「体は正直だな〜漁 1〜」 鬼畜攻め台詞 8より 劉備×曹操 |
「では、今宵はこれで」 劉備が退室を告げると、曹操が驚いた顔をした。 「早いな。まだ料理も残っておるし、酒も十分にあるぞ?」 予想された答えに、劉備は困ったように笑い、首を横へ振った。 「いえ。少々酔いが回ってしまったようですので。あまり非礼を働かないうちに退席したく思いまして」 「非礼などと。酒が入った上での多少の戯れなど、後で笑い話にしかならぬぞ?」 儂とお主の仲だろう。 などと、曹操は劉備の喜ぶ言葉を紡ぐものだから、危うく劉備は本来の目的を忘れて、また座り直したくなってしまった。しかし何とか気を取り直して、さらに眉をひそめて言い募った。 「ですが、そういうわけには参りません。私も己の理性の限界は知っているつもりです。これ以上は……」 言葉を詰まらせて、劉備は俯く。 「大袈裟な。そこまで気に病むほどのものか?」 可笑しそうに曹操は笑う。 「申し訳ありません」 唐突に席を立ち、劉備は謝りながら曹操へ口付けた。間近になった曹操の目が見開かれるのを確認してから、劉備は唇を離した。そして驚きに硬直している曹操の体を抱き締め、その耳元へ囁いた。 「酔ってしまったのです。貴方のせいで。ですから、申し訳ありません。ここで退席をしないと、今以上の無礼を働いてしまいます」 すっと体を離し、劉備は拱手して、すっかり呆然として言葉を失っている曹操を残し、部屋を去った。 策は上手く効しただろうか。 それは恐らく早ければ明日。遅くとも数日後には判明するだろう。 先ほどまで劉備の 「兄者、曹操からの使いが来てるぜ」 不機嫌そうな声音を隠そうともしないで、張飛が劉備を呼びに来た。 「翼徳、仮にも世話になっている方だ。敬称を付けろ」 「へいへい」 曹操を嫌っている弟たちは、劉備がまめに曹操と伴食することに良い顔をしない。そんな弟たちの気持ちは良く理解してはいたが、控えるつもりは劉備にはさらさらなかった。 一度湧き上がった執着心は、決して消えることはない。 劉備は自分の性質をとてもしっかりと把握していた。 曹操を抱いたのは二度だけだ。 しかし、それで十分だった。 自分がどれだけ曹操という男に執着しているかを確認するには。 幸い、抱かれたことに嫌悪を抱いている様子はないようだったし、それなりの好意を抱き続けてくれてもいるようだった。もっとも、劉備が曹操を抱いたのは、一時の気の迷い、というか戯れの延長線上、と思っているようだったが。 それを昨日のあの曹操の驚きようからして、察せた。 あれを、何とかして自分と同じ方向性に持って行きたかった。 そのために、劉備はどんな手段も そして、練った策が効を成したようで、劉備は嬉しさを無理矢理抑え込み、浮かない顔で、曹操からの使者の言葉を聞いた。 「曹操様は、また今晩、劉備殿と食事をしたいそうです」 「しかし、今回はお断りしたいのですが……」 心にもないことを口にするのは、なかなか骨が折れる。だが、劉備の困り果てた顔を見る限りでは、その様子は欠片も見つけられない。 「そう言うだろう、と曹操様はおっしゃられてました。昨日の非礼には目を瞑る。聞きたいことがあるから、必ず来るように、との言伝も預かっております」 「そう、ですか。では行かないわけには参りませんね。了承した、とお伝えください」 非礼の意味も知らぬであろう使者を見送り、劉備はこっそり聞き耳を立てていた隣室の弟たちへと声を掛けた。 「と、いうわけだ。留守を頼んだぞ」 「兄者!」 もう我慢ならない、といった面持ちで、張飛が部屋に飛び込んできた。後ろには関羽も一緒だ。張飛ほどではないにしても、憤然としている様子は伝わってきた。 「ここへ来てから……いや、董卓の野郎をぶっ殺す集まりのときから、兄者は曹操、曹操、曹操って。兄者はあんな奴のどこがいいんだ」 隣で関羽も深く頷いている。 「類稀なる御仁であることは認めますが、兄者がそこまで執着するお気持ち、拙者には理解できませぬ」 「何だ、お前たち。嫉妬か?」 首を傾げて聞き返せば、二人は言葉に詰まって黙り込む。 「あのなあ、お前たちのことは好きだぞ。だけどな、曹操殿もまた同じなのだ。分かるだろ?」 「分かんねえよ!」 「分かりませぬ!」 異口同音に言われ、劉備はう〜んと、と考え込む。 「つまり、だ。雲長は私と翼徳、どちらが好きなんだ、と聞かれたらどうする? 翼徳は、私と雲長、どちらが好きだ、と言われたらどうする?」 「それは比べる対象ではありません」 「選べねえよ」 「そういうことだ。それに、今夜もあまり遅くはならない。心配するな」 と、劉備は弟たちの肩を叩く。その途端、二人は珍妙な顔をしてまた黙り込んだ。 それは意味が違うと思う、とか。肉親の情ではないだろう、とか。 言い返したいことは山ほどあった。だが、それを言うには、あまりにも劉備の笑顔が怖かったので、口に出せなかった。 結局、弟たちはにこやかに出かけていく兄を、また溜め息を吐きながら見送るしかなかったのだった。 「申し訳ありませんでした、曹操殿。やはり昨日は酔っていたようで、自分でもまさかあのようなことをしてしまうなどと」 豪勢な料理が並ぶ部屋で、曹操と顔を合わすなり、劉備は謝った。 「本来なら、ここへ来ることも出来ぬ身です。しかし、謝らなくてはならない、と思い、恥を忍んで……」 必死に言葉を紡ぐ劉備をどう思ったのか、曹操は椅子から立ち上がり、肩を叩いた。 「気にするな。大したことではない。確かに儂も驚きはしたが、別に怒ってはおらぬ」 「本当でしょうか?」 「ああ。儂を疑うのか? それに、今夜はそのことについてもう少し聞きたいことがあって呼んだのだ。いきなり謝られても、話が進まん。とにかく座れ」 曹操に促され、劉備はおずおずと向かいの席に腰を下ろす。 「昨日、どうして儂にあのような真似をしたか。その真意を知りたいのだ」 「真意、とおっしゃいますと?」 首を傾げて聞き返すと、曹操は一瞬だけ言葉を選ぶのに手間取ったようだが、口を開いた。 「……儂はお主に二度ほど抱かれたが、あれはそれぞれ意味があっただろう。ならば昨日もあるはずだろう」 一度目は戦を前にして逸った血を慰めるため。 二度目は、狩りの褒美、と称して、戯れと言いつつ。 ならば、昨日の行いにも意味があるのだろう、と曹操は聞いてるのだ。 しかし、劉備は正直に答える気はなかった。 慕っているからだ、と答えるのは容易いが、そう伝えてしまえば曹操は一気に自分への興味を失くすことは、目に見えていた。 この男は。曹孟徳という男は、自分の興味を引かれたものには恐ろしいまでの執着心を見せる。それは自分の執着心とひどく色が似ていた。だからこそ、その興味を失わせないようにすることが大切なのだ。 今、曹操は劉備の考えていることが分からないでいる。分からないから知ろうとしている。それはまさに興味に他ならない。その分からないはずの答えを差し出してしまえば、曹操はあっさりと劉備を手放すだろう。 もちろん、人としての興味は持ち続けるだろうが、それは劉備の望むものではない。 それは困る。 だから、劉備はまた首を傾げた。 「分かりません。自分でもどうしてあのようなことをしてしまったのか」 案の定、曹操は身を乗り出すようにして劉備に迫った。 「分からぬのに、お主はあのようなことをするのか?」 「はい。やはり酔っていたとしか思えません。曹操殿を見ているうちに、なぜだかああしなくてはいけない気がして。それでも、おかしい、という自分の声はするのですが止められず」 俯く劉備へ、曹操がふぅむ、と難しげな顔をして考え込んだ。 それをこっそり観察して、劉備は針に魚が掛かったことを確信する。後は、糸が切れぬように、慎重に、ゆっくりと手元に引き寄せればいい。 「なので、出来たらこれからは曹操殿との伴食など控えさせていただきたいのです」 「何を言う」 「私は、私自身が恐ろしいのです。自分でもどうしようも出来ない何かが自分の中に存在していて、それがとても怖いのです」 「怖いなどと。気弱なことを申すな。ならばその正体を知れば良いだろう。正体が知れぬから怖いのだ。正体が知れれば恐れるに足らん。幽霊の正体見たり、枯れ尾花、と言うではないか」 「ですが! ですがこれは私だけの問題ではありません。もっとも怖いのは、その得体の知れぬもので曹操殿を傷付けてしまうやも知れぬ、ということです!」 絞り出すように劉備は告げ、また俯いた。 そして、曹操の次の言葉を待つ。期待感に、体が震えてくる。それを苦労して抑え込んでいる劉備をどう捉えたか。曹操の声が頭に降ってきた。 「儂も安く見られたものだな。儂を傷付けることが出来るものなど、そういない。遠慮することはない。お主の身内に潜む正体、見極めてみようではないか」 勝手に綻んでいく顔を、劉備は無理矢理にしかめてみせた。それは一見して歪んだ、泣きそうな面容に見えるだろうか。 「曹操殿」 笑いを堪えた声は震え、感動に打ち震えたように聞こえるだろうか。 「まずはどうするべきか。お主のしたいようにやってみるのがよいだろうか」 ああ、曹操殿。貴方という方は。 またしても、策も何もかもを投げ出したくなる劉備だったが、鋼の精神力でそれらを跳ね除けた。 「よろしいのですか?」 「ああ。何も殺されるわけではないだろう?」 からかうように笑う曹操へ、劉備は力強く頷いてみせる。 当たり前です。そのように勿体無いこと、出来るはずがありません。 「その……。では立って頂いても?」 「いいぞ」 本当に、曹操は劉備の正体を知りたがっているようで、嬉々とした様子で言葉に従ってくれる。 無防備に体を晒す曹操へ劉備は歩み寄り、抱き寄せた。いつも曹操が焚いている香が劉備の鼻をくすぐる。 「お主の中のそれは、こうしたがっているのか?」 「そのようです」 耳朶をくすぐるように、曹操の声が耳元でするのを、劉備は心地良く受け止める。そのまま唇を吸いに掛かれば、曹操は本当に劉備のしたいようにさせるつもりなのか、抵抗してこない。 劉備はうっそりと笑いながら、曹操の柔らかな舌をも吸いにかかる。口の中が弱いのか、曹操は口付けをするといつも大人しくなる。それは今も同じようで、鼻に掛かったような吐息が時折溢れてくる。 じっくりと口内を 弱い部分を徹底的に暴かなくてはならない。 息苦しくなってきたのか、曹操の指が縋るように劉備の袖を引いた。 『今回』はこのくらいか……。 そう判断して、劉備は体を離した。 「ぁ……はっ」 唐突に解放されて、曹操は濡れた息をこぼして、幾分ぼんやりしていたが、劉備が呼びかけると、我に返ったように聞いてきた。 「正体は見えたか?」 「はい、僅かですが。しかし、姿を捕らえる前に消えてしまったようです」 悔しそうに言うと、曹操はそうか、と呟いた。 「また明日、試してみてもよろしいでしょうか」 伺えば、もちろんだ、と快い返事があり、劉備は丁寧に拱手したのだった。 次の日も、劉備は曹操の下を訪れた。 同じように、口付けから始まり、じわじわと曹操の体の善い部分を探っていく。やはり、快楽に対して素直であり、なおかつ開放的であるためか、曹操の体は感度が良かった。 しかも、体が密着しているのだ。どこがどう感じるのか、劉備には澄んだ池の中に住む魚を見つけるよりも簡単だった。糸は、確実に手元へと引き寄せられ、針に刺さった魚は活きの良い状態で近付いていた。 また息苦しくなったのか、曹操の指が劉備の袖を引くが、今日は離すのを少し遅らせた。そして背中に回していた腕を下方へ滑らせて、張りのある臀部を揉みし抱く。 「ん、んんっ」 合わさった唇から、驚いたような感じているような、そんな声が漏れた。すかさず劉備は唇を離した。 「曹操殿?」 気遣うように顔を覗き込めば、はっとしたように曹操は体を離した。 「どうだ?」 「少しずつですが、はい。昨日よりも」 「そうか」 少し乱れた衣を整えながら、曹操は何となく落ち着かなさそうに椅子に座った。 「また、明日お伺いします」 「ああ」 そして次の日も、劉備は曹操を抱き寄せた。 今回は、口付けをやめてからも、その体を愛撫し続けた。少し強引に衣を割って素肌に手を差し入れても、曹操は抵抗をしなかった。 「やはり、曹操殿の肌はとても触り心地が良いのですね。私は日の下で働くのが好きでして。いつも埃まみれで薄汚れておりますのに」 脇腹や背中を撫でながら、そんなことを語りかける。 「お主はいつも自分を卑下するな。悪い癖だ」 微かに息を乱しながら、曹操は言う。 「卑下しているわけではありませんが。性分なのでしょうか。曹操殿のように生きられている方を眩しく見てしまいます」 「儂とて、お主を認めておる。だからこそこのような真似も許しておるのだろう? お主が自分を貶めれば、それはお主を認めている儂をも貶めるのだぞ? 分かっているのか」 「曹操殿」 思わず、劉備は肌を愉しむ手を止めてまで曹操の顔を見つめた。 「そうですね。その通りです。 やはり、自分の執着心の示すものは間違っていなかった。 そして、確実に策が効していることを喜ぶのだった。 変化は、幾度目かの伴食の夜に現れた。 いつものように、曹操へ口付け、そして弱い部分を炙り出し、高めるようにしてから、体を離す。そして退室を申し出ると、曹操が口籠もりながら引き止めたのだ。 「行ってしまうのか?」 「はい。また消えてしまったのです。もう少し、というところでするり、と。口惜しい限りです」 「そう、か……」 また、曹操は口籠もった。目が泳いでいる。体を離したというのに、紅潮した頬が戻っていない。 「どうかされましたか?」 つっ、と指先で今日発見した弱い箇所、首筋を撫でた。びくん、とはたから分かるほどに、曹操の体が震えた。 「いや、何でもない」 上ずった声で、曹操は答える。その発せられた言葉を裏切るように、曹操の瞳の中に、請うような光がチラ付いていた。劉備はその光を自分の瞳の中に映しながら、当てた指を下へと滑らせていく。 「何でもないようには思えません。もしや、お体の調子でも悪いのに、私のためにご無理をなさっていたのでは?」 だとしたら、謝らなくてはなりません。 そう言いながらも、劉備の滑り落ちる指は止まらない。整えた衣の上から、僅かだが布地を押し上げている胸の粒を、その上から押し込んだ。 「――っぅん」 小さいが、はっきりとした喘ぎが上がる。慌てたように、曹操は劉備の問い掛けに答えた。 「無理はしておらん。具合も悪いわけではない」 「ならば?」 さらに強く粒を押し込み、静かに転がした。 「その指を、止めろ……っ」 苦しそうに、曹操は制止の声を出す。 「申し訳ありません」 素直に、劉備は指を離した。なのに、曹操の瞳には明らかに落胆の色が覗けた。 それをしっかりと見届けてから、劉備は踵を返したのだった。 |
目次 次へ |