「狩猟者」 劉備×曹操 |
「なあ、雲長の兄者。いったい、いつまで兄者はここにいるつもりなんだろうな」 うんざりした顔で話しかけてきた張飛へ、関羽もうんざりした顔で答えた。 「まだしばらくは居るつもりであろうな。何せ、今日も嬉しそうに曹操の夕餉に出かけて行かれたからな」 「はあっ……、やっぱりか」 曹操に与えられた屋敷の一室で、弟たちは溜め息をついていた。 ※ そんな弟たちの諦めの溜め息が聞こえたわけではあるまいし、劉備はふと箸を止め、辺りをキョロキョロしたりした。 そんな劉備の様子を感じ取ったのか、目の前で、俯きながら、魚の小骨を必死で取っていた曹操も、その手を休めた。 「どうした、劉備?」 「あ、いえ。何か妙な気配を覚えたような気がしたものですから。申し訳ございません、曹操殿とご一緒の楽しい一時だと言うのに、気を散らしてしまい」 少し眉を下げて申し訳なさそうにしながら、はにかんだように、劉備は曹操へ笑い掛けた。 「そのようにいちいち畏まるでない。いつまで経っても他人行儀な奴よ、劉皇叔殿?」 ここ、許昌へ来てから皇帝に呼ばれるようになった二つ名を、それこそ他人行儀のように口にする曹操へ、劉備は小さく笑った。 「皮肉はお止めください。申し訳ない、と謝っているではありませぬか」 「どうだろうな。どうせ先ほどの気の彷徨いも、実は策の一つであったのではないか?」 お止めください、とまた劉備は繰り返して、照れたように箸を動かし始める。そんな劉備を見て、曹操は声を立てて笑った。 さすが、曹操殿。一筋縄ではいかないようだ。乱世の奸雄という二つ名をお持ちの方だけある。 気を引くための劉備の行動を、どこかで見抜いたのだろう。そんな鎌かけのような返答をした曹操を、劉備は素直に称賛する。 何せ貴方は、魚の骨に夢中で、一向に顔をお上げにならぬのですから。少しつまらなかったのですよ。 それでわざと、おかしな行動を取ってみせたのだが、完全ではないにしろ、見抜かれてしまって、劉備は心の中で苦笑した。 また、魚の小骨に意識を向けた曹操の顔を、劉備は箸を進めながら観察する。 しかし、何をしていても優美な顔だ。 そして、それが魚の小骨を取っている姿でも? と自分自身に呆れながらも、そうだな、と答える自分自身がいた。 自分の執着心の矛先は、民を守ることと同じ大きさ、量で曹操へ向けられてしまっているのだ。それはもう決して薄れることはないだろう。 曹孟徳が曹孟徳でなくならない限り。そして、幸いなことに曹孟徳はきっとどこまで行っても曹孟徳であろうから。 「喜ばしい限りだ」 思わず、口に出していた。また、小骨を取り除いている曹操の箸が止まり、問うような目線が投げられた。 「何だ?」 「いえ、こうしてまた、曹操殿と酒を酌み交わしている幸福に酔いしれておりました。それで、嬉しい、と口に出してしまいました」 小首を傾げて、口元を綻ばした。心から嬉しかったので、自然と笑顔がこぼれる。それを見て、曹操は取り除いているはずの魚の小骨が、咽にでも刺さったような顔をした。 それからそっと目を伏せて、そうか、とだけ呟いた。 その反応に、自分の笑顔に照れたのだ、と知れた劉備は、また笑みが浮かぶ。今度は、唇の端だけを持ち上げる、といういささか人の悪い笑みだった。だが、その笑顔は、目を伏せた曹操の目に入ることはなかった。 「それで、曹操殿。いつほどお誘いいただけるのでしょうか」 「何をだ?」 ようやく小骨を取りきったらしい曹操は、満足げな顔をして魚を口にした。 「狩猟のことでございます。この間は帝とご一緒でしたが、今度は二人で行きたいな、とおっしゃってくれたではありませぬか」 「おお、そのことか。そうだな、いつがいい?」 「明日などはどうでしょうか」 「明日か。儂の身は空いてはいるが、明日は軍の調練が入り、誰も護衛が付けられぬのだが」 だから良いのだ。 分かって言い出したのだ。曹操の日程は把握している。明日ほど最適な日和はない。 「構わぬではありませぬか。曹操殿は武の立つお方です。不届きの輩がいたとしても、恐れて近寄って来れませんよ」 わざと、曹操の自尊心をくすぐる言葉を使う。 仮に、そんな人間が現れたとしても、私が叩き切りますから。 表に出さぬところで、劉備は薄ら笑った。 「この曹孟徳の命を取ろうという気概の持ち主は、確かになかなか見当たらぬがな」 実際、曹操自身の腕が立つこともさることながら、常に身辺に気を配っている親衛隊もいる。暗殺、という行為はなかなか成功はしないものだ。 「ええ、そのようなこと、恐ろしい限りですよ」 ただ、狙われるのは必ずしも命だけ、とは限りませんがね。 明日の約束を取り付けた劉備は、緩む口元を杯を傾けることで押し隠した。 ※ 明けて次の日。 また、弟たちの溜め息と共に見送られながら、劉備は足取りも軽く、曹操の館へと向かった。 さて、どうやって良い雰囲気に持ち込むか。あまり露骨過ぎると簡単にあしらわれそうだから、慎重に行く必要があるな。 それでも、曹操と二人きりなのだ。機会はいくらでも訪れよう。 そう高を括って、曹操の待つ庭先まで、勝手知ったる我が家のごとく辿り着いた劉備は、しかし、眉を寄せた。庭に立っている人間が、曹操一人ではなかったのだ。 「おはようございます、曹操殿」 しかし、劉備は寄せた眉をすっと離して、いつもの笑顔で挨拶をした。すると、曹操も軽く手を上げて応える。 「あの、どうして許チョ殿がご一緒なのですか?」 そう、庭には曹操だけでなく、許チョの姿もあったのだ。許チョはニコニコと笑って劉備に挨拶をしたので、劉備も仕方なく拱手した。 「やはりな、夏侯惇が二人だけでは危険すぎる、と言い出してな。許チョの軍は俺が面倒を見るから、許チョだけは連れて行け、とうるさく喚いたのだ」 肩を竦めて、曹操は説明した。 「はあ、夏侯惇殿が……」 仕方ありませんよ、と曹操を宥めながら、劉備は隻眼となってしまった将軍の顔を思い描いた。 あの盲夏侯。余計な気を回す。 と、夏侯惇が嫌がる二つ名を心で呟きながら、劉備は笑顔を崩さなかった。しかし、許チョだけは何となく、不思議そうな顔でこちらを見たので、何か? と返した。 「ん〜、いや〜、何だかな、おめぇの笑顔は嘘っぱち、みてぇな気がしただ」 「そうですか? そのようなことはありませんよ」 内心で、鋭いな、と思いつつも、劉備は許チョに微笑みかける。その笑顔で、何かを納得したのか、許チョは首を傾げるのをやめた。 確かにさっきの、夏侯惇の余計なお世話には腹を立てたので、無理して作った笑顔だった。だが、普段から劉備は、無理して笑顔を作っているわけではない。 楽しいから笑う。だが、楽しくないとき、辛いときも、笑えば少しは楽しくなる。だから、劉備は笑顔を絶やさない。それは決して偽物の笑顔ではない。笑顔は浮かべている間に、本物になるのだ。 だからこそ、許チョも納得したのだろう。 「そんなわけで、今日は三人だ。行くぞ、劉備、許チョ」 「ええ」 「曹操様はおいらが守るから、安心してくれぇ」 劉備と許チョがそれぞれに返事をして、三人は狩猟場へ出発した。 さて、どうやって曹操殿と二人になろうか。 狩猟場に着き、獲物を待ちながら劉備はそのことばかりを考えていた。そのせいか、いざ獲物が出てきても、その弓は鈍り、一向に仕留めることが出来ないでいた。 「どうした、劉備よ。随分と弓の腕が鈍ったのではないか?」 ニヤニヤしながら、曹操がからかってきたので、これはいけないな、と思い直し、少しだけ集中力を増した。 余り曹操殿の前で示しの付かないところも見せられないしな。 折りよく、野兎が、許チョに追い立てられて飛び出してきた。曹操へ促されて、劉備は弦を引き絞った。勢いよく放たれた矢は、寸分違わず、野兎を貫いた。 「なかなかやるの」 「いえ、僅かばかり、私の呼吸と合っただけですので」 「また謙遜しおって。たまには強気なことも言ってみたらどうだ?」 いえ、そのような、と返そうとしたが、劉備は妙案を思いつき、曹操へ持ち掛けた。 「では、勝負をいたしましょう」 「ほお?」 興味深げに、曹操は眉を跳ねた。その反応の良さに、兎が矢の先へ自ら飛び出したかのような、そんな心地がしたが、劉備は柔和な笑顔を絶やすことなく続けた。 「次の獲物、先に仕留めたほうが勝ち。そして勝ったほう者の願いを一つ、負けた者が聞き届ける、というのはどうでしょう」 「なるほど、儂に勝負を挑む、というわけか。面白い、乗ろう」 にやっと、曹操は不敵に笑って、劉備の提案に賛同した。それへ、劉備は頷き返した。戻ってきた許チョへ、もう一度獲物を追い立てることを頼む。 それから、二人は弓を構えて、獲物が飛び出すのを待つ。空気が、引き絞られた弦のごとく張り詰めた。 林の中から、鳥が飛び立った。獲物が飛び出てくる前兆だろうか。さらに二人の空気は緊張を増す。その空気の中、劉備はおもむろに口を開いた。目は、真っ直ぐに獲物が現れるであろう辺りから、離しはしない。 「曹操殿、こうしていると、まるで戦場(いくさば)に立っているようですね」 ちらっと、曹操の視線がこちらに向けられた気配がしたが、視線を合わせないで、そのまま続ける。 「あれから、幾度か戦がありましたが、戦の前夜、少しは私を思い出しましたか? 血を鎮められるときには」 ぴくっと、弓を構える曹操の肩が震えた。その途端、狙ったかのように飛び出してきた影があった。今度は随分と大きい。猪子のようだ。 矢は、曹操のほうが早かった。少し遅れて劉備の矢が放たれる。曹操の矢は僅かに狙いを外れ、地に刺さった。そして、劉備の矢は――。 「私の勝ち、ですね」 にっこりと、劉備は曹操へ笑い掛けた。何かを言いたそうに、曹操は口を開き掛けたが、唇を引き結んだ。 いい訳はしない、というわけですか。貴方らしい。 確かに、集中力を掻き乱すようなことを言ったのは劉備だが、それに惑わされて矢を外したのは、自分の弱さ、とでも思ったのか。その潔さに、劉備はまた、知らずに深く笑んでいた。 遠くで、眉間に劉備の矢を射した猪子を抱え上げ、嬉しそうに、鍋にするだぁ、と叫んでいる許チョがいた。 ※ 「それで、願いとはこれか?」 「ええ」 狩猟場に張られた天幕の中、劉備は曹操を床に縫い止めながら頷いた。 「今でなくとも良いのではないか?」 外には許チョがいるのだぞ、と続くであろう言葉は、唇を重ねることで封じた。不服そうに、合わせた唇の隙間から呻きがこぼれるが、気にせずに劉備は舌を挿し入れた。 外では、許チョが先ほど仕留めた兎と猪子を使って、料理を作っている。嬉しそうに鼻歌なども聞こえてくる。あの様子では、当分は幕舎に入ってはこないだろう。 それに、入ってきても面白いかもしれませんね、曹操殿? 舌を吸い上げ、甘い息をこぼさせながら、劉備は妖しく目を細めた。うっかりすると、声を聞かれてしまうこんな場所で、曹操がどう堪えるのか。想像しただけで、背筋をぞくっとしたものが走る。 存外、己の奇妙な執着心は、人が悪すぎる、と劉備は冷静に思った。 衣を肩口から引き下げ、露わにされた肌へ唇を落とす。相変わらず、快楽に対しては素直なようで、曹操の息は乱れ始める。 胸を飾る色彩に舌を這わし、その従順なまでの悦を引き出しに掛かる。それこそ、声も抑えられなくなるぐらい、淫らにするために。 「なぜ、お主は……くぅ、儂を抱、く――っ」 押し殺した声で、曹操が尋ねてきた。指先で色彩を鮮やかにさせながら、劉備はゆったりと唇を綻ばせた。 「分からないのですか?」 結われていた髪が緩まり、少しほつれている曹操の顔を覗き込み、聞き返す。 「申したではありませんか。貴方を飽きさせない、と。また腕に抱けるのでしたら、きっと退屈はさせません、と」 「戯れ言だと、思って、いたぞ……ぁ」 釣れないことを言う曹操の胸を、きつく摘み上げた。その途端、艶声が上がるのだから、本当に、口だけ釣れない。 「幸い、曹操殿はお忘れになってはいなかったようで、この劉備、安心いたしました」 董卓討伐の折に、逸る血を鎮める、という口実で曹操を抱いた時、一人で逸りを宥めるときは、きっと思い出すでしょう、とは告げた。だが、本当に曹操が忘れずにいたのは、嬉しかった。 だからこそ、弓を操る腕が鈍ったのだろうから。 帯を解き、曹操の全てを眼下に捉えると、劉備はその綺麗な肌に目を細める。その肌を余すことなく撫でながら、言う。 「今日、貴方と二人きりになれなかったこと、本当は口惜しく思っておりました。ですが、今は感謝したくなりましたよ、夏侯惇殿と、許チョ殿に」 快楽に支配されかけた曹操の瞳が、問い掛けるように劉備を見上げた。 「皆が貴方を大切にしている。だからこそ、貴方はこの様に、美しい肌でいられのでしょうから」 曹操の中心を指に絡げながら、劉備は傷のない肌を舐め上げた。ひくんっと手の中で中心が形を成した。そのままきつく扱き上げると、曹操は自分の掌で口を押さえ、声を漏らすのを耐え始めた。 「っんん、ん――ぅふ」 無理して耐えているせいもあるのだろう。曹操の目の縁に雫が溜まり始める。それを舌で優しく掬い上げ、劉備は耳元へ囁いた。 「少しぐらい、声を漏らしても大丈夫ですよ。この天幕の布は厚いですから」 それでも、曹操の首は小さく左右に振られた。その必死さに、劉備は目を眇めた。 ああ、そのような強情さを見せられると、おかしくなりそうですよ。 劉備は、達しそうになっている曹操から手を離し、その体をうつ伏せに変えさせる。先走りで濡れている指で、後孔を探った。 「ぁっ……んっ」 両肘を付いたその中へ顔を埋めながら、曹操は腕を食んで耐えている。その間に、指先を曹操の弱い部分へ、向けて押し進めてしまう。びくっと、白い背中が波打った。 何度もそこへ指を押し付ければ、放って置いてある中心から、新しい雫がこぼれ落ちた。 「あまり、腕を噛みますと、せっかくの肌に残ってしまいますよ」 背中から覆い被さるよう耳朶を噛み、そのまま静かに後ろに引いた。 「やめ、ろ、劉備っ」 引っ張られるように、ようやく腕から口を離し、首を捻って曹操は睨んだ。 「心配だったのです。申し訳ありません」 素直に謝れば、目を逸らしてまた腕を食もうする。それを手を伸ばして阻んだ。そのまま、指で解れた後孔へ自分の猛りを宛がった。 「待て、劉備――許ちょ、に……ひ、ぁっ」 何かを言い掛けている曹操へ構わず、劉備は猛りを埋め込んだ。顎を捉えられて、抑え込む術を失った曹操の唇から、はっきりと喘ぎが上がった。劉備は切っ先を埋め込み、根元まで一気に到達させた。 「やっ、め……くぅんっ」 曹操の両腕も上から押さえ込み、完全に声を殺す手段を奪った。そして埋め込んだ猛りを緩く打ち付ける。 「ん、ぃんっ、あぁ」 唇を噛んで堪えているようだが、劉備は切っ先を、もっとも敏感な場所を狙って押し込む。次第に、その声ははっきりと高くなっていった。 天幕の外で、許チョが動く気配がした。びくっと曹操の体が震える。 「曹操様、今おかしな声したけども、大丈夫かぁ?」 一応、劉備と一緒にいる、ということで遠慮しているのだろう。天幕の外から声が掛けられた。劉備は曹操を押さえ込んでいる手を離し、どうぞ、と促した。もちろん、繋がったままではある。 「大丈夫だ、許チョ」 さすが、答える声はしっかりしていた。どれほど乱れていても、臣下の前で矜持を保とうとする精神力は大したものだった。しかし、劉備は猛りを動かした。 「んんっ――劉備っ」 小声で、叱り付けるように曹操は睨んだ。 「曹操様?」 きょとん、と首を傾げている仕草が見えそうな、許チョの呼び声がする。 「鍋は、どう、した、許チョ……くっ」 「鍋かぁ? まだもう少し掛かりそうだなぁ」 「そうか。出来たら、ちゃんと呼ぶ、のだぞ。お前は、一人で食べ、てしまいそうだから、な」 緩々と、猛りで奥を刺激しているにも関わらず、曹操は、必死で許チョと会話を続けている。それでも、劉備から見れば限界は近そうで、今にも嬌声を発しそうだった。 「そんなことしねぇだよ」 きっと天幕の向こうで膨れているのだろう。許チョの不満そうな声が聞こえる。それへ曹操は、 「頼んだぞ」 と、答えた。許チョの返事が聞こえて、また鍋のところへ戻った気配がした。ぐったり、と曹操の四肢から力が抜けた。そこを狙って、劉備は激しく猛りを捻じ込んだ。 「あっ、ん、ぃんっ」 しかし、曹操は自由にされた腕へ顔を埋めて、辛うじて耐えた。 「お主、意地が、悪い、ぞ」 切れ切れに抗議の声がしたが、劉備は澄まして答えた。 「これもまた、私の それから、私のに突かれながら君主然、としていた曹操殿のお顔も、また素敵な面でしたし。 さすがにこれは心に仕舞っておくことにした。 天幕に、曹操の押し殺したままの、達した声がしたのは、そのすぐ後だった。 「今日は曹操様、よく食べるだな」 兎と猪子、そして許チョが用意していた野菜を煮込んだ鍋を、曹操は凄い勢いで食べていた。それを許チョが感心していた。 劉備もニコニコしながら、その様子を眺めていた。 「きっと、良い運動をして、お腹が減ったのでしょう」 その途端、あちっ、と叫んで、曹操は肉を吹き出し、むせた。そんな曹操の背中を、許チョが笑いながらさする。 「慌てて食べるからだぁ。まだまだあるから、安心して食べるといいだ」 「うむ」 非難がましい視線を曹操から浴びながら、劉備も鍋に箸を付ける。 「本当に、今日は良い狩猟が出来ましたね、曹操殿」 野兎に、猪子に……ねえ、曹操殿? 意味深に笑い掛ければ、曹操はむすっとして視線を逸らす。そんな曹操の態度に、劉備は可笑しくなって、声を立てて笑い出す。 「おめぇ、良い顔して笑うんだな。嘘っぱちだなんて、おいらの気のせいだったな」 劉備の笑顔を見て、許チョもニコニコし出す。それはありがとうございます、と慎み深く礼を言った。 「自分の好いているものを見ると、自然と人は良い笑顔になれるものですから」 「分かるぞ、それ。おいらもご飯を前にすると、ほっぺが緩むんだ」 「ええ、ええ。私もそうですよ」 意気投合し始める二人の横で、曹操だけがむっつりと鍋を突付いていた。 「想像しているものが、全く違うだろうがな」 誰にも聞こえないように言ったつもりだろうが、劉備の耳はしっかりと捉えていた。 「その通りですよ。私は、許チョ殿がご飯を好くように、とても好いておりますから」 貴方を、と声に出さずに口の形で告げた。曹操は、またしても何かに火傷でもしたかのよう、慌て出し、誤魔化すように鍋を掻き混ぜる。 狩られたのは誰なのか。もしかしたら、私かも知れませんよ、曹操殿。 劉備は小さく笑ったのだった。 了 あとがき えっと、めげずにイバラ道です(笑)。曹劉同盟を応援しているくせに、逆カプです。感想をくれたHさんのおかげでもあります。その節はありがとうございますw 元々、マイナーカプ好きなので、血が騒ぐらしいです。こんな、劉操いかがでしょう? 最近許チョが気になるあまのでした(笑)。 |
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