「おしおき」
 関羽×劉備
臥龍の妻、制作


 それにしても良かった、と繰り返し劉備は呟く。
 他人の家の布団では少し落ち着かないものの、安堵する気持ちは変わらない。
「兄者は先ほどからそればかりですな」
 不機嫌そうに答えたのは義弟である関羽だ。客が泊まれるような備えがない家だ。一組の寝具に男二人は窮屈だが、関羽の腕に包まれるように丸くなっている劉備は、さほど狭く感じない。
「だってそうだろう。昨日はもう、絶望感で一杯だったのだぞ。お前だって私がどれほど臥龍を、軍師という存在を欲していたか知っているだろう」
 なのに、お前と孔明は喧嘩を始めて、挙句に孔明は帰ると言い出すし、焦ったどころではないぞ。
「それは軍師殿の策略だったのですから、兄者はまんまと乗せられた。それだけです。何もあのように本気に取られて泣き出して」
 自分が大泣きしたことは、恥ずかしいから諸葛亮には絶対に言うな、と念を押していなければ、関羽は兄者を泣かす、などということを仕出かした諸葛亮は半殺しにすべし、と実行しかねない。
「言うな。お前こそ、初めのうちは清々した、という顔をしていたじゃないか」
 そんな関羽も、本当に諸葛亮が新野での自宅から姿を消し、次の日も無断欠勤、と発覚したときには少々焦った顔も見せた。諸葛亮を迎えに行く、と喚いて駆け出す劉備の後を追いかけて供を申し出たのも、少しは自分に非がある、と認めていたからのはずだ。
 関羽とて理解しているのだ。
 諸葛亮という男が加わってから、劉備を慕って集まっていたならず者たちが見違えるように軍隊らしくなった。官舎が整然とし、糜竺や孫乾が忙しく、楽しげに働いているのを目にしている。
 兄にとって、ブレーンは必要不可欠であり、関羽自身にはそこまでの力はない。役割が違うのだ、と承知していても、事あるごとに「諸葛亮、諸葛亮」とつい頼ってしまう劉備と相まって、イライラしてしまうようだ。
 同衾する回数も減る一方だし、昼間の劉備はほぼ諸葛亮と行動している。口を開けば「諸葛亮がな、諸葛亮とな、諸葛亮はな」と言葉を覚えたばかりの子供のように男の名を口にする。
 当り散らしたくなるのも無理はないだろう。
 ところが諸葛亮はどうして、中々肝が据わっているらしく、関羽が殺気をぶつけようが脅しをかけようがビクともせずに、立て板に水のごとき舌の運びで関羽をやり過ごしている。
 そろそろ、関羽とて認めざるを得なくなっているころだ。
 もっとも、本当に関羽が諸葛亮を認めるのは、軍師としての才を見せてからだろう。未だに名を呼ばないのがいい証拠だ。それでも、物事は良いほうへと動き出している。
「あー、良かった」
 また、劉備は呟いてしまった。
「分かり申したから、もう寝ましょう。昨日は眠れなかったのでしょう」
 呆れたように関羽が腕の力を強めて、劉備を胸元の髯の中に押し付ける。
「むぐ……苦しいぞ。狭いのだから、少し加減をしろ。それに、ちょっといつもより髯がごわごわする」
「仕方がありません。濡れた髯をそのまま乾かしたのです。手入れもしておりませんし」
 リンスとコンディショナーは美髯を保つためには不可欠だ。
「軍師殿の家には置いていなかったのです」
「そうなのか? だが孔明はいつもサラサラ、キューティクルヘアーをしておるが、あれは天然のものか。イイ匂いもしているときがあるし。何の匂いだろうな」
「薬草の匂いではないですか。この家はそういった薬香の匂いが充満しております」
「言われてみると、この布団からもそうだし、孔明に抱き付いたときも同じ匂いがしたな」
「……兄者、あまり軍師殿とベタベタなさらないよう、気を付けてくだされ」
 不服そうに言われ、劉備は不思議に思い、首を傾げる。
「ベタベタなどしておらぬぞ」
「……自覚がないと厄介だと、まさか我が身で知るとは」
 関羽が一人ごちている。
「彼は妻のある身です。これから奥方も近くにおられる。あまり仲の良いところを見せられると、あらぬ誤解を招きます」
「まさか!」
 笑い飛ばす。
 諸葛亮の妻への愛情は本物だ。なにをどう疑われるというのか。
「何より、軍師殿もまんざらでもなさそうなところが一番危険です」
「それこそまさかだぞ、雲長」
「兄者の鈍さにはこの雲長、経験から理解していたつもりでしたが、今日、ここで改めて反省いたしました。兄者がそのようなことですから、軍師殿がなびくのです」
 少々、兄者へのお灸と軍師殿への牽制が必要ですな、と関羽は言う。
 お灸と牽制の意味が分からずに劉備はきょとん、とするが、胸元に手が差し込まれて声を上げる。
「あ……っ」
 慣れた身体は容易く刺激に組し、色めいた声を漏らす。
 慌てて関羽の手を胸元から抜こうとするが、筋肉に覆われた太い腕がそう簡単に動きはしない。
 仕方なしに、小声で関羽を叱る。
「ちょ……こらっ……雲長っ」
 だが劉備の咎めに耳を貸した様子もない関羽は、続けて胸の突起に指を絡げる。びくっと身体が跳ねた。クリクリと指の腹や爪の先でいじられて、甘い刺激が背筋を襲う。
 縋るように関羽の衿を掴む。
「馬鹿、隣に孔明たちが……ぁん」
 強くつねられて、声が弾んだ。
 聞かれただろうか、と頬を熱くする。他人の、しかも部下の家で睦事に耽るなど非常識にも程がある。これではまた諸葛亮に呆れられて逃げられるか分からない。
「申したでしょう。お灸と牽制だと」
 兄者が拙者のものであることを、知らしめるのです。
 言う言葉が理解できず、呆然と関羽の顔を見やる。ようやく意味を解して阿呆、と言いかけた唇を塞がれた。
 厚ぼったい唇は熱を帯び、すぐさま差し込まれた舌の感触に頭の芯は痺れる。逃げようと舌を浮かしたが、狭い口腔で逃げ場などあるはずもなく、あっさりと捕らえられて絡み付かれた。
 口腔を隈なくなぶられながら、横抱きだった体勢から仰向けへと転じさせられる。覆い被さる関羽の重みが劉備を圧迫した。
「っ……ぁぅん……ふっ……ぅふ」
 顔の向きを変えながら、何度も深く唇が重なりあう。駄目だ、という思いは残っているものの、舌を伝ってくる甘美に逆らうことは難しい。
 上半身を裸にされ、関羽の両手がゆっくりと胸筋を揉む。さわさわと、少しゴワついている髯が下腹や臍の辺りをくすぐり、劉備は身じろぎする。
 胸を揉む手は肝心の頂には触れず、その周辺だけを丹念に愛撫する。もどかしくなって自ら関羽の胸板へ押し付けるように上肢を反らすが、小さな刺激が生まれただけだ。
 いっそうもどかしくなっただけで、劉備は焦れる。関羽の首に回していた手で髪を引き、苛立ちを知らせる。
 唇が離れ、関羽の厚い唇が弧を描く。
「このようなところで抱かれるのは、お嫌なのでしょう?」
「それは、そうだが……」
 ここしばらく、関羽とまともに肌を重ねていない。諸葛亮と同衾をした後は、執拗に抱かれたりもしたが、最近は暗殺者の動きが不審で、房事をしている隙はなかった。
 昨日、執務室で何やら妙に怒っていた関羽に無理矢理抱かれそうになったが、あと少しで達する、というところで諸葛亮が訪ねてきた。
 劉備とて、欲求不満なのだ。
「分からなければ、大丈夫、だろう?」
 提案してみると、関羽は目を眇めて奇妙な形に唇を歪ませた。
「兄者が、声を抑えられれば、でしょうが」
 時々、弟には嗜虐心が宿るときがある。劉備を大切にしているからこそ、普段は決して表に出ることはないが、関羽も男であり、荒々しい武を操る猛者でもある。
 秘めている心と血を目覚めさせたらしい、と劉備は後悔するが、光った目で自分を見やる関羽の前に晒されて、ぞくり、と悦を覚えたのも事実だ。そんな劉備に気付いたか、関羽は見せ付けるように舌を伸ばして、ゆっくりと胸の頂へと下ろしていく。
「……っ」
 急いで口を両手で塞ぎ、声が漏れるのを防ぐ。
 ぴちゃり、と水音が湧き、劉備は身体を竦ませた。先ほどまで望んでいた箇所への生暖かい感触に、ひくっと咽が鳴った。
 小刻みに舌が動き、屹立していく突起を舐めしゃぶる。ふくり、と硬くしこった突起に歯が立てられた。痛いぐらいの強さだったが、悦のほうが上回った。
 痛みと悦で痺れる突起は、舌の腹で転がされて濡れそぼっていく。音を立てて吸われれば、聞こえただろうか、という不安と羞恥が劉備を責める。
 呼吸を抑え込むのが苦しくなり、少しだけ手をずらせば、鼻にかかった甘い吐息がはっきりとこぼれてしまい、急いで息を潜めた。
 そんな劉備のささやかな抵抗をどう捉えているのか、関羽は舌を脇腹や下腹といった柔らかい肉の部分へと下ろしていく。下帯は解かれ、下半身を覆っていた衣もあっさりと剥ぎ取られた。
「もう、立てておられるのか?」
 からかわれて、劉備は闇の中で関羽を睨む。向こうも見返してきたのが、夜の薄明かりの下で見て取れる。
 指で軽く弾かれて、声が上がりそうなのを奥歯を噛んで堪えた。先端を指で撫でられただけで睨む目からは力が失われ、乞うような眼差しで関羽を見つめてしまう。
 しかし、関羽の手は離れてしまった。
「もっと触って欲しいですかな?」
 頷く。では、と関羽に口を抑えていた手を掴まれて、湿った唇を指でなぞられる。
「兄者のこちらで、拙者を満足させていただければ、いたしましょう」
 頬が熱くなる。別段、二人の間では珍しい行為ではないが、やはりここは諸葛亮の家だ。早く終わりにしたい、という思いはまだ残っている。煽られて理性をなくしてしまったら、何を口走るかも分からない。
 ためらう劉備に選択肢を与えるつもりはないらしく、関羽は起き上がり手早く下穿きから雄身を取り出した。抱きかかえる様に劉備の身体も起き上がらせる。
 まだいつもほどの質量はないものの、屹立しかけている関羽のそれは、劉備の咽を鳴らすには充分だ。胡坐をかいて手招く関羽に、劉備は逡巡する。
「雲長……」
 小声でやはり無理だ、と否定しようとした。しかし関羽は、
「欲しくありませぬか、これが?」
 と大きさを知らしめるように、劉備の手を取り上げて握らせる。耳の傍に関羽の顔が寄り、囁かれる。
「拙者のこれで、兄者の奥深くを突いて差し上げますゆえ」
 ぞくり、と背筋が痺れて、握らされた指先にまで痺れが走る。劉備の抵抗感が薄れたところを見透かされ、ぐいっと半ば強引に関羽の雄身の前に顔を下ろされる。
「あ……」
 間近になった関羽の雄身は、劉備の小さなためらいすら切り捨てるほどの、凶悪なまでの存在をアピールしていた。
 気付けば唇を寄せて、先端へ口付けていた。啄ばむように先端を軽く吸い、舌でちろり、と舐める。馴染んだ関羽の味と肉の感触に、劉備の口淫は徐々に大胆になっていった。
 舌の腹や先を使い、先端の割れ目や括れに這わす。緩急をつけて舌の動きを変化させれば、雄身は硬さや質量を増していく。
「ふっ……む……は、ふ……ん」
 軽く歯を立ててみたり、口内に頬張ってみたりと雄身を昂ぶらせることに夢中になった。劉備自身の熱も冷めないよう、関羽の手が髪や耳朶に触れてくることがさらに劉備を煽る。
 口内に頬張り、手でも刺激を送る。余すことなく関羽を悦ばせるうち、頭上から聞こえる息遣いも弾んできた。漏れる呻きに似た声に、恍惚感すら覚える。
「ぁむ……ん、ん」
 兄者、と頬に手を添えられて、仰向かされる。口から雄身が逃げてしまい、落胆のような声が漏れた。
 不満で上目遣いで睨めば、関羽の口角が深く切れ込む。
「イヤらしい顔をなさる。こんな顔で見られれば、誰でも兄者に堕ちますぞ?」
 ぐいっと、唇の端の垂れている唾液とも関羽自身のものともしれないものを指で拭われる。その濡れた指を唇に押し付けられて、劉備は黙ってしゃぶる。
 見せ付けるように指に舌を這わして、ちらり、と関羽を見上げた。もっと好くしてやるぞ、と無言の眼差しに込めてみる。
 小さな笑みが降ってきて、指が取り上げられる。代わりに再び雄身が突き出され、劉備は大人しく舌を伸ばしたが、蹲って無防備に晒していた双丘の奥へ、指が這わされた。
「う、く……ぅん」
 腰が勝手に揺れてしまう。口淫の間に興奮して硬くなってしまった下肢が布団に当たる、その僅かな刺激ですら堪らない。
 布団は汚せない、と過ぎった思いもあったが、揺れる腰は止まらない。つぷり、と劉備の唾液で濡れた指は難なく奥へと侵入を果たす。
 声が漏れるが、雄身を咥えていたせいで大きくはなかった。
「口を疎かにしますと、声が上がってしまいます」
 続けていたほうがいい、と提案までされる。
 指はためらいなく体内を割り、すぐさましこりを軽く掻いた。
「ひゃ……ふぅ」
 びくん、と身体が勝手に跳ねた。続けざまにこすられれば、薄っすらと涙すら浮かぶ。関羽の指に押し付けるように腰が揺れる。
「こちらは必死で拙者の指をしゃぶっていますが、上のほうはそうでもないですな」
 留守になっていた口淫を指摘されて、劉備は何とか頬張るが、それ以上は後孔からの刺激が強すぎて何も出来ない。
「もう、終わりですか?」
 ついには関羽の腿に縋るようにして、後ろからの刺激を感受するだけになった劉備に、関羽は言う。触られずに放置されている下肢からは透明な雫が何度か溢れていた。
 黙って頷いた。
「まだ拙者は満足していないのですが。約束を守れない兄者に、拙者は何もしてあげられませぬぞ」
 指が引き抜かれてしまう。体内からの刺激が一切なくなってしまった劉備は、泣きそうになり関羽を見つめる。
「ただ、拙者の身体は兄者のものですから、どう扱おうが構いませぬ」
 つまり、関羽からは動かないが、劉備からアプローチするのは自由、ということらしい。自分の言葉を裏付けるかのように、関羽は胡坐を掻いたまま微動だしない。
 今度は、劉備は躊躇(ちゅうちょ)しなかった。関羽を跨ぎ、中心でそそり立っているものへと腰を落としていく。だが、まだ指一本を咥えたきりの後孔だ。いくら関羽のものを受け入れ慣れているからとはいえきつい。
 劉備は深呼吸を繰り返し、じわじわと関羽を飲み込んでいく。硬く熱いものが縁を撫で、入り口を突くたびに甘美が襲う。
 関羽で満たされたい、という思いが劉備を突き動かし、無理な挿入も第一段階を過ぎた。張り出した部分を受け入れた劉備は、長い息を吐きながら腰を深く落としていく。
「……っ……ぅん」
 声が漏れそうになる口を片手で押さえながら、片手はぎゅっと関羽の衿を掴んで耐えた。
 後孔を関羽で満たした劉備は長いため息を吐いたが、やはり動く気配のない関羽に非難めいた眼差しをぶつける。情炎の滾った双眸で劉備を見返すくせに、関羽は動かない。
 痺れを切らした劉備は、一杯に頬張っている奥が大きさに慣れるのを待ち、そっと腰を振った。
 良いところへ当たるよう、上下運動を繰り返す。自分でタイミングが分かるだけに、声も抑えやすいので息を乱しながらも劉備は関羽の硬さと熱さを存分に味わうことにした。
「ぁ……ふ……ん、くっ……う」
 関羽の硬い腹筋に覆われた下腹へ下肢をこすり付けると、堪らなく気持ちいい。ぶるり、と一際大きな震えが劉備の肢体に走る。
 ああ……も、イく……っ。
 声に出さずに劉備は限界への疾駆を始め、関羽の肩に噛み付くように顔を伏せた。
「ふぅ……くっ……っ?」
 あと少し、という限界の間際、関羽の指が劉備の根元をきつく締め上げた。くぐもった悲鳴を劉備は関羽の肩の中で漏らす。
「や……う、ちょ?」
 涙が溜まり曇った視界で関羽を見やれば、また奇妙に歪んだ唇が飛び込む。
「ここをこうしておくと、兄者の中は非常に締まりますゆえ」
 かぁ……っと頬が熱くなる。女のような言われように羞恥と、どうしてか、甘い痺れを覚える。
 今まで自ら動こうとしなかった関羽が、不意に腰を突き上げた。
 背が弾けたようにしなった。自重も相まって深いところまで関羽を受け入れていた劉備にとって、突き入れられれば思わぬ深さまでこじ開けられるようで、耐えられるものではない。
 口を押さえるだけでは足らず、手首を噛み、必死で関羽の衿を掴んでやり過ごすしかない。
「っ……っっう……ぐ……ふぅっ」
 揺さぶられて最奥を熱い切っ先で拓かれる。劉備は無造作に遊ばれる人形のようだった。
 胸に舌が這い、吸われる。どくり、と一段と下肢は熱く膨れ上がるが、関羽の指に阻まれて悦の解放には届かない。
 過ぎた悦に劉備の目からぼろぼろと涙がこぼれて頬を濡らしていた。強く噛みすぎた手首の皮膚が避けたのか、血の味が微かにする。
 どさり、と敷き布団の上に倒された。ぴたり、と激しかった関羽の動きが嘘のように止まる。それを合図にしたように、衿を掴んでいた指から力が抜けて、脇へと落ちた。
 手首がずるり、と口元から離れると、案の定、くっきりと赤い血を浮かび上がらせて歯形が浮かんでいる。
 半ば飛びかけていた意識がじわり、と戻ってきた劉備は、動かなくなった関羽を見上げて小声で叱る。
「やりすぎだ、雲長」
 普段の二人きりの寝所でならともかく、隣には諸葛亮たちが居る。二人の関係には目を瞑ってくれたが、節度を守らなければまた何をしてくるか分からない。
 もしかしたら、本当に呆れて劉備の下を去るかもしれない。そうなってしまってからでは遅いのだ。
「拙者のものを咥え込んで離さず、こちらもこのように硬いままでは説得力がありませぬが?」
「〜〜っ」
 羞恥で顔を背ける。普段は呆れるほどに従順な弟が、こうして反抗するときは手に負えない。不満や怒りが収まるのを待つしかなくなる。
 関羽はまたしても動こうとしないが、劉備とて正常位では自ら動きようがない。僅かに腰を揺らして刺激を送るしかないが、半端な刺激は余計に物足りなくなるだけだ。
 じりじりと身体を焦がすような熱に吐息がこぼれる。
「雲長……っ」
 劉備の哀願にようやく関羽は動きを見せる。
 緩く押し上げるような動きに、爪先まで甘い痺れが満ちる。
「ぁ、ふ……」
 口を塞ぐのを忘れて、濡れた声を漏らしてしまい、慌てて劉備は腕で口を覆う。内側の柔らかさでも味わおうというつもりか、ゆるりゆるり、と関羽の腰が円を描く。
 ぞわり、とした総毛立つ感覚がした。また新しく雫が溢れて誡めている関羽の指を汚しただろう。下腹で熱く渦巻く欲が噴き出させろと訴えている。
「物欲しそうな顔をなさっておいでだ」
 低い笑いが関羽の咽から漏れる。
「こうして拙者の一物を引こうとすれば、引き止めてこられる」
 胸筋に掌が這い、指の間に突起が挟み込まれた。軽く揺すられて劉備は啼く。
「胸をいじられただけで、狭くなる。兄者のお体はどうしてこのようにイヤらしく出来ておいでか」
 それは、お前がこうしたからだ、と反論を口にしかけたが手首を取り上げられて、付いた歯形に舌が這う。脇に落ちた腕も掬われて、関羽の片手に両手首は絡み取られ、頭上で一括りにされた。
「……?」
「これで、兄者を思い切り突いたら、声を抑えることが出来ますか?」
 息を呑む。口を押さえるものが何もなく、身体だけは絶頂を与えられず、焦らしに焦らされている。出来るはずがない。
 あられもなく声を上げる自分の姿が容易く想像でき、劉備は必死で首を横に振った。
「駄目だ、雲長」
「嫌ですな。兄者の声を聞かせてやるのは癪に障りますが、大いに牽制になる」
 せいぜい、堪えることですな、と言い放ち、関羽は劉備の拘束した手首に力を込めて、未だに下肢の根元を押さえたまま、ずっ、と腰を引いた。
「――っ」
 劉備は奥歯を思い切り噛み締める。雄身が中をこすっただけで今の悦だ。奥を突かれ、しこりを撫で上げられたらどうなるか。
「……っっ……ぐ……ぁっ……ぅ」
 二度、三度。浅く責める関羽の動きに、劉備の理性は持ったほうだ。不意を衝いての奥深くへの責めにも耐えられた。だが、張り出した部分でのしこりへの集中的な責めに追い詰められる。
「や……ぁ……うんちょ……ぅ……ちょ」
 いやだ……、と掠れた声で訴えた。もう、声を抑えるだとか、諸葛亮のことだとか、関係なく乱れたい。関羽を目一杯感じたい。
 唇を、関羽の厚い唇で塞がれた。
 いいですぞ、と間近で交わった瞳が語っていた。
 最後の最後、やはり関羽は劉備に自分を譲ってしまうらしい。
 手首と、下肢の戒めが解かれた。
 ぎゅうっと関羽の太い首に腕を回す。阿呆、と思いながら足で背中を蹴ってから、腰に絡みつかせた。深く、関羽の雄身が劉備を貫く。
「う、ふぅ……っ」
 頭の中が真っ白に弾ける。自分の腹筋と関羽の腹筋に挟まれて、下肢は粘着質の音を立ててこすられる。二人を繋ぐ箇所からも関羽が突くたびに卑猥な音が湧いていた。
 一際鋭く関羽が奥を抉る。びくん、と四肢は跳ねて、関羽を咥えている秘所は劉備の意思とは関係なく食い締める。
 劉備の口内に関羽の呻きが流れ込んだ。
 舌を絡げる。
 雲長、と重なった舌に音を乗せれば、兄者、と同じように舌が震えた。
 あとはただ、くぐもった嬌声を上げながら、関羽の熱い飛沫を体内に感じて果てていった。




「なあ、孔明。昨日の夜、何か変わったことはなかったか?」
 恐る恐る、新野に向かう道すがら、劉備は諸葛亮に訊いてみた。
「いえ、特には」
 なぜかげっそりとやつれた頬をした諸葛亮は目を逸らしながら答えた。その不自然さに一向に気付かない劉備は、そうか、とほっと胸を撫で下ろした。
「それにしても月英殿は、今朝は異様にお元気だったが、やはりお前と暮らせるからだろうなぁ?」
 気にかかっていた事柄が解決された、となればすぐにいつもの調子で歳若い部下をからかいにかかる。
「ええ、そうですね。これでネタに困ることはないです、と大変喜んでおりました」
 ふふ……、となぜか遠い目をして笑う諸葛亮に、劉備は首を傾げる。
「ネタ……?」
「私も深く訊く気にはなれませんでした」
「雲長は意味が分かるか?」
「さて……」
 振られた義弟は、傷んだ髯が気になるのか、しきりにいじっているばかりで、話を聞いているのかいないのか。
「城に戻ったら、ブラッシングしてやるぞ」
 関羽が大事にしている髯をいじれるのは、劉備の特権だ。
 嬉しそうにする劉備に、関羽もそれはかたじけない、と頬を染める。
 朝からバカップル全開である。
「ああ……私、長生きできるのでしょうか」
 ひたすら遠い目をしながら、諸葛亮はひとり、爽やかな朝にため息を吐いていた。



 おしまい



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