「琥珀と橙の賭け 6」
 無双5準拠
関羽×劉備(曹操×劉備含む)


 知っていたのか。息を呑んだ。
 初めて曹操に抱かれた理由を知っていたのか。
 そこまで曹操が関羽へ話したのか。だとしたら、許せない。例えお互いに合意だったとはいえ、それは二人の間だけの話だ。関羽に話して欲しくはなかった。
 どうやって、という疑問と曹操への怒りが顔に浮かんだのだろう。決して逸れなかった関羽の視線が僅かに逸らされた。
「曹操殿は詳しく話しませんでした。拙者があの夜、やはりどうしても兄者の様子がおかしい、と思い、夜、部屋を訪ねたのです。しかし、声をかけようとしたときに中から話し声と、すでに兄者は曹操殿と……」
 聞かれていた。初めて曹操に抱かれた夜のとき、関羽は部屋のすぐ近くまで来ていたのだ。今さらながら、羞恥に身が焦げる。顔が、頬が熱い。聞かれまいと必死で声を殺していた意味は、すでにあの時なかったのか。
「頼りにならないですか。貴方の悩みを打ち明けるのに足らない男ですか」
「――! そんなことあるはずがないだろう!」
「拙者の事を、どうお思いか」
 再び訊かれた。
「大事な、義弟だ。私が迷ったときに厳しく諭してくれる男だ。苦難の多い道を共に泥まみれになり、傷付き、歩んでくれる男だ。大切な、私の……私の魂の片割れだ」
 また、腕を掴んでいる手に力が篭もった。
「……それは、どこまで許されることですか」
「どこまで、とは」
 不意に目の前が陰って、唇が柔らかい何かに覆われた。唇の感触はすぐに消え失せたが、耳元に熱い息が吹きかかった。溢れ出ようとする激情を無理矢理抑え込んだような不自然に淡々とした声が言った。
「曹操殿と同じことをしても、許されるほどですか」
 今度は答える暇がなかった。背中に太い腕の感触がして、強く引き寄せられた。胸に鍛え抜かれた厚い胸板が当たる。驚いたまま上向いた劉備の目の前がまた陰り、唇を深く貪られた。
「……っんん」
 何が起きているのか、劉備には理解できなかった。できないまま唇を厚く温かいものが割り開き、口腔をまさぐってきた。
 混乱したまま、息苦しさに恐怖を覚えて強い力に拘束された身体を取り返そうと身じろぎするが、劉備を捕らえた腕はびくともしなかった。
 口腔に押し入った生温かい感触が一杯に広がり、窒息するのでは、という怯えが劉備を支配して、異物を排除しようとそれを強く噛んだ。
「――っ」
 呻く声が聞こえて、口腔に侵入していた異物が怯んで引いていった。閉じ込められていた腕も解かれて安堵したが、まだ早かった。ぐいっと腕を引っ張られ、傍の雑木林に連れて行かれた。
 痛い、と訴えたが劉備の腕を引く力は弱まらず、木の幹に強く身体を押し付けられた。背中越しに幹の節くれだった感触が当たる。
「う……」
 雲長、と続く言葉は再び唇を塞がれたことで途切れる。今度は噛まれないようにするためか、下顎を掴まれて抵抗すら封じられた。何で、こんなことを……と散りじりになりかける思考を必死で繋ぎ止めようとするものの、未だに状況が理解できなかった。
 鉄臭い、血の味がする異物が再び侵入してくる。
「っう、ん……」
 自分が噛み切ったせいだ、と察したものの嫌悪が湧き、首を振って逃れようとするが顎を掴む手に阻まれる。舌を掬われると、血の味が口内一杯に濃厚に広がっていく。こくり、と思わず飲み下すと、覚えのある味だった。
 硬く瞑っていた瞼を持ち上げる。
 雲長……。
 やけに必死な表情をした関羽の顔がぼやけるほど近くにある。飲み込んだ血の味通りの男が居て、あれほど力んでいた全身が弛緩して、混乱していた頭が鎮まっていく。
 いつか、まだ義兄弟の契りを結んだばかりのころだったか。劉備を庇って怪我をした関羽の傷を舐めて応急処置をしたことがあった。
 あのとき、劉備を庇うために飛び込んできた関羽の顔と今の関羽はどこか似たような面容をしている。甲斐甲斐しく傷の手当てをした劉備に対して、申し訳なさそうな、嬉しそうな表情を浮かべた関羽も同時に思い出した。
 血の味がする舌を舐め返す。あの時と同じように、感謝と己の不甲斐なさと、この男に庇われる、という誇らしさを込めて、舌を伸ばした。
 顎と腕を掴む手が震えた。関羽がどこか泣きそうに眉を歪めた。初めて見る弟の顔は、見てはいけないようなものの気がして、劉備はそっと瞼を落とした。
 傷付けてしまった異物であった関羽の舌は、それと認識して触れ合えば、じん、と痺れる官能を生み出す。絡み、重なる舌と舌はまるで二つであることが不自然であるかのように、長く触れ合い、甘い感覚を共有する。
 口腔で交(か)わされた唾液が溢れて劉備の顎を濡らし、顎を掴んでいた手が拭った。そうしてようやく劉備は関羽の唇から解放された。
「……っはぁ……」
 瞼を上げれば、きつく眉間に皺を刻んだ関羽が、相変わらず劉備の腕を掴んだまま立ち尽くしていた。雑木林に薄っすらと夕陽が射し込んできた。
「……拙者は」
 後悔に彩られた眼差しで、関羽は劉備の腕から手を離して後退(あとずさ)ろうとする。その手を今度は劉備から握り返して、言った。
「許せる、許せないも無い」
 どこまで許されるのか、という関羽の問いに、握った手を胸に押し当てて答えた。
「曹操に抱かれた身体で説得力がないのは承知の上だ。しかし私は曹操に抱かれたことを後悔していないし、これからも後悔しない。ただ、私がお前を思う気持ちに疑いがあるというのなら、存分に調べれば良いし、曹操と同じことをして納得するのなら、私は構わない」
「あに、じゃ」
 関羽の声が掠れた。困り果て、激しようとする己を必死で抑え込んだ奇妙に歪んだ顔は、傷の手当てを受けていた時と良く似ていて、劉備もあの時と同じ想いが込み上げる。
「いつまで経っても私はお前を傷付けて、困らせて、情けない兄だ。お前のような誇れる男に対して、私は何も返せないままだ。もうお前に差し出せるのはお前が疑うこの身体だけだ」
 好きな男だ。肌を重ねたい、と渇望して眠れぬ日は幾星霜としてあった。今、想いを通じ合わせ、確かめるためではないが、望みが叶おうとしていることを、劉備は静かに受け止めていた。
 曹操と同じことをしたい、という関羽の真意がどこにあるのか分からない。だがそうすることで、劉備の関羽を大事と思う心を信じてくれるというのなら、自分は何でもできる。
 これはそのための儀式であり、私と雲長の新たな誓いだ。
「雲長」
 胸に押し当てた関羽の手がぴくり、と跳ねた。劉備が手を離せばだらり、と垂れ下がり、動かない。劉備は自ら鎧の留め具を外し、外套を取り去る。平服になり、息を吸い込んでから微笑んで関羽を見上げた。
「確かめて欲しい。私はお前になら何をされても構わない」
 劉備が鎧を脱ぐ間も立ち尽くしているだけだった関羽の全身がびくり、と震えた。両肩を掴まれて、強く幹に押し付けられた。背中に当たる幹の節が痛かったが、笑みを消さなかった。
「ぁ……にじゃは……貴方は……っ」
 内から湧き起こる感情に支配されまいとする、関羽の抑え込んだ声音は震えている。
「拙者は、貴方を傷付けたくなどないのに、貴方は簡単に拙者の中に入り込んでくる。入り込んで、何もかも乱して、荒らして……っ」
 両肩を掴む手に力が篭もる。劉備を見下ろす関羽の双眸は知らない男の目の色をしていた。ぞくっと、なぜか劉備の背筋が淡く痺れた。雲長……とこぼれた声は誘っているかのような響きになった。
 唇を再び塞がれた。舌が挿し込まれ、口腔を蹂躙していく。受け入れる口寄せに慣れていた劉備の身体は甘く疼いた。両肩の関羽の手が滑り落ちて、身体の線や胸板を探り、衣の上から胸の飾りを捉えた。
 合わさった唇の隙間から思わず声が漏れる。曹操と交わりを繰り返す内に、気付けばそこはすっかり性感の一部となり、過剰とさえ思えるほどの反応を示すようになっていた。爪の先で幾度もこすられ、身体が跳ねる。
 縋るように関羽の衣を掴み、眉根をきつく寄せた。舌を吸われ、衣を掴んだ手が震える。唇は離れ、しかし息が拭きかかるほど近くに留まったままで、関羽の唇が動く様すら伝わってきた。
「貴方の身体は随分と感じやすく出来ているようだ」
 怒りが含まれた語調と共に、強く胸の飾りを摘み上げられた。
「あっ……」
 艶めいた声を上げた劉備にますます関羽の怒りは煽られたらしく、額当てを毟るように取り去り、綺麗にまとまっていた髪が乱れるのも構わずに劉備と額を合わせて瞳を覗き込んだ。
「初めからこのように淫らだったのか、それとも曹操殿のせいですか」
『ここでも、だいぶ色っぽい声で啼くようになったの』
「……っぁ」
 関羽の言葉に、からかう曹操の声が蘇ってきて、小さく劉備を喘がせた。途端に関羽の双眸は強く煌き、劉備を射抜く。
「今、誰を思い出しました。拙者に抱かれようとしているのに、貴方は誰を想いました」
 顔を歪める。関羽をまた傷付けてしまった自分が情けなかった。すまない、すまない、雲長、と謝る劉備に、関羽は剥ぐように劉備の上衣を開いた。素肌に関羽の熱が篭もった掌が押し当てられた。まさぐられ、直接胸の飾りを指先で転がされれば、劉備の身体は素直に高ぶって熱を上げてしまう。
「くっ……ぅ、ぁ」
 声を殺そうにも積年の思いを抱いていた相手の手だ。たとえ抱かれている理由が正当でなくとも、感じる身体も、心も抑えられるものではなかった。
「曹操殿にこのように淫らにされてしまったのか。貴方の感じる顔を曹操殿に見せたのか」
 お前の口からそのようなこと聞きたくない。お前はさっき言ったじゃないか。私を傷付けたくない、と言ったじゃないか。なのにどうしてそんなことを口にする。口にする度にお前は痛そうな顔をしているのに。嫌なのだろう、私を追い詰めるようなことを口にしている自分が許せないのだろう。
 私がお前にそんなことをさせているのか。
「雲長……っ」
 呼ぶと、額を突き合わせていた関羽の顔が外れ、耳朶を噛んだ。身を竦める劉備の首筋、肩、鎖骨と唇は滑り、胸の飾りへと唇は寄せられた。声が弾け、関羽の強い癖のある髪に指を絡げた。舌が転がり、劉備の性感をより鋭いものへと変化させる。屹立しきった飾りを甘噛まれて、劉備は声を上げた。
「ん、ぁっ」
 痛みと悦が混じり合って、劉備の背筋を溶かしていくような熱を生み出す。下肢に欲が集まる感覚を強く意識した。関羽が欲しい、と全身が訴えているようだった。
 私は本当に兄失格だ。お前が苦しんでいるのに、お前に抱かれていることをこの身体は喜んでいる。
「あ……ぅんん」
 まだ柔らかかったものの、熱を孕み始めていた下肢を関羽の手が唐突に掴んだ。突起を口腔でなぶられながら下肢を揉まれれば、柔らかかった下肢はすぐに硬さを孕む。掴んでいた関羽の髪をくしゃり、と握った。
 唇が胸を離した。また肌を下りていき、臍を吸い、布地をやや押し上げていた劉備の下肢へ衣の上から口付けた。びくん、と身体が跳ねて、嫌だ、と声を上げていた。関羽が口淫をするなど、許してはいけない。しかし関羽は劉備の制止の声など意に介した様子もなく、衣の上から口付けて、吸う。下穿きを留(と)めている帯に手を掛けてほどくと、身を捩る劉備の腰を掴んで、露わになった下肢へ舌を伸ばした。
「や、ぁんん……あ、あ」
 関羽の舌が下肢を掬い上げ、口腔へと咥え込まれた。途端に生まれた鋭い愉悦に劉備の声が甘く蕩けた。
「いっや……ぁ、雲長っ、う、んちょ……ひ、ぅ」
 強く関羽の髪を引いて引き剥がそうとするが、関羽の頭はびくともしないまま、ひたすら劉備の下肢へ奉仕する。
「駄目……だ、ん……は、ぁ」
 ぐずぐずに溶けていく理性を繋ぎ止める方法も思い付かないほど、劉備は下肢から生まれる悦楽に腰を痺れさせて声を濡らす。
 熱い口腔に包まれて激しく責め立てられれば、劉備の極みはすぐに競り上がり、必死に耐えようとするが全身は限界が近付いているために、びくびくと震える。
「雲長……っや、ぁ……もっ」
 離せ、と最後の力を込めて髪を引くが、強く吸われて背を反らす。ああ、と力なく声を上げて、劉備は関羽の口腔へと欲を放ってしまう。
「ぁ……ん」
 吐精の余韻で声が漏れる。どうやら劉備の欲を嚥下してしまったらしい関羽は、唇を舌で舐めてから訊いてきた。
「このような声も曹操殿に聞かせたのですか」
 不機嫌そうだった。しかし劉備とて怒りはある。
「やめろ、と言ったのに」
 思わず恨みがましく呟くと、関羽は跪いた格好のまま、劉備を見上げて睨んだ。
「拙者になら何をされても構わない、とおっしゃいましたが、あの言葉は偽りか」
 非難されて劉備は急いで首を左右に振る。
「しかし、これは違う! 口淫は私が気持ち良くなるだけで、お前の疑いを晴らすのに関係ない!」
「拙者は曹操殿と同じことをしても良いか、と言ったはず。曹操殿にもされたのなら、拙者もいたします」
「……されていない、曹操には口淫はされていない。だからお前もしなくて良かったのだ!」
 必死で訴えた。鋭かった関羽の目付きがふっと緩んだ。
「誠ですか」
「私が嫌だ、と言ったらやめた。別れるまでずっと続いた」
『好いた相手には優しいのだぞ?』
 嫌がることはせん、と言った曹操は少し不服そうながらも身を引いてくれた。
「では、曹操殿もしたことのないことだと」
「だから、お前もする必要がなかった」
「ようやく、あの男に優る点を見つけた」
 この奇妙な誓いを交わしてから、初めて関羽の口元が綻んだ。勝ち誇った、童子が強い相手に勝負を挑み続けてようやく勝利を掴んだような、満足げな顔をしている。
「雲長?」
 立ち上がり、いつもと同じ目線へと戻った関羽は、欲を吐き出したばかりで全身に力が入らずに幹へ背を預けていた劉備に言った。
「曹操の施した房術など忘れるほどに、拙者で兄者を埋めて差し上げる」
 嫉妬に駆られた関羽の声音に、ぞくり、と劉備の官能は煽られる。関羽が曹操を敬称も付けずに呼んだのは初めてだった。関羽は関羽なりに曹操という男を認めて、尊敬していて、それが常に尊称に現れていた。
 しかし今は、関羽の双眼に宿っているのは激しい妬心と劣情だけだ。敬愛と慈愛を含んで劉備を見つめる、深い色をした義弟の瞳はどこにもなく、雄(おとこ)の眼をして劉備を射抜いている。赤く染まっている夕陽のせいなのだろうか。燃え上がるような橙色をした関羽の双眸は、これだけ長く傍に居た劉備すら初めて目にしたものだった。
 そしてようやく思い当たる。
 関羽はずっと劉備に対して怒っていたのではなくて、曹操に抱かれることになった劉備を庇えなかった自分に腹を立て、劉備を抱いた曹操に嫉妬していたのかもしれないのでは、という可能性が初めて劉備の頭を過ぎった。
 お前も、私と同じ気持ちを隠していたのか。
 隠して、ひた隠して、抑え切れずに溢れてしまった。
 そういうことなのか?
 しかしもしそうではなくて。やはり関羽に相談せずに、曹操に抱かれ、絆を揺るがすようなことをした劉備に怒っていたのだとしたら。
 黙り込む劉備の前で、関羽は無言で鎧を脱ぎ落として額当てを外したことで乱れていた髪をかき上げた。依然として目に宿っているのは橙色の、劉備の知らない光だった。
『賭けをしないか』
 不意に曹操の声が聞こえてきた。
『また貴方は。好きですね。今度はどのような賭けですか』
『関羽のこれが、お主に対する怒りなのか、それとも儂に対する嫉妬なのか』
『それは……』
『お主の、最大の瑕瑾(かきん)(欠点)を言ってやろうか、劉備よ。己の得が絡んでくると、途端に優柔不断になるところじゃ。損になるときはすぐに察し迅速に動けるが、得が絡むと実に鈍い』
 私が今すべきことは何だ。もしも本当にお前が抱いている思いが妬心であるなら、だったら、私に出来ることはお前をこんな歪んだ誓いに追い込むことじゃない。
「雲長、聞いてくれ。私はお前に隠していることがもう一つある」
 問うような眼差しに促されて、劉備はそっと息を吐いた。長く、本当に長く胸の奥に沈ませていた想いを口にするには、覚悟が必要だった。それでも、関羽に苦しみを与えている今を放置しておくことは絶対にできない。
「私はお前を魂の片割れだと言った。そのことに偽りはない。ただもう一つ付け加えたいことがある。私はお前を慕っている」
 関羽の目が大きく見開かれた。
「お前と肌を重ねたい、そうずっと思っていた。そういう気持ちをお前に抱いていた」
「……ですが、貴方は曹操を好きだと」
「矛盾しているだろうが、曹操に対する想いも恋情を含んでいた。だが並んで、それ以上の大きさで雲長への想いは色褪せなかった」
 それはもしかしたら自分でさえも触れられない奥底に仕舞い込んでいたからかもしれない。それを唯一あの男が見つけて、見抜いた。
 何が大事なのか教えてくれた。
 目を伏せた。
「節操が無いと罵られても反論は出来ない。ただ私が最終的に選んだのは雲長で、私の想いが行き着く先は、間違いなく雲長だった」
 ようやく、何もかもをさらけ出したことで、劉備は関羽と心の底から向かい合えた。
「もしもこんな私でもお前が許してくれるのなら、まだ共に歩いてくれる、というのなら、私はもう迷わない。決して迷わない」
 自分の大義の行く末も、誰に想いを向ければ良いのか、二度と迷わない。
「兄者……」
 強く抱き締められた。今までで一番強く、そして優しく抱き寄せられて、口付けられた。
「やはり貴方は拙者を狂わせて、乱れさせて……そしてそれすらもどうでも良いことだと思わせる。拙者の魂の片割れを担っているからですか」
 口付けが解かれ、耳元で囁く関羽の言葉に頷き、笑う。
「ああ、きっと。何せ私もお前に触れられているとおかしくなりそうだからな」
 関羽の手が背中を撫で下ろし、双丘の隙間へと指が這う。あ、と小さく声を漏らして、眉をひそめた。
「……雲長、さすがに濡らしてくれないと、痛い」
 小声で訴えると、目の端に映っていた関羽の頬が赤く染まった。すみませぬ、と謝り、関羽は劉備の前に跪いた。
「雲長?」
「口淫を曹操殿はしなかったのなら、これもきっとなさらなかったのでしょう?」
 片足を、関羽の肩に担がれて、大きく足を割られる。何をする気なのか察せず、妙に楽しそうな目付きで劉備を見上げる関羽へ問おうとしたが、答えはすぐに判明する。
「雲長っ……馬鹿……っや、んん」
 舌が劉備の後孔を舐め始めたのだ。もう想いが通じ合った後だからといって、許容できることとできないことがある。暴れようとする劉備の身体を関羽は容易く押さえ込み、後孔の縁を舐め、尖らせた舌先で中を割りに来た。
「や、ぁあ……っ」
 ふるふると頭を左右へ振るが、関羽の舌で感じていることも確かだ。劉備の後孔は受け入れることを知っていて、悦楽が生み出されることも充分に教え込まれていた。舌は幾度も出入りを繰り返し、後孔を無理なく開いていく。
「雲長……嫌、だぁ」
 快感と羞恥と愉悦に劉備は声を震わせて訴える。頭を掴む指をくすぐる癖の強い関羽の髪すらも、ぞくぞくと背骨を蕩かす熱となる。舌が抜かれて、代わりに指が挿し込まれた。薄っすらと開かれていた劉備の後孔は関羽の武人らしい節くれだった指を大した痛みなく受け入れる。
「ぁ、あ……ぅん……はぁ、あ」
 舌よりも確かな感触と深くを開かれる感覚に劉備は喘ぐ。指を中に収めたまま、関羽は立ち上がり、力を失って落ちた劉備の両手を片手で拾い上げて頭上で絡めた。密着してきた関羽の脚が劉備の脚を広げさせ、指の動きを助ける。
 入れられた指をゆっくりと掻き回されて、吐息が濡れた。内に潜んでいた悦楽を突かれてあえかな声が上がる。兄者の声は、イヤらしい。呟くような関羽の声が聞こえて、羞恥に身を焦がすものの、それ以上の強い愉悦に全身が痺れていく。
 関羽が自分を感じてくれていることが嬉しかった。
「っ……は、あ……んぅ……う、ちょぉ」
 指が増えて、二本の指が交互に中の悦を突いて、掻いてくる。声はしどどに濡れ、咽ぶように関羽を呼ぶ。指が抜かれて抱き締められ、関羽の鼓動を感じる。
「良いですか?」
 頷いた。抱き締められたときに覚えた関羽の欲(よっ)塊(かい)に、劉備も煽られていた。片足を掴まれて、受け入れやすい体勢を作られると、劉備は息をゆっくりと吐いた。
 舌よりも熱く、指よりも確かで大きな感触が劉備の後孔に押し当てられた。その熱さに、劉備の後孔はひくり、と喘ぐ。背を幹に預けて全身から力を抜いた。受け入れるときの楽な方法もあの男に教えられたものだ。
 関羽の先端が後孔を割った。圧迫感が酷く、思わず息を詰めてしまう。逆効果だと分かっていたが、反射的なもので止められない。後孔を強く締めてしまい、痛みが走る。痛みは関羽にもあったらしく、呻く声が唇から漏れた。
「雲長、大丈夫だ、そのまま……」
 急いで力を抜き直して、もっとも張り出した部分を内側へと招く。ずるり、と割る関羽の大きさと熱さに、劉備は堪らず喘いだ。
「あ、んっん」
 指先まで痺れる。関羽の背中に腕を回して劉備からも深く受け入れていく。奥まで収まったときには劉備も関羽もじっとりと汗を掻いていた。関羽の眉間に走った皺が深く、劉備はそっと指先で撫でて、頬に触れる。
 口付けた。初めての、劉備からの口付けだった。
「お前が欲しい、お前をたくさん感じさせてくれ」
 微笑んだ。そっと関羽は頷いて、長い髯が揺れた。
 深く収められていた楔がゆっくりと引き抜かれる。ぞわり、と神経の無いはずの爪の先まで甘く疼いた。中を一杯に広げている関羽の楔は、悦の源も圧迫していて、少し動かされるだけで堪らないほど気持ち良い。
「ん……は、ぅん……ぁ」
 大きさに慣れさせるためにか、関羽はじわりじわりと引いては押し込む動作だけを繰り返しているが、劉備の先端からは雫が溢れて止まらない。二人を繋いでいる縁からも水音が湧き始めた。関羽も欲をこぼし始めているということだ。
「兄者……っ」
 ん、と小さく頷く。もう、お前の欲をぶつけて欲しい。お前の想いを私に解き放って欲しい。
 両脚を掴まれた。
「ああっ……」
 背だけを幹に預ける格好で、劉備は自重を関羽と繋がっている中だけで受けることになり、深々と割った関羽の楔に悲鳴を上げた。
「やっ……あ、あ……ひ、ぅ」
 そのまま揺さぶられて奥深くを掻き回される。雲長、ふか、い……っと嬌声混じりに訴えたが、関羽の橙に輝く瞳に射抜かれて息を呑む。
 ずん、と奥を突かれた。悲鳴に近い喘ぎが上がる。ゆさり、と木が揺れて、葉がいくつも落ちていった。最奥を責められるたびに、目の奥で光が瞬く。
「あ、やっ……うんちょっ……う、ぁ」
 過ぎた悦楽に涙が幾筋も溢れていく。兄者、と唇を塞がれ、涙を吸われ、揺さぶられ続ける。
 関羽に深く中を晒しながら、劉備は艶声を溢れさせ、関羽の欲を受け止めたころには、劉備も関羽の腹に欲を吐き出していた。





 部屋の入り口で立ち尽くしている関羽を手招く。
「情けない顔をするな、雲長。お前らしくない」
「……しかし、兄者が起き上がれなくなったのは、拙者が無茶をしたせいで」
 牀台で横臥する劉備の枕頭で跪き、目を伏せる関羽は、巨躯をちぢ込ませるように肩を窄ませていた。
「私が煽ったせいだろう?」
 からかうと、関羽は違います、と急いで否定して、いえ、兄者に魅力がなかった、というわけではなくて、そうではなくて、と言い訳にもならないことを口にする。
「ただ、今夜と、恐らく明日も起きられない上手い理由を考えなくてはなぁ」
 雑木林で肌を重ねた後、すっかり劉備は一人で立てなくなるほど腰を痛め、ここまで関羽に運んでもらっていた。
「言っておきますが、曹操殿のときに使った言い訳は二度と使われぬよう」
「駄目だったか?」
 曹操に初めて抱かれた次の日も、今と同じように劉備は動けなくなって、使った言い訳は――
 夜、月を見上げ続けて腰を痛めた、だった。
「拙者も言いたくはありませぬが、兄者がそのような風流を嗜むはずがありませぬでしょう」
「あながち嘘ではなかったのだが……、駄目だったか」
「はい、翼徳など『兄者が月見て?』と大笑いしておりました」
「あいつめ……」
「無難なところで、拙者と手合わせをしていて腰を痛めた、という辺りでしょうな」
「なるほど。じゃあそれで頼む」
「御意」
 拱手した関羽を見つめて、劉備は笑う。
「ようやく、お前と一つになれた」
 道も志も大義も、魂すら一つだと信じていた男と、最後に繋がったのは身体だった。
「拙者も、兄者を好いておりました。ずっと、ずっと昔から好いて、許されない想いだと思っていました」
 関羽も何かを感じたのだろうか。そんなことを口にして、笑った。
「ですが、こうして身体を繋げてみれば、あれほど悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどに、早くからこうしていれば良かったのだと思えます」
「ああ、本当だ。私が遠回りばかりするから、お前にもうつってしまったみたいだ」
「もう、二度と離れませぬ」
「いや、雲長、それは約束しなくていい。お前は言ったじゃないか。翼徳が旅に出たい、と言ったとき、あいつが決めたことなら止めない、と。あの後すぐだ、お前が曹操のところに留まることを承諾したとき、お前の言葉を思い出した。だから、私は何も言い出さなかった」
 曹操との賭けがあったせいではない。関羽の言葉があったから、劉備は承諾できたのだ。
「それに、翼徳はこうも言った。どこに居ても、どれだけ離れていても、私たちは兄弟だと」
 私はお前を信じているから、もう大丈夫だ。
 本当の意味で、私は強くなっていかなくてはならない。
「たまには、翼徳も良いことを言いますな」
「違いない」
 二人して顔を見合わせ、にやり、と唇を歪めた後、久しぶりに声を揃えて大笑いする。笑いながらも関羽の双眸は、いつもと同じ敬愛と慈しみに溢れた色を湛えて、劉備を見つめていた。
 それを今は劉備は寂しいと思わないし、切ないとも思わない。その双眸が橙色に輝くことを知ったときから、劉備の胸はただ熱くなるのだから。
 琥珀と橙に見守られながら、劉備の道はまだ半ばだ。



 終 劇





 あとがき

 ここまでいかがだったでしょうか。
 同人誌からの再録となります。

 無双オンリーイベント第一回目、ということだったので、
 これまでなんちゃって無双準拠だったのを、きちんと二次創作してみよう、
 ということで作ったお話でした。
 そもきちんと二次創作、と言う言葉自体おかしいですが(笑)。

 そして関劉書くと必ず絡んでくる曹操様を、今回は堂々と名実ともに絡んでいただきました!
 無双5で入ってくるムービーの裏事情を想像しながら書いたのは、
 とても楽しかった、と記憶しております。

 なにか色々あとがきに言い訳を書いた気もするのですが、それをわざわざここでも書くのはアレなので(笑)。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


 2010年1月発行
 ↓
 2012年4月再録



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