「花より団子よりも 3」
 関羽×劉備


 きつく瞑られた目の端が雫で濡れ、薄月に煌いていて酷く艶めかしい。引き締まった双丘を開き、劉備のもので濡れた手で、奥に隠れる後孔を探る。
 まだ乱れた息が整わない劉備は、その感触にぴくっと体を揺らす。後孔を捉え、ひくひくと息づく縁を指先でなぞり、割った。
「っ――くっ」
 辛そうな呻きが劉備から漏れる。やはり久しぶりだからきついのだろう。気遣って指を進めるのを止めると、こうべを振って劉備が先を促してくる。
「ですが……」
「早く雲長が欲しいのだ。構わぬから」
 そのようなことを言われれば、頭の芯が痺れたようになる。本当は、関羽もほぐす時間すら惜しいのだ。
 早く劉備が欲しい。
 これほど自分が、浅ましいまでに兄を欲しがっているなどと、羞恥心に駆られるが、妙に心地良い。たぶん、劉備も同じように求めているからだ、と思い、さらに想いは強くなる。
 指をいつになく強引に進める。劉備は苦しそうな声を漏らしながらも、力を抜いて受け入れやすいようにしてくれている。
 指を締め付ける劉備の感触に、ぞくっと背筋が官能へ侵される。関羽を待っていたかのように、襞の一つ一つが一点へ押し進める。それに逆らうことなく、その点を押し込んだ。
「んあっ……あぁっ」
 苦痛を堪えて結ばれていた劉備の唇は、するり、とほどけて嬌声へと編まれていく。編み込まれた嬌声は関羽を抱き込んで、官能の淵へと導く。
 襞を伸ばし、中を開拓ひろげながら、汗が滲んで馴染みのある劉備の香りが匂い立つ肌に舌を這わす。耳朶を舐め上げれば、いや、とも、いい、ともつかない声を漏らした。
 徐々に柔らかくその身を熟していく熱帯の果実は、関羽の指を三本受け入れる。そのまま熟し具合を確かめるため、何度か出し入れをしてみた。
「ぃあ……ふ、ぁ……うんっ」
 熟れた果実しか出さない、食べ頃の誘い声。
 かぶり付くための牙はすでに疼きながら光っている。最後に果実に問うてみた。
「兄者?」
 こくりっと果実から、思う存分に食べてくれ、と許しが降りる。すぐさま牙は口から剥き出され、果実の中へと歯を立てた。
「っふぅぁ……っあん、や、あ……」
 牙を突き立てていくと、果実は熟した身を熱くたぎらせて、甘い匂いを撒き散らす。牙の切っ先が潜り込み、味を咽へ流すために軽く揺する。いやらしい水音を立てながら、牙は奥へ奥へと引き込まれる。
 そう、まるで食べられているのは牙を持つ自分で、甘い果実の毒に侵されているようだ。
「兄者、っん」
 劉備の中がきゅうっと締まって、関羽の猛りを貪っていく。熱くなりすぎている頭が酸欠を起こしそうになり、小さく呻いて、関羽は腰を引き抜く。
 そうはさせまいと、劉備の中は縋りつく。それだけで、高ぶり、張り詰めている関羽は達しそうになった。抜ける直前で入り口を捏ね、もう一度奥まで突き立てる。
「――っっ」
 咽仏を晒し、背を細い月のごとく逸らし、劉備は仰け反った。無防備に晒された咽へ、関羽は甘噛む。深く繋がれるように、劉備の両脚を折り畳んで腰を引き寄せる。
 襞をめくり上げるように切っ先をこすらせ、確実に点を突くように押し上げる。関羽の腹の下で、劉備の中心は滴り落ちるほどの果汁を溢れさせていた。
 その果汁を掬い取り、こぼれる出口へ塗り付ければ、後孔はヒクつくように震えた。
「う、ん……っちょ、もっ、イく――っ」
 潤み切り、まなじりから雫をこぼれ落としながら、劉備は涙声で訴えてくる。頷き返し、劉備の中心を強く握り込んだ。合わせるように腰の動きを早め、より激しく奥へ捩じり込む。
「ぁああ、あっ……ぃあ、あ――っ」
 鋭い嬌声が劉備から上がり、肩に回されていた腕に力が籠もる。妖しく脈動し、関羽を締め付ける中のきつさに、知らずに関羽も声を漏らす。
「っく、兄者……っ」
 二人が達したのはほぼ同時で、肩に回されていた腕が力を失って滑り落ち、関羽も長い吐息をついた。

 幾筋も流れた涙の跡をそっと舌で拭い、朱色の耳へ囁く。
「成都の酒に酔ったようです。未だに酔いが回っておりまする。このまま醒めるまで、共に過ごしても良いでしょうか」
 まだ足りなかった。こんなものでは埋まらない。離れていた時間に比べれば、余りにも短い逢瀬だ。その証拠に、関羽の猛りは劉備の中で勢いを取り戻し始めている。
 息の整い始めた劉備は、薄っすらと笑んだ。
「離れている間に、気の利いた誘い文句が言えるようになった。もちろん、構わぬ。私も相当に酔っている。お前の酒にな」
 だから、その味を忘れないように、朝まで酔わせてくれ。
 続けられた言葉に、笑顔と共に短く返答する。
「御意」
 体を起こして、繋がったままの肢体を横向きに変える。片足を手元に引き寄せて、膝裏を掴んで脇へ折り畳ませる。角度を変えた関羽のものは、劉備の善い箇所に当たったのか、ふるっと体が震えた。
 膝立ちになり、畳んだ片足と反対側の腰に手を添えて、ゆるりっと腰を回し、中の柔らかさを味わう。関羽の放ったもので、繋がっている部分からは粘着質な音が立つ。
「〜っふぁ……」
 その動きで劉備が吐息をこぼす。この体勢だと、劉備の中心が良く見える。すでに硬さを取り戻している劉備のそれから、じわりっと雫が顔を出した。
 足に添えている手を外し、悪戯に指で弾けば、
「や、ぁ」
 と甘えた声で劉備が喘ぐ。またしても潤んできた瞳で関羽をきつく見つめながら、耐えるように両手は敷き布を握り締めた。
 そんな挑発的な態度を取られれば、関羽の、普段は兄に向けられることはないはずの嗜虐心が、僅かに覗く。腰をじわじわと引き、それから襞を一枚一枚伸ばすように、ことさらゆっくりと埋め直す。
「あ、あ、ぁ、ん」
 強くはないが、確実に熱を上げさせる悦楽の切っ先に悶えて上ずった声が断続的に、劉備の口から漏れる。それを幾度も繰り返した。
 劉備の掴んだ布が深い皴を作り、指先がこまかく震えている。切っ先が入り口付近だけを刺激すれば、物足りなさそうに腰が揺れた。
 それを見て、関羽はまた奥底へ切っ先を伸ばすが、もっとも感じる部分を外して、やんわりと押し込むだけに留める。ひくんっと淫らにうねる劉備の内側がきつく締められた。
「は、ぁ、っ――雲ちょ……もっと、ほしぃっ」
 掠れた声で疼きを訴えられる。関羽は雫を垂らしている前を優しく握った。
「ぁんっん――」
 しかし、当然要求している場所と違うので、緩々と劉備の首が横に振られる。それでも、前を刺激すれば高い声で啼き始める。
「そこじゃ、……ないっ」
 焦らされる行為に非難めいた声を上げる。中を刺激するのを止めて、前を集中的に責めれば艶声は溢れるがどこか不満げだ。
「雲長……っ」
 求めて掠れる声音はぞくぞくと関羽の悦を煽る。前を刺激するたびに蠕動する中も堪らない。
 動いて欲しい、奥に欲しい、と如実に訴えてくる劉備の眼差しに関羽の小さな嗜虐心が満足する。
「ぅんんっ――あんっ」
 不意を衝くように切っ先を奥へ穿てば、嬌声は充足感で、震えるように艶を増した。もっと溢れさせようと、焦らした分も含めて、関羽は奥へと鋭く切り込む。
 引っ切り無しに、劉備の口から悦の音色がこぼれる。中心へも力を加え、一気に果てへと追い込んだ。
 自分の字を呼びながら、劉備は達する。それを確認してから、関羽も劉備の中へ二度目の精を解く。受け止める劉備の四肢が、感じ入ったように幾度か震えた。

 下肢を引き抜き、汗に濡れている劉備の額を拭う。瞑られていた劉備の目が開き、関羽を捉えた。
「今度は私の番だぞ」
 むくっと起き上がり、劉備は関羽の肩を押しやって体勢を反転させる。逆らえば当然逆らえたが、関羽はそのまま劉備のしたいようにさせた。
 何せ劉備の目は官能の余韻を残しながら煌き、そして、何度も吸い付いたせいで赤く濡れている唇で笑うのだから。
 その唇をちろっと舐めてから、劉備は関羽の半端に着ていた衣を取り去る。くすぐるように劉備の指が、関羽の肌を撫でていく。
 胸に強く唇が当てられ、強く吸われれば赤い印が浮かび上がる。そのまま唇は幾箇所にも跡を残し、下方へ滑り落ちていった。
 ぞくんっと中心が呻いた。劉備の口が関羽の中心を含んだのだ。舌が根元の膨らみから裏側、先端までを熱心に舐めてくる。
「兄、者……」
 気持ちよさに関羽は目を細める。口に咥え込まれ、余る場所は劉備の手が刺激を送り込んでくる。音を立てて吸われれば、ぐっと質量を増す中心に、我ながら素直だと思う。
「兄者、こちらへ足を」
 だが、自分だけが悦を与えられているのは不服で、劉備を自分に跨らせるようにして、形の良い臀部を顔に向けさせた。愛撫するうちに煽られたのだろう。芯の入り始めた劉備の中心を舐め上げた。
「っん、んん、ふ」
 鼻から吐息をこぼしながら、劉備は腰を揺らした。先端から根元へ、丁寧になぞり上げる。唇でくびれを挟み込み、小さく揺すってやれば、くぐもった声で喘ぎを溢れさす。
 負けじと劉備の愛撫も激しくなるが、関羽が息をするように収縮している後孔の縁をなぞり、指を挿し入れれば、一瞬だけ動きが止まる。
 互いに快感を高めようと、熱心に口淫を行う。
 舌を尖らせて先端の弱い箇所を抉れば、指を咥え込んでいる内壁がきゅっと締まる。先端を責めながら、指を増やして抽送ちゅうそうする。
「ひっ――うんっ」
 堪らず、劉備が仰け反って声を上げる。
「ひ、きょうでは、ないか。これでは集中でき、ぬ……っ」
 切れ切れに訴える劉備へ、関羽は中心を口に含んだまま笑う。それにも感じるのだろう。劉備は悔しそうに唸り、喘ぐ。
 腰を引き寄せ、咽の奥で劉備を挟み込む。
「く、ぅん……やめっ――」
 その言葉とは裏腹に、劉備の中心はますます血を集めて、関羽の舌に身を寄せる。指をくねらせれば、関羽のものと、おそらく劉備のものとで、妖しい水音を立てる。
「離せっ……お前ので、イきたいから、雲長」
 さすがにそう言われては離すしかなく、関羽は劉備を解放する。残念そうな顔をしていたようで、劉備は目元を染めた、誘うような目付きで睨んだ。
「今度こそ大人しくしていろよ」
 劉備は関羽へ向き直り、存在を主張している下肢へ向けて、静かに腰を下ろし始めた。片手で双丘を広げ、もう片手は関羽の中心に手を添えている艶態に、関羽は知らずに咽を上下させた。
 そんな関羽を、片目だけ瞑った状態で劉備は見つめ、満足そうに唇の端を持ち上げた。その開いていた片目も、関羽の猛りを飲み込むにつれ、閉じられた。
「ぁ、ぁ――っぅう……はぁ」
 切っ先が潜り込んだ。長い溜め息を吐き、劉備は関羽を根元まで飲み切った。
「どう、ですか。拙者の味は?」
 問い掛ければ、劉備は眉間に寄せていた皺をわずかに浅くして、瞼を持ち上げた。ゆらりっと揺れる双眸が関羽を見下ろし、弧を描く。
「極上だ」
「それは何よりです。もっと味わってくだされ」
「元よりそのつもりだ」
 挑戦的に言い放った後、劉備は関羽の腹に手を付き、腰を動かし始めた。きつく、絞り上げるように猛りをこすられる。そのきつさのまま、奥深くまで導き戻される。
「ぅく――」
 眉をひそめてそのきつい快感に耐える。それを幾度も繰り返され、関羽の息が荒くなる。
「ど、うだ、私の味は?」
 劉備も切羽詰ってはいるのだろう。触れてもいない中心は月を見上げ、涙をこぼしている。それでも、ゆらゆらと揺れる双眼そうがんは、今夜の月と同じ形だった。
「きっと、忘れることの出来ない味となります」
「そうか……」
 不意に現れた笑顔は、艶も含んでいない、ただ嬉しそうな笑顔だったので、関羽は虚を衝かれた。
(ここでそのような笑顔を見せて、本当に兄者は拙者を驚かす方だ)
 艶容の果てに見せるには邪気すぎる笑みは、一見して不釣合いなのに、関羽の前で踊る男には似合っている気がして……。
「玄徳兄者」
 余程のことがない限り呼ぶことのない字を口にする。それに驚いたように体を震わした劉備が愛しくて……。
「玄徳殿」
 もう一度、呼んだ。
「雲長」
 優しく返される声が、柔らかく自分を包んだ。
 後は言葉はいらなかった。
「ぁん、んっん、あっ」
 突き上げる関羽の腰に合わせて、劉備も艶やかに肢体を踊らせて、二人きりの悦楽へと誘い込む。
 強い風が窓から吹き込んだ。夏を匂わす風は窓辺に置いた二つの杯を床へと落とす。からん、と音を立てて杯は転がる。
 中に残っていた酒が床に広がった。
 液体は一つに混ざり合い、杯の中で二つに別れていた月を一つへと戻す。ゆらり、と濃い匂いを立たせる酒の中で、月が弧を描いている。
 その月が姿を消すまで、一つとなった二つの影は離れることはなかった――。


 珍しく、父が朝食の時間に遅れていた。
 昨夜は劉備と兄弟水入らずで飲むために、早々に部屋に引き上げたのは知っていた。それでも、いかに深酒をしたときも、規律にうるさい関羽はいつも朝食には起きていた。
 関平は起こしてこようと、父の私室へ向かったが、途中で周倉に会い引き止められた。
「今朝は、寝かして差し上げてください」
「なぜですか?」
 不思議に思って聞き返したのに、周倉は何ともいえない、困ったような、可笑しそうな顔をして小首を傾げた。
「若がもう少し大人になりましたら、自然と察せると思います。ですから、今朝はおやめください」
 それは暗に自分がまだ子供だ、と言われているわけで、関平は悔しくなって言い返す。
「説明は端的にするものです!」
 義父と同じ口調の関平に周倉は微笑ましさを覚えつつ答える。
「そうですね、馬に蹴られても良いのなら、お引止めはしないのですが……」
「父上の部屋に馬がおるのですかっ?」
 びっくりして目を丸くすると、ええ、と頷かれる。
 恋路の邪魔をする者だけを蹴る馬、ですけどね。
 そんな周倉の呟きを、関平は聞き取ることが出来ずに、首を捻る。
「父上は部屋に馬を上げているのか? そのほうが人馬一体にでもなれるというのだろうか」
 真剣に意味を考え始める。そんな関平を見て何を思ったか。全てを察している腹心の部下は、歳若い武者を朝食へ促した。
「たまには寝坊をさせてあげてください。滅多にあることではないのですし」
「はあ」
 曖昧に返事をして、今度、拙者も馬と一緒に寝てみようか、などと関平は考えていた。


 ――それから幾日か過ぎて。
「ほらな、私の大当たりではないか」
 そのように得意げになられても返答に困るのだが、と劉備をちらっと見てから、関羽は迎えにやってきた弟に軽く手を上げて応えた。
「随分と早かったな」
「早かったな、じゃねえよ、兄者。これでものんびりしてきたんだぜ」
 関羽が声を掛けると、劉備を迎えにきた張飛は、中庭で馬から降りて肩を竦めた。
 早馬の知らせを受けて出立した、と考えれば、尋常な早さだと思うのだが、びしっと劉備へ指を突きつけて、張飛は言った。
「諸葛亮の奴が、どうせ兄者は雲長兄者のところだ、と見抜いていたのさ。だから、兄者が居なくなったことに気付いた時点で、俺はお迎え役として旅立ったわけ。早馬とは途中ですれ違ったぜ」
「諸葛亮は何でも見通しておるの」
 恐ろしそうに劉備は首を竦めるが、関羽は首を捻った。
 そうすると、今度は遅すぎるぐらいだろう。確かに張飛にしては随分とのん気な道程だったようだ。
「なぜのんびりしていたのだ?」
 不思議に思って聞き返したのに、張飛は、これだよ、と呆れたように首を横に振った。
「気を利かせてやったに決まってんだろ! 兄想いの弟を持って感謝してもらいたいぜ」
「すまないな、翼徳」
 劉備は首を竦めたまま、照れ臭そうに笑った。だが、関羽はやはり首を捻る。そんな関羽を見て、変わんねえな、兄者も、と張飛は笑う。
 何もかもを察している弟は、劉備と会話を続ける。
「気にしなくていいって。兄者はどうせ帰ったら、俺と一緒に諸葛亮に説教を食らうんだからよ」
 げっ、と劉備は顔を歪めた。
「当たり前だろ。本当はもう、成都へ戻っていてもおかしくないだけの日が経ってるんだぞ。まあ、諸葛亮も出立のときに、溜め息混じりに呟いてたけどさ」

『私が過労死する前ぐらいには、戻ってきてほしいです』
 羽扇を力なく扇ぎながら、諸葛亮は言った。
『何せ、張飛殿でなければ殿を引っ張って来られませんから。少しぐらい遅くなっても構いませんから、よろしくお願いしますね』
 これまた、全てを悟っている軍師は、それでもまた大きな溜め息をついたのだった。
 張飛ならばある程度は劉備の我が侭を許しながらも、最後には連れ戻すことが可能だ、と考えてのことだ。
 他の者なら恐らくは、ずるずると劉備に付き合って、いつまで経っても帰ってこない、ということになりかねない。

「まあ、そんなわけだから、そろそろ帰ろうぜ、兄者」
 張飛の促しに、渋るように、う〜む、と劉備は唸った。
「あのな、翼徳。最近公安で美味い酒が作られたらしいのだ。ちょっと飲んでみたくないか?」
 ぴくっと、張飛の鼻がヒクついた。
「そう、だな〜。ここまで遅くなれば、あと数日遅くなっても大して変わんないよなっ?」
「うむ、その通りだ!」
 大きく頷き、劉備は、根拠がないだろうに力強く答えた。
「久しぶりに兄弟三人で酒を飲もうぜ、兄者!」
 嬉しそうに張飛は関羽の肩を叩く。
「花も咲いてなければ、月も見えぬのにか?」
 いつもの調子を取り戻し、関羽は弟の酒好きを嗜める。
「いいんだよ、俺は花より団子よりも酒だから。それに、兄者たちだって同じだったんじゃねえの?」
「何がだ」
「兄者たちは、花よりも団子よりも酒よりも……まあ、これより先は言わぬが花か」
 酒だ酒だ、と騒ぎながら城に入っていく弟の背中を眺め、関羽はまたしても首を捻った。
 そんな関羽の横で、劉備だけが可笑しそうに笑っていた。

 ――荊州、春も終わりの出来事だった。



 了



目次 戻る あとがき