「饅頭とタレのラプソディー 2」
諸葛亮×劉備


 げえぇえーー!
 反射的に人質のことも忘れて諸葛亮の身体を押しやろうとしたが、先ほどの整体が効いているのか叶わず、諸葛亮の体重を預けられて倒れ込む。
「うむむー、むーっ」
 叫ぶ声も虚しくくぐもる。離せ離せ、とばかりに肩に手を当てて突っぱねたり、髪を引っ張ってみたりしてもびくともしない。せめてこれ以上の侵入を許してなるものか、と歯を食いしばる。
 案の定、敵は攻めあぐねて舌を歯列の前で右往左往させるばかりだ。
 くかかかっ、どうでえい、と勝ち誇ったのもつかの間、またしても諸葛亮の瞳が妖しげな光を灯す。
「んぐうっ?」
 人質の息子が悲鳴を上げて助けを求めてきた。にた〜、と諸葛亮の双眸が勝利の確信を浮かべて弧を描く。
 ひでえ、と泣きながら顎から力を抜いた。防壁はあっさりと崩され、舌は口腔へと侵入を果たす。恐らく、ここで大人しく降伏せずに、侵入してきた敵に牙を立てるなどということをすれば、人質はただではすまないのだろう。
 ちくしょう、と思いながら諸葛亮の舌を迎え入れた。
 乱暴な手段で入城を果たした敵だったが、奥に匿われていた主には物腰柔らかく手を差し伸べてきた。
 騙されねえぞ、こいつは男だ、男だ……。
 しかし差し伸べられた手に掴まれば、柔らかく暖かな感触は(おんな)と変わらず、抱き止められて包まれれば腰砕けに身を預けてしまう。
 同時に、人質だった息子も手厚い歓迎を受け、劉備は落城を防げない。
 ついには瞼を落として視界から諸葛亮を追い出せば、身体は素直なまでに快感に降伏した。
「ぅん……ん……ふ」
 あー、おいらってこんな節操なしだったっけ。
 張飛が聞けば、今さらだ、と吼えるところだ。
 いや〜、違う。こいつが巧すぎるのがいけねえんだ。なんか、おかしいぐらいに人の弱いところが分かってやがる。気持ちよすぎる。
 舌だけでなく、口腔の隅々までを舌で蹂躙され、劉備は甘い痺れすら覚えていた。
 密着したせいで諸葛亮から漂う匂いが濃厚になっている。一時は頭が痛くなるほどだったが、今では霞がかかったかのように思考を鈍らせている。
 ちく、ちゅく、と舌が絡み合う音が耳に届いた。
 男と舌ぁ絡ませてるなんてよぉ、と未だに嫌悪感が混じるが、もう抵抗する気は失せていた。
 舌だけでなく、雄身を握る指先も巧みだ。一気に高みへと持ち上げることはせず、快感が長続きするようにじわじわと悦楽を引き出している。
 唇が唐突に離れた。
「っぁは……はぁ、はぁ」
 繋がりあった証に伸びた舌から唾液の糸が走り、劉備と諸葛亮を結んでいた。
「そのような顔をなさると、私も流れの整え甲斐があるというものです」
 ようやく機嫌が良くなったのか、いつもの口調で諸葛亮が笑った。切れた唾液を舌で舐め、濡れそぼったままの唇を劉備の首筋へ這わした。びくっと身体が跳ねる。
 肩口から一気に衣を剥ぎ取られ、胸元を露わにさせられる。
「ああ、こんなに感じられていたのですね。玄徳様、けっこう可愛いところがあるのですねえ」
 諸葛亮の視線から、それがいつの間にか尖っていた乳頭のことだと知れて、劉備は顔を熱くする。
「じゃっかあしい! そんなの、条件反射だ!」
「そうだとしても……感じてくれていることは嬉しいです」
 ちゅっ、と乳頭を吸われ、ひぃっと悲鳴じみた声を上げる。
「そこはいいって。女じゃねえんだから」
「ですが、存分に交わらないと崩れてしまった正と奇は元に戻りません」
 この際、正と奇とかはどうでもいい。劉備としては早くこの拷問が終わってくれればそれでいいのだ。
 身体は快感を得ていようとも、精神は未だに納得しておらず、責め苦を味わっている気分のままだ。
 こういうとき、治まりを知らない自分の身体が恨めしい。
 舌が尖っている乳頭を舐める。
 うひ、とまた妙な声を上げる。くすぐったいような気持ちいいような、変な感じだ。同じく尖っているもう片方には指が伸ばされて、転がされる。
「ん……」
 不味い、こっちはちょっと気持ちがいい。
 思わず女みたいな声が出て、劉備は慌てる。
 両方の乳頭を舌と指で。そして雄身はずっと諸葛亮の手で扱かれている。三点からくる快感に拒み続けられるはずもなく、劉備の息は上がる。
 つつ、と乳頭をしゃぶっていた唇が鳩尾を通り、臍の上まで降りる。下腹まで滑ってきたときには、何をされるか察したが、劉備は抗わなかった。
「んん……はっ」
 再び、諸葛亮の口腔へ迎え入れられた雄身に、今度は素直な快感が全身を包む。堪らず、押し殺し切れなかった喘ぎが漏れる。
 口腔を蹂躙しただけであれだけの悦楽を生み出した舌が、雄身に纏わりつくのだ。劉備の声を色めいたものに変えることも容易かった。
 溺れるように諸葛亮の口淫に沈む劉備は、不意に自分を襲った違和感に反応が遅れた。
「んあっ? ……ちょっ、孔明、おめえどこに指を……って」
 あいたー、と世にも悲痛な叫びを上げる。
 何せ、肛門に指が突っ込まれた、と驚き、身をよじったところを諸葛亮は抵抗した、と見なしたのか、咥えられたままの息子に軽く歯を立ててきたのだ。
「おめえがいきなり指をんなところへ入れようとするから、動いただけだ」
 劉備が言い訳すれば、すぐに息子への危害はやめてくれたものの、今ので少し元気を失ってしまった。
「男は陰茎からだけでなく、肛門からも法悦を得られるのですが、ご存知ありませんか」
 そのぐらいは劉備とて知っている。知っているがいざ我が身となれば拒絶反応が出まくりだ。鳥肌が立っている腕をちらっと見た。
「そっちはいいって」
「ですが、せっかく指が入ったことですし」
「せっかくも何も……っ〜」
 半端に潜り込んでいた指がぐぐっと押し入ってきた。逃げようと身を起こしかけるが、悲しいかな息子が諸葛亮の口の中だ。
 がっくりと諦めて全身を弛緩させる劉備だったが、指がこじ開ける感触には意思とは関係なしに身体が強張ってしまう。そこを諸葛亮の口淫が上手く誘導を図り、劉備の無駄な力を抜かさせる。
 全くこいつときたら、何もかもが達者で。
 半ば感心、半ば呆れて劉備は体内の異物感に耐える。
「ひょのひぇんらんれふへろ」
 だから、人の息子を咥えながらしゃべるなっちゅうの。
(意訳・『この辺なんですけど』)
 諸葛亮の指が何かを捉えたらしく、動きを止めた。違和感が劉備を包み、指が強くそこを押し上げた途端、声と身体が跳ねた。
「あ……っ?」
 諸葛亮の口腔で雄身が膨れたのが分かった。
「な……ぁ、孔明……おめ、え……これ……ひぁ」
 初めの頃の、ツボを押すかのように諸葛亮の指は劉備の中の何かを刺激する。
 あ、あ……、と断続的に劉備は喘ぐ。
 なんだぁ、これ、駄目だ、やめろぉ……。
「変、変だ……っ……気持ち、よすぎ……んあっ」
 指が中の壁を押し込むたびに、劉備の身体は勝手に跳ねる。同時に声が聞いたこともないように高く艶めく。
 ガクガクと腰が震える。
 下腹の裏側が熱くなり、精が噴き上がるのを抑え切れない。
「はえぇ……こうめ……っ」
 普段より圧倒的に早く限界が訪れたことに焦る。指が二本に増やされて、さらに悦楽が鋭くなる。
 いつまでも雄身を咥えている諸葛亮の頭を何とか引き剥がそうとする。構いませんよ、という顔をしているが、劉備としては「はい、そうですか」というわけにはいかない。
 渾身の力を振り絞って、雄身から顔を上げさせるが、僅かに遅かった。
「く……っはぁ」
 諸葛亮の口から弾けるように飛び出した雄身から、精が溢れる。そのまま溢れた精は諸葛亮の顔を汚してしまう。
「あ、はあ、はあ……」
 強烈な射精感から抜け出るまでしばらくかかったが、我に返ると同時に、焦って諸葛亮に謝る。諸葛亮の整った顔(おかしな奴だが、顔だけはいいよな、と劉備は思っている)を汚す白濁した液体に居た堪れなくなる。
「すまねえ、孔明」
 急いで起き上がり、傍に脱ぎ散らかした自分の衣で顔を拭おうとする。だが、諸葛亮は劉備の手を取り上げた。
「構わなかったのに。玄徳様の子が詰まったものですよ?」
「そりゃあそうかもしれねえが、男とヤッてるかぎり、関係ねえだろう」
 強引に諸葛亮の顔を綺麗にする。
「面白い人ですね。あれほど私と交わるのを嫌がっていたのに、私自身を嫌うでもなく、気遣ってくれもする」
「そりゃあ、おめえに悪気があるわけじゃねえからな」
 やり方がおかしいだけで、諸葛亮に悪意がないのは劉備とて理解している。
「変態でおいらには理解に苦しむところも多いけど、おめえは……そうだな、なんか子供(ガキ)みてえだからかな。放っておけなくなる」
 精を吐き出したせいか、少しすっきりした劉備は冷静さを取り戻して笑う。なぜか、諸葛亮は虚を衝かれた顔をして、視線を俯かせた。
「どうしたい」
 訊けば、胸に手を当てたまま黙り込む。
 なんだ、こいつは、とまた劉備は諸葛亮が分からなくなってしまう。
 しかし、ふと諸葛亮の視線を追い、男の股間に目をやれば、げげっと呻く光景があった。
 衣を押し上げてそそり立つ影を見せている諸葛亮の一物があるではないか。
 だけど、このでかさだけは餓鬼とは違うぜ、といや〜なものを目にしてしまった劉備は思う。
「……孔明?」
 刺激しないようにそっと呼びかけると、ようやく諸葛亮は目を向けた。にこり、と笑う顔は何を考えているのか劉備には読めない。
「では、そろそろ玄徳様の流れを整えますから」
「整える、整えるってさっきからおめえはそういうが、今までのは違うのか」
「もちろん、その一環です。しかし、最後の仕上げはやはり私のインケイで玄徳様の流れを正しく循環させます」
 いんけい……。
 咄嗟に字が思い浮かばす、劉備は固まるが、漢字が浮かんだ瞬間、どっと汗が吹き出た。
「ってえと、何か。俺におめえの陰茎(ナニ)を入れるってことか?」
 はい、と満面の笑みで頷かれた。
「だあーー、無理、無理無理無理、ぜってえーに無理!!」
 おいら、おいらが入れる側になるから、ほんと、いや、もうだから、やめろって!
 色々喚いたが、諸葛亮に譲る気は全くなさそうだ。
「流れを戻すには、人の精を受け止めることが必須です。閨房術(けいぼうじゅつ)というのは、心身の流れを活性化、整えるためにも考え、研究されているのです」
 ご存じないのですか。
「あろうがなかろうが、おいらの知ったこっちゃねえ」
 とにかく、あんなでけえもんをおいらの中に入れられちゃ、死んじまうっての!
 初めて諸葛亮と逢ったときしかり。
 のちに関羽や張飛と連れションしたときもしかり。
 幾度か見たくもなかったが見せられたときの、あの臨戦態勢の諸葛亮のものと来たら……。
 恐ろしい。
 絶対にあんなものが入るはずがねえって。
「ですから、玄徳様が入れては意味がないのです」
 何やらにこやかに説明されているのだが、劉備は現状からどう逃げ出そうか考えるのに必死だった。
「もう、もう寝られそうだから、もういいわ。助かった、助かったぜ、孔明」
「嘘つかなくてもいいですよ。私と玄徳様はタレとまんじゅ……いえ、水と魚、お互いになくてはならない存在なのですから。遠慮なさることはありません」
「だから、遠慮じゃなくてだな。おいらの中にそんなものが入るはずねえだろうが!」
 言い切ってしまう。
「ですが、玄徳様はすでに私の指を二本まで入れられることができましたよ?」
 きょとん、として言われて、劉備は全身を熱くさせた。
「いちいち言うな、ばっきゃろー。おめえは指と自分のナニが一緒の大きさだって言うのか!」
「それはそうですが。玄徳様の嚢は何でも入るのでしょう? なら私のも平気です」
「おいらの嚢におめえの汚らしいナニを入れようとするな! それにおいらの嚢とケツの穴はまったく別もんだ」
「汚らしいとは失礼な。第一、玄徳様にだって同じものがついているのに」
 頬を膨らました諸葛亮は、ほら、と劉備の息子を握ってみせる。
「いちいち人の息子を掴んで説明すんなっての」
 とにかく、無理なもんは無理!
 と突っぱねたが、不意に今の今まで不満そうにしていただけの諸葛亮が、ポロポロと涙をこぼし始めたので、ぎょっとした。
「なな、なんだってんだよ」
「だって、玄徳様、入れてくれないって」
 ボロボロ泣きながら諸葛亮は言う。
「玄徳様、私が嚢の中に居なかったって。だから、せめて身体ぐらいは玄徳様の中がどうなっているのか、入ってみたかったのに」
「……あれは、良い意味で言ったんだぜ?」
 嚢に収まり切らない妖しさが、天を掴むために必要だ、と見極めたがゆえだ。
「別におめえをないがしろにしているとか、そういうんじゃ……って、おめえそういうことか?」
 拗ねてんのか。
 おいらの中におめえが居なかったっていうあの言葉に、拗ねてたのか。
「それだけじゃないですけど……」
 ぐすぐす、と鼻を啜りながら(きたねえ、と思った)諸葛亮は説明する。
「……あー、分かった分かったって。よし、おいらも男だ。おめえのナニぐらいど〜ん、と受け止めてやるぜ」
 つい、いつもの侠気に駆られ、宣言してしまう。
 何せ、大男がぐずぐず泣いている光景が、普通なら気色悪い、と一刀両断するところを、どうしてか仕方がねえなぁ、と思ってしまったのだ。
 なんだかんだ言いつつもおいら、こいつのこと気に入り始めてんだよなぁ。
「玄徳様!」
 諸葛亮はぱあっと笑顔を咲かせた。
 なんでえ、なんでえ、良い顔で笑いやがって。
 迂闊にも、可愛いな、とまで思ってしまった。
 では、うつ伏せになってお尻を私に向けてください、と言われ、劉備は緊張する。力を抜いておいてくださいね。知っての通り私の陰茎は大きいですから、うっかりすると玄徳様の入り口が切れてしまうかもしれませんし。などと言いながら、諸葛亮はするすると衣を脱いだ。
 おめえこそ、もっと綺麗な言葉にできねえのか。んな、あけすけに言いやがって。つか、入り口じゃねえっての。
 あれこれ文句を付けたくなったが、また泣かれても困る。黙って諸葛亮の指示に従った。
 四つん這いのような格好になり、劉備はすーはー、と深呼吸を繰り返す。それから頭だけ回して、にかり、と笑った。ただし、幾分引き攣っていたが。
「よっしゃ、来い、孔明」
 はぁい、と気軽な調子で答えられて気持ちが萎えそうになるが、嬉しそうな顔を見るにつけ、やっぱり餓鬼みてえだ、と思った。
 腰を掴まれて、尻たぶの隙間に諸葛亮の陰茎が押し付けられた。
 びくん、と身体が竦んだのはこれから訪れる苦悶の時間を思ってか、それとも武者震いか、はたまたもしかしたら激しい快感を期待してのことだったのか。
 ふわり、と諸葛亮が背中に覆い被さったのが伝わる。
 時々、諸葛亮は人の重さを感じさせないときがある。雲のように、漂う風のように、人ならざるものであるかのように感じる。
 今も、そうだ。
 腰を掴んでいた手は胸元へ回された。
 愛撫のためではないようで、掌を劉備の胸板にぴたりと合わせた。
「緊張しておられますね」
 耳たぶに息がかかる。ぞくり、と背筋が疼いた。
「どくどく、と玄徳様の心臓が奏でている音が早い」
「そりゃ、おめえも同じみてえだが?」
 密着した背中から、諸葛亮の鼓動も伝わっている。
 言われて気付いた、という具合に諸葛亮の動きが止まる。
 本当です、と小さく笑う声がまた耳元でした。
 すると、先ほどまで軽く感じていた諸葛亮の存在感が重みを増して背中を圧迫する。それが心地良い。
 諸葛亮の腰が蠢いて、狙いを定める気配がする。
 固く灼熱のような兇器と言わんばかりの切っ先が、体内を割ろうと押し入ってきた。
「……っあ、ぐ……っうあ」
 思わず呻き、両の手は敷き布を強く握り締めていた。
 無理、やっぱ無理。どう考えてもあんなもんがおいらの中に入るはずがねえ。
「こう、め……ちょっと、タンマ……」
 急いで制止しようとしたが、
「力、抜いて」
 吐息混じりに耳のこそばゆくなるところへ諸葛亮が囁く。
 途端に操られるように力が抜ける。入るはずがない、と思っていた切っ先が嘘のように劉備を軽々と割った。
 呼吸の妙、というやつなのだろうか。
 目一杯に拡げられている感覚は苦しいが、痛みは我慢できないほどではない。
「そのまま、ゆっくりと息を吐いてください」
 はあ〜、と息を吐くと余計な力が抜けていく。ず、とさらに諸葛亮が体内に潜り込んできた。嚢の口を絞るように縮まった内側は、諸葛亮の侵入を防ぎたかったのか、それとも内膜をこすられる感触が強烈だったからか。
「き、つ」
 小さく諸葛亮の声が聞こえ、劉備は自分の雄身がずくん、と疼いたのが分かった。張り出した部位が内側に潜む悦を通過したときには甘い戦慄が全身を包んだ。
 奥深くを目指す諸葛亮の陰茎は緩慢ながらも着実にこじ開け、劉備を貫いていく。
 細切れに声が漏れるが、苦悶なのか喘ぎなのか自分でも判別はつかなかった。
 ひたり、と尻たぶに諸葛亮の肌が当たる。ようやく、全てが埋め込まれたらしい。
「玄徳様の(ふくろ)って、結構狭いんですね」
 ぼそり、と諸葛亮が感想を漏らす。
 かっか、と顔が熱くなる。
「だぁほ! だからおいらの嚢とそこを一緒にすんなって言ってんだろう!」
 叫んだ拍子に諸葛亮の陰茎を食い締めてしまい、固さと大きさに呻く。
 うぅ、ばけもんめ……。
 (なじ)る心の声とは別に、内側を圧迫されているせいでひそむ悦の点も押し込まれて、劉備の息子も臨戦態勢だ。
 どくどく、と脈打つ鼓動は背中と体内の両方から伝わっている。少なくとも諸葛亮が人間である証を密に感じ、劉備は安堵する。
「……っひ、あ」
 唐突に、諸葛亮が腰を引いた。大人しく収まっていたときは意識しなかった凶悪な太さが途端、浮上してくる。悦の点をこすり上げられ、ひっ、と声が漏れる。
「まだ動くなって」
「そうですか? あまり長引かせると寝る時間が少なくなりますよ」
 そうだった。
 すったもんだやっている間に、本来の目的をすっかり忘れていた。
「ですが、玄徳様を馬車で運べばいいわけですから、寝過ごしても問題はありませんし」
 じゃあ、じっくりいたしましょうか、と言われて、いややっぱりいい、と返す。これ以上諸葛亮の手管に晒されたら、寝られたとしても次の日、起き上がれる自信がない。
 一思いにやってくれ、と宣言した。殺すわけじゃありませんよ、と呆れたように返されたが、諸葛亮はじゃあ、とばかりに緩やかに腰を動かし始める。
 引き攣れる痛みと拡げられる違和感に四肢は強張るが、諸葛亮の指や舌が胸や首筋など愛撫して、気を散らしてくれる。
 奥深くを小刻みに責められて唸る。頭の中に霞が立ち込めて、諸葛亮の愛撫に全身が快感に煙る。
 内膜からの悦はさほどではないにしても、諸葛亮の鼓動を体内に覚えるのは心地良い。愛しむように撫でる指や舌の動きも快い。
 人と肌を合わせる安心感がそこにはあった。
 うっとり、と諸葛亮の旋律(リズム)に身を委ねて目を瞑る。
 強張っていた体の節々や心のしこりがほぐれていった。
 これが孔明の閨房術の効果ってやつか?
 よく分からなかったが、だとしたらすげえな、と思った。
 気付けば、身体を捻られて諸葛亮と向かい合う形で抱き合っている。唇を吸われて、今度は躊躇(ちゅうちょ)せずに舌を迎え入れる。絡みつかれて、じわり、と広がった甘美に酔い痴れる。
 諸葛亮の背中に腕を回す。鍛えているわけでもなさそうだが、伊達に上背があるわけではないらしく、しっかりとした手ごたえを感じた。
 陰茎が深く奥を突いた。劉備の雄身も諸葛亮の身体にこすられて膨張する。
「ふぅ……」
 くぐもった嬌声を上げた。
 今までのゆったりとした動きとは質を変えてきた。
 動くたびにただこすられるだけで済んでいた中の悦を強く押し上げられる。びくん、と身体は跳ねた。舌が口腔で泳ぎ、深く口内を貪られた。
 ずん、ずん、と最奥を突く諸葛亮の動きに揺さぶられる。意識が弾け飛びそうになり、慌てて目を見開く。まだ重なっていた唇を払いのけて、仰ぎ見る。
「こ、めい……っ」
 声が揺れるのは激しい快感のせいだ。指でいじられていた何倍もの法悦が劉備を焼く。
 二つの眼が見返している。諸葛亮にとってはこの行為が治療の一環である認識は変わらないらしく、情欲を宿していない。涼やかな諸葛亮とは反対に、きっと自分の顔は愉悦で歪んでいるだろう。
 おめえ、少しは人間らしいところがあるかと思ったら……。
 根っこが定まんねえ奴と抱き合ったって、ちっとも愉しくねえ。それがおめえらしくたってな、こんなときぐらいはこっちに降りて来い。
 諸葛亮が突き込むたびにぎしりぎしり、と馬車が軋む音を立てて揺れる。きっと外ではまだ劉備が寝られなくて煩悶している、とでも思っているに違いない。
「孔明……っぐ、ん」
「どうしました、玄徳様?」
 にこにこしながら問い掛ける諸葛亮の顔はあくまで普段どおりだ。憎たらしいぜ、と思いつつ、首根っこを捕まえて引き寄せる。両足を背中へ回し、諸葛亮の顔を胸元へ押し付けた。
 少しは、おめえって奴の中身、ぶちまけてみろってんだ。
 一瞬、抵抗しそうな素振りを見せたが、ぎゅうぎゅうっとさらに力を込めて諸葛亮を抱き締めると、ふっと力が抜けた。
 鼓動が伝わってくる。どっどっどっどっ……と諸葛亮の鼓動だ。
 ただ抱き締めている行為がどれだけ続いただろう。どくり、と一際大きな鼓動が劉備の体内で響いた。陰茎を受け止めている箇所からだ。ぞくっと快感が走った。
 そっと腕の力を解くと、諸葛亮が顔を上げた。
「玄徳様」
 今までのどこかからかい混じりの響きと違う声音が持ち上がる。
 眼を合わせた。
 奇妙な光を諸葛亮は湛えている。確固たる意思を映し、しかしそんな自分に戸惑っているような、揺れ動く様。
 少しはこっちに歩み寄ったか。
 にやり、として劉備は笑う。ごつん、と額と額を合わせて言う。
「来な」
「玄徳様……っ」
 再び、諸葛亮が切羽詰ったような声音で劉備を呼ぶ。途端に再開された挿抽(そうちゅう)は、劉備を翻弄するに充分で、心身をともに満たすには過ぎるぐらいの法悦だった。
 んん、あぁ、あっ……こうめ……、すげぇ、ああ……。
 玄徳様のなか、熱くて、も、ずっとこの、まま……ぁあ。
 お互いに何かを叫び合った気もするが、夢中になった二人には意味をなさなくなった。
 劉備の雄身が弾け、諸葛亮の欲が中に注がれた。受け止めた劉備はぶるり、と身を震わせる。
 それから幾度も逐情(ちくじょう)を促された劉備が意識を手放すように寝入るまで、諸葛亮の双眸に宿った欲情は消えなかった。



 馬車の中から気持ちよさそうな欠伸が聞こえて、周りの人間たちはふっと笑みをこぼす。
 続いて、のそり、と男が馬車の内幕を持ち上げて出てくる。
「……いやぁ、眠った眠った! 死ぬかと思うほど眠ったぜえ〜」
 劉備だ。御車で運ばれる中でようやく目覚めた劉備は、嘘のように身体が軽いことに驚いた。あれだけの精を搾り出されたのなら、足腰に力が入らずに立てなくなる、と思っていたが、諸葛亮の心身を活性化させるための閨房術、というのは本当だったようだ。
 馬車の中に諸葛亮の姿はなく、劉備の身体も清められている。男の残り香すら漂ってはいなかった。
「よお〜、皆の衆。今日の空はまた一段とでけえじゃねえかよ〜」
 己自身も晴れ渡る空に負けないほどの清々しい声を張り上げて、天へ両手を広げる。
 関羽や張飛、趙雲がそれぞれに表情を崩す。
 いつもの……いや、それ以上の輝きを放っている兄の、主の姿に目を細めた。
 馬車から馬上へと居所を移した劉備とひとしきりこれからの展望を話し合う。劉備が口を開くたび、目線を飛ばすたびに、今までの男から感じ得なかった匂いを覚え、周りは驚き、期待に胸が躍った。
 不意に、劉備が目を細めて川面を見やった。
 釣られて、皆が長江へと視線を転じれば、小船が一艘浮かんでいる。
「あんにゃろ〜。どうしても勝手に動かなきゃ気がすまねえのか」
 憎らしげに呟く劉備の語調に、どこか諦めと愉悦が混じっていることに気付いた者がいるだろうか。
 張飛がいつもの調子で軽口を叩く。魯粛が劉備に話しかけられて同じように目を眇めて小船を追う。
「臆病で人見知りが激しい奴だが、まあひとつよろしく頼むぜえ」
 ぼんぼん、と肩を叩かれる。
 臆病で人見知りが激しい。しかし臥龍と呼ばれるほどの男が? と魯粛は思ったものの、頷く。
 滑るように進む船の上に、小奇麗に身を整えた、さも軍師然とした格好の諸葛亮がいる。
 見送りながら劉備は、諸葛亮の描く天にひっくり返る呉の人々の姿を思い描く。
 諸葛亮が紡ぐ天の形は、どのように甘く美しく、そして奇怪に映るだろうか。劉備ですら漠然としか掴んでいない天を、どれだけの人間が明確に(まなこ)に映し込めるだろうか。

 天の形――

 まだ見ぬ、絶世の美女か、はたまた涼やかなる青年か。

 だが劉備は思う。
 もしも、天に一番近い姿をおいらが思い浮かべるんだとしたら……。

「おめえが、いっちばん天に似てるぜ、孔明よぉ」
 妖しく不可思議で、ふわふわして地に足がついていない。人間臭くない、変な奴だ。
 もっとも、それがおめえらしさなんだろうけどよ。
 おめえがもしも、曹操に会ったらどうなるんだろうな。
 ふと思う。
 曹操どんはおめえと違って地に足がつきまくって、それでいて天に手を届かせることができる奴だ。
 ふわふわ浮いて、天に漂っているおめえと対照的だ。
 ちょっとだけ、おいらは不安だ。
 おめえが曹操を知っちまったら、もしかしておめえの妖しさは無くなっちまうんじゃねえかって。そうしたら、おめえはタレとしての『味』を失っちまうのかな。
 だけど、地に足がついている――人間らしくなれるのかもしれねえし。
 どっちがいいのか、おいらには決められねえが、どんなおめえでも、おいらが一緒に、と願った男だ。
 とことんまで、一緒に苦しんでもらうぜ。
 なあ、孔明。

 だっておいらとおめえは、饅頭とタレ。
 どっちがかけても旨くねえもんな!

 蒼く澄み切った(てん)へ向けて、劉備は快晴の笑みを浮かべるのだった。



 終 幕





 あとがき

 ここまでありがとうございました、同人誌からの再録となります。
 カップルものでは初の蒼天です。
 蒼天独特の雰囲気を出すのに苦労して、書きながら何度も原作を読み返して、口調やらしさを落とし込んで、という作業がありました。それだけに、思い出深い作品でもあります。
 改めて読み返してみると、サイトの目次にも書いて、本にしたときの扉にも書いたのですが、直接的な言葉が多くて、オブラートに包むことに慣れてしまったわたしには、何だか新鮮というか、楽しくなってしまう言葉選びでもありました。
 とにかく蒼天の人物たちは主人公である曹操をはじめ、強烈な個性を放っている人物ばかりですが、やはり諸葛亮はその中でも異彩といってもいいでしょう。その諸葛亮に堂々と立ち向かう劉備が、男らしいなあ、と思ってこんな劉備と諸葛亮の話になりました。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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