「梅の雨が降りしきる 4」
劉備×曹操


     *****

 不意に曹操が身じろぎをした。
 眠りは浅かったようで、ああ、と呟いて笑った。
「寝ていたか」
「ええ」
 短く答える。
「最近、良く眠れん。だからか、昼間にこうして突然眠くなる」
 はい、とやはり簡素な相槌を打つ。別に曹操は関羽に気の利いた言葉を求めているわけではない。ただ曹操が話したいことを話し、それに関羽が頷きさえすれば満足らしい。
「疲れすぎたり、考え事が多いと眠れなくなるらしいが、どうなのだろうな。お主はどうだ」
「拙者はあまり経験したことがございませぬゆえ」
「体を動かしているからか。ここへ来ても鍛錬は欠かしておらぬようだし」
 体付きを確かめているのだろうが、しげしげとあの深い闇を思わせる瞳で眺められると、居心地が悪くなる。
「最近は政務ばかりこなしておるし、体が鈍っているせいかもしれぬな。だがそれにも悩まなくてすむようになるだろう」
「それは?」
「袁紹との戦が近い。いや、もう始まりかけている」
 庭先に、黄河を挟んだ曹操の陣組と袁紹の陣組とが見えているかのように、曹操は一点を凝視している。
「儂は勝つ」
 言い聞かせるような、しかし確かな勝利宣言だった。
「では曹公に受けたこの恩は、戦場(いくさば)でこそ」
「ほお、それは頼もしい」
 受けた義は義でもって返すのが関羽の流儀だ。庭から視線を戻した曹操は、目を細めて口角を上げた。
「だが、もっと手っ取り早く恩を返す方法があるぞ」
 不味い、と関羽は顔を歪める。拍子に頬髯が揺れる。その揺れた髯をそっと引きながら、曹操は双眼に艶めいた色を乗せた。
「それはお断り申し上げたはずです」
 先回りして曹操の言葉を取り上げる。
「まだ何も言っておらん」
 不満そうにする曹操から髯を取り返しながら頭(かぶり)を振った。
「いけません」
「儂が抱いてもよい、と言っておるのだ。何を躊躇う」
 元々寄り掛かって密着していた体を、ぐいぐいと曹操は関羽へ寄せてくる。
「曹公、それはお断り申し上げたはずです」
 それでもまだ、関羽の口調は頑としたものだった。
 対して不服をありありと、小作りの体躯一杯に表現しながら、曹操は言葉を返した。
「なぜだ。誰に義理立てをする必要がある」
 ぐいっと、さらに体を寄せられて、関羽は回廊から庭先に落ちんばかりに身を離す羽目になる。
(困った、本当に困った……)
 関羽は半ば(自分でも情けないとも思うが)泣きそうな気分で、ここへ来て、何度繰り返したかもしれない言葉を心の中で嘆いた。
 義理立てなど。
 断り続けている理由は、曹操に再会したときから気が付いていた。
 そして、この間の突然の口付けから、確信へと変化した。
 抱きたい、と思っている。
 この、女でもない、ましてや義兄の目指すところの障害となる男を、関羽は抱きたいと思っている。
 しかし、もしももう一度抱いてしまったら、引き返せない道へと踏み込むことになりそうで、どうしても出来なかった。
「曹公っ」
 語調を強め、密着していた体を力任せに引き剥がした。
「失礼させていただく」
 これ以上の長居は危険だった。少し時間を置けば曹操も冷静さを取り戻し、改めるだろう。
「関羽!」
 責めるような声で曹操が呼び止めるが、関羽は振り返らなかった。
 早く兄の消息を掴み、ここを出なくては、と常に思っているが、今ほど強く願ったことはない。
 去ろうとしている関羽も必死だったが、しかしそれは曹操も同じだったようだ。
「お主の兄は……劉備は抱いたぞ!」
 足が止まった。
 それをしめた、と思ったのか、さらに曹操は言い募った。
「劉備は儂を抱いた。興味があるだろう、劉備も抱いたこの体に」
「それは、どういった意味ですか」
 振り返らずに尋ねた。
「お主の兄も虜にしたこの体に、お主は興味を持たないのか、ということだ」
「虜?」
 足元から、どす黒いものが這い上がるのが感じられる。ひどく凶暴な気分だ。戦で大量の首を狩り続けている最中に、時々覚える。高揚感に似た、しかし真逆とも取れる喪失感が入り混じる、奇妙な感覚だ。
「そうだ、あやつは何度も儂の体を抱いた。夢中になって」
「そのわりには、兄は貴方を裏切ったではありませぬか」
 どこか得意げな口調すらある曹操を、関羽は戦場で敵の体を真っ二つにするがごとく切り捨てた。
「所詮、兄は貴方を精を吐き出す都合のよい相手としてしか見ていなかったのでしょう。貴方は女の代わりにされただけだ」
 違う。劉備は、たぶん曹操に傾倒していた。
 劉備のあの苦悩する横顔を見ていた関羽は知っている。それでも、あえてそう言ったのは、たぶん……。
 たぶん劉備に対する、嫉妬だ。
 曹操を幾度も抱き、さらに裏切る形で傍を離れた今も相手の中に住み続けている。そういう存在感を曹操へ作った兄に嫉妬しているのだ。そして、少しでも曹操の中に存在する劉備を壊そうと、嘘をついた。
「証拠に、兄は貴方の下を離れた後、清々しい顔をしておられた。ようやく、貴方から解放されたのだ、と喜んだのでしょう」
 これは本当だ。
 ただし、真意は他にある。
 だが今の関羽は劉備の真意を曹操へ伝えるつもりは微塵もない。ただ、己の発した言葉が、どれだけ鋭い刃となって、相手へ効果を与えたか、確認のためだけに関羽は振り返った。
 何でも良かった。
 劉備と同じように自分も曹操へ消えない何かを残したかった。例え深い傷跡を残すような、意味の無い、童のような悋気が生んだ言葉での傷だとしても良かった。
 歪んだ、独占欲――
 明るい、燦々とした光が降り注ぐ中で、そこだけが暗く、どろりとした濁りを見せていた。
 真っ黒い闇に澄んでいるもの、濁っているものなど、違いがあるはずもない。
 それでも、その時の関羽は確かに違いを見たのだ。
 深い吸い込まれそうな漆黒の色を宿した双眸は、今は見る影もなくくすんでいる。
 白い頬を強調するように薄く桃色がさしていた肌は、すっかり青褪めている。白さは唇にまで移ったようで、幽鬼のように男の存在感を希薄にさせていた。
 動揺したのは関羽も同じだ。
 そこまで己の刃が相手を深くえぐるとは、思っていなかった。
 せいぜい、男を激怒させるか諦めさせるか。少し傷付いた様子があればこの奇妙な高揚感は満足するはずだったのだ。
 それが……。
 男の前へしゃがみ込み、手は勝手に伸びていた。
 どこかで「駄目だ!」と鋭く叫ぶ警告が聞こえたような気がしたが、止まらなかった。
 男にしては細い肩へ腕を伸ばして、懐へ掻き抱いていた。
 力を思い切り込めれば、このまま絞め殺せるだろう。それほどに、細かった。
 赤兎馬で遠駆けに行ったときよりも、さらに細くなったのではないだろうか。
 何が男を弱らせているのか、関羽は薄々と察する。
 それでもそれを認めるには、どうやら己はまだ精進が足りないようだ。
「そんなに拙者に抱かれたいのですか」
 掻き抱いて傍になった耳へ、感情を押し殺した平淡な声音で囁いた。
 男の首が縦に振られるまで、だいぶ間があったような気がしたのは、それを関羽が待ち望んでいたからだろうか。
 肩を抱いていた腕を滑らせて、両手で男の耳を塞ぐように顔を包み込んだ。上向かせた男の双眸が、濁ったままもとろり、と溶けるような闇を映し出す。
「はしたない方だ」
 耳を塞いでいるから聞こえないだろう。小さな声でそう呟いてから、関羽は男へ口付けた。



 闇の中、燭芯で照らされた中で見た裸身よりも、昼の下で見る半端な裸身のほうがよほど艶かしい。
 関羽の愛撫で身悶える曹操を眺めながら、思った。
 胸の飾りを親指で転がしながら、胸全体を揉み解すように手を動かす。上半身だけを肌蹴させた曹操の肢体は、回廊の硬い板の上に晒されていた。
「っあ、ぁ……」
 あの、そそるような声を漏らす。
 ぞくり、と背筋を甘い痺れが走っていく。
 片手で胸を弄りながら、もう片手で脇腹をなぞる。腰を撫でた後に背中へ回すと、やはり痩せたのが分かった。
 眠れない、と言ったのは本当だろう。
 そういえば、食事を共に取ったときも、曹操の卓には箸を付けられずに残っていた皿が多かった。
 それなのに、性欲だけは衰えないのか。
 厭味を口にしかけて、やめた。
 今は何も考えずにこの体を貪りたい。
 抱いて後悔するのか、吹っ切れるのか分からない。吹っ切れるとしてもどう吹っ切れるのかも分からない。
 分からないことばかりならば、もう考えるのはやめよう。
「曹公……」
 身を屈めて、曹操の耳元で熱い吐息と共に名を呼んだ。それすらも感じてしまうのか、曹操は小さく声を漏らしながら、唇を震わせた。
「関羽」
 呼び返されたのが自分の名で、関羽は微笑む。例え、曹操の面容が安堵に彩られなかったとしても、充分だ。
 薄い耳朶を軽く噛んだ。合わせるように、胸の飾りをきつく摘まむ。
 弾力を持って返された飾りを、そのまま指先で押し潰すように揉むと、鼻に掛かった息が曹操からこぼれる。
 同性と抱き合うのに慣れた体だ。しかも抱かれる側として、この体は作り変えられている。
 劉備が作り変えたのか、それともその前からなのか。関羽に訊くつもりはなかったが、悋気が起こるのは止められず、さらに愛撫に熱を籠もらせた。
 噛んでいた耳朶から唇を滑らせて、顎の線をなぞる。形の良い顎を飾る鬚を下から掬うように舐めた。息をこぼして薄く開いた唇を、自分の唇ですかさず塞ぐ。
 舌は挿し込まず、表面をなぞるような口を寄せるだけの行為だ。柔らかな唇の感触はそれだけでも充分に愉しめる。
「ぅん……ん、関羽……っ」
 しかし曹操はそれだけで満足しないようで、湿った声で呼ぶ。
「どうされた」
 唇を離して、曹操の口髭を指先でなぞる。深い闇が関羽を求める眼差しを向けたので、小さく笑った。その途端、曹操の腕が首に絡げられて引き寄せられる。
「お主たち義兄弟(きょうだい)は、意地の悪いところがよう似ている」
 憎々しげに曹操は言い、自ら口付けて、舌を伸ばしてきた。挿し込まれる舌は関羽の口腔を這い回り、舌に身を寄せた。求めるように何度かこすられてから、ようやく関羽から曹操を求めた。
 ぐっと首にかかっている曹操の腕に力が籠もる。
 止めていた胸への愛撫も再開して、少し冷めていただろう熱を再度上昇させた。
 するっと、帯を解いて緩くなっている下穿きの中へ手を伸ばした。まだ腰帯が残っているが、薄い布などあってないに等しい。事実、その上から撫でてしまえば、曹操の体躯(からだ)は小さく震えた。
 あえてその狭い空間で手を動かして、もどかしい刺激を送る。
「っんん、ん、ん……っ」
 くぐもった声のまま、曹操は喘いだ。容易く熱を集める過敏さが備わっているようだ。
 声を聞きたくなり、まだ舌が絡まっていたが強引に離れた。追い求めるように曹操は唇の隙間から舌を覗かせる。その瞬間を狙って、ぐっと下穿きの中に忍んでいる手に力を込める。
「ぁあ……っ」
 声が発せられた瞬間に、赤い舌がひくり、と泳いで別の生き物のように関羽を誘った。やや強引に、半端にしか勃(た)ち上がっていない曹操のそれを布越しに握り込み、上下にこすった。
「ぁ、ぁっ……ぅ」
 ゆらゆらと半端に伸びた舌が揺れた。その先端へ口付けて、下肢の先端を、こちらは指先で掻き混ぜた。首から両腕が外れ、曹操の背は反れて、硬い床と骨がぶつかりあう音を立てた。
 さらに何度も追い立てるように、根元から先端を扱けば、ひくひくと細い咽が震える。白かった頬が色を取り戻す。
 がりっと、曹操の爪が床を引っ掻いた。
「掴まってもよろしいのですよ」
 首は僅かに左右へ振られたような気がした。
 劉備にはああもしがみ付いていたのに、なぜだ、と子供じみた妬心(としん)がちりっと胸を焦げるような痛みを走らせる。
「では、こうしましょう」
 曹操の背を掬い上げて、抱きかかえる。胡坐をかく関羽の膝の上に身体を乗せた。閉じられたままの曹操の目元が、薄く色を含んだ。
 幼い子のように軽々と扱われたのが恥ずかしかったのか。
 しかし何も声は発せられなかった。
 中断していた下肢をまた握り込んだ。背中に回した腕を胸まで伸ばして、下肢の動きに合わせるように刺激を送る。
 布地の下、関羽の指の隙間から濡れた音が漏れたのはすぐだった。
「……ぅ、ふ……っく、ん」
 胸元に顔を埋(うず)めるようにしている曹操の湿った息が、関羽の長い髯を揺らす。肩にしがみ付く両手が悦楽に耐えるように時々力が籠もった。
 濡れた先端を指の腹で撫でれば、背中が波打つように震える。続けざまに弄れば、嬌声は切れ切れに上がった。
 色を含んだ耳の先を舐める。あ、と短い声が曹操から漏れる。
「可愛らしい声を出す」
 さすがに恥ずかしかったのか、非難するように肩を引っ掻いた。もちろん、そのぐらいでは関羽はびくともしなかったが。
 窮屈な布地の中では限界がある。腰帯の下へ手を差し入れて、下肢を衣の外へ取り出すと、ようやく直に触れることができた。
「熱いですな」
 言いながら、その熱さと硬さを存分に掌に感じる。
 そういえば、あの時とは逆だ、と関羽の頭を過ぎった。劉備と共に曹操を抱いたときは、関羽が曹操にそう言われた。あの時も、羞恥を感じながらも興奮するのを止められなかった。
 それは立場が逆でも変わらず、むしろ官能の入り混じったそれらはあの時の比ではない。
 曹操も同じだったようで、頬の赤味は増したが、下肢の勢いも順ずるほどだった。
 粘着質の音が、剥き出しにされる。掌を濡らす感触は強まり、曹操の喘ぎは切羽詰ったものに変化していく。
 胸を弄(まさぐ)っていた手を顎に伸ばして、俯き加減だった曹操の顎を捉える。仰向かせた顔へ、口吻を寄せた。
「っは、ふぅ……ぅ」
 今度は互いに舌を伸ばしあった。
 曹操を追い詰める手を休めることなく、伸ばされた舌をきつく吸った。
「んぁ、ぁっ」
 途端、関羽の掌に熱い飛沫が注がれた。
 ガクガクと曹操の身体が痙攣する。それからふっと力が抜けて、荒い息をつきながら関羽へ凭れかかった。
「早かったですな」
 少なくとも、曹操ぐらいの手管であれば、もう少し持ちそうな気がしていた関羽は、掌の温かな精を後孔へ塗り付けた。
「最近、無沙汰だった」
 自制が利かなかったのだろうことは、曹操の反応からも察せた。何せ予告もなかったのだ。自分でも達するとは思っていなかったのだろう。
 曹操の言い訳じみた口振りが物語っていた。
「それはまた……」
 滑りの良くなった指と後孔は、容易く侵入を許した。
「っ……少し、待て」
 まだ息を整え切れていない曹操は、次に待つ強烈な悦楽を拒んだ。
「案じることはありませぬ。ただ慣らすだけに留めますゆえ」
 伏目がちの曹操は、諦めたように身を預けるばかりだ。
 そのあまりにも無防備な姿に、一瞬ばかり黒い感情が湧き起こる。
(このまま、殺してしまおうか)
 そうすれば、劉備の道を阻むものがいなくなる。
 何より、曹操を独り占めに出来るではないか。
 今度は憎しみから湧く歪んだ独占欲に囚われそうになるが、それが決して実行できないだろうことも理解している。
 もしもこのような場所で曹操を殺してしまえば、関羽の身はもちろんだが、共に降っている劉備の妻たちまでも殺されるだろう。
 それは義を尊ぶ関羽にとって、許されないことだ。
 それに、恐らく自分は曹操を殺せない。
 首に手をかけ、力を込められたとしても、最後の首の骨が折れる直前、手を離してしまう。
 そう思えるのだ。
 すでに、関羽は曹操への想いを自覚している。自覚したときより、諦めた。
 自分に曹操は殺せないと。
 しかし、劉備を裏切ることは出来ない。
 まして、曹操から劉備を消すことも、劉備から曹操を消すことも出来ないだろう。
 だからと言って、抱くことも結局諦められはしなかった。
(本当に、修練が足らぬな)
 くっ、と思わず嘲笑が漏れた。
 元より悟ったわけでも、情欲に嫌気がさしたわけでもないが、溺れるように夢中になることはもうないだろう、と思っていた。だがそうでもないらしい。
 狭いそこを拡げる動きに集中しながら、関羽は曹操の身体を腕の中に閉じ込めた。
「ど、した?」
 強い快感はないだろうが、苦しさと僅かばかりの快感はあるのだろう。曹操が声を乱しながら尋ねた。
「何が可笑しい」
 嘲笑を漏らした関羽を不審に思ったのだろう。
「いえ、眠ることも食べることも、ましてや女を抱くことにも執着しておられない曹公は、何を楽しみとされておられるのか、とくだらないことを考えていた己が可笑しくなり」
 誤魔化した。
「人の、楽しみはそれだけではない、だろう」
 そんな口から出た方便に、曹操は乱れた息のまま律儀に答えてくれる。
「書を愛し、武を尊んでいるお主がそれを言う、か」
「そうでしたな」
「儂も、詩を愛し、才を求めることが生きがいだ。何より、この大陸を平定することこそが、最大の……っぅん」
 深く指を突き入れて、曹操を喘がせた。
「その先は、おっしゃらないでくだされ。拙者は貴方を殺さなくてはならなくなる」
「そ、れはおかしな、ことを言う……。それではまるでお主は儂を殺せない、とでも言っている、ようだ」
 伏せられていた目が、関羽を初めて射抜く。深い闇は澄んでいた。
「意地の悪い方だ、貴方は」
「趣味が悪いものでな」
 咽奥で笑う曹操は、しかし瞳を曇らせた。関羽を見つめているはずの双眸が、まるで関羽を通して別のものでも見ているかのように、遠かった。
 ああ、と関羽はその瞬間に全てを理解してしまう。
 だから、曹操が曇らせた瞳で何かを言いかけた言葉を、内膜を掻き乱すことで封じてしまう。
「っひ、ぁぁ……っ」
 仰け反って咽を晒した曹操へ関羽は、今度こそ本当に泣きそうな思いで切望した。
「おしゃべりが過ぎました。どうか、この先はただ曹公を抱くことだけに集中させてくだされ」
 再び、とろけるような闇が曹操の瞳に宿り、関羽は安堵する。
 狭い曹操の中を、己の硬い楔で貫く。
 初めて味わう曹操の中は、関羽から余計な思考を奪ってくれる。
「か、んうっ」
 座した形で深く関羽のものを咥え込んだ曹操は、感じ入った声で名を呼んだ。
 力を取り戻した曹操の下肢を密着した腹同士でこすり上げながら、腕の中に納まる痩せた身体を激しく揺する。
「く、ぅ……ぁ、あ……ぃあ……っ」
 きつく締め付ける曹操の中に、関羽も次第に追い詰められていく。
「曹公……っ」
 最後まで、曹操の眉間の皺が浅くならないのを目に映しながら、関羽は曹操の中で果てた。



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