替えていないが、鎧も着ていない簡素な平服だ。同じく鎧を脱がされて薄着の劉備の体温が布越しに曹操へ伝わるのは早い。 飢えるほど人肌が恋しい、と感じるほど若くはないが、枯れるほど年老いてもいない。 温もりを覚えるのは恋情に近い想いを抱いている男で、何度か身体も重ねている。抵抗する理由は乏しく、蹂躙する舌が甘い、と感じるほどには曹操は劉備の口付けに酔っていた。 啄ばむような口付けに変わり、上唇を柔らかく吸われれば、鼻から抜けた息は甘やかだ。 飲み込み損ねた唾液が顎を汚して鬚を濡らす。指で拭われて、いつの間にか劉備が顔を離していることに気付く。 「相変わらず、悦(よ)い顔をして口吻を受けるのですね」 囁かれた言葉に顔を熱くして、膝立ちになって劉備を押し退けようと腕を突っぱねる。 「お主はいったい何を考えている! このような真似をするためにわしに逢いに来たわけではなかろう!」 「案外、そうかもしれません」 「なっ……」 絶句する曹操は、あくまでも真顔を崩さない劉備を凝視して固まる。 「冗談です」 力が抜けた。 「ですが、あなたを抱きたい、と言ったことは本気だ」 さわっと、腰にあった手が臀部を撫で下ろすので、曹操はびくっと身体を跳ねさせた。 「お主、どうやって縄を」 ようやく、自分を取り戻しつつあった曹操は、ねめつけながら臀部を撫でる手を払う。 「言っていませんでしたか。わたし、縄抜けが出来るのですよ。玄人ほど上手くはないので、時間はかかりますが。あと少し曹操殿が来るのが遅かったら、全部解けたのですが」 説明する劉備は、まだ手の縄が解けただけで、胴体に巻きついている縄はほどけていない。もっとも、手の縄がほどけた時点で、時間の問題であっただろう。 「逃げるつもりだったのか」 「目的はほぼ達せられましたし」 あなたに逢えた。 微笑む劉備に、己の状態を思い出して身体を離そうとするが、また劉備の腕が巻き付いて阻止される。 「離せ」 「嫌です」 「目的を達したのなら用はないだろう。逃げるなら止めん」 「ほぼ、と言ったでしょう。あなたを抱ければ完全に目的を完遂したことになりますので、ご協力お願いします」 「誰が!」 「つれない言葉だ。第一、わたしを逃がしてよろしいのですか? またあなたに歯向かいますよ」 「構わん。今度は正面から叩き潰す」 「そうですか、それは少し残念だ。わたしとしては、こうして曹操殿をずっと悦ばせられるのなら、それもいいか、と少し考えていたのですが」 「嘘をつけ」 見え透いた劉備の嘘を一刀両断する。 「傷付きますね。少しぐらい信じてくれてもよろしいのでは?」 「お主の目がそうは言っていない」 男の双眸の奥深くに見える湖底で、玉は爛々と光っている。この玉がある限り、男は決して曹操の隣には立たないであろうし、立ったときは――玉を失ったときは、それはもう男ではないのだろうから。 「では、あなたを抱けるのもこれが最後、というわけですね」 急に真摯な光を帯びた眼(まなこ)を当てられて、曹操は咽の奥で抗う言葉を潰した。 「どうしても抱くのか」 「お嫌ですか?」 「……どうしてお主は肝心なことの答えを他人に任せようとする」 「あなたこそ、わたしに答えを求めて、自分の答えを探そうとするのはお止めください」 「素直ではないな」 「あなたこそ」 近距離でしばし睨み合う。折れたのは、劉備だった。 「……今回は譲りましょう。わたしが、あなたを抱きたいのです」 膝立ちの曹操にとって、劉備の顔は胸元あたりだ。抱き寄せられて胸元に顔を押し付けられれば、密着する面が多くなり、劉備の熱が曹操に伝わった。 帯が緩められて、袍の隙間から劉備の指が潜り込む。 素肌に直に触れてきた指に、知らずに唇から濡れた息がこぼれた。 「曹操殿も、わたしに抱かれたかったのでしょうに」 素直ではないですね。 吐息を聞いたからか、劉備が意地悪げな声音で言った。じろり、と睨んだが、抵抗はしなかった。 素肌を弄(まさぐる)る指先は脇腹や背をなぞりながら、胸の粒を目指してきた。指の腹が粒を捉えて転がすと、息を詰めてその感触に耐えた。 じわり、と熱を持つ芯を意識する。 大きく袍を開かれて、肌を露わにされると、鳩尾をぬるっと舌が舐めた。はらり、と肌蹴た袍は肩と腕に引っ掛かっているだけだ。 鳩尾や臍を舐めた舌は、脇腹を舐めつつ時折強く吸い付いて痕を残していく。胸の粒は代わる代わる指技(しぎ)を施されて、じん、とした熱は身体の芯から滲み出て、じわじわと全身を侵していく。 薄い腹の肉を食まれて、痛みと悦が混じり合った。 臀部の片たぶを揉まれると、むず痒さが走って身をよじった。 太腿を撫で下ろされ、内股に手が伸びた。際どいところを何度もさすりながら往復していく手がもどかしく思える。 きゅっと臀部に力が入る。見越したように、胸の粒をきつく摘ままれて、短く声を漏らす。途端、内腿をさすっていた手が局部をするっと撫で上げた。 「っぁ、ぅん」 柔らかい痺れが腰骨を突いて、声を上げさせた。 下穿きの上から劉備の指が屹立を促すように形をなぞってくる。その直接の刺激は曹操を一気に昂ぶらせていく。 肩に置いていた手に力が籠もり、甘美な痺れが突き上げるたびにびくっと身体が揺れた。 背中に回された劉備の腕に力が入り、上体が傾くと、劉備の舌が曹操の胸を捉えた。 「……っひ、ぅ」 舌先で転がされると堪らない。頭に靄が立ち込めたようになり、悦楽を追いかけ始めてしまう。 声は殺せても忙しくなる息は隠せない。 たっぷりと唾液が絡んだ片方の粒から、まだ乾いている粒へと標的が移る。指は局部をさすり続け、淡いながらも悦を送り込んできている。 曹操は劉備の首を抱くようにして、首筋に顔をうずめた。 帯も解かれて下穿きをおろされると、劉備の指はしっかりと曹操の欲に絡み付いた。 硬くなり始めていた曹操の下肢は握り込まれたせいでひくん、と反応を示し、質量を増す。 根元から先端へと劉備の指が蠢(うごめ)くたびに、熱い息を吹きかけるように劉備の首元で喘いでしまう。劉備の舌がちろちろと粒を撫でてしゃぶり、合わせるように下肢の愛撫が熱心に行われるものだから、曹操の声は濡れていくだけになる。 「ぃ……ん、ぁ、りゅ、び……ぅう、ん」 屹立しきった粒を舌先が幾度も掠めれば、くっ、と曹操の背は反れる。 「耳元でそんなイイ声を出されると、抑えが効かなくなります」 興奮を押し殺した声で劉備が言い、曹操の腰を掴む。 「ちょっとだけ立っていてください」 半ば強引に立たされて、しかし足に上手く力の入らない曹操は、劉備を縛り付けてある柱に縋り付く。 するっと、足元まで下穿きが落ちていく。 緩く天を向いている曹操の下肢が、劉備の目の前に晒される。それを真下に見た曹操は、咄嗟に腰を引こうとしたが、劉備の腕が逆に引き寄せる。 「りゅ……っぁぁあ」 咥えられた。 いきなり根元近くまで口腔に呑まれたので、女の体内に己を埋めたときのような高揚感を味わわされた。 舌と窄めた口元で締め上げられ、びくびくっと腰が震えた。 「ぅ、あ、ぁ……ん、離、せ」 思わず心にもないことを口にする。 ぞくぞくと背筋を這い上がってくる愉悦の痺れに、頭が白くなる。すがり付いている柱を握る指先も、同じように白くなっているのが、ぼやけた視界に映っていた。 舌はそそり立つ下肢の裏や括れを舐めて、先端をえぐる。空いた手が、下肢の双果を転がして悦を加えてきた。 唾液を絡めて口淫しているせいか、結合にも等しい水音が立っていて、なお曹操を煽った。 小さく頭(かぶり)を振りつつ、身内の悦に悶える。 先走りなのか唾液なのか分からないもので濡れた先端を、指がするっと撫でた。 ぐいっと臀部を掴まれて、谷間を開かれる。劉備によっていつの間にか足が開かれている。 濡れた指先が谷間の奥、後孔へと伸ばされた。 「っ……っく、ん」 縁を撫でられて小さく喘ぐ。指は丹念に唾液と先走りを使って摩擦を減らそうとしている。そのおかげか、指が潜り込んだときには久しぶりだったわりに痛みは少なかった。 指が割り拓く痛みを軽減するためか、劉備は再び口腔に下肢を招く。 「や、ぅん……は、ぁ……んんー」 後ろを犯される痛みと、前を弄(もてあそ)ばれる悦が混じり合い、曹操はどちらかを感じるたびに身体を震わせる。 膝に力が入らない。 指は曹操の悦(よ)いところを知り尽くしていて、奥深くまで挿し込んだあとは、ゆるゆると拡げながらも一点を突くことを忘れない。 高い声が曹操の咽を震わせる。 後孔からの悦に腰骨が溶けそうだ。下腹に溜まっている熱がとぐろを巻いて、苦痛だか悦楽だかを曹操へ与える。 「ぃ、やっ……ぁ、あ、あ」 あられもなく声が漏れる。 前と後ろからの容赦のない愉悦に、曹操の眦が濡れていく。 ぐちぐちと、いつの間にか増えている指に激しく突かれて、びくびくと痙攣した。 「りゅ、び……っ、もぅ、あぁ」 曹操にとって永劫か、と思われた悦楽の波は、ふいに引き潮となり去っていく。 座り込みそうになる曹操を支えているのは、劉備の腕だけだ。 「曹操殿」 呼ばれて下を向く。拍子に、眦を濡らしていた雫が一筋だけ頬を伝わった。 「わたしはあなたを抱きたい、と言って譲ったのだから、これより先はあなたから来てください」 気が付くと、劉備の局部も露わにされていた。それを誇示するように劉備は己の先走りを曹操の後孔へ運んで塗り付けた。 どうやら、自ら劉備の上へ乗れ、と言うらしい。理性など溶けかけていた曹操だったが、意味を理解して叫んだ。 「馬鹿ものっ、何を言うのだ!」 「ですが、わたしは縛られて動けないのですから、曹操殿から来ていただかないとそもそもこれ以上は出来ません」 「それなら縄を解く」 手を伸ばした曹操を、劉備は捕らえて阻む。 「やはりあなたは卑怯だ。わたしにばかり求めさせて、自らは一向に求めてくれない。欲しい、と口にして、あなたから求めてくださればよろしいのです。それだけのことです」 「だが……」 逡巡する曹操へ劉備は言い募る。 「早くしないと、誰ぞ様子を見に来てしまうかもしれませんよ?」 どきり、とする。 外で夏侯惇を待たせていたことを思い出す。 大声で呼ばない限りは駆けつけないだろうが、あまりに遅くなれば当然様子を見に来るだろう。 そのときにこのありさまを見られでもしたらどうなるか。 落ち着かなくなった曹操の様子を見て、劉備も本当に誰かが来るかもしれないと察知したようだ。 「もしかして、誰かとともにここまで来ましたか?」 露わにされている胸の尖りを撫でられて、ひくりと咽を蠢かす。 「許チョ殿……いえ、違いますね。夏侯将軍でしょうか」 あの人は本当にあなたが大切なようですね。 低く笑う劉備を、きつく見下ろす。 「では、なおのことご決断を。もしかしたらもう扉のすぐそこまで来て、聞き耳を立てているかもしれませんよ」 そうしたら、あなたのあられもない声を聞かれてしまいますね。 「ぁ……あ……っ」 ぞくっと背筋を走った痺れはなんだったのか。屹立している下肢から、じわり、と雫が溢れた。 「急にどうなさったのです。まさか、ご自分の声を人に――夏侯将軍に聞かれたら、と思い、感じてしまったのですか?」 だとしたら、なんてイヤらしい人だ。 がくがくと膝が笑う。 滲み出た雫を劉備が舌で掬う。がくん、と膝から落ちた。支える劉備の手が、腰や脇を撫でて、肌の下で渦巻いている熱を煽る。 ぐいっと、抱き寄せられた。 肌蹴て露わになっている肌に密着した劉備の熱がじわりと沁みた。 「曹操殿、腰を持ち上げて」 耳朶の傍で低く劉備がしゃべる。んっ、と小さく呻いて力の入らなくなった身体を持ち上げる。 「わたしのこれが、欲しいのでしょう?」 眼下に晒されている劉備の隆立(りゅうりつ)している下肢に、小さく咽が上下する。 「ここに、欲しくはないのですか?」 散々にほぐされた後孔を、指がなぞって小さな刺激を送ってくる。 「んっ……ぁ」 じん、と奥が痺れた。前からまた、雫が溢れた。 ひくひくと、触られてもいないのに後孔が息づいた。ほら、手で添えて、と劉備に手を取られて下肢を握らされる。どくり、と手の中で劉備の下肢は脈打った。 「お主も、わしが欲しいのか」 素直な反応に、聞き返す。 「当たり前です。それだけ、あなたは魅力的なのですから」 笑った劉備に誘われるように、曹操は決意する。 「わしも、欲しい」 それは良かった、と劉備はまた笑う。 ゆっくりと息を吐き、添えた手に腰を下ろしていく。 硬い下肢に幾度か双丘の隙間を滑らせる。切っ先が後孔を掠めるたびに、期待を含んだ痺れが曹操の指先まで走る。すでに劉備も欲が溢れていて、ぬるり、とした感触が隙間を埋めて、滑りを良くする。 「ぁ、ん、ん……っふ、ぅ」 ゆらゆらと腰が揺れる。熱く硬い切っ先に早く奥まで突かれたい、という淫らな想いと、このもどかしいような悦楽をいつまでも感じていたい、という想いが曹操の中に溢れる。 しかし奥の痺れがじんじんと耐えがたいものになるにつれ、曹操の息は上がり、ぐちぐちと淫猥な音が双丘の隙間からこぼれる。 つぷり、と意識のないところで、潤滑の効いた切っ先と後孔がはまり込んだらしい。 焦がれるような想いだったその感触に、曹操はあっという間に囚われた。 自重の助けも借りて、身内に劉備を埋めていく。 「あ、あぁ、ぁっ……んん……」 割り開かれる感覚に声が上がる。一瞬、それだけで前が弾けそうな愉悦を覚えて急いで堪えた。 「もしかして、いま極めそうでした?」 動きの止まった曹操へ、劉備が訊いた。小さく頷くと、わたしもです、と返ってきて、ますます愉悦が強まった。 「もう少し、愉しみましょうか」 言って、劉備は曹操の根元を指できつく堰き止める。切ないまでのもどかしさが曹操を襲うが、促されて劉備を最奥まで招き入れた。 ひくり、と奥で蠢いた劉備の下肢に、濡れた吐息がこぼれる。 動いて、と劉備が耳元で囁く。反射的に睨むが、腰を軽く揺すられて、生まれた悦に耐える術はなかった。 硬い切っ先が内膜をこする感触にざわざわと背筋が粟立つ。腰を揺らめかせて悦の源に当たるように具合を測れば、夢中になる。 堰き止められている下肢の先端を、劉備の腹にこすりつければさらに昂ぶり、しかし訪れることのない極みに身悶える。 荒くなる息に、劉備の声が混じる。 「口を吸ってください」 言われるままに劉備の唇を吸って、舌を絡げて味わう。しかしそうするとどうしても貫かれているほうが緩慢になってしまう。それでも、上と下とが劉備で一杯になった。 苦しくなって唇を離そうとするが、劉備の腕が頭を抱えて拒んだ。そのまま腰を突き上げられて呻く。 「んん、んっ、ふぅっん……」 首を振って口付けから抜け出すと、劉備は首筋に顔を埋め、舌を這わせて下方へ進み、鮮やかに色を染めている粒を吸った。 甘やかな声が漏れる。軽く歯を立てられて、びくん、と下肢が震えて、小さく欲をこぼした。 一瞬ばかり達しかけたが、堰き止められていたせいで、完全には極めきれずに終わる。しかし今のでひどく身体は鋭敏になったらしく、劉備を咥えている後孔はきつく締まり、突き上げられるたびに先端からタラタラと雫が溢れた。 「も……ぉ、あ、ん……駄目、だっ……劉備っ」 咽ぶように劉備を呼ぶ。胸を吸っていた劉備の頭を抱えて、いつの間にか濡れていた頬をすり寄せて極みを求める。 「っ、曹操殿……」 掠れた声で呼ぶ劉備に、堪らなく曹操は煽られた。 突き上げる劉備の動きに合わせ、曹操も腰を揺らす。目の端に快感に耐えている劉備の顔が映ると、もうこらえ切れなかった。 「欲し……っ、りゅ、びっ」 根元に絡み付いていた劉備の指が外れて、扱く動きに変化した。 「あぁ、ぁ、んん……ぁ、はぁ」 勢いよく、劉備の手の中に欲を弾かせた。途端、劉備のそれも曹操の中で脈動し、熱い欲を曹操の中へと注ぎ込んできた。 嗚呼――、と熱い息を吐きながら、曹操は劉備の熱にぶるっと全身を震わせて、劉備の支える腕の中へともたれたのだった。 |
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