「何回目?」 微エロ10のお題 8より 劉備×曹操 |
弾む息を整えていると、耳の傍で男が笑いながら言った。 「今ので、何回目でしょうか」 知らん、と顔を背けて呟くが、 「……」 と男が言った回数に頬が熱くなる。 「覚えているなら言うな!」 怒鳴ってみるが、男は楽しそうに笑うばかりで、怯んだ様子はどこにもない。この男はいつもそうだ。自分に見限られるか、機嫌を損ねればあっさりと切り捨てられてもおかしくない立場であるのに、平気な顔で自分を怒らせたり、あまつさえ、こうして床を共にして、不埒な真似に及んでみたり。 分からない、と胸のうちで呟く。分からなくなればなるほど、ますます男に惹かれていく自分に気付くのだが、もう遅いのだろう、と思う。 「では、私たちがこうして抱き合ったのは何回目でしょう」 と再び尋ねてきた男へ、 「……」 咄嗟に正確な数字を答えられたのだ。 もうきっと、自分は男の虜なのだ。 悔しくて、人より大きな男の耳を思い切り引っ張る。痛いです、とようやく男の顔が歪んで憎らしい笑みが消える。急いで自分から耳を取り返し、撫でながら文句をつけてくる。 「何が気に入らなかったのですか、あんなに気持ち良さそうにしていた……ったた、痛いですってば」 取り返したばかりの耳をもう一度引っ張る。今度は手加減なしだ。男の目に涙が浮かび、ようやく胸がすっとする。涙目のまま男が言った。 「貴方は私のことが嫌いなのですか、こんなことをして」 嫌いではないから、するのだ。 お主のような単純な男には、儂の複雑な心情は分からんだろう。 「あ、今なんか腹が立つようなことを言われた気がします」 なのに、どうしてこの男はこういうところは鋭いのだろうか。 「怖いの」 「……? 何がです」 思わず心の声が口を衝いて出ていた。聞き返されて誤魔化す。 「別に何でもない」 「貴方が何でもないようなことを言いますか?」 「お主に儂の何が分かる」 儂にはお主のことがちっとも分からないというのに。 「分かりますよ。貴方は小さくて……っと怒らないでください」 「怒る!」 振り上げた拳を掴み取られて敷き布へと押し付けられ、抵抗を封じられる。 「小さくて、怒りっぽくて、良く泣いて、良く笑って、戦になると凄く怖くて、難しい書簡を読んでいるときは、ここにふか〜い皺を作って」 眉間に唇を落とされる。 「あと、私のことがとても好き」 顔が熱い。否定したかったが、唇を塞がれて言葉を奪われる。 「それから、そんな貴方に好かれている私が、私は好きですね」 「自己愛の塊め!」 「どうも」 にっこりと微笑んだ男を睨み上げた。 やはり、惹かれているなどと勘違いだ。自分はこの男のことをこんなにも嫌いだ、と思っている。思っているくせに、 「だって、私の価値など、貴方に認められている以外、何もありませんから」 などと言い出して陰りを含んで淡く微笑まれれば、無性に切なくなって否定してしまう。 「そんなことはない。お主には誉れる武人が二人もいる。この乱世で生き残り、一時は州牧にまでなったではないか」 「それは運が良かったからです」 「運もお主の一部じゃ」 「ありがとうございます」 嬉しそうに笑われると、胸が温かくなる。 何だろうか、この想いは。 やっぱり分からぬ。 そして、男のことも、やはり分からない。せっかく浮かんだ笑みなのに、次の瞬間には、 「私たちがこうして抱き合えるのは、あと何回でしょうね」 などと言い出してくる。 「分からぬ」 いつか来ると、お互いに意識している先のことなど、今はどうでも良い事だ。 自分の現実主義的な部分が顔を出し、冷たく男へ告げると、なぜか男は笑い出す。 「ええ、そうですね。分からないことに気を揉んでも仕方ありません。今を楽しみましょうか、曹操殿」 自分の名を呼んで、男はまた圧し掛かってくる。まだやるのか、と呆れつつも、自分も身体の芯に火が灯るのを感じる。 良く分からない男でも、こうして肌を合わせている間は少し理解できる。だから、やめられないのかもしれない。 「ああ、劉備」 男の名を呟いて、そっと目を瞑った。 今回は、お題を素直に受け取ってみました。 さて、何回目だったのでしょうか(笑)。 |
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