「甘い仕置き」
  夏侯惇×曹操


「夏侯将軍!」
 闇夜を進軍する夏侯惇の下へ、後ろから馬を駆けた何者かが声を掛けてきた。
 夏侯惇が夜目の利いた隻眼を後方へ当てると、後陣にいたはずの副将の姿があった。
「干禁か。どうした?」
 馬を寄せてきた干禁へ、夏侯惇は尋ねた。
 今、夏侯惇を大将とする魏軍は、後退している劉備軍を追っている。そのようなときに後陣を守る干禁がやってくるのは、何か異変がある証拠であろう。
 手綱を引いて馬足を止め、干禁を窺った。
「夏侯将軍、この地形、罠があるやも知れぬ、との李典からの進言です」
 その干禁の言葉に、夏侯惇は改めて周りの地形を見渡してみる。
 逃げる劉備を追い、ここまで軍を進行させたが、気付けば深く木々が生い茂る山中であった。

 兵法にある。
『離道行くに従って狭く、山川あい迫って草木生い茂るは、火計の恐れあり』

「確かに、兵法に乗っ取るに、罠の一つもあっておかしくない場所だ」
 夏侯惇の迷いは一瞬だった。ただちに行軍の足を止め、この山林から抜け出す指示を出そうと息を吸い込んだ。
 その時だ。木々のはぜる音と火の赤々としたものがちらついた。
「ちぃ、遅かったか」
 歯軋りをして自分の迂闊さを呪ったが、今は自責に駆られている場合ではないことは、この歴戦の将はよく分かっていた。
「全軍、退路を断たれる前に速やかに撤退せよ!」
 声高に吼え、夏侯惇は一つしかない瞳を凝らし、勢いを増してその触手を伸ばそうとしている火の手を睨みつけた。
「火の勢いが良すぎる。火薬の類を使ってやがる」
 馬首を返し、内心では、してやられた、という遣る方無い思いを抱えつつ、夏侯惇は退却の声を上げ続けたのだった。


          ※


 博望坡から逃げ延び、許都へ辿り着いた夏侯惇は、何度目かも分からない歯軋りをして、馬から降りた。
 不意に下馬した夏侯惇へ、隣で馬を進めていた干禁が怪訝な顔をした。
「夏侯将軍?」
「干禁、俺を縛れ」
「はっ?」
 命令の意味が理解できなかったのか、干禁は聞き返した。
「縛れ」
 もう一度、腹の底から絞り出すように、低い声で命令した。
「俺は、丞相へあれだけの口を叩き、劉備を潰したほうがいい、と進言した。にも関わらずこの大敗だ。おめおめとこの面を向けるのも腹立たしいぐらいだが、お会いせぬわけにはいかん」
 干禁は徐々に夏侯惇の言わんとするところが分かってきたようで、顔色を失っていく。
「しかし、罪は免れまい。それならば初めからその覚悟を示しておきたい」
「ですが、夏侯将軍!」
 馬から降りた干禁は、泡を食って夏侯惇へ詰め寄ったが、片方で鋭く光る眼に射抜かれて、それ以上何も言えなくなる。
「俺はお前らの忠告も虚しく敗れたのだ。申し開きをするつもりはない。だが、お前らの諫言があったことだけは丞相へお伝えする。だからお前たちは安心して休息を取れ」
「将軍」
 言われるままに縄を掛ける干禁だったが、夏侯惇の言葉に胸を衝かれたようで、堪えるように俯いてしまった。
 それへ豪胆に笑いかけ、敗戦を味わわせてしまった部下たちを労った。そして、夏侯惇は曹操の下へ赴いた。



「なるほど、それでお主はそのような姿なわけか」
 諸侯が見守る中、夏侯惇は曹操の前に跪き、頭を垂れ続けている。その頭へ、曹操の重い声音が降り掛かった。
 その響きに怒りが混ざっているのを、曹操との付き合いの長い夏侯惇は、しっかりと嗅ぎ分けていた。
「私は丞相へ強い諫言をいたしました。劉備を放置するな、と。そして自ら軍を率いたにも関わらず、この惨敗です。どのような罪も被ります」
 決然と言い放つ夏侯惇へ、諸侯たちからはざわめきが波のように広まる。
「ふ、んっ」
 鼻で笑う曹操の視線が突き刺さり、夏侯惇は顔を上げられないでいる。
「敗北の因はすでに聞いている。お主は昔から兵法を貴び、よく励み、なおかつの百戦錬磨であろう。そのお主がこうも容易く兵法の初歩に掛かるとは、お笑いではないか?」
 ずけずけと言及され、夏侯惇はさらにうな垂れる。
「今さら、何の言い訳もございません」
 それだけ言うのがやっとだった。
 内心では、曹操の放つ厳しい言葉よりももっと辛辣な言葉で自分をなじりたいのだ。はらわたはとうに煮えくり返っている。
 孟徳の天下だけが見られないのが心残りだが、このような雪辱を負ったままの生き様を晒すぐらいなら……!
 すでにそのぐらいの心持ちすらあった。
「いい加減に、顔を上げたらどうだ、夏侯惇?」
 促す曹操の声に、ぐっと奥歯を噛み締めて顔を上げると、曹操がどこか楽しげに自分を見ていた。
「――?」
 先ほどまでは、確かに怒りと蔑みすらあったはずの声だ。しかし、夏侯惇が改めて片目で捉えた曹操の面容は、全く違うものだった。
「とは言うものの、お主はまだまだこれから活躍せねばならぬ大事な将だ。その受けた屈辱を晴らす機会、設けぬわけには行かぬだろう?」
 にっと唇の端を持ち上げた曹操に、成り行きを見守っていた周りの人間からは、安堵の吐息が落ちた。
「しかし……」
 このまま曹操の許しを得るのは、夏侯惇の自尊心に関わった。それが曹操には良く分かるのだろう。言い掛けた夏侯惇の言葉を遮った。
「だが、何の罪にも問わないのは、恐らくお主の気が済まぬだろう。これから罰を与える。付いて参れ」
「はっ」
 またしてもさざなみのように不安が諸侯へ広がるが、曹操の、一刻後(二時間後)に再度集まるように、との伝達に、それ以上の口を開くものはいなかった。


          ※


「孟徳、どこへ行くつもりだ?」
 縄が解かれぬままの夏侯惇は、つかつかと闊歩する曹操へ付いて行きながら、疑問を投げた。
 てっきり、夏侯惇は牢屋にでも連れて行かれるのだろう、と考えていたのだが、どうも方向が違う。
「黙って付いてくればいい」
 二人きりになると、夏侯惇もだが、曹操の口調も砕けたものに変わる。訝しく思いながらも、長い廊下を二人きりで歩く。
(この方角は孟徳の私室だろう。どういうつもりだ?)
 夏侯惇は前を歩く曹操の背中を見つめながら首を捻った。
「入れ」
 案の定、連れて来られたのは曹操の私室で、通されたのは寝所だった。
「そこへ寝ろ」
 顎で示されたのは寝台で、夏侯惇は眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「察しの悪い奴だ。俺の伽をしろ、と言っている」
「はあっ?」
 思わず素っ頓狂な声を上げる。
「ちょっと待て、孟徳。俺は罰を受けに来たはずだ。それがどうしてお前の伽をせねばならん」
「別に構わんだろう? 初めてでもないのだし」
 ごちゃごちゃ言うな、と言わんばかりに曹操は寝台へ夏侯惇を突き飛ばした。後ろ手に縛られている夏侯惇は、体勢を整えることが出来ず、そのまま寝台へ仰向けに倒れ込んだ。
「初めてだとか、そうではないとか、そういう問答をしているのではなく、だな」
 抗議をする夏侯惇を見下ろして、曹操は妖しく笑った。
(げっ、すでにさかってやがる)
 これも付き合いの長い夏侯惇は、その笑みで曹操がすっかり昂ぶっていることを見極めていた。
「お前、俺に罰を与えるために連れて来たのだろうが。それがどうしてこんな真似をする」
 寝台へ獣のように手と足を付き、じりっとにじり寄ってくる曹操から遠ざかろうと、夏侯惇は不自由な状態で後退る。だが、すぐに寝台の隅に追い詰められた。
 互いに座り合ったまま、向き合う形になる。
「元譲の縛られている姿を見て、少々淫靡な心地になった」
 吐息が掛かるほど近くにある曹操の眼光が、ひどく艶めかしい。その眼に覗き込まれて、夏侯惇は知らずに体の芯が熱くなるのを覚えたが、それでもまだ訴えた。
「淫靡になるな、淫靡に! いいから罰を与えてくれ!」
「罰は与える。これが罰だからな」
 問い返そうとする夏侯惇の口を、曹操の唇が塞いだ。
「――っ」
 いきなりの濃厚な口付けに、夏侯惇の熱が煽られていく。
「お……い、孟、徳っ……やめん……か」
 唇の隙間から異を唱える夏侯惇だが、それを嘲るように口付けは深くなる。舌を絡められ、唾液が送り込まれると、反射的に飲み込んでしまう。
(どういうつもりだ、こいつ?)
 それらに応えながらも、夏侯惇は頭の片隅で考える。
 確かに夏侯惇は曹操とは何度も体を重ねているし、それはお互いを好んでやっていることだから、文句はない。だが、今はこんなことをしている場合なのだろうか。
 唇を離した曹操がざりざり、と甘えるように夏侯惇の鬚を噛む。密着している肢体はすでに熱を帯びてきている。それに呼応するように曹操の双眸は濡れ始めていた。
 上目遣いにその眼で見つめられ、ぞくっと官能が刺激される。
「元譲……」
 興奮に上ずった曹操の声が悩ましく字を呼ぶのが、ひどくイヤらしく聞こえる。
 元々は好き合って抱いている体であり、人だ。その人間がこのように誘いを掛けてくれば、昂ぶってしまうのは男の性だろう。
「孟徳」
 もう一度の口付けを求め、赤みを増している曹操の唇を追うが、ふっと避けられる。それを不満に思い視線を投げかければ、ふっと艶のある笑みを曹操が作った。
「これは罰だからな。お前は何も出来ないぞ。俺の満足が行くまで大人しくしていろ」
 そういうことか、と夏侯惇は肩を竦めた。
「それがお前の言う罰なら俺は甘んじて受けるが……」
「そうか。その言葉、撤回するなよ」
 そう言うが早く、曹操の指が夏侯惇の腰帯を緩めて下肢へ侵入してくる。緩やかに自身を握り込まれて、眉が跳ねた。
 互いの善い所を知り尽くしている体だ。すぐに快感は高められ、下肢からは淫猥な音が立ち始める。
「いつもはお前に乱されるが、こうしてお前が乱れていくのを見るのも良いものだな」
 くくっ、と咽奥で笑いながら、息を微かに乱している夏侯惇を眺めて、曹操は目を細めた。
「俺も……積極的なお前は……中々珍しいから……楽しいが?」
 これでは罰にはならんぞ? と言外に含め、見つめ返す。だが、強くこすり上げられて、息を詰める。
 頭の芯が痺れるような心地良い感覚が襲い、夏侯惇は限界を感じて体を震わした。だが、確実に訪れるはずのそれは、不意に止まった曹操の指で叶わなかった。
「孟、徳?」
 問うように隻眼で見やれば、薄い笑みを浮かべて夏侯惇を観察していた曹操が、その笑みを深くした。
「言っただろう。お前は何も出来ない、と」
「それは……」
 ようやく、曹操の罰の真意を悟り、夏侯惇は顔をしかめた。
「お前は出せないぞ。こうして縛っておく」
 解かれた腰帯できつく己を縛られて、夏侯惇は少々焦った。
「これを男にやるのか、孟徳?」
「だから効果があるのだろう、元譲」
 唇を吸われ、その唇が首筋をくすぐり、下半身へ落ちていく。そのまま自身を咥えられた。
「ふっ、うっ」
 すでに昂ぶっているところへのそれだ。息が大きく乱れた。眼下では己を丹念に舐めている曹操の口元が見え、さらに劣情が煽られる。
 緩急を付けて吸われると、びくっとそれと体が震えた。それでも、きつく巻かれた戒めのせいで、達することは出来ない。
 淫猥な音を立てながら曹操の口元が蠢くのを、夏侯惇は見ていることしか出来なかった。後ろ手の縄がぎしっと音を鳴らした。
 根元の膨らみまでも舌で遊ばれる。奥歯を噛み締めて、鋭く突き上げる快感へ耐えた。
「いいか?」
 揶揄するように曹操がくぐもった声で尋ねるが、夏侯惇は答えられない。腰に溜まった熱が、痛いぐらいに疼いている。
「も、とく」
 声が掠れた。何を訴えているのか充分に理解しているだろうに、曹操は粘着質の音を上げながら、夏侯惇をこれ以上ないぐらいに昂ぶらせた。
「ば、かやろ……もう、やめろっ」
 苦しいぐらいのそれに、夏侯惇は引き攣れた声を漏らす。
「どうした、元譲? どんな罰でも被るのだろう。もう音を上げるのか?」
 自身から口を離して、ん? と曹操に瞳を覗かれれば、夏侯惇は黙るしかない。
 先端から雫をこぼしているそれへ曹操の指が絡げられる。それをたっぷりと指になすり付けた曹操は、その指を自らの秘部へ忍ばせた。
「ん、んんっ」
 濡れた吐息を唇から滑らせながら、夏侯惇の目の前で身を捩る曹操は、妖しい色香をふんだんに醸し出していた。
 片手で自らを解しながら、もう片手で自身を愛撫する曹操の姿は、普段ならそう見れる代物ではない。思わず、夏侯惇は咽を上下させていた。
 張り詰めた下肢から吐精には遠いが、雫が新たに溢れた。それを薄目を開けていた曹操は見つけたらしく、唇に笑みを乗せる。
「元譲のここは、俺のを欲しくて仕方がないようだな」
 息を乱しながらも、くっと笑った。舌を伸ばして夏侯惇の唇を舐め、指で解れた秘部を張り詰めたそこへ宛がった。
 夏侯惇の肩に手を置き、自ら腰を落としていく。その入り口の熱さに、夏侯惇の自身がひくり、と身じろぎする。それに促されるように、曹操のそこは夏侯惇を飲み込んでいく。
「あ、ぁん……んっ」
 鼻に掛かる甘い声を上げながら、曹操は身を沈める。夏侯惇も、自身を包んでいく、いや、貪るように食らい付く曹操の内に背筋を痺れさせた。
 腰骨に渦巻く熱が夏侯惇を苛ます。
「元譲ぉ……」
 そんな甘えたように人の名を呼ぶくせに、そこは貪欲に自分から精を絞り出そうとしているかのように、きつい。
 まるでこちらが犯されているようだ。
 薄れる理性の片隅で、夏侯惇はそう思った。
 イヤらしい音を立てながら、曹操は淫らに腰を蠢かし、夏侯惇を甘い仕置きへと誘い込む。
「ぃ、ふ、んっ……うぁ」
 仰け反って自らの快感だけ追い求める曹操の姿態に、目眩が起きる。
「もう、とく……外せ……っ」
 堪え切れずに叫ぶ夏侯惇だが、曹操は乱れながらも矜持を保つ。
「駄目だ。これはお前への罰だからな……くぅ、ん」
 悦ぶ曹操の声が耳朶を震わし、夏侯惇を追い詰める。ぎりっと眉根をきつく寄せ、夏侯惇は息を荒くする。
 視界が揺れ、こめかみの辺りで脈がどくどくと音を立てていた。滲み出た汗は脂汗なのか、行為への汗なのか、もう判別は付かなかった。
 身悶えるように、夏侯惇の眼前で痴態を晒す曹操は、必死で掻き集めている夏侯惇の理性すら撒き散らそうとしているようだった。
 ざりざり、とまた甘えるように鼻面を鬚に押し付けた曹操は、震えた吐息を落としながら、一人で果てた。その艶めかしい姿態と、絞り上げるような内側の締まりに、達せないはずの夏侯惇は、しかし間違いなく達していた。
「ぁ、ぐぅっ……孟徳っ」
 ひくつく下腹を感じながら、夏侯惇は曹操を呼んだ。吐き出せなかった熱がなけなしの理性を焼き尽くす。
 吐精の余韻に酔っている曹操は、そんな夏侯惇の様子に気付かないようだ。繋がったまま夏侯惇が覆い被さるように倒れてきたので、慌てた。
「元譲?」
 しかし、覗き込んだ夏侯惇の瞳から正気が失われ掛けているのを見て取ったらしく、息を呑んだ。
「げん……あっ? んんっ……ぁんっ、やっ」
 後ろ手に縛られた不自由な体勢にも関わらず、夏侯惇はそのまま腰を打ち付けた。達したばかりで敏感になっていた曹操は、その動きに翻弄されてしまったようだ。
「やめっ……いぃっ、んぁ」
 鋭い声を漏らしながら、ずりずりと反対側の寝台の端へ押しやられる。そして端まで追い詰められると、後は夏侯惇を受け止めるしかなくなり、必死で寝台の端を掴みながら、喘いだ。
「元譲っ……ちょっと、待……ひぃ、あっ」
 我を失っている夏侯惇は、しかし曹操の制止も意味をなさなかった。その荒っぽい責めに、曹操は達したばかりなのに自身を硬くしていった。
「ぁうっ……げん、じょ……は、ぁ」
 抉るように中を掻き回されて、堪らず曹操は達してしまう。だが、戒めを解かれていない夏侯惇は、解放を求めてさらに曹操を責め立てる。
「外す、から、待て……ふっ、やめろっ」
 飽くことなく夏侯惇から責められ、曹操もこれは不味い、と思ったのか、戒めている帯へ手を伸ばしてきた。
「うご、くな……あ、くっ」
 しかし、すっかり理性を失っている夏侯惇は、曹操の中を味わうことに集中している。その中で、曹操は何とかして戒めを解くことに成功する。
 その途端、内側に放たれた夏侯惇の熱いものに身を震わした。
「んんっ……は、ん……」
 震える吐息がこぼれた。そのまま、大きく突き抉られて、曹操は三度目の精を吐き出した。


          ※


 一刻後、妙にげっそりとした曹操と夏侯惇の二人を見て、諸侯たちは囁きあった。
 いったいどんな罰だったのだろう、と。
 憶測が飛ぶ広間へ、曹操はげっそりとしながらも南征軍の進行を宣言した。次々に飛び交う指示に、俄然広間は騒がしくなる。
 その中で、曹操の隣を陣取っていた夏侯惇へ、曹操が囁いた。
「少々、今回の罰はやり過ぎたな。追い詰められたお前があそこまで凄いとは思わなんだ」
 そんなことを言う曹操へ、夏侯惇は一つしかない目玉をいくぶん泳がせつつ、答えた。
「俺もだ。あれの罰は金輪際御免こうむるぞ」
 あれから、治まりの付かなくなった二人は、集合時刻である先ほどまで抱き合っていたのだ。さすがに少々疲れていた。
「だが、中々に面白い趣向ではなかったか、元譲」
「誘うお前は物珍しくはあったが、な」
 顎鬚を撫ぜながら、夏侯惇はにやりっと笑ってしまう。
「しかし、お前を罪に問う真似はこれきりにしてもらいたいものだ。そうだろ?」
「ああ。この雪辱、必ず晴らすぞ、孟徳」
 にっと笑い合う二人は、すでに睦まじい情人同士ではなく、長くを肩を並べて戦い抜いてきた者同士の不敵な笑いだった。



 了





 あとがき

 初の惇操がこれか!? と思いつつも、書いてしまいました(笑)。
資料は横山三国志とさせていただいております。ありがとうございます。縛られた夏侯惇を見て、これは!? と思った腐女子は私だけではない、と信じたいです!

 ベースはでも真・三国無双ですけどね。自分の脳内変換だと、二人は人目があるところでは、節度を持って接しているが、二人きりだと曹操は「夏侯惇」が「元譲」、自称が「俺」になるし、夏侯惇は曹操を「丞相または殿」から「孟徳」へ変更される、という妄想を抱いております。

 こんな惇操でどうなのですか? 曹操が襲い受けですが、要するに二人をらぶらぶさせたかっただけ、というものです。

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