「耳を塞いでも消えない音」 微エロ10のお題 7より 夏侯惇×曹操 |
荒い息遣いが耳を撫で、髪を揺らして頬を掠める。 孟徳、と低く重いが包み込まれるような温かさで、声は自分を繰り返し繰り返し呼ぶ。 嗚呼、堪らない。 駄目じゃ、そんな声で儂を呼ぶな。 耳を塞ぐ。塞いでも、まだ聞こえる。決して消えはしない、声。 操兄、と昔は呼ばれていた。 少年特有の高い声で、可愛い盛りのときは甘えるように。生意気盛りのときはぶっきら棒に。声変わりの最中はどうだっただろう。ああ、その時にはもう自分は従弟から遠いところで暮らし始めていたのだった。 再会した時には、見た目だけはすでに一人前の男に変貌していて、声も太く低く様変わりしていて、随分と違和感を覚えたものだ。操兄、と昔と同じように呼ばれても違和感は残り、昔は抱き締めていた体は、今度は抱き締められる側になった。 操兄はもうやめろ、といつまでも消えない違和感に辛抱堪らず提案した。じゃあ、何て呼べばいい、と尋ねられた。 迷って答えを探した。 ……孟徳、でいい。 じゃあ俺は元譲だ。 惇は惇だろう。 操兄だけずるいだろう。 しばらく子供のように言い合って、落ち着いたのが、公では「殿」「惇」で、二人きりのときは字で、と約束した。 それでも、向こうはすぐに字で呼ぶことに慣れて、孟徳、と呼ぶようになったが、こちらはいつまで経っても、元譲、と呼べずにいた。 もういいさ、と肩を竦めて諦めた態を見せた向こうの方が、大人の対応になってしまい、ますます呼びづらくなっていった。 そんな折、ふとしたことからそんな従弟と体を繋げてしまった。前からこうしたかった、と思いもよらないことを真剣に告げられて、なぜか逆らえず、流されるように体を許した。 後悔しているのだろうか。 違うと思う。 己の心に問いかける。 じゃあ何だ。 分からん。 ただ、心と体に刻まれた、内から響くあの声、孟徳、と響くあの音が、堪らない。 嫌なのか。 ……嫌ではない、きっと嫌ではない。 成長した姿を見せられて、操兄、と呼ばれたあの時より、不思議と体を重ねたときのほうが違和感を覚えなかった。むしろ、長年足りなかった何かを与えられたような、奇妙なまでの符合感がある。 孟徳。 またあの声で呼びながら、肌を撫でて欲しい。髪を梳いて欲しい。唇を塞いで、欲を高ぶらせて、中を満たして欲しい。 何を……考えている。 おかしな想像を急いで頭から振り払う。 頬が熱い。 孟徳。 不意にあの声で、あの音を呼ばれた。 驚いて、腰掛けていた椅子から落ちかけた。 大丈夫か、と笑われた。大丈夫じゃ、と羞恥を押し殺しながら答えた。 声をかけたが返事がなかった。心配でつい入ってきてしまったが、平気か。 構わん、お主を特別扱いするわけではないが、馬車だろうと寝所だろうがお主なら許す。 言って、また頬が熱くなった。 い、今のは深い意味はないのじゃぞ。 そうなのか、てっきり誘われたのかと思った。 馬鹿者、と怒鳴れば、不意に従弟は真摯な眼差しを帯びたので、心臓が跳ねた。 平気か。 だから今のは……。 そうじゃない。体のほうだ。俺は夢中で、加減出来たかどうか自信がない。無茶をさせたのではないか、と心配になった。 耳まで熱い。 普段は良く回る舌が上手く動かない。急いで首を横へ振って大丈夫だ、と示した。良かった、と笑う顔に、また心臓は踊った。 どうしたというのだろう。見慣れた従弟の顔だと言うのに、なぜか違う男の顔に見えてくる。 なあ、孟徳。 嗚呼、その声で儂を呼ぶな。 孟徳。 低く響く声に、体の芯を焼かれるようだ。 元譲って、また呼んでくれるか。最中に、初めて呼ばれた、お前の声が耳から離れない。どれだけ耳を塞いでも消えないんだ。 孟徳―― なら、ならお主から先にやめてくれ。 そうでないと、そうでないと。 元譲―― 儂はお主を求めずにはいられなくなるのだ。 中井ボイスはエロい、というテーマ(笑)。 あとは、わざと「」を使わないでみました。意味はないのですが……。 |
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