「天下の 蒼天航路 関羽×劉備 |
【序】 やめろやめろ――と童子のように泣き叫ぶ。 何度も自分の名前を呼んで抵抗した。 同じ男だ。ましてや華奢でも何でもない。同じ侠者で鳴らした腕がある。本気で抗われれば、さすがの自分でも抑え切れない。だから殴りつけて組み伏せて、慣らしもせずに己の欲望で貫いた。 絶叫が鼓膜を突き破るかと思った。 激痛で蒼白となった顔は、涙と鼻水と涎で汚らしかった。それでも構わず自分は口を吸い、舌を捻り込んだ。 悲鳴がくぐもり、呻きが掠れ、腕の中で徐々に男の身体は大人しくなっていく。 これもまた、受け入れる、というのか。 己の身に降りかかった、到底受け入れるはずもできない理不尽な暴力さえも、受け入れる、というのか。 ――その 下腹に渦巻く熱が再度噴出する。 突然、男を押し倒したときと同じ衝動で、男の中を灼熱の欲望で抉(えぐ)った。 骨と骨がぶつかり合う鈍い音が頭の芯を揺さぶる。 塞いだ口の下で叫び声が上がった。 大人しかった身体が大きく跳ねた。 幾度も灼熱の欲の塊で男の身体の奥を突いた。 涙は弾け、誰しも不思議と惹き付けてしまう笑みを浮かべる顔は醜く歪んでいる。 口を離して、その様を見下ろしてただひたすらに男の奥を犯す。そうしているうちに、ようやく腹の底で渦巻いていた苛立ちが収まっていった。押さえ付けていた腕を離し、脂汗だろうか。ひやり、とした汗で濡れている男の腰を掴んで、さらに深々と欲の塊を奥へと運んだ。 揺さぶり、抉れば、すすり泣くような声を漏らして、男は長い腕を伸ばして顔を覆った。 己が男の深奥(しんおう)に欲の飛沫を注ぎ入れるまで、男の顔が腕の下から現れることはなく、最後、自分が身を起こして男から離れるときになってようやく外れた。 見上げてくる男の目には、この理不尽な行為に対しての怒りや悲しみが浮かんでいた。非難される行為をした自分に向けられる当然のものだろう。だのに、勝手な己の心は深く抉られたような痛みを発す。 それでも、許せなかったのだ。 男が発した、「あの男」を恐れ、認めるような発言は、己自身を否定されたに等しい。 ――あんたの嚢はそんなものなのか! 「関さん、なんで」 泣いていた声は掠れていたが、自分の耳には確かに届いた。 なんで―― それは俺も訊きたい。 問いかけと、怒りの滲んだ瞳から逃れるように背を向けて、関羽は黙ってその場を立ち去った。 |
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