「極上の微笑 4」
 関羽×劉備


 叩いた腕に力が篭もった。そのまま、劉備は寝台に押し倒され、縫いとめられた。壊れやすいものを扱うかのように、関羽の手が劉備の頬にそっと触れられた。大きな、武人の手が、劉備の肌をさする。
 関羽の顔が下りてきた。劉備は目を瞑る。唇に唇が触れた。躊躇いがちな口付けは、すぐに激しくなる。熱が篭もった激しい口付けは、劉備を翻弄した。
 舌が絡まり、飲みきれない唾液が唇から零れ、顎鬚へ伝う。
 息苦しさと熱に浮かされた心地よい苦しさに、劉備は吐息を漏らす。
「兄者……」
 口付けの合間に囁かれる関羽の声が、耳に心地良い。
 唇が耳を挟み、肌蹴られた服の隙間から関羽の手が差し込まれる。指先が胸の突起に触れ、転がされると、劉備の背に甘い痺れが走った。
「んんっ」
 微かに上げた声は、自分の声らしくないほど甘かった。羞恥に駆られ、劉備は腕で顔を隠そうとする。その腕を関羽が剥ぎ取る。
「全てを、見せてください」
 関羽の目は、強く輝いていた。その輝きに、劉備は魅せられてしまう。
(予想外であった。思っていた以上に恥ずかしく、こんなに気持ち良くなるなどと。その上、雲長が愛しくて仕方がなくなる)
 劉備は、すでに関羽に全てを奪われていた。
 耳朶を甘噛みされ、胸の突起を弄られると、羞恥のため噛み締めた歯の隙間から声が漏れる。
「ふっ、ぅん……」
 唇は首筋を這いながら、肌蹴られ、露わにされた鎖骨や胸へと下りてくる。鎖骨の上の薄い肉の上を強く吸われる。
 親指が胸の突起を押し潰すように愛撫する。唇が肌の上で動くたびに、関羽の美しく蓄えられた鬚が、劉備の肌を刺激して、快感に摩り替わっていく。
「は、あっ。雲長っ」
 背筋を反らし、吐息と共に名を呼ぶ。そうすると、関羽の愛撫はますます激しくなる。帯が解かれ、劉備の全身が夜気へ晒された。
 劉備の肢体は鍛えてあるせいか、今でも十分引き締まっている。その体には、乱世を戦っている証のように、傷跡が幾つか残っている。それでも、関羽の劣情を充分に煽るようで、その目元が染まった。
 関羽の掌が愛しそうに劉備の全身を撫でる。唇は胸の突起を含み、快感を引き出していく。舌で舐め、吸われると、押し殺した声が艶を含んで漏れる。
 関羽の頭を抱き、仰け反る。全身に甘い痺れが広がり、熱が下半身へ集まっていく。早くも硬さを帯びていく自身に、劉備は恥ずかしさを覚えるが、体が密着しているのだ。
 関羽にすぐに気付かれた。
「兄者、感じていますね」
 嬉しそうに言う弟に、兄は拗ねたようにそっぽを向く。
「わざわざ言わなくともよい」
「いえ、拙者が兄者を満足させられているのか、心配していましたから。これで安心しました」
 屈託なく笑われ、それ以上何も言えなくなってしまう。
 臍を舐められ、くすぐったさに身を竦める。掌が内股の弱い部分をしきりに撫でる。下穿きを解かれ、劉備は全てを関羽の眼下に晒した。
 幾度も裸などは見せ合っているのに、こんな状況になると、意識してしまう。なのに、劉備の自身はますます勢いを増す。不意に、関羽の手が劉備のそれを掴んだ。それからゆっくりと扱き始めた。
「は、んんっ。待て、雲長っ。んぅっ」
 思わず拒絶の声を上げるが、そこから背筋を這い登る柔らかい熱の波に喘いでしまう。
目尻に涙が溜まる。上半身を起こされ、寝台の頭に凭れさせられると、手で扱いていたはずのそこへ、関羽の頭が被さった。
「……っ、雲ちょ……あぁ、やめっ」
 咄嗟に引き剥がそうとするが、激しくなった快感の波に力が入らない。それどころか、嬌声を上げてしまう。口内に含まれた自身が硬さを増したのがわかる。柔らかな舌で舐められると、喘ぎが止められなくなる。
 纏わりつく熱い舌と、張り付く上顎の凹凸に、強く挿まれる唇の感触。咽の奥から吹き付けられる熱を含んだ息。その全てが劉備の鋭敏なそこへ集められ、頭の芯を熱くさせる。
「ふぅ、ぃんっ……、もう、いいっ」
 射精感がすぐそこまで競りあがってきていた。関羽の頭を引き剥がそうとするが、逆に強く吸われ、舌先で敏感な部分を弄られた。
 堪え切れなかった。腰から全身に震えが走った。
「は、ああ……」
 ため息のような喘ぎが零れ、劉備は関羽の口で達してしまった。陶然と快感に酔いそうになるが、関羽の咽が何かを嚥下する音を聞いて、劉備は驚く。
「まさか、飲んだのか?」
 羞恥に震えながら聞くと、関羽は何でもなさそうに答えた。
「飲みましたが?」
 屈託なく言われ、劉備は悲鳴を上げそうになる。
「雲長〜」
 恥ずかしさのあまり、劉備は涙が出てくる。反射的に関羽の頭を叩いていた。
「兄者?」
 驚いて、関羽は劉備の顔を覗き込んでくる。まともに顔を見られない劉備は、目を伏せてしまう。
 弟は何が兄の気に障ったのか分からずに、困り果てているようだ。
「何か、拙者のやり方が嫌だったのですか? どこか痛めさせてしまったのでしょうか。いま、兄者を抱いていることが嬉しすぎて我を失っているゆえ、何か粗相をしてしまったのなら、謝ります」
 関羽の真摯な問いかけに、恥ずかしがって怒っていた自分が幼稚に思え、劉備は諸手を上げる。
「大丈夫だ、少し驚いただけだ。気にするな。お前も、もう切羽詰っているのだろう?」
 ちらり、と関羽の男に視線を走らすと、そこは夜着の上からでも分かるほど、昂まっていた。劉備は自分で言いながら、少々照れてしまう。しかし、意を決して、そこへ手を伸ばし、布の上から擦る。
(うっ、こんなもの、私の中に入るのか?)
 布の上からでも分かる大きさに、劉備は慄く。しかし、そんな兄の胸中など知るよしもなく、関羽は劉備を抱きかかえ、自分の膝の上へ乗せる。二人の体格差からして、親に抱えられている幼子のような図だった。
 関羽の腕にすっぽり抱えられ、妙な安心感を覚える。腕を関羽の首に絡げ、自ら口付けをする。二度目の深い口付けは、少し苦く、しかし甘やかだった。
 離れた拍子に、溢れた唾液が零れ、口元濡らす。それを関羽の指が拭い、唇に触れた。
「舐めてもらっても?」
 興奮を押し殺したような声で囁く関羽に、劉備はその指を黙って咥えることで答える。
 関羽の武人らしい節くれ立った指は好きだった。この指が、この手が、自分の天下への道を守ってくれている、力強いものだからだ。
 劉備の唾液で濡れた指が、口から引き抜かれ、劉備の双丘に潜む孔へ伸ばされる。
「拙者に身を預けていてくだされ」
 耳元で響く低音に快さを感じながら、劉備は体の力を抜く。柔らかく広げられ、傷つけないように細心の注意を払われながら、関羽の指が中へと入り込んできた。
「んんっ」
 微かな痛みと異物感に、呻く。関羽が気遣うように動きを止める。
「平気だ。続けてくれ」
 先を促す。指が慎重に進められる。痛みはそれ程辛くはないが、腸を押し上げられるような感覚には、辟易する。それが伝わるのだろう。劉備の背に回されている関羽の腕が、背中を擦ってくれている。
「少し、辛抱してくだされ」
 劉備は関羽に全身を預ける。関羽の指が劉備の内壁の一箇所に引っかかる。その途端、意識せず劉備の体が跳ねた。
「ここ、ですか?」
 指先が内壁で息づくしこりを、撫でた。
「〜〜っぁん。くぅ」
 背骨が痺れた。腰に甘い熱が渦巻き、一度精を放って力を失っていた劉備の自身が、頭を上げた。
 関羽の指が、さらに煽るようにしこりを集中して攻める。頭の中が白くなっていく。何も考えられなくなる。関羽の背中に回していた両腕に力を込める。
「ぃい……ふぅ、っあ」
 艶を含んだ声が上がってしまう。しかし、止められない。内壁も、快感を貪ろうと、収縮を繰り返している。指が増やされても、今度は平気だった。体が、更なる刺激を求め始めている。
「雲長、もう」
 訴えかけるようにその名前を呼ぶ。強い快感でひそめた眉が、関羽の理性に揺さぶりをかけるらしい。何かに耐えるように、関羽の奥歯が噛み締められた。
 関羽の夜着が寛がれ、猛った自身が顔を出した。劉備は眼下にそれを見て、僅かに理性が覗く。
 やはり、明日の執務は諸葛亮に任せよう、と。
 しかし、それも一瞬のこと。体は無くなってしまった刺激を求め、震える。
 関羽の切っ先が劉備の後孔へ潜り込んでくる。しかし、かなりの質量があるそれは、そう簡単に入らない。強靭な精神力で理性を保っている関羽だったが、だいぶ辛そうだ。
 何とか頭が潜り込んだときには、二人ともじっとりと汗を掻いていた。だが、後は簡単だった。劉備の体重で関羽のものはゆっくりと飲み込まれていった。思った以上に深く入り込んだ関羽のものに、劉備は息を詰める。
「兄者、大丈夫ですか?」
 心配する関羽に、劉備は微かに笑んで頷く。それでも、早く楽にしてあげたいと思うのだろう。関羽の手が劉備の自身を握り、擦る。
「う、んんっ」
 劉備は関羽の肩口に額をつけ、快感に身を委ねる。耳の傍で聞こえる、関羽の耐えるような吐息が、さらに劉備の快感に火をつける。
 関羽の腰が揺れ、劉備の内壁のしこりを探す。今度はすぐに見つかる。切っ先がしこりを擦り、奥を突き上げる。
「〜〜っ」
 声も無く劉備は仰け反る。目眩が起きるほどの激しい快感だった。劉備が感じているのは、中にいる関羽もよく分かるのだろう。劉備が感じるたびに、内壁が関羽を締め上げるのだ。
「兄者……っ」
 関羽の声が上擦る。理性が吹き飛びそうなのだろう。
「雲長、名を、呼んでくれ」
 それを解放させたくて、最後の枷を外す言葉を囁く。
「劉備、兄者っ」
 煽られる快楽に声を途切らせながらも、頭を振って劉備は違う、と言う。
「字を、呼べ」
「玄徳、兄者!」
 関羽の目に、獣のような猛々しい光が宿る。
 劉備の体は、呼ばれた名の心地よさと、関羽の目に宿った美しい光に酔っていた。激しさを増した腰の動きに喘ぎながら、その酔いに身を任せた。
「ん、あぁ、やっ……ぁん。雲、長っ、うあぁ」
 闇夜に染められた部屋に、劉備の甘い声が溶ける。関羽の、熱に侵されたような劉備を呼ぶ声が、劉備の声と交わり、部屋の空気を濃くする。
 先に果てたのはどちらだったか。一際高くなった劉備の声が息苦しいほど部屋の空気を濃くした後、関羽の、劉備を呼ぶ名がそれへ拍車をかけた。



「兄者、お体は大丈夫ですか?」
 関羽が劉備を抱き寄せながら尋ねる。
 一度二人で果てた後、まだ足りずに数度交わった。超人的な体力を誇る関羽はいいが、人並みに近い体力しか持っていない劉備は、さすがに疲れ果てていた。
「何とか、な。お前はさすがに平気そうだな」
 抱かれる腕の中が心地よく、うつらうつらしながら劉備は答える。
「それは、鍛えてありますゆえ」
 何てことはなさそうに言う関羽が少し憎らしくなり、意地悪をしたくなる。
「それにしても、お前、男を抱くのがうまかったな。もしや、どこかで修練でも積んだのではないのか?」
「何を言われるのです! 聞きかじりです!」
 心外なことを言われた、とばかりに、ムキになって反論する関羽がおかしくて、ますます意地悪くなる。
「それにしては、手馴れた様子だったが。いかがなものだろうな」
「兄者! 拙者は、男など抱きたいと思ったことはありませぬ。兄者だけです。このような気持ちになってしまうのは」
 憤慨しながらも、睦言のようなことを言う関羽が可愛く見え、劉備はからかったことを謝る。
「明け方、起こしてくれ。部屋に戻っていないと、衛兵に叱られるのでな」
 そう言って、関羽の腕の中で丸くなる。
 心地よい眠りが訪れようとしていた。次に目が覚めたときの悲劇も知らずに。



「いたたっ」
 悲鳴を上げ、関羽に劉備は寄り掛かる。それを、申し訳なさそうに関羽が支えている。
「殿、今日の執務はいかがなされますか?」
 諸葛亮に冷ややかな目で見られ、劉備と関羽は冷や汗を垂らす。
「もちろん、行っていただけますよね。昨日言ったように、今日のお仕事は『倍』ありますから」
『倍』のところの語気を強め、諸葛亮は言う。
「もちろん、やるぞ。約束だからな」
 半ば自棄になり、劉備は言いきってしまう。
「すみませぬ、兄者。手加減が出来ていなかったようです」
 劉備にしか聞こえない声で、関羽が謝る。
 朝、劉備が起きると、腰に激痛が走った。そのまま、部屋に戻ることなど出来るはずもなく、衛兵が劉備の姿がないことに気付き、一時大騒ぎになった。
 劉備は、関羽の部屋で一晩語り明かした際に、腰を痛めた、と言う、非常に苦しい言い訳をして、諸葛亮の冷たい視線を浴びることになった。
「私にはあれほど休め、とおっしゃったくせに、ご自分は関羽殿と一晩語り明かした、と。その上、腰を痛めた、ですか。まったく、自己管理を怠るにもほどがあります」
 諸葛亮の説教を、首を竦めて聞きながら、劉備は関羽に囁いた。
「諸葛亮はな、頑固でこうと決めたら迷わない男だ。その上、怒らすと怖い」
 関羽もそれは思ったらしい。黙って頷いた。
「関羽殿も関羽殿です。殿の性格は貴方が一番理解しておられるはずでしょう。なのに部屋に返さず、一緒になって一晩明かすなど」
「いえ、誘ったのは拙者ゆえ、兄者に責任は」
 庇おうとする関羽を、炎も凍らすかの冷たい視線で睨み、諸葛亮はぴしゃりっと遮る。
「言い訳は無用です。お二人は同罪です。よって、今日からしばらく、仕事はお二人にやってもらいます」
 有無を言わせないその迫力に、兄と弟は全面降伏をする。
 恐る恐る、兄は怒れる軍師に聞く。
「あの、諸葛亮はどうするのだ?」
 すると、今までの怒りに冷たくなった相貌を一変させ、嬉しそうに諸葛亮が満面の笑顔になる。
 その豹変ぶりに、ヒイっと心の中で劉備は悲鳴を上げる。
(怖すぎるぞ、諸葛亮!)
「私は、しばらくお休みをいただきます。前から行っておきたい所があったので、これを機会に行ってみようかと思います。幾日か戻らないかも知れませんが、どうか探さないでください」
(それってつまり家出?)
 二人の頭に同じ考えが浮かんだが、その疑問は恐ろしくて口に出来ない。
 では、と最後はにこやかに退室する諸葛亮に、劉備は声をかけられなかった。
 代わりに、話を聞いていたのか、糜竺が入ってくるなり、笑った。
「あんなことを言っていますが、諸葛亮殿は前から視察をしたい、と言っていた街郭に行くだけですよ。供に張飛殿がついてくれるそうです。心配はないでしょう。留守中の執務も私が預かっております」
 糜竺の言葉に、劉備は胸を撫で下ろす。しかし、次の言葉に固まることになった。
「あと、私には意味が分からないのですが、諸葛亮殿からの言伝を預かっています。御身を差し出す解決法には頭が下がりますが、執政に支障を来たすようでは、私は認めません、というのですが、何のことでしょう?」
 さ、さすが臥龍と呼ばれた男。
 二人の背中をまた冷や汗が垂れたのであった。



 了





 後書き

 いかがだったでしょうか? まさに、無双初書きの作品です。同人誌から再録になります。
 が、売れていないので、実質は新作です(苦笑)。
 何となく(自分としては)初々しいです。キャラが掴みきれていなかったり、とか、小説を久々に書いたときだったので、文章がぎこちなかったり、うひぃ〜って感じでした。
 結構手直ししたので、大丈夫かと……(汗)。

 関劉初めて物語でした(笑)。でも、他のパターンも書いてみたいですね。くっつくなら、もっと早い段階でくっついているような気がするんですよ、関羽と劉備は。なので、そちらもvv

 では、何かございましたらメルフォをご利用下さい。

 05年12月25日発行 「微笑」
 →06年7月6日 「極上の微笑」 改稿




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