「たまにはこんなのもイイだろう?〜忙楽(ぼうらく)〜」
鬼畜攻め台詞10のお題 5より
 関羽×劉備


 その日までは、確かに忙しい日々が続いていたのだ。
 徐州の牧だった陶謙から、劉備が牧を引き継いだのだ。最初のうちは、相当に劉備は渋っていた。色々思うところはあるのだろうことは、察せた。
 曹操からの侵攻がまたあるかもしれない土地であるし、またそのような大任をいきなり任される、ということ。自分はただ義に奮起して陶謙を助けに来ただけなのだ、ということなど。
 それでも、死の間際に立った男の頼みを断れるはずもなく。また、僅かの間で徐州の民に慕われた劉備を、ぜひとも牧へ、という声も無視できなかった。
 結局、劉備は牧へ就くことを選んだ。
 しかし、大変なのはそれからだった。
 曹操からの人道を踏み外した行為の爪あとを修復したり、陶謙の重鎮だった者たちと意思の疎通を図ったり、など。
 劉備はもちろんのこと、関羽も雑務に駆り出され、悪戦苦闘の日々が続いていたのだった。いずれ侵攻してくるであろう曹操に対しての備えの確認やら、軍の強化。とにかくやることは尽きなかった。
 そんな中で、ふとぽっかりと空いた日が出来た。
 午後から仕事が少なくなり、なおかつ明日も午後からでないと仕事にならない、という中途半端でありつつも、ゆっくりと出来る時間だった。
 喜んだのは劉備だった。
 そもそも人と接することなどは好むが、雑務となると一向に不得手となり、すぐに倦んでしまう劉備だ。いくら引き受けたこととはいえ、うんざりしていたのは関羽でなくともよく分かった。
「今日は久しぶりに兄弟水入らずで過ごそうではないか」
 嬉々として告げる劉備に、関羽はもちろん、張飛も逆らうはずもなく、一も二もなく頷いたのだった。



 まずは市場を三人で歩きながら、夕飯の材料の調達だ。
 美味しそうな、新鮮な食材を見つけ出すのは張飛が得意だった。鼻が利く、とはまさにこの男のためにあるのか、というぐらい、巡り歩く店、店で活きの良さそうな魚や、脂の乗った肉、瑞々しい野菜などに出会うのだ。
「翼徳の鼻は、全く鈍っていないようだな」
 買った食材は関羽が抱えている。その横で、劉備はしきりに感嘆を漏らしていた。
「へっへっ。でもよ、兄者だってそうじゃねえか。値切りの交渉、達者だったぜ」
「身に染み付いた処世の術、というのはなかなか抜けぬものだな」
 見つけた食材たちを安く買うのは、劉備の役割だ。貧しい暮らしをしていただけあって、劉備はそういう駆け引きに通じていた。
「しかし、このようなことをせずとも、城下の者たちは兄者と知れば少しぐらい分け与えてくれるでしょうに」
 手の込んだことをする兄と弟たちに、関羽は苦笑混じりで口を挟む。
 もちろん、こういう過程を楽しんでいる、と知ってはいるのだが、わざわざ刺史である、ということを分からぬように民と同じ格好までして、城下に繰り出しているのだ。物好き、といえば物好きだろう。
「何だ、雲長は楽しくないのか」
 少し下唇を突き出して、劉備は不服そうだ。
「そのようなことはありませぬよ。拙者とて、兄者や翼徳とのんびりするのは久々なのですから」
 さすがに、関羽と張飛だけは服を変えてもその鍛えられた体躯で正体は誤魔化されないようで、ちらほらと見知った人から声は掛けられるものの、いたって和やかだった。
「なら良いのだ。今日は遅くまで飲むからの。翼徳、次は酒だぞ」
「任せとけ!」
 酒、と聞いて張飛が飛び上がらんばかりに喜び、得意の鼻をヒクつかせながら駆け出していく。それを劉備と関羽が笑いながらついていく。そんなおかしな三人組を、まさか自分たちの主であるとは思っていない人々が、くすくすと笑いながら見守っていた。



「それにしても、街外郭まちも大分活気が出てきていたな」
 自ら仕入れた材料を使い、張飛が豪快に作り上げた野菜炒めやら肉がたっぷり入った汁物やらに舌鼓を打ちながら、劉備が顔を綻ばせた。選んだ酒もなかなかで、程よく酔いが回っているようだ。耳が微かに赤くなっていた。
「そうですな。これで少しはこの忙しさの甲斐があったものです」
 しみじみと関羽が言えば、水のように酒を飲んでいる張飛が「同感だぜ」と頷く。
「街外郭へ繰り出した甲斐もある」
 嬉しそうにしている劉備を見て、関羽は、食材を買い出す楽しさだけでなく、直に民の様子を見たかったから、ああして市場を巡ったのだろうか、と考える。
 劉備は本当に『民』と呼ばれる人々を愛している。自分がその中の一人だったから、身近である、という以上に、人の幸せを。ささやかである幸せを自分のことのように喜べる人だ。
 だからこそ、そんなささやかな幸せすら踏み躙られるこの世の中に憤り、旗揚げをしたのだ。そして、その志は今も変わらずに劉備の目に宿っている。
 噛み砕いた野菜の汁が、ひどく美味く思える。
 そこには、劉備の愛する民が心を込めて作った情と、そしてそれを守ろうとしている劉備の情が交じり合っているようで、美味かった。
「雲長の兄者、顔がニヤけてるぜえ? そんなに兄者と飯が食えているのが嬉しいのか?」
 一人で、劉備や関羽の三倍以上の速さで酒を空けている張飛が、からかってきた。どうやら相当に頬が緩んでいたらしい。気恥ずかしさも込めて、関羽は末弟を睨む。
「翼徳っ」
「何だよな〜。俺は、兄者たちと飯が食えて嬉しいぜ? 本当に久しぶりだしよ」
 にかっと屈託なく笑う張飛に、関羽は僅かばかりの羨望と嫉妬を覚える。
 張飛の素直さや純粋さは、真っ直ぐに関羽の胸を打つ。自分の思いを邪気なく口に出せる弟を羨ましく思えるのは、やはり自分がそう出来ないからであろう、とも思う。
 じっと、弟の顔を見つめていると、劉備が口を挟んだ。
「雲長は、嬉しくないのか?」
 市場でのやり取りを思い出すような、劉備のちょっと……いや、今は酒のせいなのか、常よりも幼子のような仕草で頬を膨らまして、唇を尖らせている。
 そんな劉備の無防備な面容を見せられ、関羽は言葉に詰まる。
「嬉しくないのか?」
 ますます不機嫌に、というよりは我の通らない童が拗ねているような、そんな様で、劉備は関羽を責めた。
「そ、そのような……」
 これ以上、劉備の機嫌を損ねては大変だ、と関羽は慌てて否定しようとするが、ぐいっと劉備に迫られて、咽に言葉を引っ掛からせてしまう。
「雲長?」
 少し、目が据わっている。
「兄者? もしや酔っておられるか?」
 酒を飲んでいるのだから、それも当然と言えるが、いつもより酔いの回りが早い気がした。
「雲長。兄の問いに答えぬか」
 さらに劉備は関羽に迫ってきて、左斜め前に座っていたのに、どしっと関羽の膝に乗ってきた。関羽の膝に横向きで腰を落として、じろり、と睨み上げてきたのだ。
「あ、兄者?」
 焦って関羽はきょろきょろと辺りを見回してしまうが、兄弟水入らずのために、離れの小部屋だったため、人目は張飛しかない。その張飛も、ニヤニヤと笑っているだけで助け舟を出す気は毛頭ないようだ。
「あぁあ、雲長の兄者、兄者を怒らせたな〜」
 さらにはそんなことまで言い出す始末。
 落ち着かずに劉備と視線を合わせられない関羽は、焦れたらしい劉備の両手に頬を挟まれて、無理矢理視線を合わせられてしまう。
「う〜ん〜ちょ〜う〜?」
 妙な迫力を伴って、劉備は関羽を呼ぶ。
「……嬉しいです!」
 やや自暴自棄になりつつ、関羽は叫んだ。
「そうか。それは良かった」
 にっこり笑って、劉備は何事もなく席に戻る。それを呆然と見送っていると、張飛が耐え切れず、と言った風にケタケタ笑い出した。
「兄者! 翼徳!」
 担がれたことに気付き、関羽は顔を赤くして怒る。しかし二人は互いの杯に酒を注ぎ合いながら、なあ? と首を傾げている。
「こうでもしないと、雲長は自分の気持ちを表してくれぬからの」
「素直じゃないんだよな〜」
『だけど』
 長兄と末弟は口を揃える。
「そこが雲長の」
「そこが兄者の」
『可愛いところだな』
 怒りと恥ずかしさのため、関羽は言葉を失い、虚しく口を開け閉めした後、がっくりと食卓にうつ伏したのだった。



「雲長、寝たか?」
 ひっそりとした夜の静けさの中で、関羽たちは枕を並べていた。三人で同衾するのもまた久しぶりのことだった。
 たらふくの食事と酒を平らげた張飛は、横になった途端に高いびきだったが、関羽は寝付けずにいて、劉備が声を掛けたときにも闇の中で目を開いていた。
「起きてますぞ」
 すぐに返事をした。するとモゾモゾと寝台の上を劉備が這う音がして、ひょいっと関羽の上に圧し掛かってきた。
「どうされたか」
 動揺しつつも、張飛を起こしてはならない、と思い小声で尋ねた。
 闇に慣れた目に、劉備の満面の笑みが映る。
「雲長とこうするのも久しい」
 髯に頬擦りされて、腕が体に絡みついてくる。
 甘えているのは分かった。そして何を求めているのかも。
「酒が、抜けてませぬかな」
 劉備のさせたいようにさせながらも、関羽は隣で寝ている張飛が起きないか、気にする。
「翼徳なら大丈夫だ。一度寝れば雷が鳴ろうとも地震が起きようとも眠りこけている」
 そんな関羽の心を汲んだように、劉備がクスクスと笑う。
「それはそうですが」
 しかし鈍感そうに見えても、戦場となれば物音一つでも目を覚ます、そういうところを持っている弟だ。ぐっすり寝ているとはいえ、安心できない。
「翼徳になら、ばれても良いと思うが」
「そうはいきません。仮にも兄弟の契りを結び、主として仰ぐ方を抱いているなどと、翼徳にはもちろん、世にも示しがつきませぬ」
「固い、固いな、雲長は……」
 下唇を突き出す劉備を、宥めるように背中を撫でる。
「ならば、お前は私を抱きたくはないのか」
 ひそひそと、小声で交わされるそれに、微かな色が加わる。その途端、正直なまでに体が反応を示す。しかしそれを抑え込んで、関羽は首を横へ振る。
「何も今でなくとも」
「我慢できない」
 掠れた声が、劉備の差し迫った状況を克明にするようで、さらに関羽の押し殺した劣情さえも露わにしそうだった。
「これでも我慢した。忙しくてお前たちに会えなくとも、自分の成すべきことの大事さを思えば、抑え込めた。だが、もう無理だ」
 二人の間に挟まれた掛け布が引き抜かれ、薄い衣越しに劉備の硬さを感じて、関羽は息を呑む。
「欲しい。お前が欲しい、雲長」
 その言葉だけでも十分なのに、止めを刺そうとばかりに、劉備の硬さが関羽のそれとこすり合わされた。
 劉備の口から吐息がこぼれて、そして半月を描いた。
「お前は、本当に素直じゃない」
「〜〜っ」
 劉備と同じくらいか、それ以上に形を成していた己を悟られ、関羽は目を逸らして押し黙る。
 眠れなかったのも、すぐ傍で劉備の息づかいが聞こえるせいで、それによって不埒なことを考えていたせいだとも、決して言えることではなかった。それでも、疲れているだろう劉備の体や、張飛がいる、ということで遠慮していた自分の気遣いをあっさりと無にしてしまう劉備に、最後の抵抗を試みた。
「せめて隣へ」
「嫌だ」
 まるで駄々を捏ねる幼子だ。
「翼徳が起きたらどうするつもりですか」
「構わない」
「拙者は大いに構います」
「四の五の言うな。雲長は我侭だ」
 いったいどちらが、という言葉は、劉備の唇で封じられた。唇の柔らかさを味わう前に、舌が潜り込んできた。性急過ぎるが、それだけ劉備が耐えてきて、それだけ自分を求めている、ということで。
 それを知れれば、関羽の残された理性も闇夜にその姿を紛れそうだった。
「ぁ……ん、はぁ」
 角度を変えるたびに漏れる劉備の濡れた吐息が、理性を闇の奥へ奥へと連れ去ってしまう。体の上を劉備が動いたせいで肌蹴ていた衣の隙間から、劉備の手が差し込まれる。その掌の熱を感じた頃には、もう関羽も理性の後を追うのは諦めていた。
 ぐるっと体勢を反転させて、劉備を体の下に押し込める。
「知りませぬぞ」
 離れてしまった唇を再び重ね合わせる直後に、そう警告する。
「いいよ、雲長」
 嬉しそうに答えた劉備へ、関羽は溜め息ごと口付けた。



 早くも雫をこぼし始めている劉備の下肢を握り込む。
「んんっ……ぁ」
 甘い声が上がるが、その度に関羽は張飛を窺ってしまう。自分のすぐ傍で、兄たちが艶事に耽っているなど、高いびきの張飛は夢にも見ていないだろうが、関羽は気が気でなかった。
「やはり兄者……」
 身を起こして強引にでも隣室へ移動してしまおうと関羽は試みるが、劉備の脚が腰に絡み付き、さらには濡れて熱を孕んでいる下肢を、同じく屹立している関羽のものへこすり付けた。
「兄、者っ」
 その感触に我を失いそうになるが、半ば叱るように言う。それでも劉備が離れようとしないので、しがみ付く劉備ごと運んでしまおうと力を込める。
 が、そんな気配を感じ取ったのか、劉備の手が関羽の下肢を握り込んだのだ。
「兄者っ、何を……」
 そのまま緩く扱かれて、入れるはずの力の入れ所を失ってしまう。何とか気を取り直して身じろぎしようとするが、今度は強く握られて、危うく悲鳴を上げそうになる。
 何としても抵抗する劉備に、関羽は仕方がない、と腹を括る。兄の体を考えればあまり気が進まないが、この状況ではそれも苦渋の選択とする。
 己の策を実行するべく、まずは劉備の奥をほぐすことにした。はなから劉備はその気があったようで、香油が用意されていた。それを使いいつもより早めに己の猛りを宛がった。
「雲長……」
 その熱さに浮かされるのか、劉備の声が上ずる。ぐっと腰を押し進めて、一気に根元まで挿し入れた。
「ふぅっ……うんっ」
 上がりかけた嬌声を、ほどいて落ちていた帯を猿ぐつわにして劉備に噛ませ、くぐもらせる。
「しばしご辛抱してくだされ」
 さすがにこの扱いには驚いたのか、劉備は目を見開くが、安心させるためにも、その耳元で囁く。こくっと頷く劉備を確認してから、おもむろに関羽は体を起こした。もちろん、劉備とは繋がったままだ。
 向かい合ったまま抱き合っている格好になるが、劉備の脚を自分の腰に回させ、さらに首に両腕を掛けさせた。自身の重みで深く関羽を感じているらしい劉備は、細かく体を震わし、関羽のされるままになっている。
「動きますぞ」
 最後に告げて、関羽は劉備の腰に腕を回した。そのまま腰を突き上げられる、とでも思ったのか、艶めいた眼で自分を見る劉備に、僅かばかり胸が痛んだが、関羽は軽々と劉備を抱え上げて寝台から降りた。
「――っんん……」
 その振動で、劉備が短い悲鳴を上げて、仰け反った。柔な男ならそこで体勢を崩すところだが、関羽は全く苦にすることなく支える。立ったことによって、関羽の猛りがいつもと違う箇所に当たっているのだろう。劉備がその未知の感覚に怯えたような目をした。
「なるべく静かに動きますから」
 さすがに、この策は不味かったろうか、とも思ったが、もう後には引き返せない。
 静かに、劉備の体へ負担の掛からぬように関羽は移動を開始する。
 一歩、関羽が足を踏み出すたびに、劉備と繋がっている場所へ振動が送られる。その度に、劉備の肢体が身悶える。
「ぐ、ぅうっ……ううっ」
 猿ぐつわをしていなければ、果たして劉備はどれだけ嬌声を上げるのか、くぐもった声音が薄闇を淫靡な色へと変貌させていく。
 じりじりと進みながらも、何とか部屋を区切る戸の前まで辿り着く。
 腕の中の劉備を見下ろせば、息も荒く、額には汗が滲み、髪が張り付いている。涙がいく筋も流れた頬は紅潮しており、潤んだ瞳が艶を湛えて関羽を見上げていた。ずぐん、と劉備の中に収まっている関羽のものが反応してしまう。
「――っふぅっ」
 びくんっと、劉備が咽を晒す。それから腹にこすり付けられるようになっていた劉備の下肢も、質量を増した。
 痛みは感じていないようなのが、関羽の良心の唯一の救いだった。
 それでも、早く移動をした方がいいのは、劉備はもちろん、関羽にとっても至当だった。
 戸を開け、隣室へ体を滑り込ませると、ようやく関羽は愁眉を開いた。
「兄者、下ろしますぞ」
 床へ劉備を下ろそうとするが、なぜか劉備はしがみ付いたまま離れようとせず、それを妨げようとする。
「兄者?」
 劉備の考えが読めない関羽は、猿ぐつわを外そうとするが、しかしそれには劉備を下ろさなくては無理であり、結局どちらも出来ないまま弱り果てた。動きを止めてしまった関羽に焦れたのか、劉備は関羽を咥えている窪みを締め上げ、腰を揺らした。
「ぅ……?」
 呻き、劉備を見やれば、早くしろ、と言わんばかりの目付きだ。
 それでようやく関羽は劉備の意図を理解する。つまりこの立った状態で、なおかつ猿ぐつわも外さずに進めろ、ということらしい。
 それでは劉備が苦しいだろうに、構わないらしい。
 諦めて、関羽は劉備を抱え直す。その動作でまた、劉備の奥を突いたらしく、猿ぐつわの裏から嬌声が上がる。
 関羽も限界だった。元々我慢に我慢を重ねてここまで来たのだ。劉備が構わないのならもう構うまい、と思った。深く狭い劉備の中を思う存分に味わうことにした。
 臀部を両手で深く掴み、揺すり上げた。その途端に、きつく劉備の中が締まる。初めは緩やかに掻き回すように、普段は届かない奥を拡げる。
「ふはっっ……うぅ、んんっ」
 布越しの艶声が関羽の背徳感を犯すが、もうそれは抑止力を持たず、むしろ促進力に変わり劉備を責める。
 徐々に劉備の体を持ち上げて、先端の凶悪な丸みが劉備の善い箇所を突くようにすれば、劉備は痙攣するように体を震わした。そのまま自重で落ちるまま深々と突き込めば、二人の腹の間で劉備の下肢が弾けた。
「っひうぅっ……う、ううっ」
 しかし達した劉備を追い詰めるように、関羽は律動を続けた。すぐさま、腹を濡らす感触も手伝って、劉備の下肢も屹立し始める。
「ふっ、ふっ、ふぅっ」
 身内を駆ける悦楽が堪らないのだろうか。首に回っている劉備の手が、関羽の衣を引っ掻く。香油と先走りで、繋がった部分からは卑猥な音が立ち上がり、関羽の律動が早くなる。
 額をこすり合わせるようにして、関羽は劉備と顔をつき合わせて、己を放った。内に放たれた熱さに劉備の目が見開かれ、それから恍惚の色を浮かべながら細くなる。感じすぎて流れ落ちている涙を、頬擦りをするように拭い、ゆっくりと劉備を床に下ろした。
 それから勃ち上がっていた劉備の下肢を握り込み、再度果てへ送り、ようやく劉備の四肢は関羽から滑り落ちていった。



「兄者、大丈夫ですか?」
 放心したように動かないでいる劉備へ、関羽は猿ぐつわを外して恐る恐る尋ねる。
 ゆるり、と劉備の視線が動いて、関羽の顔で止まると、猿ぐつわをしていたせいで絡まった声で、気だるげに一言呟いた。
「水」
「御意」
 急いで関羽は乱れた衣を整えて、張飛の寝ている隣室へ忍ぶ。枕元にある水差しを引っ掴み、そのついでに張飛の様子を窺う。
「ぐがっ、ぐががぁ〜」
 何とも迷惑極まりない、大きないびきを掻いているが、しかし本人はいたって幸せそうな寝顔だった。それが今は何よりも関羽を安心させて、劉備の下へ素早く戻らせた。
 水差しを杯に移させて渡そうとするが、止められる。
「飲ませて」
「はい」
 言われるままに、関羽は水を自分の口に含み、劉備に覆い被さるようにして口移しで飲ませた。こくこく、と美味そうに水を飲み干す劉備は、もう一回、と言った。関羽は大人しく従う。
 しかし今度は飲み干した後、首に劉備の腕が絡んできて、舌が差し込まれた。それにも関羽は恭順した。ひとしきり舌を絡め終わると、ようやく劉備は満足したのか唇を離した。
「……ぁはあっ……」
 濡れた吐息をこぼして、劉備は覆い被さっている関羽を見上げて艶笑した。
「猿ぐつわをされたまま、というのは苦しいな」
 ようやくいつもの声に戻った劉備が、頬を撫でながら言った。頬には少しだけ帯の跡が残っていた。
「申し訳ありませぬ」
 劉備が撫でる頬の反対側を撫でながら、関羽は謝罪する。
 口を塞がなければ喘ぎ声で張飛を起こしてしまうかもしれず、あの状態の劉備を抱えるには両手が必要だった。だから猿ぐつわ、という行為に出たのは仕方がなかったのだが、それでも大事な兄にあのような真似をした、ということは、関羽にとっては謝るしかないことだった。
「別に、私は怒っていないぞ?」
 ニコニコしながら劉備は関羽を見上げている。確かに、床に下ろそうとした関羽を止めたのは劉備だし、それによって猿ぐつわが外せなくなるのは予想していたことだっただろうが。
「それどころか、かなり興奮した。いつもと違ったしな」
 言われれば、劉備はひどく感じていたように思える。
「雲長もだろう? 途中からかなり激しかった」
 見抜かれていたのか、と関羽は赤くなる。
「たまにはイイだろう、こんなのも?」
 やはり確信犯だったらしい劉備の一言に、関羽は絶句するしかなく、
「私も雲長に犯されているみたいで、善かった。いつもお前は優しすぎるからな」
 そこが雲長の良いところだけど、と続けられてはもう頭を抱えるしかなく、
「こんなお前が見られるなら、忙しいのも少しは悪くない、と思えるよ」
 動機が不純だ、と返す言葉も浮かばなかった。
 こんな自分は弟として、臣下として不適切なのでは、と不安に駆られる。
 甘やかしているつもりも、全てを享受しているつもりもないが、どうしても、自分は兄には勝てないらしい。
 何せ、
「もう一回、しよ? 雲長」
 と言われれば、頷いている自分がいるのだから。

 忙しい日々の合い間、短いと嘆くよりも楽しもう。より心と体が深く繋がるために。



 了





 あとがき

 おふぅ、らぶv 激しくらぶv 私に関劉を書かせればこんなものですよ、ええ。
 そしてほのぼの三兄弟。大好き桃園三兄弟。

 タイトルの「忙楽」は造語です。忙しいときこそ楽しもう、みたいな意味です。
 こんな甘々な話なのに、何を頑張ってタイトルをつけているのか……。

 関羽は劉備には甘々で優しいし、義の人ではあると思いますが、意外に鬼畜ではないか、と睨んでいるのです。でも、劉備が相手だと絶対にヘタレ攻め。この構図は覆せないな〜。後は劉備が女王様受けになるところなど。
 あ、ちなみに張飛は二人の仲をとっくに知ってます(笑)。

 そんなわけでこれでも何とか鬼畜、ということで、許してあげてください。




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