「籠之鳥求自由 2」
 諸葛亮×劉備


 酒の酔いと、中途半端に昂ぶった熱が、劉備の思考を掻き乱していた。
 火照った体に、床の冷たさが心地良かった。酒のせいで力が入らない劉備は、自分で慰めることも出来ずに、諸葛亮が片付けを終えるのを待っているしかなかった。
「こ〜め〜、お前は本当に働き者だの〜」
 律儀に、急を要するものとそうでないものまで分け始めた諸葛亮へ、劉備は呂律の怪しい口調で話しかける。
「そのようなことはありませんが。まあ、殿に比べれば働いているほうだと思いますけど」
 またしても含まれた皮肉に、しかし酔っている劉備は気付かない。
「そうだな〜、私はどうしようもない君主だからな〜。お前や雲長、翼徳たちがいなければ、な〜んにも出来ん」
「そのようなことをおっしゃって。殿には大儀がございます。そして大徳、と呼ばれる誰にも持ち得ないものをお持ちではありませんか」
 酔っ払いの戯言たわごとではあったが、諸葛亮は苦笑いしながらも慰めた。
「それでも、私がここまで来られたのも、ぜ〜んぶみなのおかげだ。感謝しておるのだぞ?」
「そのわりには、執務を放り投げるのですね」
「孔明が何でもやってくれるからな〜。つい頼ってしまうのだ」
「そうですね。駄目だ、とは思うのですが、つい手を貸してしまいます」
「お前は意地悪だが、優しいの〜」
「褒めるのかけなすのか、どちらかにしてくださいませ」
「だってな、いっつも私を虐めるではないか。でも、優しいのだ〜」
「はいはい」
 すっかり酔っ払っている劉備は、諸葛亮の呆れておざなりになる対応にめげることなく、ダラダラとしゃべる。
「諸葛亮は何でも出来るし、優秀だ。そんな軍師を迎えることが出来て、本当に嬉しいのだぞ〜。ただな〜、もう少し私の体を労わって欲しいの〜」
「労わっていますとも」
「労わってないぞ〜。今もこうして放置しているではないか〜」
「そんなに続きをして欲しいのですか?」
 にっこり、と諸葛亮が怪しく唇の端を持ち上げる。
 劉備はなかなか自分から誘わない。いつも諸葛亮がなし崩しに伽に持ち込むのだ。だから、劉備からの誘い文句を聞く絶好の機会だと思ったのだろう。
「ん〜、分からん。むしろ〜、眠い」
 だが、酔いが回ると眠くなる性質の劉備は、話している間に眠くなってきた。大体、話しているうちに熱が収まってきて、酒の酔いだけが主張されてきたのだ。なので、素直に答えた。
「これはいけませんね。ですがこちらもすぐに片付かなくなってしまいましたし。どうしましょうか」
 恐らく、劉備が素面だったのなら気付いただろう。諸葛亮の唇が、怪しい笑みを象ったことに。
 ゆっくりと、諸葛亮の目が部屋を見回した。その視線がある一点で止まる。そして、笑みが深まる。それを見た劉備が、いっぺんに酔いが醒めるほどの妖艶な笑みだった。
「あの、孔明?」
 いくぶんすっきりした頭で、劉備は声を掛けたが、諸葛亮は黙って劉備へ近寄ってきた。いつものように羽扇を扇ぎながら、じわりっと。
 未だに力の入らない体で、それでも劉備は諸葛亮から距離を取ろうとする。だが、当然のようにあっさりと捕まる。
「どこへ行かれるのですか?」
 孔明が怖いから逃げる、とは言い出せなかった。
「まだ動けるのですから、これからですよ」
 言うなり、諸葛亮は傍にあった劉備の帯を使って、劉備の中心を縛り上げてしまう。
「っん……、な?」
 抗議の声を上げようとしたが、さらに、脱ぎ散らかした衣を使って後ろ手に縛られてしまう。
「どういうつもりだ、孔明! 話が違うではないか! 主を縛るような真似はせぬのではなかったのか!?」
「ええ、大変心苦しいのですが、これは殿が一人でも大丈夫なようにするための準備ですから、致し方ないのです」
 沈痛そうな表情を装ってはいるが、諸葛亮の唇は楽しそうに吊り上がっている。暴れようとする劉備を押さえ込み、諸葛亮は残っていた酒をまた、少量だが後孔から流し入れた。
「う、んっ」
 くらっと、また酔いが回り始め、力が抜けていった。今度はそのまま指が挿し込まれた。力の入らない体と、酒が潤滑液の代わりとなって、すんなりと指が奥まで潜り込んだ。
「ぁあ、ぅん、っん」
 すぐさま、熱が上がる一点を指が突いてくる。うつ伏せた、諸葛亮へ腰を突き出した格好のまま、劉備は頬を床に預けて喘ぐ。
 忘れていた熱が思い出したように劉備を苛ましてくる。しかし、渦巻く熱は吐き出す場所を求め、体中を駆けるだけで、出口を見つけられないで彷徨っている。
 帯で縛られた先からは、床を僅かに濡らすだけの雫しか流れない。
 クラクラとする頭は、酔いのせいなのか、強すぎる快感のせいなのか分からない。増やされた指が、息づいている内壁を愉しむように行き来していた。
「やっ、だ……こ、めいっ」
「もうしばらくお待ち下さい。充分に慣らしておかないと痛いですから」
「もっ、もう、いいっ――はや、く」
 吐き出せずにいる熱が、劉備の思考すら溶かしていく。先を促す言葉を発する自分に、恥じる思いもなかった。歪む視界を瞼に閉じ込めた。
「そうですか? では力を抜いていてください」
 宛がわれるはずの諸葛亮の猛りを思い描き、劉備は期待で咽を上下させる。しかし、宛がわれたのは、硬く冷たいものだった。
「ぁあっ……? な、に?」
 それがジワジワと内部を圧迫していく。首を捻り目を見開いて、その正体を見やった。
 劉備の視界に入ったのは、諸葛亮のいつも使っている羽扇の柄だった。それが自分の中へ押し込まれていた。
「なん、で……やめっ――」
 咄嗟に拒絶するが、体は指の代わりに挿し込まれている硬いそれを、悦ぶように受け入れている。それが信じられなくて、また目を瞑ってしまう。
「いや、だ……」
「どうですか、私の羽扇の心地は? 嫌、とはおっしゃってますが、ここは嬉しそうですけども?」
 するっと、羽扇の柄を咥えている縁を指でなぞられる。その言葉を肯定するように、劉備のそこはひくん、と反応する。
「こう、めぇ……抜いてぇ……や、ん」
 諸葛亮の猛りと違う圧迫感と硬さ、温度の違いに、劉備は泣きそうになる。なのに、埋め込まれた羽扇を軽く揺すられると、えも言われぬ悦楽がそこから這い登り、劉備は鋭く喘いでしまう。
「あぁっ、あっ、や、ぁ〜」
 そのまま幾度か、角度や深さを変えられて、もっとも感じる部分がこすられるように調整される。そして、後ろ手に縛られた手首と、羽扇の柄を紐で繋がれた。
 すると、羽扇の柄の先が劉備の中の鋭敏な場所に当たり、体が震えると、その振動で柄が震えてまたそこへ当たる、という仕組みになった。
「ひぃっ……んあっあっ――孔明っ」
 この、自分では止められない快楽への連環を何とかしてもらいたく、あられもなく劉備は諸葛亮を呼ぶ。しかし、諸葛亮はそんな劉備の姿を見て、ふむ、と小さく頷いた。
「こうしてみると、まるで小鳥のようですね、殿。何とも可愛らしい」
 確かに、腕は後ろに縛られ、膝と顔だけで体を支えている。その上で羽扇が羽根尾のように揺れているのだから、一見して見えなくもない。
「〜っく、孔明っ」
 ついに堪え切れずに、劉備の目から涙がこぼれ落ちる。その涙を諸葛亮は拭い取り、指先に乗せた雫を舐め取った。
「では、しばらくそれでお楽しみください。すぐに終わらせますから」
 そう言って、諸葛亮はまた書簡の整理に専念し始める。それを、止まらなくなった涙の中で見つめる。
 泣いているのは、強すぎる快楽のせいか、それともこの仕打ちのせいなのか。
「や、はぁ、ぁ――も、やっ」
 引っ切り無しにこぼれる喘ぎが、さらに自分を悦楽へ落とし込む。
 硬い羽扇の柄が、内壁をこすり上げる。ひくひくと、下腹が熱を吐き出したくて痙攣を繰り返している。少しでも刺激が欲しくて、布に縛られたままの中心を床にこすり付ける。だが、その動きのせいでまた内壁で柄が暴れる。
「っ――はっ、は、ぃんっ」
 半開きの唇の端から、つっと唾液がこぼれた。
 冷たいはずの羽扇の柄が、自分の体温で暖かくなるころ、ようやく諸葛亮は竹簡を揃え終えたようで、劉備へ近寄った。
「孔明、孔明っ」
 すでに考えることを放棄している頭だったが、諸葛亮の気配に体が反応した。必死で、自分を楽にしてくれる男の名前を呼んだ。
「お待たせしてしまいました。申し訳ありません」
 穏やかな声で諸葛亮は謝り、そっと劉備の口を吸った。それから劉備の痴態に目を細め、変わらぬ声音で聞いてきた。
「どこから外しましょうか?」
 どこからでも良かった。とにかくこの生殺しの状態から解放されるなら。
「ま、えから――」
 それでも、掠れた声で訴えた。
「畏まりました」
 恭しく答え、諸葛亮は劉備の中心を戒めている布を取り去った。急激に血が集まりだして、痛みすらあったが、劉備は全身から力が抜けるほど安堵した。
「次はどうしましょうか」
「羽扇を、それからお前のが、欲しい……」
「嬉しいことを……」
 初めて、諸葛亮の声が上ずった。滅多に聞けない劉備からの誘いの言葉だ。それに、一見して冷静に見えた諸葛亮も、劉備の艶態に煽られていたのだろう。その証拠に、諸葛亮の下肢は布地を押し上げていた。
「では、抜きますよ?」
 ずりっと羽扇の柄が抜けていく。それに内壁が引きつれる感触がして、ぞわっと背筋が粟立った。あっと思ったときには、解放された前が弾けていた。
「ああっ、あぁ――っっ」
 強烈な解放感だった。全身がつっぱり、鋭い嬌声が勝手に上がった。全てを出し切っても、劉備の体はなかなか痙攣が止まらなかった。
「これだけで達してしまわれましたか。我慢させていたようですね」
 諸葛亮が笑いながら、抜いた羽扇の柄を舌で舐め取った。
「酒の味がいたします。それから殿の味が」
「あまり恥ずかしいことばかり言うな」
 力なく言い返し、劉備は体を捻って諸葛亮を睨んだ。
「この羽扇、今度から使い心地がよくなりそうです」
 平然と返されて、劉備はがっくりとうな垂れる。後ろ手に縛られていた手首を解放され、ようやく劉備は自由になった。その自由になった手で、ささやかな仕返しをする。
 体を返してぎゅうっと、諸葛亮の背中に腕を巻きつける。そのまま体を自分の上に倒れ込ませ、首筋に噛み付いた。
「――っ。気の強い小鳥ですね。では、逃げ出さないうちに籠の中へ入れてしまいましょう。鍵を掛けて――っ」
 一瞬だけ眉をひそめたが、諸葛亮は衣を肌蹴て、劉備を猛りで貫いた。
「あ、んっ」
 噛み付いた首筋から唇が離れ、劉備は甘い声をこぼす。それから緩く抜き差しを繰り返され、甘やかな声がゆったりと部屋に漂う。
 萎えたはずの中心も諸葛亮の手淫で力を取り戻す。
「うぅん、んっ、んっ、孔明っ」
 羽扇とは違う、息づいている諸葛亮の猛りに、劉備は字を呼びながら応える。強く背中を抱き寄せると、同じ強さで抱き返された。
「殿っ」
 ようやく、諸葛亮の息も乱れ始めて、劉備は安心する。
 それでも、私は孔明には敵わぬな、と真っ白になり始めた頭の片隅で思う。
 魚は水がないと。鳥は止まるべき枝がなければ疲れて死んでしまう。たとえそれが籠の中だとしても、帰ってくるのだから。
 ああ、困ったものだ。
 奥深くに諸葛亮を感じながら、劉備は喘ぎに溜め息を混ぜ、それを誤魔化したのだった。



 次の日から、諸葛亮の策通り、劉備は卓上の前から動けなくなった。
(あぐぅっ……、これが歳の差なのか、そうなのか!?)
 全身を襲う倦怠感と鈍痛に呻きながら、劉備は目の前の書簡へ目を通し、ときに筆で書き入れる。
 その横で、動けなくなった劉備を甲斐甲斐しく面倒を見ている諸葛亮は、なぜだかとても肌がつやつやしていて、珍しくも朗らかな笑顔だ。いつか聞いた、諸葛亮の住んでいた村で歌われていた歌まで、鼻歌として歌っていたりする。
 そんな諸葛亮の様子に、書簡を届けに来た馬謖が、首を傾げて尋ねてきた。
「何か良いことでもあったのですか?」
 それへあの羽扇を扇ぎながら、ふふっ、と笑って諸葛亮は答える。
「可愛い小鳥が籠の中でさえずってくれているので、嬉しいのですよ」
「小鳥、ですか?」
 馬謖はますます首を捻ったが、劉備のとっとと去れ、という無言の威圧に恐れをなして、早々と去っていった。
 そんな劉備を見て、ますます諸葛亮は楽しそうに羽扇を扇ぎながら微笑む。知らずに頬が熱くなり、劉備は目を逸らす。
 当分、羽扇を直視出来そうにない。
 悔しくなって、諸葛亮を何とかやり込めないか、と言葉を探す。
「鳥はな、空を恋しがっているのだぞ。鳥が空を飛ばなくなったらお終いだ」
「ええ、籠の中に閉じ込めたまま、という無粋な真似はいたしません。ですけども、今しばらくは、籠の中で羽を休ませてくださませ。そして、また空を飛べるようにおなりになったら……」
 鍵を掛けて差し上げますので。
 囁かれる甘い声音は劉備の耳をくすぐる。しかしそれは劉備にとっては全然甘くなく、この軟禁状態がしばらく続くことを意味していた。
 長い溜め息が卓上に落ちた。窓から見える空へ目をやり、呟く。

『籠之鳥求自由。然籠之鳥不叶。籠之手愛故』

(困ったものだ)
 また、劉備は思ったのだった。



 了



『籠の鳥は自由を求めている。
 されど籠の鳥はそれを叶えられず。
 籠を持つ手を愛しているからだ』





 あとがき


 ど、どうでしたか、この鬼畜な軍師? (恐る恐る) でも書いていて楽しかったです〜v いや、もう、腹黒軍師全開です。活き活きしていたな〜。殿が可愛かったな〜。

 自分の鬼畜レベルとしては、10のうちで7、8ぐらいですかね。愛がありますからw
 それと、漢文は適当ですので、つっこまないでおいてください(汗)。




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