「体は正直だな〜漁 2〜」 鬼畜攻め台詞 8より 劉備×曹操 |
次に呼ばれたとき、いつもの部屋と違っていた。 曹操の私室とも言うべき、かなり奥まった場所にある部屋だった。そこへ通された劉備は、落ち着かなく辺りを見回して、曹操へ尋ねた。 「あの、このような場所に私が招かれても良いのでしょうか?」 「構わぬ。そろそろ、決着をつけたいのだ。今夜こそ、お主の中に潜むものを引きずり出してやりたくてな。誰にも邪魔をされぬ場所を選んだのだ」 その強気な言葉とは裏腹に、曹操はひどくそわついていた。 そんな曹操の態度と、この部屋に通された、という事態。 劉備は、ようやく魚が陸へと上げられたことを確信した。そして、口角を上げた。曹操はそんな劉備の顔付きを見て、さらに狼狽したように落ち着かなくなる。さっきまでの劉備と立場が逆転する。 「そうですか。曹操殿の配慮。この劉備、いたく感銘しました。今晩で、必ずや正体を突き止めましょう」 「あ、ああ」 そして劉備はいつもと同じ手順で曹操を昂ぶらせていく。しかし、いつもより少しだけ、感じる場所を外す。もっとも曹操が敏感とする箇所を、微かに避けるのだ。それが分かるのか、曹操は自ら体を動かし、そのズレを修正しようとする。 「曹操殿、そのように動かれては、上手くいきませぬ」 唇を離し、申し訳なさそうに伝えれば、曹操は慌てたように大人しくなる。だが、やはり上手く悦楽が与えられないことが分かると、苛立ったように体を離してきた。 「劉備、お主、わざとか?」 「曹操殿? いったい何のことですか」 不安そうな面容を作り、劉備は聞き返す。 「わざと儂の……」 感じ入るところを外しているのか、と続けようとでもしたのだろう。しかしそれは、口には出来なかったようだ。劉備のため、と称して始めたことを、曹操が気持ち良くならないからといって、文句を付けられることではないのだ。 「続けろ」 諦めたように、曹操は促した。 そして、劉備はやはり曹操の敏感とするところを外し続けた。 「まだ、見えぬか?」 何かに耐えているのだろうか。曹操は掠れた声で聞いてきた。 「はい。今宵はどうも上手く姿が見えないようで」 難しい顔で劉備は説明する。 「何か、儂から出来ることはあるか?」 あの、請うような光が輝きを増していた。 「そうですね。曹操殿から、口付けてもらっても?」 「分かった」 何の躊躇いもなかった。すぐさま曹操は劉備の唇を吸い、自ら舌を差し入れてきた。それを受け止めてから、劉備は今度こそ曹操の弱い部分を的確に攻めに掛かった。 急激に増した悦楽の波に、曹操の体が震え始めた。立って抱き合っている状態が辛いのか、もたれるように劉備の背中に腕が回った。息もつかせぬほどに、劉備は今まで暴き、見つけた曹操の快楽の源を煽った。 「りゅ、びっ……」 唇が離れる僅かな隙に、曹操が耐え切れぬ、といったように名前を呼んだ。 すっかり、悦楽に酔いしれているようだった。 最後の仕上げだった。 陸に上がった魚を、まな板に乗せなくては。そして箸を握り締めながら、その身を解していくのだ。 密着していた体を、劉備は強引に引き剥がした。熱に侵されたように、ただひたすら快楽を追い求めていた曹操は、咄嗟に自分を取り戻せなかったらしい。ぼんやりと、劉備を見つめていた。そんな曹操へ、劉備は悲しく告げた。 「やはり、曹操殿。今宵もまた」 首を横へ、ゆるゆる、と振る。 「帰ります」 悦に浸っていた曹操の双眼が、急速に焦点を結んだ。 「駄目だ!」 それから強い口調で遮られた。 「お主も決意したではないか。今晩こそ、と。ここでやめてはならぬ」 「しかし……」 躊躇う素振りを見せる劉備だったが、曹操に無理矢理に隣室へと連れられる。そこは予想通り寝室で、劉備は息を呑んだ。 「曹操殿、これは……」 「言ったであろう。決着をつける、と。最後まで儂を抱け」 「ですが、今までと違い、戯れなどでは済まないかもしれません。意味などないかもしれません。私の中の何かは、曹操殿に何をするか、本当に分からないのですよ。それでも良いのですか?」 「初めに言ったはずだ。儂を安く見るな、と。必ず見極めてやる、とも。それを破るわけがなかろう」 それに、と曹操は続ける。 「この体、止まらぬ。抱かれぬと、治まらぬ」 請うような眼差しは、はっきりと意思を込めて煌いていた。 ぞくんっ、と強烈なまでの劣情が劉備の肢体を脅かし、精神までをも犯していく。 待っていた、その言葉を。その心を。 例え体だけを求める言葉であり、心であっても、それは間違いなく劉備を求めるもの。曹操の劉備への執着心だ。 「分かりました。曹操殿の決意を無下にすることなど、この劉備、出来ようはずがありません。私も、私の知らぬ自身に向き合うのは恐ろしいですが、勇を奮いたいと思います」 後は言葉なく、劉備は曹操を寝台へと倒した。そして覆い被さりながら、曹操の首筋に顔を埋めた。鼻をくすぐるいつもの香を味わい、劉備はようやく深く深く笑んだのだった。 高めに高めた曹操の肢体は、劉備の愛撫で善がり、悶えた。 「ひっ、あぁ……っ劉備――」 合い間に呼ばれる自分の名の、何と甘く響くことか。 もう劉備は笑みを隠そうともしなかった。それに、曹操は強烈に与えられる快楽を受け止めるだけで、精一杯のようだ。劉備の表情など見ている暇もなさそうだった。 しがみ付いてくる曹操へ、劉備は囁く。 「曹操殿、そのようにされては私が動けません」 やんわりと距離を取り、寝台から降りる。半端に着ていた衣を、ことさらゆっくり脱ぐ。 すでに寝台の上で劉備によって裸身にされている曹操は、やんでしまった悦の波を追い求めるように、劉備の動きを見守っている。それを見つけて、さらに劉備は衣を脱ぐ手を遅くする。 何かを言いたそうに、曹操の唇が 「曹操殿?」 衣を脱ぐのをやめて、劉備は覆い被さるように曹操を見下ろして、出てこない言葉を引き上げにかかる。 「どうされました? やはりお辛いならここで」 「ちがっ……やく――っ」 途切れがちの曹操の言葉に、小首を傾げて、聞こえないふりをする。 「違うっ、早く、来い……!」 待ちきれないのだ。劉備が時間を掛けて昂ぶらせた体は。その証のように、触ってもいない曹操の中心は、すでに 「お待たせしました。よろしいですか?」 「いいから、もうっ」 切羽詰ったような、それでいて誘うような曹操の声音に、劉備はうっとりと微笑む。 すぐさま、熱を 「あ、ああっ」 寝台を軋ませながら、曹操は背を逸らした。さらに質量を増した曹操の自身を、劉備は静かに果てへと押し進める。 「く、ぁ、あ――んぁ」 相変わらず、善いお声と顔をなさる。 つぶさに観察しながら、劉備は身内を駆ける激しい劣情と戦っていた。 泣き喚くほどに、もう嫌だ、と叫ぶほどに、この美しい男を貶めたい。されど、それをするには自分はこの男に執心しすぎていて、きっと出来ないだろう、とも思い。 囁く破壊の声と、庇護の声と。劉備の中で戦っているものがいた。 まずは体だ。 そう結論付けて、劉備は曹操を頂へと追い込んだ。 「っんん、や、めぇ……っ」 達する時の意味のない言葉を上げながら、曹操は劉備の掌で果てる。力を失う曹操の足を抱え、劉備は濡れた指で頑なな花弁を しかし、この花弁はすでにその指先が生む快さを知っている。すんなりと身を開き、指を導く。水音と共に、劉備の指先は茎の中を通り、茎に存在している花を色付かせる箇所へと辿り着く。 「ひぁっ、ぅんんっ」 堪らずに、曹操から高い善がり声が上がる。そのまま幾度も色付かせる箇所を撫で上げ、こすれば、力を失っていた下肢も屹立してくる。 「善いようですね」 聞けば、曹操は視線を彷徨わせた後、劉備へと焦点を合わせた。 「お主は、見えた、か?」 まだ、忘れてはいなかったようだ。 快楽に溺れているようで、まだ自分を保っている曹操を、劉備は素直に感心する。 「曹操殿から、求めてみてください。そうすれば、見えるかと」 じっ、と曹操が劉備を見上げた。その双眼を受け、劉備はにっこりと微笑んだ。 「お願いします」 逡巡は僅かで、曹操は請うような眼差しを強め、言った。 「儂に、お主の全てをくれ」 「分かりました」 そのようなこと、言われずともすでに貴方に差し出しておりますが、やはり嬉しいものですね。 十分に解れた花弁から指を抜き、劉備は昂ぶっている己を曹操の花弁へと押し当てた。 期待感からか。それともやはりまだ慣れてはいないせいか。曹操の体が震えたが、構わずに劉備は曹操を貫いた。 「〜〜っあ――」 掠れた、声にならない細い悲鳴混じりの喘ぎが、さらに劉備を高める。 切っ先を、的確に鋭敏な箇所へ突き刺し、こすり上げ、撫で上げる。曹操の喘ぎが止まらない。いや、止められないのだろう。 さらに繋がりを深めるために、腰を抱え上げ、寝台へ突き刺すように上から猛りを埋め込む。閉じられなくなった曹操の唇の端から、透明な雫が糸を引いて落ちる。それを身を屈め、舌で受け止めてから、また深く抉る。 「劉備――!!」 感極まったように、または狂ったように、曹操は劉備の名前を呼んだ。 「もっと、もっと呼んでください。貴方の私への執心が薄れることなく続くように。決して忘れることのないように」 繰り返し、繰り返し。 その夜は、果てを幾度も迎えても、劉備が曹操の部屋から出ることはなかった。 朝餉を食べるために劉備が箸を持ち上げたとき、曹操が掠れた声で聞いてきた。 「それで、結局正体は掴めたのか?」 曹操の声が掠れているのは、散々になりふり構わずに嬌声を上げたせいで、昨夜の逢瀬を思い出させて、劉備の唇を綻ばせる。 「そのようなお声にさせてしまい、申し訳ありませんでした。本日は大事な政務のための会議があると聞き及んでおります。なのにその有り様では……」 「……それは、いい」 目を逸らしてしまう曹操は、薄っすらと目元を染めている。 朝になり、冷静になった頭で思い出したのだろう。自分がどうやって劉備を求め、どれだけの痴態を見せた挙句に乱れたか。例えあのときは快楽に支配されていたとはいえ、自分のなしたことは相当に恥辱であるに違いない。 そんな曹操の心境を量りつつも、劉備は最後の仕上げの機を狙う。 「質問に答えてないぞ」 朝餉を平らげつつ、曹操は話を戻しにかかった。 「尾は、掴めた気がしました。いつもより鮮明にその姿を見たような気もします」 「ほお」 「やはりこれも曹操殿のお力添えのおかげかと」 とても好いお姿でしたから。 告げれば、慌てたようにお茶を口に含んで、それから短く、そうか、とだけ答えた。 その後は、黙々と料理を平らげ、劉備は深く礼を告げて、退席を申し出た。 「それで、出来たなら昨夜のような曹操殿をまた見せていただきたいのです」 「何?」 また、目元の色が濃くなった。 「あれをまた、だと?」 「はい。曹操殿から求めていただければ、どうやら正体を早く現してくれそうなのです」 「だが……」 口籠もる曹操の前に跪き、劉備は見上げる。 「分かっております、どれだけ不躾な願いであるか。しかし……」 そっと手を伸ばして、曹操の体を撫でた。大きく震える体は、驚き以外のもので震えていた。それは目元から頬へ走った朱色で示されている。 「曹操殿のお体は正直です。この真っ直ぐな体で、どうか私の恐ろしい正体を暴いてくださいませ」 体を伸ばし、口付けた。そして耳元へ唇を寄せて、囁いた。 「本当に、曹操殿のお体は正直でいらっしゃる」 「劉備!」 言葉に含まれた毒(揶揄)に気付いたか。曹操が語気も荒く突き放した。 それでも、離れる直前の曹操の体は緩く熱を持っていて、劉備は破顔するのだ。 まずは体からです。 そしていつかは心も。 「また、今宵お邪魔してもよろしいでしょうか?」 きつい曹操の目線を受け止めて、劉備は微笑んだ。 その眼差しが、きっと請うように煌き、首が縦へ振られて、その拍子に香が立ち昇ることを確信しながら。 了 あとがき あれ、気付くと長すぎて二つに分けてましたよ。 と、言うわけで、鬼畜編第三弾です。 黒い劉備が楽しすぎて、いつの間にかこんな長さに(笑)。 ようやくお題らしく、鬼畜っぽくなりました。 と、いうかこの話のコンセプトは、あれです。「志村、後ろ、後ろ〜〜!」という有名なコントの、「曹操さま、騙されてる、騙されてる〜!」というバージョンです(どんなコンセプトじゃ)。 そんな感じで読み返すと、また面白いかもしれません(笑)。 |
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