「en――えん――2009年版」 諸葛亮編 【艶 2】 諸葛亮×劉備 |
「それはいけませんね。では、人体が暖まる、というツボを存じておりますので、後ろを向いていただけますか?」 気遣わしげな声音を作り、殿の体を反転させて、足だけを床に下ろさせる。上半身は机上に残っているので、私に白い臀部だけ差し出しているような格好になった。 するとなぜか机に伏している姿のまま首だけこちらへ向けて、殿は焦った声を漏らした。 「…ち、違うのだッ…恥ずかしくてついッ…すまぬ…ッ…寒いのは嘘だッ…孔明ッ」 どうやら何かを期待しての言葉だったようだが、生憎とこちらは別の展開を期待している。 「おや、全てを見せてくださる、とのことなのに、今さらですよ?」 ことさらにこやかに笑ってみせて、往生際の悪いことを口にしている殿の口を封じにかかる。 「ご安心ください。このツボは寒さだけでなく、羞恥も薄めるツボでございますから」 突き出された形になっている殿の臀部の前に膝立ちにしゃがみ込む。殿は何やらもぞもぞと落ち着かなさそうにしているが、私の手が尻たぶにかかると、びくり、と下半身を硬直させた。 恐らく、何をされるか察しがついたのだろう。 「なッ…駄目だ…孔明ッ…それ…ッ」 焦る口調が物語っていた。 もちろん、私は意に介すこともなく、奥にひそむ後孔を尻たぶを広げて眼前にあらわにさせてしまう。 「ここを舐めますと、とても好く効くそうです」 まだ触れてもいないのに、外気に晒されたせいだろうか。ひくり、と反応を返した後孔が愛らしく、息を吹きかけるように話しかけ、ことさらゆっくりと舌を伸ばし、まだ硬い蕾を舐めた。 「…やめ…ッ…」 舌が触れる瞬間、びくり、と殿は震えた。 「ひぁあッ…あッ…阿呆ッ…ん…ほかに…香油ッ…とかッ…ん…んはぁ…ッ…」 小さな水音を立てて後孔を舌でほぐしにかかれば、殿が私との関係を例えた、それを思い出させる、魚のような動きで跳ねた。 唾液で濡れていく後孔と同じぐらいに、殿の声も湿り気を帯びていったが、阿呆、という言葉にやや引っ掛かりを感じる。 「ここは執務室ですよ? 政務を行う場に香油が置いてあるはずがございませんでしょう?」 何を言っているのだ、という口調で反論することで意趣返しをする。さらに、舌が留守になる間も、抜かりなく指で刺激は送り続けた。 もっとも、本当は棚に香油は常備されているし、最近研究中の、植物の根を利用した潤滑剤を使ってみたくもあるのだが、今夜は直接、殿を好くさせたい。 こういった羞恥を煽るような行為が、殿を昂ぶらせる、というのも幾度めかの交わりで実証済みだ。 「それに、人体から分泌される液体の方が良く効きますから」 まだ交わり始めてから一度も吐精させていない殿の中心にとっては、後孔への刺激は強かったらしく、かなり質量を増していた。 「…あッ…あん…孔明ッ…しかし…ッ…舐め…ず…ともッ…他…に…、ぃあッ…」 中は素直に反応し、指を誘うように柔らかくほぐれていく。食い締めては緩むという行為を繰り返しながら、私の指を奥へと導いていく。すでに殿の前は先走りが滲んでいるようで、ぱた、と音を立てて床に雫が落ちた。 与えている愛撫に悶えるようにしている殿の媚態が艶かしく、さらに私は派手に音を立てて後孔を舐める。舌だけの刺激では物足りないだろう、と思い、指も使い交互に責め立てた。 脇腹をなぞり、殿を追い詰めながらもあえて前に触れることはしない。 意地が悪いだろうか。 殿を前にすると、私はいつも素直に己の胸裏を晒すことが出来なくなってしまう。 素直でないと、自覚はある。小言や説教、憎まれ口ばかりを叩いてしまうのは、そうでもしないと殿と肩を並べられない気がするからだ。 先に好きだ、と告げたのも殿であるし、私が自分の気持ちに気付けたのも殿の一言があってだ。今の私が忙しいながらも充実した日々を送っていられるのも、殿が熱心に、三度も足を運び、私を求めてくれたせいだ。 二十も年上で、みなに愛されている殿と並べられる要素など、少しばかり饒舌な論しかない。 子供じみている感情だと理解していても、私はやはり、少しでもこの方の隣にいて、対等でありたい、と願っている。 「…あッ…やッ…孔めぃッ…もぅ……もう…ッ…」 私を乞うように嬌声を漏らす殿は、辛抱しきれなくなったのだろう。前を机の角にこすり付けて、自ら刺激を追い求めてきた。先走りで机や床が汚れていく。理性があるうちなら出来ないような恥態を目にして、ぞくり、と背筋が痺れた。 「そのようにはしたないことをなさって……。明日から、ここで執務をするとき、思い出しそうです」 淫らに腰を振っている殿の体を仰向けにして、私も自分の雄身を手早く取り出す。膝裏に手を掛けて大きく開けば、腹に付かんばかりに反り返っている殿の中心が震えている。 目の端には散らかしたままの書簡や筆が映る日常的な光景だが、中心にあるのはあまりにも非日常的な光景で、軽く眩暈を覚える。 気が付けば殿にも負けないほど張り詰めていた雄身を、白い谷間へとこすり付ける。 「…ん…はぁッ…孔めぃ…欲しい…ッ…」 過ぎた快感に殿の眦には涙が溜まっている。塞がっていた形になっていた両手を己の雄身に伸ばし、刺激を送り込み始める。 私の髪や頬を撫でた手が、先端をいじったり上下に激しくこすったりと忙しい。粘着質の音が、握られた両手の間からこぼれ、私の耳を犯していった。 「…あッ…ぁん…早くッ…こぅめッ…」 眼下で淫らな手付きで雄身を刺激している殿の姿に、幼い感情に任せたつまらない虚勢などどうでもよくなってくる。 舌で唇を湿らせる。 雄身を握っている片手を取り上げて、自分の膝裏を掴ませる。 「殿は、私を煽るのが得意ですね」 もう片方の手も掴み、先走りで濡れている指を舐める。殿の味を舌に乗せて味わってから、軽く指先に口付けて、雄身を殿の中へと進めていく。 「…んッ…くぅッ…はぁッ…はあ…ぁあッ…」 埋まっていく雄身に反射的に逃げを打とうとするので、口付けた指に指を絡げて机へと押し付けた。 殿の眉が歪み、深い皺が眉間に刻まれる。溜まっていた涙がついにこぼれてこめかみを濡らしていった。だが、口元は笑みで飾られていて、強張る体から少しでも力を抜こうとゆっくりと呼吸を繰り返している。 「…お前がッ…焦ら…す…からッ…あ…ぁん…」 「焦らされた……ほ、うがお好きでしょう?」 埋める先から締まっていく殿の中は、久しぶりのせいだろうが狭くきつく、悦楽が強くいつもの口調は作れない。 ぎゅっと、絡めた指を握り返された。 掴ませた膝裏から手を離して、殿は私に手を伸ばした。 「…あッ…お前もッ…煽ら…れる…のがッ…好き…なッ……んん…だろッ…?」 艶を含んだ甘い声音で、微笑みながら言う面持ちは色香をふんだんに含んでいる。 ああ、この人は。 挿入で萎える様子もない雄身や、私を飲み込んでいる後孔はもっと、と言わんばかりに奥へと導いている。 「っよく、お分かりでは……ありませんか」 うねっている殿の中に吐精感が迫り上げる。耐えるために眉間に力を込めるが、自然と口元は笑んでいた。 対等でありたい、と願う私を、やはり知るはずはないのに「お前らしくいろ」と微笑むように、殿はどれだけ私が無体を働こうが辛辣な言葉を吐こうが受け止めてしまう。 そして、求めてくる。 「殿……っ」 私も貴方が欲しいです。 想いが口調に現れただろうか。殿の腕に引き寄せられるままに体を倒しながら、少し照れ臭くなった。 そんな私を慈しむように、殿は抱き寄せて口付けを与えて、字を呼んでくれる。 「…孔めぃ…ッ…」 愛しい者を呼ぶ柔らかな声を上げるくせに、足は腰に絡み付き、雄身をこすり付けるように腰を揺らしている。 奪い返すように殿の唇を味わい、埋め込んだ雄身で中を思う存分に掻き乱す。悦ぶように食い締めてくる殿に、頭の中は悦楽に支配されていく。矜持も意地も剥ぎ取られていくようで、息を乱しながら私は口走る。 「殿……っ、ん……好き、です」 途端、言葉の意味に気付き、恥ずかしくなる。 普段ならどう迫られたとしても口に出さないくせに、ふとした瞬間に漏らしてしまう。そのたびに、殿を愛しいと思っている自分を自覚する。 頬が熱い。吐露してしまった言葉を取り消すことはもう出来ないが、誤魔化すように殿へ悦の極みを与えにかかる。 私の腹にしきりにこすり付けていた雄身を、掌に包んで扱いた。 背を弓なりに反らしながら踊るように肢体を震わせる殿は、眦や雄身から雫を溢れさせている。 「…私も…孔めッ、…ひぁああッ…やん…あッ…ぁあッ…」 恐らくは「私もだ」と言ってくれようとしたのだろう。雄身を扱いたせいで途切れてしまったその先を、自分でしたことながら惜しい、と悔いつつも、殿の面持ちに広がる満面の笑みのさざなみが私を満たした。 背中に立てられた爪すら甘やかな刺激となり、私の口元も綻んでいく。ともに極みを目指すべく、狭く熱い殿の中を責め立てながら、雄身を握る手にも熱を込めた。 「…孔めぃッ…もぅ…ッ…あッ…ぁああッ!」 限界はすぐそこだったらしく、殿は上ずったような熱に浮かされた声を上げながらしがみ付き、私の掌へと精を放った。 勢い、殿の中は私の雄身をきつく締め上げるものだから、同じく限界が近かった私も中へと精を注ぎ入れてしまう。 「……っく、ん」 びく、びくっと震えている体を腕の中へと閉じ込めて、唸りながら吐精の強い悦楽に酔い痴れた。 余韻に委ねるように、私の腕に身を任せる殿は、激しかったであろう極みに荒れている息の合い間に語りかけてきた。 「…孔明…、…好きだ…。お前が…好きだから…」 聞き損ねてしまった言葉が不意に目の前に現れる。 十分に満たされていた私の心はひどく穏やかになり、すっかり乱れてしまった殿の髪をゆっくりと梳きながら、言葉を返す。 「はい、知っておりますよ。よく……存じ上げております」 私も息は弾んだままだ。整えつつ、殿の額へ唇を落とした。 「…孔明…その、お前は私の事を…」 気だるそうにしながらも私の頬に手を添えた殿は、なぜか不安そうに見つめてきたが、首を左右に振って、眉を困ったように歪ませながら笑った。 「…いや…すまん…、今のは…聞かなかったことにしてくれ…」 「殿……?」 どうしてそのような顔をするのか分からずに、私はじっと殿の様子を窺う。 「そういうわけには参りません。主君が何に煩っているのか、それを取り除くのが私の役目です。どうぞ遠慮なさらず」 何かを訊きたがっているのだろう、とまでは推察できる。促して言葉を誘い出す。 「…いいんだ…」 しかし殿はため息をつき、にっこりと笑って私の首筋に腕を巻き付けて肩口に顔を埋めてしまう。 「…先ほど…、聞かせてもらったから…それ以上望んだら罰が当たる…」 先ほど、とは何だろうか。 私は珍しくも必死でさっきまでの出来事を反芻した。間が持たないので殿の髪を撫でながら一つ一つ思い返していく。 耐え切れずに机に雄身をこすり付けている殿は淫らで、本当に明日から執務の最中に思い出して困る……いや、これでは違う。 そう、雄身に手を伸ばした姿はとてもイヤらしくて魅力的で……違うな。 奥深くに導くようにうねって、腰を振っていた肢体は艶が……違うだろうか。 私も、と言ってくれたときは嬉しくて……違うか? あ、とようやく思い当たる。 同時に、私が口に出さなくてはならないであろう言葉も理解して、勝手に目が泳ぐ。 だが、殿の不安そうな面容と、言われて満たされた私自身の胸の内を思い出し、逡巡しているつまらない虚栄を説き伏せる。 「……罰など、私はそのような不確かなものは信用しておりません」 内心の葛藤など見せず、貴方のことは全てお見通しです、と自信に満ちた声音で、ふくよかな耳元で囁いた。 私から言葉を引き出すことを諦めていたのだろう。殿は少し驚いた顔をして私を見やった。 「私もです、殿。私も貴方を慕っているからこそ……明日に控えている執務もあるのに、こうして……あー、しかもこのようなところで、ですね……殿が誘われるから仕方なく……」 穏やかに、決然とした口調で始めて、告げた言葉に万感を込めたものの、途中から説き伏せたはずの虚栄がのそのそと身じろぎをして、弁舌爽やかなはずの私が躓いた。 熱くなっていく頬を隠すためにも、殿の頭をもう一度肩口へ戻す。 「ですから、殿は望まれて構わないのです。罰など当たりません」 「…孔明…」 強く抱き締めてきた殿の腕から、喜んでいるのが伝わってくるようで、恐らく見えているであろう赤い顔の行方を許せるような気がした。 「しかし…、お前も…十分その気だったくせに…」 だが、続く楽しげな殿の囁きに、身じろぎですんでいた虚栄心がむくり、と身を起こした。 「殿が愛らしく喘いでくれますから、つい」 「そ、それはお前が…っ…意地の…悪い事を…する…から…」 私の言葉に動揺したのか、目の端に映る殿の頬は赤くなり、しどろもどろになっていいわけを始める。 その様子が堪らなく可愛らしく、二十も年上の男に抱く感情ではないな、と自覚しつつも、微笑ましくなる。 「とても魅力的でしたよ、我が君」 なるべく真面目な顔付きで、真剣に告げたつもりだが、やはり堪え切れずに、私は笑い出す。 「……っふ、ふふふっ」 「……お、お前…ッ…!」 笑われたのが心外だったのか、眉間に皺が寄って憤慨したが、すぐに笑顔に戻った。 再び抱き締められる。 「…孔明…、これからも変わらず傍にいてくれ…」 「当たり前です。急にどうされたのです、改めて?」 随分としみじみと口にしたので、不思議になる。私にとっては当たり前すぎて、殿の傍以外に私の居場所などないのに、と思う。 しかし涙ぐんだ殿を見て、どうやら喜んでいるらしいことを知る。 「…ありがとう…」 涙腺の弱い殿は手の甲で涙を拭い、私を抱き締めていた腕を下ろして笑いかけてきた。 ところが殿は困ったことを口にした。唇を啄ばまれたあと、 「ならば、今宵は朝まで共に。新らしく生まれる陽を祝おう孔明。執務はその後でも遅くはなかろう?」 と言ったのだ。 気を許すとすぐこれだ、と私は甘い雰囲気を振り払うように顔を引き締めて諫言する。 「朝まで、とは私も口にしましたが、そのようなことを本当にすれば、殿のお体が持ちませんでしょう。何より、執務が後回しになるのはあまり歓迎することでは…………新らしい陽、ですか?」 気分的には諫言というより説教だったが、全く、と思いながら殿の無謀さを嗜めようとするが、途中で疑問が湧いた。 新らしく生まれる陽とはなんだろうか。 「本当に、気づいてなかったのだな。昨年もお前は書簡に埋もれていたのだものな」 親指で慈しむように私の頬を撫でながら、殿は優しく微笑んだ。 「年が明けたのだ。孔明」 たぶん、自分でも相当に間の抜けた顔をしただろう、と後で思い返してもそう思える。しかしそのときの私は、まさに意外すぎることを言われて呆然としたのだ。 「年……ですか?」 何とか殿の言葉を反芻して、思考を回転させる。 このところの城内の慌しさや、糜竺殿たちが随分といそいそと休みを取っていったこと。 ともに執務をした殿が『これはそんなに急ぐものなのか?』と尋ねたことや『見えるものも見えなくなるぞ?』とからかわれたことも思い出した。 「……もしかして、今日……いえ、昨日は節季でしたか?」 一つの結論に達し、私は殿へ尋ねた。 「ああ。だから皆どこか浮れていただろう?」 感心したように言いつつ、殿の顔は苦笑していた。 たぶん、呆れているのだろう。 気付けば何てことはない。全てに合点がいく。むしろ、いくら執務に没頭していたとはいえ、このような節目を忘れていた自分に、私も呆れる。 「はあ、確かに……」 気まずくなって口篭もる。 「お前が、一生懸命執務に打ち込んでくれる事。本当にありがたいと思ってる。だからこそ私は心配なのだ。もう少し、季節を感じる程度には余裕を持って欲しい…」 少々、己の感覚に失望しつつあった私を救うように、殿は言葉を降り注いでくれる。 抱き締められて、額を肩口に押し付けた殿の声は、また涙に濡れた。 「水であるお前が疲れ果てて枯れてしまったら、私はどうすればいい?お前以外の軍師等…、お前の他など考えられぬ」 枯れるなどと、ありえない。 貴方がそのように、慈愛の雨を降らせてくれる限り、私の水は枯れることはないのだから。 「また、そのように泣かれて。殿はいつも泣いて私を困らせる。しかも、泣かせてしまったのは私のせいですから、責任を取らないといけませんね」 頬を柔らかく両手で挟み、涙で揺れている瞳を覗き込んで微笑んだ。 「弱りましたね、散らかった書簡もそのままなのに。寝正月など、草庵に居たころ以来ですよ? 枯れた池の中で溺れる魚を救うのも、一苦労ですね」 いつもと変わらない素直でない言葉ながらも、今は穏やかに舌は音を紡いでいる。 「…孔明…すまぬ…」 目の端に溜まっていた涙は、ゆっくりと流れていき、反するように浮かんだ殿の笑みは暖かい。 解きほぐれていく胸中は、やはり新しい年を迎えたからだろうか。 こじ付けのように考えつつも、心の奥底では理解している。 「殿が謝られる必要はありません」 この人の涙が、笑顔が、言葉が私を変えるのだ。 流れていく涙をそっと唇を寄せて吸う。 私の水を満たしてくれるそれは、塩辛い。 「選んだのは私です。執務を放り出すことを選んだのも、草庵を訪れた貴方を主君と選んだのも私です。私とて、貴方の居ない水底など考えられないのですから」 「…ありがとう、孔明…本当に…」 言葉に詰まりながらまた涙をこぼす殿に、本当に困った方だ、とうそぶく。 首に回った手に力が籠もり唇を寄せられた。 柔らかく熱っぽい唇に、執務を放棄した私を止めるものは何もない。軽く合わせられただけのそれを、深く貪って口腔を隅から隅まで舌で味わう。 「…んふっ…孔明…」 唇を離すと、艶めいた声で字を呼ぶ殿が、私を見つめて涙をこぼしている。 「では、手始めに新年らしく、姫始と参りましょうか、殿?」 赤く染まった唇を唾液が濡らしているので親指で拭って、にっこりと微笑んだ。もちろん、満面の笑みの、例のあれである。 「…それは、その…嬉しい誘いなのだが…」 殿も当然乗るだろう、と思ったのだが、背中を揺すって身じろぎした。 「孔明。背が…少々…痛むのだ…その…場所を…」 「それは気付きませんで失礼致しました」 私としたことが迂闊、と反省しつつ(やはり新年と知れると人は浮かれるらしい、としみじみする)、まだ殿の中に埋めていた雄身を引き抜いて、手早く身支度を整える。 そうしてから、改めて微笑を浮かべる。 ただし、今回は少々、意地の悪そうな、殿が嫌う笑みになってしまったが。 「お運びいたします、我が君」 これ以上ないぐらいに恭しい動作で拱手してみせてから、私は殿の肩と膝に手を差し込んで横抱きにする。 「…あっ…阿呆ッ…自分で歩ける…孔明…降ろせ…恥かしい…」 男が女にやるような格好で抱かれたことが恥ずかしいのだろう。ジタバタと暴れる殿へ、私はとどめの一言を突きつける。 「何をおっしゃっているのですか。あまり足に力が入らないのでしょう? それに、大事な私の殿ですから」 なぜか私の口は、悪戯心に満たされていると素直になるらしく、ぽろり、と『大事な私の殿』などと口にする。 楽しげな私の口調とは裏腹に、殿は叫び声を、新年の夜に響き渡らせる。 「孔明ーーーッ!」 新しい生まれ立ての陽を、殿と揃って見るにはまだまだ時間はたっぷりとあり、私は嬉々として殿を寝所へと運んでいくのだった。 おしまい あとがき そんなわけで、新年明けて早々、凄いものを再録UPしてしまった気がしなくもないのですが(笑)、季節はぴったりです! もうばっちり。 これは2009年、初「鉛筆らら茶」として始動した記念として書いた、 「らら式」さわらさんとの合作小説です。 劉備がさわら家の劉備殿。 孔明があまの家の孔明。 そんな夢の共演でした。そして、劉備編は「らら式」さわらさんのところで読めます。 ぜひともご覧くださいませ! また、今年は懲りずに今度は配役を逆にして、2010年版【en】が出ます。 劉備があまの家の劉備。 孔明がさわら家の孔明殿。 となっています。 そちらもぜひとも、よしなに(宣伝でした)。 では、感想などありましたらメルフォなどどうぞご利用くださいませ。 2009年1月11日 発行 ↓ 2010円1月1日 再録 |
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