「愛か恋か【LOVE】〜甘すぎて困る〜 後編」
曖昧な5つの言葉 より
馬超×劉備


「……っ馬超?」
「本当に、そうか?」
 胸元から顔が離れ、馬超に覗き込まれる。真剣な眼差しが劉備を見下ろしていた。
「俺を受け入れてくれるか」
「……もちろんだ」
 真摯な光に気圧されるように、しかしようやく心を開いてくれるか、と嬉しくなり、笑う。笑った口を、何かに塞がれた。
「――っ?」
 近くに、馬超の精悍な顔造りがある。何をされたのか理解できず、笑顔のまま固まった。口を塞いだ感触はしばらく経ってから離れたが、劉備は動けずに、やけに真剣な顔付きの馬超を見上げていた。
「劉備殿」
 掠れた声で呼ばれる。頬を撫でられて、馬超の顔が近付いてきた。
「お……っん」
 お前、何のつもりだ、という言葉は再び口を塞がれて途切れる。うななっ……っと心中叫び声を上げ、目を見開く。馬超が何をして、劉備が何をされているか、ようやく理解した。
「こ、ら……っ、馬超!」
 思い切り顔を押しやって、馬超からの口寄せをほどく。頬が熱い。重なっていた唇を急いで拭い、睨み付けた。
「阿呆! 何をする!」
「どんな俺でも、受け入れてくれるのだろう」
 精悍な顔が必死さに歪んでいる。
「だからって、お前、こういうことじゃないだろう。溜まっているなら私じゃなく、女を抱けば……」
「そうじゃない! 俺は、あんたが良いんだ!」
「何を……」
 固く抱きすくめられて、言葉を失う。衣を通して、やけに熱い体温を発している馬超の肢体にどきり、とする。耳の傍で、馬超が言う。
「あんたに、劉備殿には会ったときから情けないところばかり見せていて、もうこれ以上は見せたくない、と。強い俺だけを見て欲しい、と思っていたのに」
 炯々とした目の光は、降伏を迫ったときと同じ輝きだ。もうこれ以上己を貶めるような真似を許してはおけない、という敵愾心と、しかし休める場所が欲しい、拒絶して欲しくない、と無心に訴えている、相反する思いが混じり合っている双眸だった。
 だから馬超は必要以上に劉備の存在に怯えるように驚き、避ける素振りすら見せた。自分でも、自分の想いにどう折り合いを付けていいのか分からなかったのだ。
「それに、二人きりになってしまえば、自分の気持ちを抑えられないことも分かっていた」
 同衾をあれほど嫌がったのも、そのせいなのか。
「なのに、あんたは……俺の心を揺さぶるような真似ばかりして」
 震える息が耳元に吹きかかる。気付けば両肩も小刻みに震えているではないか。
「馬超……」
 抱き返していた。
 馬超にとって、この告白がすべてをかけているものだと理解できた。もしも劉備に拒絶されれば、またこの男は放浪の身だ。劉備が追い出さないにしても、もう二度とここでは居場所を見つけることなど出来ないだろう。
 その恐怖を抑え込んでの、衝動的にしても、胸の内を晒してきたのだ。
「私は、男だぞ」
「関係ない」
「お前より、年上だぞ。それこそ、父親でも良いぐらい離れている」
「知っている」
 それでも、好きだ、と馬超は顔を上げて搾り出すように言う。
 ああ、そんな泣きそうな顔をするな、阿呆。
 馬超を想う気持ちが父性から来るのか、恋情から来るのか、いまこの場では分かりかねるが、泣きそうな男を見て突き放す気には到底なれなかった。
 甘いなぁ……。
 私はこいつに対して甘すぎるのかもしれん。
 苦笑している劉備を見て、何を感じ取っているのか、馬超はじっと見下ろしている。口を開きかけた馬超より先に言う。
「途中で気持ち悪くなったり、痛かったら、容赦なくお前を殴ってやめさせるからな」
「……そ、れは」
 劉備の言った意味がすぐには理解できなかったのか、戸惑ったように眉をひそめた馬超へ、劉備は軽く、額と額をぶつけて促す。
「私の気が変わらんうちに早くしろ」
 ごん、と軽くだったわりにイイ音がした額を馬超は押さえたが、ようやく意味を解したらしく、喜びと緊張がない交ぜになったような顔付きに変化した。
「気持ち良くて蕩けるぐらいにしてやる」
「それはまた、大きく出たな。馬超は男との経験があるのか?」
「ない。ないが、誠心誠意やる」
 妙な自信家で、思い込んだら真っ直ぐで、道理で張飛と気が合うはずで、だからか劉備も嫌いになれないどころか、こうして身体を許してもいいか、という気になるのかもしれない。
 まさに、お前の人徳だろう。
 どれほどの艱苦(かんく)に遭おうとも、この男を見放さず従ってきた大勢の一族や兵士たちも、きっとこの男の人徳に感じ入っていたからだ。馬岱とて、馬超を慕っているからこそ思い切り叱るのだ。
 お前は愛されているな。
 微笑むと、劉備の笑顔に安心したのか、馬超の顔が下りて来て、唇を塞いだ。先ほどは驚いて感じ取る暇もなかった唇の柔らかさが劉備に触れる。
 頬に添えられていた手が耳たぶや首筋を撫で、唇は貪るように深く重ねられた。小さな息が鼻から漏れると、煽られたように舌が挿し込まれた。
 男の肢体に宿っている体温そのものの熱い舌に口腔を擽られて、ぞわり、と襟足の辺りが総毛立つ。気持ち悪いのではなく、気持ちが良いからで、嫌悪感はないだろう、と想像していたものの、自分の反応の良さに劉備は戸惑った。
 舌に絡め取られると、痺れるような甘さが口腔に広がる。こちらからも舌を追い求め、絡み合わせると、劉備を抱き締める腕に力が籠もった。
 口付けられたときに反射的に瞑っていた瞼を薄く開いて男の様子を窺えば、真っ直ぐに劉備を見つめている視線がある。
 かっ、と頬が熱くなった。羞恥が湧いて、男の視線から逃れるようにまた目を瞑るが、射抜かれたような視線の強さは瞼の裏に焼き付く。
 舌を軽く噛まれて、身体が跳ねた。頬や首筋を撫でていた手は下りていき、胸の周りや脇腹、腿を撫で始める。薄めの寝衣だったせいか、衣の上からでも手のひらの動きは鮮明に感じ取れた。
 唇が離れると、息を詰めていたことを思い出して、大きく嘆息を吐き出した。唇は滑るように頬へ触れて、額や瞼、顔のあちこちを柔らかく啄ばむ。
 くすぐったさと面映さに身を捩るが、馬超の想いが滲むようで胸は温かい。
 耳の縁に口付けられて、あ、と声が上がる。びくっと、むしろ馬超のほうが驚いたように顔を上げるが、唇に笑いを滲ませて、また耳に寄った。
「劉備殿は、ここが感じられるか」
「……」
 顔を背けて熱くなった頬を隠そうとするが、指摘された弱点を相手の眼前に晒すことになり、唇に食まれてまた声を上げる。
 反射的に身体の下にある掛け布を捉えて掴むが、舌でなぞられて跳ねる身体を押さえられるものではない。
「ぅ……んっ」
 耳に気を取られている間に、衣の脇から手が差し込まれて素肌を撫でられた。思わず逃げを打とうとした気配を察してか、馬超が声をかけた。
「気持ち悪いか?」
 不安に彩られた声音に、身体の力を抜く。いや、と首を横へ振れば、あからさまにほっとした様子を見せる。帯を解かれて、上半身を剥き出しにされた。
 指が胸のただの飾りを転がす。くすり、と笑う。
「男だから、あまり感じぬぞ」
「まったく感じないわけではないなら、有効だ」
 確かにそうだ。事実、くすぐったさと僅かな快さは覚える。反対側の飾りは口腔に含まれて、舌で揺すられる。じん、と仄かに悦が滲む。掴んでいた掛け布に力が籠もった。強く吸われて、小さな声が漏れる。膨らんだ飾りを舌が丹念に舐めると、明らかに快感と分かる痺れが背筋を走った。
 空いている手が内腿の際どいところを撫でていくと、胸の悦と混じって劉備の息を詰めさせた。
「気持ち良いか?」
 頷くには羞恥が先んじたが、また男を不安にさせるのだろう、と思い直して、小さく顎を引く。そうか、と嬉しそうに笑う馬超が、妙に可愛い。
 男を可愛いと思うなんぞ、歳を取った証拠か?
 内心、苦笑をしてしまうが、胸から離れて全身のあちこちを唇や手のひらで、劉備の感じるところを熱心に探ろうとしている馬超に身を任す。
「ん、ぅ……」
 身体のあちこちをまさぐる馬超の手に、悦よりは求められている、という心地良さが強かったが、その手が下肢に触れてくると、さすがに悦が上回った。
 薄い寝衣の上から幾度か撫でられると、降り積もっていた悦が崩れ出すように、一息に劉備を押し潰す。馬超の手のひらの中で育った下肢は、布地の中で苦しそうだった。察した馬超が手早く抜き出して、直接握り込む。
「ぁあ……っ」
 自分でも驚くほど甘い声が溢れた。様子を窺いながら、こちらを(おもんばか)る眼差しをしていた馬超の瞳の色に、劣情が過ぎった。
「気持ち良いのか」
「分かるだろう……!」
 こういうとき、男は分かり易すぎて隠しようがない。
「馬超こそ、私ばかり気持ち良くさせて、自分はいいのか」
「劉備殿が気持ち良くなっている姿を見ていると、興奮するからな」
「〜〜っ」
 いちいち、言うことが真っ直ぐ過ぎて羞恥を煽られるのだが、たぶんこの男は相手の羞恥を煽るとか、そういうことは考えていないのだ。
 握り込まれた手のひらを動かされて、直接の刺激に身体が感じ入る。同性ゆえの的確な箇所を責める動きに、容易く溺れてしまう。
「っひ、ぁ……ん」
 掛け布を強く引き、悶える。寝台の上で身悶える劉備を掻き抱くように馬超の腕が腰に回り、強く抱き寄せる。顔が首筋に埋もれて、肌のあちこちに唇が触れた。
 腿の辺りに硬いものが当たり、男の雄身だと気付く。馬超も劉備の乱れる姿で感じ入っているのだ。
 自分ばかりが気持ち良くなって、不公平ではないか、と少し思う。
「ば、ちょう……、私ばかりではなく、お前も……」
「だが、まずは劉備殿のイクところが見たい」
「阿呆!」
 思わず怒鳴る。頬が赤くなった自覚がある。睨み付けて叩いてやろうとしたが、唇を塞がれた。軽い口寄せで終わったが、劉備の気勢をそぐには十分だ。
寝衣がすべて脱がされる。動きの早まった手の動きに、悦が腰の辺りから背筋へと駆け上がっていく。
「あぁ……っう、ん……もっ」
 強く、掛け布を掴んだ。仰け反り、馬超の手のひらへ欲を吐き出した。あぁ、と嘆息をこぼして吐精の余韻に浸る。
 頬に口付けられて、薄く目を開く。嬉しそうにしている馬超の顔を見つけ、苦笑いが浮かぶ。
「男のイクところを見て喜ぶな」
 力の入らない手で頭を叩いてやると、ますます嬉しそうに笑うものだから、苦笑いはただの笑いに変わってしまう。
「ほら、今度こそお前が気持ち良くなれ」
「分かった」
 頷いた馬超は、手のひらに受け止めたらしい劉備の残滓を後孔へと塗り付けた。ぞわっと、違和感が全身を襲う。逃げ出したいような心地になるが、馬超の真剣な顔を見て思い留まった。
 きつい窄みを宥めるように、そっと指が挿し込まれる。劉備が言った、気持ち悪かったり痛かったりしたらやめさせる、という言葉を真に受けているのだろう。男に似合わないほどの慎重さで、おかげで違和感はあるものの、大して痛くはない。
 窺うような視線に小さく頷いて見せて、安心させるように全身から力を抜いて、男に身を委ねる。
 指はゆっくりと劉備の体内(なか)を割り、深くまで挿し込まれる。繋がるためにほぐさなくてはならないのは、劉備とて理解していた。それでも、中を掻き混ぜられ、拡げられるような感触には辟易する。
 眉をひそめてしまったのを見咎めたのか、馬超は思い出したように口付けたり、まだうな垂れている劉備の下肢を愛撫したりする。
 くちり、と音を立てて指が深いところと浅いところを行き来し始めると、あ、と勝手に声が出た。
 指がある一点に触れたとき、痛みにも似た悦が内側から突き上げたのだ。劉備の声に驚いたのか、馬超がじっと見下ろしてきた。しかし、痛がっているのではない、と分かると、先ほどと同じ場所で指を動かして、劉備の声が上がった箇所を探し出そうとした。
「んんっ……そこっ……」
 指に捉えられた瞬間、切ないような甘いような、触れて欲しくないような感覚が噴き出た。快感だと分かるのだが、今まで味わったことのない種類で、どこか怖くもあった。
「ここか?」
 確認しつつ、馬超の指が突く。
「や……あぁ、ぅあ」
 身体が勝手に跳ねる。劉備の様子が明らかに変化したことで、馬超は確信したらしく、集中的に責めてきた。ああ、嫌だ、と寝具を引いて悶えるのだが、馬超はそんな劉備の有様に興奮したらしく、容赦なく指で掻き乱す。
「あっ……は、ぁ……や、め……ぃやっぁ」
 かかとが寝台を蹴って、滑っていく。浮いた足を掴まれて、大きく開かれた。ますます指は本数を増やして劉備を乱す。
 すでに思考など散り散りで、ただ喘ぐしか出来ない。ようやく指が引き抜かれたときには、全身から汗が滲んでいて、息は弾んでいた。
「入れるが」
 黙って頷いた。
「痛いと思う……」
「その後、もっと気持ち良くさせろ」
 不安がる馬超の背中に腕を回して、促す。神妙な面容で頷いた男に笑みがこぼれる。足を開かれて、衣を肌蹴た馬超が雄身を抜き出した。宛がわれると、雄身の熱さに小さく息が溢れた。
 腰が押し進められると、圧迫感に身体が浮く。背中に回した腕に力を込めて、男の体から離れないように図る。知らずに息を詰めていたらしく、すっと唇を吸われて気付く。
 力を抜いて、男が身を沈めるのに任せる。
 さすがに痛みが激しく、嫌な汗が滲んでくるが、堪えると、ぐちり、と男の先端が潜り込んだ。
「っは――」
 鋭い息が吐き出されて、男の背中に爪を立てた。はっとして力を緩めるが、構わない、と促される。
「だが……」
 ためらうと、良いから、とばかりに潜り込んだ雄身で中を擦り上げて奥へと沈んでくるものだから、なお背中の肉に爪を立てることになる。
 最奥まで雄身を受け止めた衝撃で小刻みに震えている身体を、馬超は労わるように抱き締めた。
「大丈夫か?」
「何とか、な」
 ほっとしたように馬超の表情が緩む。頬を撫でられて、愛しむような眼差しを向けられると、無性に気恥ずかしい。この歳で、男に抱かれるようなことになるとは思わなかったが、誰かから真っ直ぐにぶつけられる心は快い。
 劉備が慣れるのを待ってから、馬超は動き出す。引きつるような痛みでしばらくは苦しかったが、先ほど指で散々突かれた悦を押し込まれ、狙われると、何も考えられないほどの快感が劉備を襲う。
「ばちょ……ぅ、そこっ、は」
「イイんだろう?」
 好いのだが、頭の中まで乱されるようで、心臓とともに痛いぐらいなのだ。自分がどこかへ行ってしまいそうで、鍛えられた背中にしっかりしがみ付く。
「劉備……っ」
 それが嬉しかったのか、馬超は集中的に悦を責めてきて、抉るように硬い切っ先で突くので、劉備はあられもなく声を弾ませる。
「そこ、ばかりっ……ぃや……ぅん、んっー」
 首を振って身を捩り、男の下から逃げ出そうとまでするが、強引に唇を塞がれて、抱きすくめられてしまう。馬超が動くたびに、二人の間に挟まれた自分の下肢が水音を立てる。激しい悦楽に再び兆し、雫をこぼし始めていたのだ。
「ぅふ……っうぅ……んんっ」
 くぐもった喘ぎを上げ、舌を絡め取られて夢中で合わせる。甘くて焼けそうな快感が口腔からも内側からも、馬超と繋がっている箇所すべてから噴き出してくる。
 唇が解け、大きく息を荒げて喘ぐ。
「馬超っ……馬超……っ」
 切っ先が悦と言わず奥も激しく求めてくると、劉備はただ男の名を呼ぶことしか出来なくなる。
「孟起で、いい」
 弾む息の下から、馬超が言う。孟起、と呼んでくれ、と再度言う。
「も、き……っ」
「劉備殿っ」
 腰を掴まれて、さらに深々と雄身を穿たれる。仰け反り、男を受け止めて、劉備は呼ぶ。
「孟起――」
 眩むような白い視界が劉備を覆い、劉備の欲と、馬超の欲が吐き出されたのは、すぐだった。


 * * * * *


 回廊を歩きながら諸葛亮が、今日の日程を説明しているのを右から左へ聞き流していた。ふと中庭へ目を転じると、馬超が趙雲を呼び止めているところを見つける。
 足を止めて眺めていると、馬超が思い切り良く頭を下げた。趙雲は驚いたように馬超の肩を叩いて止めていたが、中々頭は上がらない。
 苦笑した趙雲が、何かを話している。ぱっと顔を上げて、馬超は屈託なく笑って頷く。
 今思えば、馬超が趙雲に食って掛かるような真似をしたのは、劉備への想いがあったからだろう。
「和解したのですかね」
 劉備が足を止めたので一緒に足を止めて成り行きを見守っていた諸葛亮が呟く。
「謝罪の代わりに、趙雲殿は演習を約束させたようですね。お二人の軍で演習をされたら、もっと我が軍は強くなれますし、良いことです」
「……お前、今の会話、聞こえたのか」
「唇の動きで分かるではありませんか。殿はお出来にならないのですか?」
 羽扇を揺らしながら平然と答える若い軍師の顔をちらり、と見て、怖い怖い、と首を竦める。
「しかし馬超殿は、ここ数日で何か吹っ切れたように屈託がなくなりましたね」
 何かなさいました、と視線を送ってきたので、胸を張る。
「たまには、私だって君主らしいことをするのだぞ」
「たまには、とご自分でおっしゃるあたり、自覚があって、実に厄介です」
 呆れたように大仰なため息を吐かれた。
「殿は、馬超殿のこと、どう思われます」
「ど、どうって! む、息子みたいなものだぞ!」
 鋭い軍師に同衾のことを見透かされたのか、とどきん、として慌てて言い訳をした。
「なぜそのように動揺されるのですか。ああ、まあそうですか。そういうことではなくて、人柄を確認したかったのですけども」
「なんだ、それならそうと」
「もっとも、あの調子ならもう心配はなさそうですね」
「そうだな!」
「……なんだか、先ほどから不自然ですねえ」
 胡乱な目付きで眺めてくる諸葛亮の視線から逃れつつ、劉備は肩を並べて歩いていく二人の姿を見つめる。
 息子……みたいなのか、想い人……みたいなのか。
 正直、劉備の中では答えはいまいち出ないのだが、馬超は想いを告げたことで幾分かすっきりして、割り切ったようだ。
「殿は、ご子息に対して甘過ぎますから、若様だけでなく、馬超殿も息子だ、とおっしゃるなら、しっかり面倒を見てくださいよ」
 いつものように説教に移行しそうな諸葛亮に笑いかけて、そうだな、と誤魔化す。
 本当に、私はあいつに甘いからなあ。
『劉備殿が良ければ、また、同衾しても良いだろうか』
 訊かれて、ああ、と頷いた自分を思い出して、苦笑する。
「甘すぎて、困るな」
 呟くと、聞こえたわけでもないだろうが、馬超が振り返って、劉備を見止めたようだ。
 笑顔で拱手した馬超へと、劉備も笑顔で手を上げた。



 おしまい





 あとがき

 同人誌からの再録でした。
 無双の馬超を本格的に書いたのは、このお話が最初でした。
 再録にあたり読み返すと、面白いですねぎごちなさが(笑)。

 あと、創作馬岱の捉え方が、無双6より参戦した馬岱によく似ていて、
 つまりみんな、馬超の傍で苦労している人っていうイメージなんだなあ、と。

 そんな思い出やら感慨に浸りつつ、同人誌のあとがきには、
 年下の男の子の良さを詰め込んだ、とか書いてあります(笑)。

 初めて読んだ方が少しでも楽しんでくれていたなら幸いです。

 2010年12月発行
 劉備短編集「曖昧な5つの言葉」うち、馬超×劉備 より



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