「絆か枷か【Bond】〜戦前夜〜 後編」
 曖昧な5つの言葉 より
関羽×劉備


 跪いて、関羽の膝にもたれるように手の指を執拗に愛撫し、空いている手は胸や脇腹を撫でて関羽の熱を上げようとする。
 時々意味ありげに視線を関羽へ送ってみるが、劉備を見下ろす関羽の目は冷めたままだ。
「下、脱げ」
 指から離れて命じれば、関羽は大人しく従い、下穿きを引き下ろす。微かだが兆している雄身を目にして、劉備は口角を歪めた。
「何だ、感じていたのか」
「兄者のあのように、淫らな姿を見せつけられては、当たり前でしょう」
 煽ってやったというのに、あっさりと言い返されて劉備の羞恥を刺激してくる。
「もっと、好くしてやる」
 少し熱を含んでいる関羽の雄身へ手を添えて、舌先でちろり、と舐めた。舌に乗った味に眉をひそめそうになったが、ことさら笑みを強調して舌を這わす。
 先端、裏側、境目など丁寧に唾液を交えつつ舐めて、少しずつ熱くなり、硬さを帯びていく過程を楽しむ。すでに味は気にならなくなり、それどころか舌を痺れさすような甘さすら感じた。
「ふ、ん……んぅ」
 頬張り、舌の腹を張り付かせて吸う。だいぶ、劉備を貫くときと変わらない姿に変化していた雄身は、その一吸いは好かったらしく、ひくり、と震えた。
「っう……」
 頭上でも、関羽の呻きが上がる。ちらり、と上目遣いで確認すれば、さすがに双眸が情欲を乗せていて、劉備の視線に気付いて眇められた。
「拙者のが、それほど美味ですか」
 頬を撫でられて、外から関羽の硬さを内側の頬肉に押し付けられた。けほ、と咽そうになるのを堪えて、目だけで笑って見せた。
 また、関羽のものが大きく育った。
 優越感に浸ってますます強く雄身を深く咥え、上下にと扱く。関羽の息を詰める声がぞくぞくと劉備の背筋を甘く痺れさす。
 口内で硬いものが擦れる感触は、中を貫かれる感覚に擬似していて、劉備の腰にわだかまる熱を昂ぶらせた。堪らなくなって、自分の帯を緩めて空いている手で自身の下肢も扱き始める。
「はっ……ふ、う……ん」
 息が弾み、関羽の雄身に五感が刺激されて頭に霞がかかる。ぐちり、と口と手から水音が湧いた。ひくひくと口内で雄身が欲を放つ準備を始める。
「兄者……っ」
 離してくれないと、兄者の口に、と続くであろう言葉は、さらに頭を振ることで唸りに変えさせて、駄目押し、とばかりに舌先で先端を抉った。
 劉備の頭に手が添えられて、引き剥がそうと力が込められるが、それより早く関羽の腰にしがみ付き、深々と頬張った。ぐ、ぅ……と関羽が低く声をもらして、劉備の口腔へと熱い飛沫を注いだ。
「んっ……ふう、う」
 残らず受け止めて、こくり、と飲み干し、顔を上げる。ようやく交わってから初めて表情を露わにした顔は渋く、「兄者」と嘆くので、にいっと笑ってみせる。
「好かったか?」
「商売女のような真似をなさりますな」
「雲長は私のを飲むのに、私は駄目などと、理屈が通らんではないか」
 唾液に塗れた口元を手の甲で乱暴に拭いつつ、言う。
「それよりも、まだ終わりではないぞ」
 関羽の解いた帯を手にして笑みを深くする。
「手、縛らせろ」
「……」
 ますます、関羽の渋面が酷くなる。
「ご自由に、と言っただろう。約束を違えるつもりか」
 言い募ると、関羽は後ろ手に腕を合わせたので、劉備は手首を帯で絡げて拘束する。
「さっきみたいに、やめさせようとされては敵わないからな。そこへ凭れていろ」
 寝台の頭に背を預けるように促して、劉備も手早く衣を脱ぎ落とす。
「まだ、達せられておられなかったのですな」
 屹立している劉備の下肢を目にして、関羽が言う。
「私はこれから存分に楽しませてもらう」
 寝台に上がり、一度放ったはずの関羽の雄身へ改めて視線を注ぐ。
「お前……」
「戦の前ですし、ここしばらく兄者ともいたしておりませんでしたゆえ」
 血を集めて色を変え、隆々としている関羽の雄身が、まるで劉備を誘うかのようにそそり立っている。欲を放った直後とは思えない。
 話が早い、とばかりに気を取り直して、指を関羽の口元へ運ぶ。心得たように劉備の指を咥えて唾液で濡らす。先ほどの意趣返し、とばかりにねっとりとしゃぶられるが、劉備も平静を装って口淫を受け止める。
「もう、いい」
 抜き取ると、唾液に濡れた指を自身の後孔へと伸ばし、ほぐしにかかる。片手を関羽の肩に添えて身体を支えると、指をつぷり、と飲み込ませる。くっ、と息をこぼして目を瞑った。
 慣れ親しんだ感覚に息を軽く詰めて、熱い襞を掻き分けていく。なるべく中に潜(ひそ)んでいる悦を避けて、ただ拡げるだけの行為に没頭する。
 無心に、指の動きだけに集中していると、不意に耳をぬるり、としたものが這った。ん、と首を竦めて目を開ければ、関羽の顔が寄っていた。
「手持ち無沙汰ですぞ」
 言って、吐息とともに舌が耳孔に差し込まれた。
「ん、んっ、阿呆……、お前は何もするな、と」
 弱いところを知り尽くした関羽の愛撫は、ただでさえ昂ぶっている熱を持て余している劉備の身体を簡単に翻弄してしまう。頭を押しやって耳から舌を引き剥がす。
「これで、誤魔化しておけ」
 言って、屹立している下肢を関羽の雄身とひたり、と合わせる。なるほど、と関羽が呟き、ぐっと腰を押し付けてくる。軽く揺らされると、思った以上に気持ちが良い。
 早くしないと不味いな、と思い、ほぐす指を増やす。その間にも腰を揺らして自分の雄身と劉備の下肢を擦り合わせている関羽に、理性を削り取られていった。
「うん、ちょ……」
 一度達した関羽はいざ知らず、劉備はまだなのだ。先に根を上げるのがどちらかなど、言わずとも分かる。丹念にほぐすのは諦めて、名残惜しむように下肢を引き剥がす。
 つっ……と互いの雫が絡んで糸を引く様子が視界の端に映り、羞恥に身を焦がす。極力見ないようにして関羽の雄身へ手を添えた。
「動くなよ」
 睨んで念を押し、ゆっくりと腰を沈めていく。まだほぐし方が足りないのは承知の上で、圧倒的な質量である雄身を身内へと招いていった。
「ぁ、あ……くっ、う……っ」
 苦鳴を漏らして関羽のものを飲み込んでいく。息を吸い、力を抜いて、何とか張り出した部位を受け入れると、あとは一気に深奥へと導いた。
 絞り上げるようにきつくしたまま容れたためか、関羽の眉間には欲を耐えるように深い皺が生まれていた。笑いながら、その皺に唇を寄せた。
「今日は、私がお前を乱して、絞り尽くす」
 頬を両手で挟み、息を吹きかけながら耳元で囁く。
 絞り尽くして、明日動けないほどにして、私が雲長の替わりに先陣を切ってやる。
 それには、決して関羽に乱されては、飲まれてはいけない。ただでさえ普段から劉備は関羽に散々負けているのだ。こちらがいかに理性を保ったまま居られるか。
 中を狭めたまま、雄身を揺する。もちろん、中を熱い切っ先で掻き混ぜられている劉備も感じ入るのだが、自分で動いている分、あまり好いところに当たらないようには出来るし、快感も調節できる。
「……これは、まるで拙者の方が兄者に抱かれているようですな」
 雄身への直接的過ぎる悦楽に、関羽の唇は薄く開いて息を弾ませている。初めの頃の余裕ぶりはもう見えず、劉備は満足げに唇に笑みを描く。
「もっと、感じろ、雲長」
「ええ、もちろんですぞ」
 ぎらり、と関羽の両眼が鋭い欲を映し出して輝く。
「ただし……」
「……?」
 嫌な予感が胸を過ぎった。動いていた腰を関羽の足が絡め取り、阻んだかと思えば、くるりっ、と視界がひっくり返る。
「っああー」
 その衝撃で中に収まっていた雄身が思い切り奥を突き、劉備の意識を一瞬飛ばした。
 気付いたときには関羽の肢体が劉備の身体に覆い被さっていた。しかもいつの間に解いたのか、関羽の腕は自由を取り戻していて、代わりに、とばかりに劉備の手首を結わえてしまう。
「雲長!」
 怒鳴り付けると、快感に乱された表情は嘘だったのか、とばかりに涼しい顔だ。
「あのような縛り方で拙者を拘束できた、とお考えになられた兄者が甘いのです。大方、拙者だけを徹底してイかせて起きられなくさせて、自分だけ先陣を切るおつもりだったのでしょうが、まったく分かりやすい方だ」
 悔しくて起き上がろうとしたが、腕を拘束されている上に、まだ関羽とは繋がったままだ。簡単に寝台へ縫い止められる。
「それなら、それとまったく同じ事を拙者が兄者にして差し上げます」
 降る笑顔は関羽にしては珍しいほど満面の笑みで、遠慮無しに劉備を抱く、という言葉に青褪める。関羽がいつも手加減して抱いてくれているのは、薄々感じていたが、劉備の策略に、姑息、とばかりに腹を立てたらしい関羽は、手心を加えたりしないだろう。
「雲長……!」
 嫌だ、とばかりに身を捩る。そんなことをされたら、本陣の奥で構えることさえ出来ない。どこか安全な町へ送られて、戦が終わるまで寝台の上で歯軋りしている羽目になるのだ。
「まずは、兄者は一回果てないと、不平等ですな」
 暴れようとする劉備を軽々と押さえ込み、空いている手で先走りをこぼしている下肢を包み、扱く。関羽の雄身を咥えながら自分でいじり、後孔をほぐしたり、雄身を受け入れたり、と散々寸止めを繰り返していたのだ。直接の刺激に耐えられるはずもなく、背筋を反らして、劉備はあっさりと果てた。
「ひっ、あ、あ〜」
 荒い息が整う間も無く、関羽が内に収めた雄身で中を突き始める。
「やっ……雲長っ……分かった、から……ん、はっ……も、ちゃんと大人しく、して……っひぁ……るからっ」
 戦から、関羽や張飛から離すのだけは止めて欲しい。少しでも二人の近くで戦っていたい。
 皮膚と、骨がぶつかるような音まで立てて、関羽は劉備の中を抉っていく。放ってうな垂れていた下肢はすぐに勢いを取り戻した。
 達したばかりの身体は感じやすく、やや乱暴に突かれているくせに、思考は乱れ、理性は揺すられるたびに崩れていった。
「もう、いや……だ、あ……う、ちょ……っあほ」
 喘ぎながら文句を付ける。
 私はただ、戦へ出て行くお前たちを見送るだけは嫌だったのだ。その隣で戦いたいだけなのだ。
 どうしてそれが、分からない……!
 義兄だから、軍長だから、大切な男だから。
 大切にするのは、何のためなのだ。
 私を繋いでいるのは、絆などではない。
 この腕を縛っている枷と同じだ。
 私から、私を奪うな。
「雲長っ……!」
 気迫を込めて睨み付ける。一瞬ばかり、快感もどこかへ行った。気圧されたように、関羽の動きが止まる。
「兄者?」
「私は、どんな有様になっても戦に出るぞ。這ってでも出てやる。それが嫌なら、今すぐやめろ」
「無茶をおっしゃいますな。這って出るなど」
「する」
「ではこのまま寝台に繋いでおきましょうか」
「腕を切ってでも行くぞ」
「馬鹿馬鹿しい。それでは本末転倒も良いところでありましょう」
「うるさい」
「兄者。意固地になられるのはやめなされ。明日は大人しくなさっていることです」
「明日だけじゃないだろう。この先も、ずっと私は枷を嵌められて、お前たちの絆の象徴にさせられる。そんなのは嫌なのだ!」
「何を……」
「違うか。良いか、私は飾り物の軍長でもなければ、お前たちの理想の義兄でもない。お前たちと一緒に茨の道を、険しい道を歩もうとしている、一人の男だ。共に歩こうとしている男たちが戦場へ出るというのに、どうして自分だけのうのうと高みの見物を決め込める」
「……しかし」
「雲長、私が命果てるときは、お前と翼徳、お前たちの隣と、あの桃園での誓いのときに決めたのだ。分かるか? 私たちは誰一人として欠けられない。欠けた瞬間がそれぞれの終わりなのだ。だから、離れさせないでくれ、一緒に戦わせてくれ」
 頼む、と言ったときには、激情に駆られて溢れた涙がこめかみを伝い落ちていた。
「……」
 関羽はじっと劉備を見つめていたが、短い息を吐き出して、劉備の腰を掴んだ。
 そのまま再び律動を始めて、無理矢理押し込めていた快感を劉備に思い出させる。
「雲長っ……嫌だっ」
 流されそうになる自分が悔しくて、また涙が溢れてきた。その涙を関羽の指が拭っていく。揺れる視界の中で、関羽が憮然とした顔で見下ろしていた。
「分かり申しております。存分に兄者の想いは拙者、知っております」
 あ、あっ、と声を上げながら、悦と関羽の雄身に掻き乱される劉備の耳に、声が届く。
「もう、何も言いますまい」
「ん、はあ……ぁ……雲長?」
「ただし、兄者の身は、拙者が全力で守りますし、兄者に万一のことがあれば、拙者とて、翼徳とて、生きてはいけないこと、承知しておいてくだされ」
 身を折った関羽に、深く雄身を突き込まれる。同時に関羽の想いまで注がれるようで、劉備の胸は痛む。
 何てことはなく、ただお互いに頑固に我を通そうとしていただけのことだ。
「じゃ、あ……なんで、まだ、ひぅ」
 関羽の口角が深く刻まれる。雄の目をした義弟が劉備を捕らえた。
「ひとまず、お互いにこのままでは済みませんでしょう。あまり身体に負担がないよう致しますが、明日起き上がれなかったら、ご勘弁くだされ」
 関羽が謝る。
 唇を開いて舌を伸ばすと、関羽が察して唇を寄せて応えてくれた。唇を合わせながら奥を突かれるのが劉備は好きだった。
 それが劉備の了承の証、と受け取った関羽は、さらに激しく求めてくる。
「雲長……あ、ぁ」
 仰け反った拍子に唇が離れる。腕は変わらず拘束されていた。お互いに外している余裕はなく、ただ唇が寂しくなって、目の前で揺れている関羽の髯を食む。いつもは嫌な顔をするが、今夜は許してくれるらしい。
「兄者……っ」
「ふ、ぅ……いっぃ……う、んちょ……」
 関羽のあざなを呼びながら、劉備は存分に身悶えた。


   * * * * *


 ちびちびと、酒を飲み交わしている二人が居る。
「明日、玄徳の兄者、大丈夫かなあ」
「少なくとも、起き上がってくるのは無理な気がするな」
「まったく、戦前に何やってんだかさあ」
「ま、明日の戦は張飛の大将が居れば何となるし」
「そうだけど、これから先も毎回同じこと繰り返すかと思うと……」
「いやあ、それは心配ないと思うぜ。何だかんだと、関羽の旦那は玄徳に甘いから。あいつが言い出したこと止められたことあったか?」
「ねえな!」
 力いっぱい頷いて、末弟はまた酒をちびちび飲む。普段は豪快に飲む男も、明日は戦だ、ということでやや控えめだった。
 反対に、常に後方担当の簡雍は、あまり気にした様子もなく飲んでいる。
「だけどさ、大将は玄徳が前線で戦うことには反対しないんだな」
「だって、兄者は見た目あんなだけど、ちゃんと男だし、そう簡単に死なねえよ。それにもしもの時は俺がぜってええ守るしよ」
「はは、なるほど。旦那より、大将のほうが玄徳のこと分かってんな」
 簡雍は張飛の酒盃に酒を注ぎながら言う。
「しっかし、あんたらの兄貴たちは面倒くせえよなあ。いっつもあんなことしなくちゃ自分たちの意見を通せないのかねえ」
「そのたびに追い出される俺が一番大変だ」
「言えてる」
「だけどまあ、二人とも餓鬼だからさあー」
「あっはっは、まさかあいつらも、大将にそんなことを言われているとは思わないだろう」
 末弟と、気の良い男の酒飲みは続く。

 とある戦前夜の事だった。



 おしまい





 あとがき

 ここまでありがとうございました!
 この関劉で、劉備短編集のすべてが再録、となりました。
 どれか一組でも萌えを感じてくれていたのなら、幸いです。

 しかしこの関劉、すでに無双離れて、ほぼオリジナル……。
 というか、私の中の劉備像が日に日に無双と演義から離れていくのを、
 関劉を読むといっつも感じますね!

 でも、どんな劉備だろうとも、安定感ある関羽のおかげで、
 いつも楽しく書いています。


 2010年12月 発行 より



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