「どこまで耐えられる?〜汚濁 2〜」 鬼畜攻め台詞10のお題 9より 諸葛亮×劉備 |
夕刻になり、最後の書簡となる市場の通貨増量への許可書に判を捺して、諸葛亮は政務に切りを付けた。 さて、と腰を上げようとしたときだ。部屋の外に人の気配がした。侍女が灯りでも入れに来たのだろうかと思い、それならば断ろうと構えるが、なぜか一向に入ってくる気配がない。 「――?」 不思議に思い戸を開けに行くと、部屋の外にいた人物はひどく驚いたようで「うわっ」と声を上げて後退った。 「殿」 諸葛亮も、意外な人物を目にして立ち竦んだ。 「し、仕事はどうしたのだ、孔明」 驚いた自分を恥じたのか、戸の外にいた人間――劉備は少し目元を染めてどもりながらも聞き返してきた。 「今、丁度終わったところです。これから……」 殿のところへ行こうと思っていたのです、という言葉を呑み込んで、 「夕餉を食べに行くところです」 と、答えた。 本来なら、こちらから訪ねて丁寧に非礼を詫びよう、という心積もりだったのだが、こうも急に会うことになり、まだ残っていた憤りを宥める暇もなく、つい真実を隠してしまった。 「ふぅん、そうか……」 「殿こそ、何か私に御用でも?」 「いや、別に用はない。たまたま通りかかっただけだ」 そんなはずはないだろうに、劉備は視線を逸らせながら答える。言葉通りなら、戸の前で逡巡していた理由がつかない。 「そうですか。私はてっきり殿が謝りに来てくださったものかと思いましたのに」 「どうして私が謝らねばならん」 「自分の行ったことを反省なさったのかと思ったのですが」 「私は間違ったことを言った覚えはない。反省すべきはお前だ。私はただお前と魏延が少しでもわだかまりを持たずにすめば、と思い忠言をしていたのに、お前は話を聞かずにあのような真似を」 話すうちに興奮してきたのか、段々劉備の声が大きくなる。さすがにこれ以上をここで話すと、周りの人間に示しがつかない。急いで劉備を執務室へ引き入れた。 「あまりそのように大きな声を出しますと、近臣たちが不安がります」 「お前がそうさせるのだろう」 むっつりとしながら劉備は答える。恐らくは諸葛亮と別れてから、ずっとこんな態度で執務をこなしていたのだろう。劉備とのやり取りには間に人を立てていた。伝達係にされていた者や、劉備と接した者は、すぐに何かあったと理解したことだろう。 「これでは馬謖が胃を痛めるのも分かります」 そして費イが皆を代表して諫言してきたのも。 また、苦笑を浮かべてしまう。 「何がおかしい」 それを見咎められて、劉備が詰問する。 「いえ、どうやら私たちの不和が皆に心痛を与えているようです。どうですか、もうやめませんか」 皆に自分たちの諍いが知られているとは思っていなかったのか、劉備は「そうか、皆に……」と呟いたが、諸葛亮の提案を呑むつもりはないようだった。 「お前が謝ればな」 「謝りますよ、殿が、私がなぜ腹を立てたのかご理解いただけたなら」 「それは、お前の前で魏延の話をしたからではないのか? だから、私は少しでも魏延との仲を」 分かっていなかったのか、と諸葛亮は溜め息を吐いた。 『殿と私の時間に、他の人間の話など聞きたくありません』と言った諸葛亮の言葉を、魏延だけが対象だと思ったのだろう。 「違うのか?」 諸葛亮の溜め息を聞いて、劉備が眉をひそめた。 (この人は、時々無自覚だ) 苦い思いで劉備を見つめる。 自分にどれだけの敬愛や情愛が向けられているのか、理解しているようで理解していない。ある意味で、その敬愛や情愛に対して妄信的であるからこそ、当たり前にそこに存在しすぎていて、時折見失っているようなところがある。 だから、突然にそれが少しの陰りを見せると、慌てふためく。理由もなしに情愛があることを信じているからこそ、陰ったときにその理由が分からないのだ。 今が良い例だ。諸葛亮から向けられていた情愛(この場合は恋情ではあるが)が陰った理由が分からず、困惑しているのだ。 「では何なのだ」 その質問に答えるのは簡単だが、今回は自分で答えを見つけてもらいたかった。 「ところで、お体は大丈夫ですか?」 「何の話だ」 唐突な質問に、劉備の眉間はますます狭くなる。 「あれから五日ほど経ちましたし、その前から考えると、随分と……」 含みを持たせれば、劉備はその意味に気付いたようだ。頬が赤くなったのは怒りなのか、恥ずかしさなのか。しかし即座に気付いたところを見ると、恐らくは後者であろう。 「もしかして、今日私のところへ来たのは、耐えられなくなったせいでは?」 「馬鹿を言うな! 翼徳に言われて仕方なく」 思い切り否定はするが、ますます頬が赤くなっていて、今では人より大きな耳までもが赤い。 (まあ、素直に認めるはずもありませんか。いい訳まで口にして) 先ほど、自分で諍いが皆に知られていることに驚いていたくせに、苦しい嘘だ。 「それに、何もお前に抱かれなくとも」 「誰か他に相手でも?」 「……そうだ」 目を逸らした劉備を見つめて、諸葛亮は胸に刺さっている棘が刃へと変わっていく様をまた自覚する。 恐らくは劉備の答えは嘘だ。ただ、諸葛亮の挑発に乗って答えただけの虚言である。それでも、胸を抉るような痛みは覚えたし、自制を振り切るように、嫉妬が燃え上がったのも事実だ。 劉備を実際に抱いているのは自分ひとりである、と分かっていてなお、もしも劉備が望むなら、それがただの慰めだと理解していても、その望みを叶えようとする人間がいるだろう、という確信がある。 そういうときだけ、劉備は自分が情愛を向けられていることを理解して、なおかつそれに応えるだけの汎愛を持っていることを自覚しているのではないか、という不安がある。 寵愛を広く注ぐのは君主としてあるべき姿である、と承知していても、これが、劉備の政務を倦む以外に、唯一諸葛亮が劉備に仕えて、そして恋慕を抱いて遣る瀬無い、と思う瞬間だ。 「そうでしたか。では、その証拠を見せていだきましょうか」 低い声で呟くと、劉備の身体を卓上へと押し倒した。 「――っ。そんなこと、必要ないであろう……やめろっ」 「やめません。殿が誰にどのように抱かれたのか、知りたいのです」 「そんな悪趣味がお前にあるなどと、知らなかった」 「殿は何もご存じないようですね。私が何に憤っているのかも、どれだけ殿を抱きたいと思っているのかも。私は何でも殿のことを知りたい、と思っているのに」 「お前は……。だからと言ってこんなところで」 「おや? 殿もその気があったのでしょう? だから人払いをさせたのでしょう」 部屋の外で言い争ったとき、誰も駆けつけてこなかったのがその証拠だ。 また目を逸らす劉備の、朱が乗った耳を舌でなぞり上げると、押さえ付けた体の下で、びくんっと身体が震えた。怯んだ隙に、帯をほどき上衣を剥いだ。 「孔明!」 強い叱責が上がるが、諸葛亮は躊躇わなかった。そのまま、上衣の下の袍も緩めて素肌を露わにさせた。鎖骨の辺りに、五日前につけた朱点が薄っすらと残っている。それを舌でなぞってから、顔を上げた。 「誰に抱かれました」 片手で劉備の両手首をくくり、頭上へまとめる。卓上から劉備の肩から上と腿から下がはみ出している。そのせいか上手く抵抗できないらしく、もがいてはいるが諸葛亮でも押さえ込めるほどだった。 「趙将軍ですか。それとも馬将軍? どなたでも貴方が望むなら喜んで抱くでしょうね」 劉備の腿の上に乗って脚の動きも封じて、唯一自由な左手でさらに素肌を暴いていく。 「孔……っ」 手首を締めてぐいっと床へ押しやると、その痛みに劉備が呻いた。身体が反れて肩の骨と机の角がこすれ合う嫌な音がした。 「跡がありませんね。跡を残さないようにしてもらったのですか?」 最後に劉備を抱いた時より変わらない肌を撫でながら、諸葛亮はさらに尋ねる。 「まずは右の胸から? それとも左から?」 「…………」 無言の劉備へ、諸葛亮も快感の源へは触れずに、肌だけを撫でる。 「きっと優しく抱いたのでしょうね、その方は。私のようにこんな乱暴にはしなかった。啄ばむように唇を吸い、舌を絡げて、そしておもむろに指先で胸を愛撫した。そうではありませんか?」 劉備の肌を眼下に眺めつつ、そのあるはずのない光景を想像する。 「一つ一つ、貴方がちゃんと感じているのかを確かめながら、ゆっくりとその熱を高めていった。右より左のほうが感じることを知られましたか? 指よりも軽く噛まれるほうが好きなことは?」 聞きたくない、と言わんばかりに劉備の首が左右に振られる。 「脇の下から腰まで撫でられると弱いことはどうですか。首筋はくすぐったがるけれども実はそれ以上に感じる場所である、ということは。貴方は正直だからすぐ分かられたでしょう。そして散々に高められて、ようやく局部へ触れられた。貴方は満足そうに喘ぎながら、もっと触れて欲しい、と言わんばかりに淫らに腰を揺らした」 「や……めろっ」 震える声で劉備が呟く。卓上からはみ出て仰け反っていた頭が捻られて、諸葛亮を見やった。微かに瞳が潤んでいるのは、この恥辱のせいもあるかもしれないが、しかし色情の光も確かに覗けた。 「局部はどうされました。手で? それとも口で? 括れをこすられて声を上げたでしょう。とても弱いですものね。伝う雫まで舐め取られて恥ずかしかったですか。それとも感じすぎてそれどころではなかった? 根元のまろみは弄られましたか? そこを触られながら後ろの秘部を指で突かれるの、好きでしたよね?」 「や、だ……っ」 唇を震わせて、劉備は力なく首を垂れて、また仰向いた。 「おかしいですね。貴方の身体はそうは思っていないようですが」 実際には肩や腕、腹の辺りを撫でているだけで、愛撫らしい愛撫をしていないのに、劉備の下肢が布を押し上げていた。 「そのときのことを思い出して感じてしまいましたか? それともよほど殿の身体が淫奔でいらっしゃるのか」 どちらでしょうね、と身を屈めて耳元で囁く。その際に劉備の下肢を押し込むように体を倒したせいか、劉備が詰まった息をこぼした。 「お前は、こんなことをして何が楽しい」 「殿の全てが知りたい、と申しましたでしょう。殿が私以外の人間に抱かれてどう乱れたのか、興味を持つことはおかしいことですか?」 「そんなこと……ひっ」 諸葛亮が体をずらしたせいで、さらに劉備の下肢を刺激した。それに耐えるようにきつく目が瞑られる。 「どうかなさいましたか? 私に抱かれなくてどなたかに慰めてもらっていたのでしょう。それならば満足しているはずではありませんか。なのに、どうしてこんなに硬くしているのですか?」 さらに囁けば、揶揄する場所や瞼だけではない。身体までも硬くしてしまう。 「殿?」 耳殻を舌先で舐めた。 「もう、やめろっ」 突然、目を見開いた劉備は叫ぶなり、諸葛亮の唇を塞いだ。久しぶりの感触に何もかもを忘れて埋もれそうになる。それを無理矢理に浮き上がらせて、離れた。 「殿は私がいなくとも、こうする相手はいるのでしょう? なぜですか」 「いない! そのような者いるはずないではないか。お前なら分かっているだろう」 「いいえ、分かりません。いえ、分かっていても不安なのです」 間近で、睨み合うように視線をぶつける。 「不安、だと?」 意外なことを言われた、とばかりに劉備の顔がしかめられた。 「殿は私のことをどう思われていますか。聡明で穏やかで、貴方を慕う臣下であり、そして何よりも貴方を信じ、優しく理解ある情人であると。そう思っていませんか?」 戸惑ったように、しかし劉備の首は上下に振られる。 「殿は本当に私のことをご存じないようですね。私は世を捨てた隠者でも仙人でもありません。いつも穏やかに貴方の口から他の人間の褒め言葉を聞けはしないのです」 劉備の戸惑いの色が濃くなる。何かを思い付いたのか口が開きかけるが、また閉じる。そしてまた微かに開いて、そして閉じる。それが三度続いたところで、ようやく言葉が紡がれた。 「……嫉妬しているのか?」 さすがに正面から言われると認めづらい。沈黙を肯定へと変えさせてもらった。 「……そうか。お前でも嫉妬することがあるのか」 まるでとんでもない発見でもしたかのような劉備の口調に、諸葛亮はやや憮然となる。 「意外に幼子のようなところがあるのだな」 さらに憮然とする。だから、あまり見せたくはなかったのだ。それでも伝えたかったから、こんな手段を取ったのだ。 「当たり前の感情だと思いますけど」 「ああ、それはそうなのだが。お前がな〜」 しげしげと見上げられ、これはよほどの聖人君子と思われていたに違いない、と思った。 「では、魏延に対しての感情は、何となく気に食わない。そんな理由だろう?」 答えのつかなかった魏延に対する感情を一言で決め付けられ、諸葛亮は黙り込むしかなく、それをまた肯定と捉えられる。 「なるほどな。それなら逆に安心だ」 「……?」 「理性的なお前が人を嫌うなら、それなりに訳があるだろう。ならば、それを取り除くのが私の役目だと思っていたが、そうでないなら、まあ仕方あるまい」 どうしても反りの合わない人間というのはいるものだ、と続ける劉備を、呆気に取られて見下ろしてしまう。 「よろしいのですか?」 「よろしいも何も。それは表立って嫌い、軍の士気に関わるのなら解決はしたいが、そこまでお前も童ではないし。むしろ、お前にもそういう人間臭いところがあって嬉しいぐらいだが?」 もちろん、わだかまりをなくしてもらうことが一番だから、努力は惜しまないで欲しいが、とあっけらかんと言い切った。 「私はてっきり、抱き合うだけが目的で、私と話をするのが嫌であんなことをしたのか、と思って怒っていたわけだしな。それが嫉妬によるものなら分かる。だから謝る。お前の気持ちに気付かずに、無神経にあのようなことを言ってすまなかった。以後気を付ける」 未だに諸葛亮に押さえ付けられている不自由な体勢の中で、劉備は謝罪した。これにはさすがの諸葛亮も慌てた。まずは劉備の上から退き、逆に謝った。 「いえ、私のほうこそ。殿に謝っていただくいわれはありません。あれは勝手な嫉妬ですし、私にとっても殿が楽しそうに話をするのを聞くのも大切な一時ですから」 「でも、嫌なんだろう?」 卓上の上で起き上がり、片膝を立てて首を傾げる劉備へ、諸葛亮は肯定も否定も出来なかった。 「ならこうしよう。お前の前で他人を称揚しない、という約束は出来ぬが、同衾の時間には極力避ける。これでどうだ」 「……十分です」 うな垂れて、劉備の言葉を噛み締める。 自分の我がままであることは、本当は分かっていた。主と想いを通わせ、その身体を抱ける、という幸福に甘えているのは理解していた。その上で広く寵愛を施す主を尊敬しているにも関わらず、それが嫌だ、と思っているのは、情人としての自分の我がままなのだ。それでも、劉備は認める、と言ってくれたし、控える、と約束してくれた。 その劉備の気持ちが嬉しかった。 「ところで、孔明」 はい、と返事をしてうな垂れた顔を上げた。 「私はいつまで耐えればいいのだろうな?」 含みのある声音に、諸葛亮は口角を上げた。 「これは申し訳ございません。気が付きませんで」 卓上に腰掛ける劉備へ近寄り、半端に脱がした衣を、下帯を残して滑り落とさせる。そして跪いて両脚を広げ、下帯越しに、それを押し上げている劉備の自身へ口付けた。 「んっ……ぁ」 びくっと劉備が震えて、両手が卓上の端を掴む。啄ばむように、熱くなっているそこへ唇を寄せれば、劉備が前かがみになる。蕩けるような煙った吐息が頭上に降り注ぎ、諸葛亮の口を軽くさせる。 指で布地の上からその形を露わにさせつつ、上体を伸ばして意地悪く先ほどの続きを囁きかけた。 「そのようなお声、どなたに聞かせたのですか。ここを弄られて悶える貴方を見た幸福な者は誰ですか」 言葉と指のせいか、ぴくぴくと下肢は 「そやつは、な……ん……、とても怜悧な男だ……はっ……。私がとて、も頼りにし、ている……ぁ」 思わぬ返事が劉備から上がり、諸葛亮は愛撫の手を止めてしまいそうになる。劉備を見やるが、強い快楽に煽られてか、眉間にシワを集めて目を瞑っていて考えが読めない。 (まさか、本当に……?) 抜いたはずの刃が、再び胸を抉ってきた。どろり、とした汚濁が湖を汚す。 強く、劉備の猛りを握り、布地ごとこすり上げた。 「ぁあっ……わ、たしはその者になら心も……ぅん、体も許していい、と思って……や、っん……」 布越しがもどかしいのか、劉備の腰が揺れる。直接の刺激を欲するように、劉備の艶を含んだ眼差しが諸葛亮を射抜く。 この眼差しを、諸葛亮の知る誰かに注いだのだろうか。 そう思うと、グラグラと煮立つような思いが湧き上がる。 下帯を取り去り、掌に劉備を包み込めば、くっと咽が反った。 「本当でございますか、殿」 「ああ……っ。私より歳若い、くせに……いつも冷静で……その者に私は頼りきっ、ている……。そして、その信頼や期待に応える、だけの力を……ぁん……も、ている」 喘ぎながらも、必死でその男のことを褒め称える。おかしくなりそうだった。自分が妙な意地を張ったせいで、劉備は違う男へ身を委ねたのか。 怒りよりも後悔の念が強かった。 体重を掛けて、劉備の身体をもう一度卓上へ倒した。脚の間に体を割り込ませて、劉備の先走りで濡れた指で双丘の秘部を探る。待ち望んだかのように、そこはヒクついて諸葛亮の指を迎える。 「ぃぁ……ぁ、あっ」 派手に劉備が仰け反るので、卓上から身体が落ちそうになる。それを押さえ込みながら、指を押し進める。 「それなのに……ふぅぁ……そやつは妙、に……童のようなところを残して、いる……ぁ、ようで……っん」 それ以上を聞きたくなくて、劉備の唇を塞ぐ。その間にも指を休まず後孔で蠢かせ、鋭敏な箇所を撫で上げた。唇に塞がれたまま、劉備はくぐもった艶声を漏らしている。苦しいのか、劉備の手が背に回り、上衣を引っ張った。仕方なしに諸葛亮は唇を離す。 「――っは、はぁ……だから、そこを見つける、と……嬉しく……ひぁっ、ぁ」 息を乱して、快楽に身を任せつつも、劉備は語る。それが悔しくて、ほぐしていた二本の指を引き抜いた。 「約束を違えております、殿。私との時間で他の男の話は……」 「分からないか?」 半身を起こして、劉備は諸葛亮と顔を突き合わせてくる。結い上げている髪はほつれ、肌の上を汗の玉が滑り落ち、中心からは雫を垂らしている、そんな痴態を晒しながら劉備は艶然と微笑んだ。 ぞくっと、煮立つ思いと一緒に熱を 「椅子へ、腰掛けろ」 言われるままに、諸葛亮は卓上から降りて椅子へ身を移した。その前に劉備が立ち、諸葛亮の帯を解いて、すでに張り詰めている猛りを外気へ晒した。 「お前も、耐えられていないではないか」 笑いながら言うなり、劉備は諸葛亮に跨るようにして、その身を猛りの上へと落としてきた。 「殿……っ」 「私も限界だ。ちゃんと支えていろよ」 諸葛亮の猛りに手を添えて、劉備は自ら己の中へ導こうとした。先ほどまでほぐしていたし、互いの先走りで濡れてはいるが、辛い体勢ではある。無茶をする劉備へ、諸葛亮は急いで腰を抱き寄せ、負担を軽くする。 「くっ、ぁ……ぃ、っ」 堪えるように、劉備の額が諸葛亮の肩口へ押し付けられる。痛みに強張る背中を撫でながら、諸葛亮は言う。 「ご無理をなさらなくとも」 「……いい。早く中にお前を感じたい」 耳元で言われる睦言に、さらに諸葛亮の猛りは勢いを増してしまう。びくっと劉備の肩が震える。 「こんなときばかり、正直だな」 「殿がお誘いするからです」 気恥ずかしさを誤魔化すように言う。 ゆっくりと、確実に劉備の腰が落ちていく。息を長く吐き出しながら、先端を飲み込み終わり、劉備はさらに根元までを一気に導いた。 「ああぁっ……っ」 内側を割られる感触に、苦痛混じりの喘ぎが上がった。その劉備の腰を撫でながら、宥めるように口を吸った。その途端、ひくんっと内側がうねる。 「殿も、正直ですよ」 「私はお前ほど隠し事は上手くないからな」 負け惜しみのように返される言葉に、ならば貴方を抱いた男がどうして分からないのだろう、と聞いてみる。 「言っただろう。その者になら心も体も許していい、と。私がそんなことを許すのはお前だけだ、孔明」 軽く、額で額を小突かれる。 するり、と突き刺さっていた刃が抜け落ちる。 「こんな簡単なことも分からぬとは、お前も精進が足らんな」 にやっと笑われて、諸葛亮は少しばかり悔しくなり、それでいて苦笑する。 (私の中に棲んでいるこの魚は、汚濁さえも食べてしまうのでしょうか) せめてものこの悔しさを返そうと、床に付いていた劉備の足を持ち上げて、主導権を奪ってしまう。さらに深く繋がったせいで、劉備は首に縋り付きながら濡れた声を漏らす。 軽く揺すって、中の締まり具合を確かめる。きしっと椅子が悲鳴を上げるが、気に留めず、そのまま劉備の中を突き上げた。 「やぁ、っ……こ、めい……ぅあ……ぁ」 久しぶりのせいだろうか。それともこんな場所のせいなのか。劉備の声がいつもより興奮に掠れている。濡れた声音がひどく甘やかだ。 身を揺らして、さらにも劉備を貫けば、強請(ねだ)るように中が締めてくる。その圧迫感に心地良い快楽を感じ、諸葛亮は眉根を寄せる。 劉備の感じる箇所を集中的に突き込めば、さらにもその締め付けが強くなる。逆に外すように浅いところを狙えば、物足りなさげに収縮する。 「っぁ、ぁ、んぁ……こうめ……ぅんっ」 耳孔へ吹き込まれるように、劉備の喘ぎが響く。繋がった部分からは掻き混ぜるほどに淫靡な音が溢れ、二人をさらに高めるようだった。 二人の熱が解放されたのは、そのすぐ後だった。 「殿」 「何だ」 ひとしきりの情交がすむと、辺りはすでに夜の帳が落ちていて、諸葛亮は灯りを入れて劉備へ声をかけた。劉備は気だるそうに諸葛亮の椅子に座っている。 すっかりと乱れた髪を結い直すために、隅の物入れから櫛などを取り出して劉備へ歩み寄る。諸葛亮に全て任せる気でいるらしい劉備は、寛ぎながら返事をした。 「……殿を抱いた、その人物のこと、殿は愛しておりますか」 「何だ、それは。だから言っただろう、それはお前だけで……」 劉備の後ろに立って櫛を通しながら、 「お前は、本当に時々童になるな」 クスクスと劉備は笑う。 自分でもおかしな質問だとは分かっているが、正面きって聞けないときもある。 「愛しているよ。とても大事な人だ。お前こそ、どう思う。私を抱いたその者は、私を愛していると思うか?」 「はい、きっと。心より慕っていて、誰よりも愛していると、そう思います」 「そうか。それは良かった。だが、その者には嫉妬するなよ、孔明」 また、劉備は忍び笑った。 少し照れ臭くなり、諸葛亮は返事をしながら、髪を結い上げる手を早めたのだった。 了 あとがき 解説にも明記しましたが、無双ベースの北方三国志寄り水魚さんでお送りしました。 どこら辺が、と言われると、まあ劉備さんがあまり可愛くない辺りとか、諸葛さんと魏延の関係性とか、そんなところ? 無双の水魚だと問答無用で諸葛さんが強いのですが、そこから少しでも外れると、劉備が強気です。精神的に玄米と化します。ここら辺は私の定義ですけどね。関劉も間違いなく精神的には劉関ですから。どう転んでも。 あ、後はいきなりオリキャラ(でもないのですけど)の費イ(ひい、と読む、「イ」は示偏に韋です。出なかった(涙))を登場させてしまいました。 馬謖だと弱いかな〜、と思い、登場! そんなところも無双から離れていますね〜。 そんなわけで、たまには喧嘩させてみたりして。言葉攻め鬼畜諸葛さんでしたv |
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